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けいおん!の真鍋和ちゃんはバント職人かわいい#2 【ホラー】


696 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 18:57:37.18 ID:odQSLUnc0

和「そうなんだ、じゃあ私生徒会室行くね」

唯「和ちゃん、もう生徒会室には誰も…」

和「…判ってるわ。それでも、行かなければならないのよ」

澪「和…」

和「それが生徒会長ってヤツでしょう?」

紬「でも、外にはリビングデッドの大群が…どうするの?」

和「隠密行動をすれば案外大丈夫よ」

律「幾らなんでも無茶ってモンだぜ?」

和「無茶でも行かないと駄目なのよ」

唯「…御武運を」

和「行ってくるわね」





698 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 19:11:24.89 ID:k4JURgjO0

和(みんなの前ではあんなこと言ったけど……)
グオォ… ウオォ…

和(……ばかね、私。こんなに足が震えてるくせに)
オォゥ…

和(こんなことなら、唯に……ううん、今は余計なこと考えるのはよそう)
グオォ… ズルズル…

和(見つからないように、そっと……)ガタッ
!!!

和(!! しまっ……)
グオオオォオォ!!!! ウガアァアアァ!!!

和(あっダメ……死ーーー)

ガッシ ボカ!!

和(……)
和(……あれ? 私、生きてる……?)ソォ…

さわ子「リビングデッドは死んだ。スイーツ(笑)」ニコリ

和「山中先生……!!」



710 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 19:42:11.54 ID:k4JURgjO0

山中先生の戦闘力はすごかった。
女子高のいち音楽教師とはとても思えない身体能力。

目を血走らせ歯を剥き出して襲いかかってくるリビングデッド達を
文字通りちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

……本当にちぎって投げなくてもいいのに。

そんなことを考えながら、私は飛んでくる手足を避けるだけで精一杯で
せめて先生の足手まといにだけはならないように努めた。
勢いで私までちぎられちゃ、たまったもんじゃないし。

和「……?!」

視界の端に、一瞬見えたもの。

あれは、あれはそう。見間違えるはずもない。
私の、もう一人の大切なおささなじみ……もとい、おさななじみ。

憂の、オレンジ色のリボン。

私は咄嗟に叫んだ。

和「いましたっ! 先生、憂がっ!」

さわ子「!!」

振り返った山中先生は、
暴走したエヴァンゲリオンみたいな顔で誰かの右手をくわえていた。



733 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 21:31:20.12 ID:k4JURgjO0

彼女の制服ジャケットの左袖が裂けて、白いシャツに血が滲んでいる。

憂「あ……うん。さっき少し引っ掛けちゃって…でも大丈夫だよ」

噛まれたわけじゃないから。憂はそう言って、右手で傷口を隠した。
周辺に居た数人のリビングデッドを山中先生がなぎ払い、
近くの空き教室に転がり込む。

さわ子「憂ちゃん、腕出して。一応止血しておくから」

憂「あ、はい。すみません」

さわ子「……はい、これでよし。……さて、真鍋さん。
    生徒会室に行くか、二人を探すか。どっちにする?」

和「……二人を探しましょう」

さわ子「わかったわ」

心無しか、先生の目が喜びに溢れているような気がしたけれど、
それには気付かないふりをしておいた。
教室を出ようとした二人の後ろで、憂に気付かれないよう先生に耳打ちする。

和「先生。憂に……あの子に気をつけてください」

さわ子「どうして?」

和「あの子さっき……私のことを” 真鍋先輩 ”って呼びました」



737 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 21:47:48.86 ID:odQSLUnc0

そう。
普段は真鍋先輩なんて、言わないのだ。
どういう意図かは判らないが、普段の憂らしくない。

「確かにちょっと気になるわね。他意はないと思いたいけれど…」
「そうですね。……それで、どうします?」

憂は見つけた。あとは純ちゃんと梓ちゃんの二人。
逸れたらしいけれども、何処に居るのかは判らない。

「ねぇ憂ちゃん、二人が居そうな所って見当がつく?」
「教室には居ませんでした。音楽準備室は…」
「さっき私が出て来た時には居なかった」

あと居そうな所と言えば……私達の教室か、それとも篭城の出来る場所か。

「……3年生の教室?」
「でも、先生」
「私はあっちにはまだ行ってないわよ」

幾度か変更を経て、行き先が決まった。
私達の教室に行けば、もしかしたら居るかもしれない。
とりあえず向かう事にする。



745 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 22:14:18.62 ID:odQSLUnc0

教室まで、脅威を排除しながらたどり着いた。
教室の中は…見た感じ誰も居ない。

「…居ませんね」
「他の教室に居るかもしれないわね」

隣の教室に行こうとしたその刹那。
微かに、けれどはっきりと知っている声が。

「…梓ちゃん?」
「先生も、聞こえましたか?」
「さわ子先生、憂、どうします?」
「そりゃあやっぱり助けたいわよ。けれど…」

助ける。そうしたいのは山々だ。
だけれども、万に一つでもトラップという可能性が有る以上無茶は出来ない。

「…私が見てくる。後ろから援護を頼むわ」
「判りました」
「山中先生…」
「憂ちゃん、貴女は和ちゃんと一緒に居て」
「…判りました」



746 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 22:14:37.85 ID:odQSLUnc0

うっわやっちゃった



747 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 22:15:34.13 ID:k4JURgjO0

わ、ごめん。どうしようか



748 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 22:20:30.03 ID:odQSLUnc0

そっちでいいですよー




749 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 22:21:25.14 ID:LzlUMxOl0

いいんでないの?
両方のルートを見てみたい



750 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 22:23:50.03 ID:m9NOq2mG0

さて同時進行という斬新な手もアリだと思っている





751 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 22:24:03.82 ID:k4JURgjO0

>>748 方向性は同じでしたねw
では……>>745絡めて次のレス投下します



752 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 22:25:44.43 ID:k4JURgjO0

あー、そうですね…。それじゃ、ちょっと自分は休憩します
ウンc0さん、>>745ルートから続きお願いしちゃっていいですか



754 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 22:39:42.80 ID:odQSLUnc0

じゃあオレから。



754 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 22:39:42.80 ID:odQSLUnc0

「……」

さわ子先生の背後を守るように、左右と後ろを警戒しながら声のした方向へ。
時間がぬるぬる動く。一歩一歩がとても重い。

「……この辺りね。……ん?」
「これは…?」
「梓ちゃんのムスタングだ。どうして此処に?」

ムスタング。
絃が一本だけ切れている。

その先に、梓と純が居た。
廊下の端に蹲っている。

「純ちゃん、梓ちゃん?」
「……まだ、二人ともなんとか生きてるわね。怪我も無い」
「……どうします?先生。あまり長々とは持ちません」

音楽準備室に撤退するか、保健室か何処かへ後送するか。
けれど、唯達があそこに留まっているかは判らない。

「先生、決断を」



761 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 23:03:39.78 ID:odQSLUnc0

「和ちゃん、出てったきりだね」
「そうだな。大丈夫だよ、大丈夫…」
「…ムギ、外に連絡はつく?」
「ダメね、りっちゃん。…通話中のまま」

回線が輻輳しているのか。
とりあえず、判るのは…頃合を見計らって動かないとヤバい。

「律、こういう時はどうすれば良いんだろう」
「さあなー。夜になるまでに何とかしないと詰むのは間違いないけれど」

夜になれば不利になる。
こっちは視力に頼らざるを得ない。かたや向こうは無関係だ。

「まあ、何とかなるんじゃないか?」
「それでこそりっちゃんだよ!」
「…なんだそれー」

…どうしたものか。

「それで、どうする?」
「りっちゃん。何時までも此処には居られないよ」

そう、時間はそれほど残っていない。
けれど、いずれは何とかしなければ。



769 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 23:35:35.61 ID:odQSLUnc0

「とりあえず、音楽準備室まで行くわよ」
「判りました。憂、純ちゃんを」
「了解です」

梓を背負って、音楽準備室までの道のりを歩む。
奇跡的に脅威に襲われる事は無かった。
そう、不自然なくらいに。

準備室の前にたどり着いた。
ドアを開けようとして、ふと思い留まる。
なんだろう。この奇妙な感じ。

「…先生」
「ええ。何かおかしいわね」

何かが変だ?

とりあえず、ドアから中の様子を窺う。
「中の様子は…変わらない。唯達も居る」

じゃあ、何が引っかかったんだろう?



770 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 23:37:04.68 ID:odQSLUnc0

ドアの開く音。
和か?それとも……
「唯ちゃん、何か武器になるもの、ある?」
「箒とさす又なら」
「聡からガスガン借りてきて良かったぜ」

とりあえず、自衛用の武器はある。
何とかなるか…?

「行くぞ、唯。澪、ムギ、物陰に隠れてて!」
「まかせて、りっちゃん」
「了解した」
「判った!」

長椅子の陰から入ってきたヤツの顔を窺う。
さわちゃんだ。和も居る。
…あとは…

「和ちゃん!あずにゃん!」
「お、鈴木じゃん」
「なんとか帰ってきたわよ」
「途中で合流してたのよ。とりあえず二人を」

長椅子に梓と純を座らせる。
二人とも疲れているが、外傷は無いようだ。
さわちゃんと和も、無事なようだ。

…あれ?

「憂は…?」



777 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 00:03:14.44 ID:Q4u+swbg0

憂が居ない。

何時の間に、居なくなったんだろう。

「しまった!目を放した隙に…何処へ」
「さっきまでは居たんだけれど…何時の間に」
「憂を探しに行かないと…!」

大慌てで、ガスガンを持って扉を開けようとしたその時。
それを止めるように、私ともう一人、澪ちゃんが声をかける。

「待って、唯!私も行く!」
「和ちゃん!」
「私も行く。何もしないってのはナシだよな」
「澪ちゃん!」

澪ちゃん、和ちゃんと三人で憂を探しに行く事にする。
さわちゃん、ムギちゃん、りっちゃんは。

「ムギちゃん、りっちゃん、さわちゃん先生…二人を」
「まかせて」
「ここは確保しておくわ」
「早く憂を。まだ遠くには行ってないはず」

純ちゃんと梓ちゃんを任せる事にする。



779 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 00:09:52.17 ID:Q4u+swbg0

「今の所誰も居ない。行くよ」
私の声を合図に、ドアを勢い良く開けて外へ出る。
階段の踊り場までは誰も居ない。
音楽室の扉は随分前に鍵を掛けた。中には誰も居ない。

一階下へ降りた。
物陰から覗き込む。右。左。
左側に憂が居た。

「憂!」
「待った、唯!」
「どうして!澪ちゃん!」
「良く見ろ、唯……意識が無い」

額に触れると、とんでもない高熱で手が溶けそうだった。
早く何とかしないとヤバい。

「和ちゃん、澪ちゃん!上に連れて行くよ!」
「ああ!」
「判ったわ」

憂を背負って、準備室まで急ぎ足で戻る。
うなされているのか、やけに強く肩を掴む。

「憂…あともうちょっとだから」



783 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 00:15:09.81 ID:Q4u+swbg0

4人が入った後、準備室の入り口にバリケードを設置し、進入を困難にした。
これで少しは時間稼ぎが出来る筈だ。誰かが来たとしても。

「…憂」
「唯ちゃん…」

憂、梓、純の三人の意識は戻らない。
付きっ切りの介抱をしている唯達と、これからどうするかを考えている律達。

日が傾き始めた。
このままだと、長い夜を越える事になる。

と。その時。
西の空から爆音が響き始めた。
目の前の道路に、深緑のトラックの車列も現れた。

「…自衛隊か、あれ?」
「戦車も混ざってるわね」
「あんなに多くの73式大型トラックも初めてだ」
「りっちゃん!西の空にヘリが!」

戦車と装甲車が道を切り開いている。
トラックの荷台から自衛官が降りてくる。
結構な低空にヘリが静止している。
そこから人が降りてくる。

「…凄い」

まるで戦争映画そのもの。
そうして、私達は何とか桜高から脱出する事ができた。



791 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 00:37:13.82 ID:Q4u+swbg0

あれから1月が経ち、やっと事態は沈静化したらしい。
リビングデッド達は自衛隊の一個師団が投入され、発生が止まったと聞いた。

県立大学の付属病院、個別病棟の病室の一つ。
もう、此処へ来る事は何度目だろうか。

なぜ憂だけが未だに意識が戻らないのか。
他の二人は直ぐに回復したのだけれど。
二人を守って、傷だらけになったからかしら。

「入るわよ」

唯が憂に寄り添ってうなだれている。
リンゴを剥こうとしたのか、皮の垂れているリンゴが皿に乗っている。

「まったくもう…」

ずっと付きっ切りと聞いた。
寝る間も惜しんでいると。



792 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 00:37:39.36 ID:Q4u+swbg0


「妹思いの、良い姉ね……あっ」

憂が目を覚ました?
確かに、目を開けている。
微笑んでいる。

「和…さん?」
「憂……」

確かに、目を覚ましている。
嘘でもなんでもない。

「唯、ほら…起きなさい」
「う…ん?あ、和ちゃん……憂!!」
「…お姉ちゃん…」
「憂!良かった…良かったあ!」

ベッドに横たわり、栄養管だらけでも。
憂は戻ってきた。意識を取り戻した。

もうちょっとだけでも、また一緒に居られるわね。


終わり。


すまんね、長々と。




794 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 00:39:32.52 ID:ejDr+XOL0

乙ラッチョイ



795 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 00:39:40.24 ID:4fbs8sbT0

乙らっちょい



796 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 00:40:52.14 ID:u5sR3sV00

のど!(乙らっちょい!)



797 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 00:43:30.16 ID:ezMQWQR10

乙乙!!



800 名前: 【3.5m】 :2011/10/25(火) 00:58:44.13 ID:jaoq1DUTO

乙のど





816 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 02:02:32.41 ID:ezMQWQR10

>>744から別ルート



744 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/24(月) 22:13:14.92 ID:k4JURgjO0

生徒会室に向かって降りた階段を、再び上る。
山中先生が通っただけで、モーゼが海を割ったように道ができた。

さわ子「3-2……、着いたわよ。中には誰もいないみたいだけど」

先生が警戒しながら教室内を覗き、安全を確認して中に入る。

憂「……いつも通りの教室ですね」

さわ子「ここじゃなかったか……。うーん、じゃあ、部室棟に行ってみる?」

和「そうですね」

主に文科系クラブの部室が並ぶ、部室棟。
憂達の教室から音楽準備室に向かうとしたら、あそこを通っている可能性もある。

……ふと、喉に刺さった小骨のような違和感に気付く。
憂の言う通り、私達の教室は普段となんら変わりない状態だった。
けれど。

” どうして憂が、私達の教室がいつも通りだと分かるの? ”

憂は、変わった様子はないという意味で言っただけかもしれない。
この異常事態で、私が過敏になっているだけなのかもしれない。

その時、突然ガタガタと大きな音がした。ビクリと震えて一斉に振り返る。
教室の後ろ、隅に設置された掃除用具入れ。その中で、何かが暴れているようだった。



816 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 02:02:32.41 ID:ezMQWQR10

ガタンガタン ガタガタ
不規則に振動する掃除用具入れを、息を飲んで見つめる。

さわ子「何かしら……。とにかく、無視は出来そうにないわね」

和「そうですね……」

さわ子「私が開けるから、あなたたちは教卓の後ろに隠れてなさい」

山中先生に言われた通り憂と二人で教卓のカゲに身を潜め、
少しだけ顔を出して様子を伺う。

さわ子「さあて、何が出てくるかしら?」

……語尾に音符が飛んだように思えたのは、多分気のせいね。

先生が扉に手を掛けた瞬間、バキッと鈍い音がした。
ほぼ同時に、掃除用具入れが沈黙する。

キィ、と耳障りな音を立ててスチール製の扉が開く。

さわ子「……あら」

色々な掃除用具が押し込まれた狭い空間に、
後ろ手に縛られ、タオルで猿ぐつわをされた純ちゃんの怯えきった顔があった。



819 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 02:10:32.65 ID:ezMQWQR10

純「けほっ……。た、助かりました……」

手を縛る紐とタオルを外され、純ちゃんが涙目で私達を見上げる。

さわ子「誰にやられたの?」

純「わかりません……。
  憂と梓と廊下を歩いてたら、周りのみんなの様子がおかしくなって」

和「……」

純「逃げてる途中で、後ろから急に腕を掴まれて、頭を……
  アッ、そだ、あたま……アイタタ……」

気が緩んで痛みを思い出したのか、純ちゃんはしかめ面で後頭部に手を当てた。

和「殴られたの?」

純「はい……。それで、気付いたらあの中に」

ちらりと掃除用具入れを見て身体を震わせた純ちゃんを、憂がやさしく抱きしめる。

憂「でもよかった……無事で……」

純「うん、憂も無事でよかった……。……あっ、あずさ! 憂、梓は?」

憂「……わからないの。私もふたりとはぐれてからずっと逃げてたから……」



821 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 02:23:46.30 ID:ezMQWQR10

さわ子「それで鈴木さん、襲われた場所は覚えてる?」

純「えっと……。ああ、部室棟です。いつもそこを通って階段でふたりと別れるから」

さわ子「部室棟……ね」

和「……」

さわ子「とりあえず、鈴木さんと憂ちゃんを軽音部まで連れていきましょうか」

あそこなら安全だから。
山中先生は妙な自信をもってそう言った。

・・・

校内にいた者達に異変が起こったのは、昼休憩の時だった。
各教室で昼食をとっていた生徒の一部が突如苦しみ始めて、
そして間もなく周りの生徒を襲い始めた。

私達がいた3年2組も例外ではなく、阿鼻叫喚図となった教室内では
誰かを助けるよりも自分たちの身を守るだけで精一杯だった。

軽音部の4人と教室を飛び出して、
誰が狂っていて誰がまともなのかも分からない惨状の中を必死に走った。

生徒会室に向かおうと私ひとり階段を降りかけた時、唯に腕を掴まれた。



822 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 02:33:47.00 ID:ezMQWQR10

和『唯?』

唯『ダメだよ和ちゃん、一人で行っちゃ!』

和『でも……行かなきゃ。私は生徒会長だから』

律『この状況で生徒会長もなにもないだろッ!まずは自分の身を守れよ!』

律にぴしゃりと言われて、
その時ようやく自分が酷く動揺していたことに気付いた。

行こう和ちゃん、と唯に腕を引かれ、
4人の背中を追いかけるように音楽準備室までの階段を駆け上がった。

・・・

和「山中先生」

さわ子「なあに?ちょっと忙しいから質問は簡潔にお願いね」

飽きもせず襲いかかってくるリビングデッド達を軽やかに蹴散らしながら、
山中先生がちらりと私を見て答えた。

和「こんな状況で、学内に安全な場所なんてあるんでしょうか」

軽音部のことを言っているのだとすぐに察してくれたようだ。
先生は薄く笑って、私を信じなさい、とウインクしてみせた。



824 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 02:48:21.08 ID:ezMQWQR10

ほどなくして、音楽室へと続く階段に辿り着いた。
しっかりと自分で歩く純ちゃんの後ろ姿に、少し安堵する。

山中先生がふと立ち止まり、階段から視線をずらして
廊下の奥をジロリと睨んだ。

さわ子「……へんね」

和「何がですか?」

さわ子「この廊下の先、誰もいないじゃない」

そう言われて先生の視線を追うと、確かに部室棟へ続く廊下は
気味が悪いほどひっそりとしていた。

さわ子「あなたたちはこのまま軽音部まで行きなさい」

和「えっ」

さわ子「私はちょーっと、この先を見てくるから」

そう言って微笑んだ先生と、不安そうな表情の憂と純ちゃんを交互に見る。

和「……私も行きます」

さわ子「真鍋さん?」

和「この先に、梓ちゃんがいる可能性があるんですよね」

さわ子「……」



826 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 03:08:57.92 ID:ezMQWQR10

さわ子「……憂ちゃん、ひとりで鈴木さんを連れて行ける?」

山中先生は私から憂に視線を移して、確認する。

憂「はい、私なら大丈夫です」

さわ子「そう。じゃ、行きなさい。あの子たちによろしくね」

先生がそう促すと、憂と純ちゃんは頷いて階段を駆け上がっていった。

二人の姿が踊り場の向こうに消えるのを確認して、
山中先生が視線を私に戻す。

さわ子「できればあなたも安全な場所にいて欲しいんだけど」

和「行かせて下さい。足手まといだと思ったら置いて行ってもらって構いません」

さわ子「……正義感が強いのね。やっぱりあれ? 生徒会長だから?」

和「いえ。梓ちゃんは私個人にとっても、可愛い後輩です。……それに」

さわ子「……」

和「あの子に何かあったら、唯達が悲しむから」

山中先生の目が、ふ、と細められて、口角がゆるやかに上がる。

さわ子「私好きよ、真鍋さんのそういうところ。……じゃ、行きましょうか」



828 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 03:21:59.58 ID:ezMQWQR10

部室棟は、これまで通ってきた校舎内の惨状が嘘のように、
不気味なくらいの静寂に覆われていた。

さわ子「……」

山中先生は黙ったまま、けれど先程よりも緊張の度合いを上げて廊下を進む。
私はその少しあとから、時々後ろを振り返りながら先生に続いた。

ぴたり、と先生の足が止まった。

さわ子「真鍋さん、あれ」

指をさされた先、廊下の隅に何かが落ちている。

和「あれは……」

それが何なのか、すぐに思い当たった。
軽音部員たちのスクールバッグに付けられたお揃いのそれ。

和「……” ぶ ”の文字は、確か」

さわ子「梓ちゃんのキーホルダーね」

周りを警戒しながら、先生がゆっくりとした動作でキーホルダーを拾う。
立ち上がった先生がふと左を見て、アラ、と声を漏らした。


目の前の部室扉には、「オカルト研究部」と書かれた紙が貼られていた。



831 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 03:35:25.14 ID:ezMQWQR10

先生の手がドアノブを捻り、古ぼけた木の扉がゆっくりと開く。
開いた扉の隙間から、暗い部室の中へ一筋の光がさす。

和「……! 先生、あれ」

細く伸びた光は部室の中央にある物体にぶつかって角度を変えている。
あれは確か、キャトルシミュレーションを模したテーブルだ。

だけどその上にもうひとつ、何かが置いてある。

さわ子「電気、点けるわよ」

山中先生はそう言って、扉の隙間から手を差し込んでスイッチを押した。
暗幕が掛けられた部屋に蛍光灯の白が拡散して、思わず目を細める。

和「!? 梓ちゃん!!」

警戒するよりも先に声を上げてしまった。
ふたり同時にテーブルに駆け寄る。

テーブルの上には、
目隠しをされ、ガムテープでぐるぐる巻にされた梓ちゃんの姿があった。



834 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 03:54:36.16 ID:ezMQWQR10

幸い梓ちゃんは気を失っていただけで、ひどい怪我はしていないようだった。
難儀しながらガムテープを外している最中、彼女が意識を取り戻した。

梓「……ぁ……のど……か…せんぱい?」

和「そうよ。いまこれ外すから、もうちょっと我慢してね」

私が梓ちゃんを解放している最中、山中先生は用心深く部室無いを見渡していた。
一通り見終えて、ふぅ、と大きく溜息を吐いて私達に視線を向ける。

さわ子「オカ研の部員はいないみたいね。梓ちゃん、大丈夫?」

梓「は、い……。ちょっとぼーっとしてますけど、なんとか……」

さわ子「目が覚めてすぐで申し訳ないけど、襲われた時の事、覚えてる?」

梓「……えっと……。憂と純と歩いてたら、アチコチから悲鳴が聞こえてきて……」

後ろから腕を掴まれて、頭を殴られた。純ちゃんとまったく同じ説明だった。

和「ということは、梓ちゃんたちを襲ったのはまともな人間で、かつ複数…」

さわ子「そういうことになるわね」

リビングデッドと化した人間ではない誰かが、何の目的でこの子達を襲ったのだろう。
しかも、襲った時以外に怪我をさせた形跡もない。

さわ子「まあとにかく梓ちゃんも無事保護したことだし、私達も軽音部に行きましょうか」

そう言って私達を見たさわ子先生に、私は黙って頷いた。



837 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 04:08:33.60 ID:ezMQWQR10

・・・

軽音部へ続く階段を難なく上がって、音楽準備室の前に辿り着く。
梓ちゃんは少しよろけながらも、なんとか自分で歩くことができた。

ドアノブに手を掛けようとした山中先生が、ぴたりと動きを止める。

和「……先生?」

シッ、と右手人差し指を唇に当てて、私と梓ちゃんを黙らせる。

さわ子「……静かすぎるわね。部屋に6人居る割には」

和「こちらを警戒して、息を殺してるんじゃ」

さわ子「そうだといいけど……。じゃあ、入るわよ」

鍵を掛けているかもしれないと思った扉は、けれど、難なく開いた。

さわ子「ーーー!!!」

扉の隙間から中を覗いた先生の背中が、ぞわりと波打ったのが分かった。
部屋に駆け込んだ先生の後ろから私と梓ちゃんが続く。

和「!!!!」

梓「!!??」

西日が射し始めた音楽準備室の床に、転がる影が4つ。
一瞬の間のあと、梓ちゃんの悲鳴が部屋中に響いた。



839 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 04:26:22.50 ID:ezMQWQR10

梓「あああああああ!! いやああああああ!!!」

さわ子「大丈夫、大丈夫だから! 落ち着きなさい!」

極度のショックで叫び続ける梓ちゃんの頬を、山中先生がぴしゃりとはたいた。
ひくっ、としゃっくりのような音がして、梓ちゃんが沈黙する。

和「先生……?!」

さわ子「真鍋さんも落ち着きなさい。この子たち生きてるから。ほら」

先生が私の右手を掴んで、一番近くに倒れていた澪の首筋に押し当てた。
彼女の頸動脈がぴくりぴくりと動くのが、皮膚越しに伝わってくる。

和「……脈、ある……あります……」

さわ子「ね。他の子達も気を失ってるだけ。みんなを起こすの手伝って頂戴」

先生にそう言われて、澪が生きていることを確認して、
そこでようやく、自分が呼吸することを忘れていたことに気付いた。
ふう、と大きく息を吐いて、少し冷静になる。

和「……えっ」

冷静になった頭を、すぐさま別のショックが襲った。
倒れているのは4人。律と澪とムギと、純ちゃん。

……唯と憂が、いない。



845 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 04:40:28.02 ID:ezMQWQR10

唯と憂がここにいないという事実は、思った以上に私を動揺させた。
緊張の糸が切れたように両足の力が抜けて、へなへなと床に崩れ落ちる。

さわ子「真鍋さん?」

山中先生が呼ぶ声も、くぐもって遠くのほうから聞こえてくるように感じる。

和「ゆい……うい……」

うわごとのように、自分の口からふたりの名前がこぼれた。

さわ子「真鍋さん? ちょっと、大丈夫?」

先生、どうしよう、唯が、憂が。

思考がぐちゃぐちゃと混乱して、上手く言葉を作れない。
焦点が合わず、裸眼でいる時のように視界がぐらぐらとぼやける。


さわ子「ーーさん、真鍋さん!!」

ばしん、と背中に強烈な痛みが走った。反動で身体がのけぞる。

さわ子「しっかりしなさい! あなたが今ダメになってどうするの」

山中先生に叩かれたんだ。
そう気付いた途端、背中にじーんと痺れを覚えた。



851 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 04:52:51.87 ID:ezMQWQR10

・・・

さわ子「……油断したわ、私としたことが」

山中先生は独り言のようにそう呟いて、眉間に皺を寄せた。
澪たち4人は部屋の隅に並んで寝かせて、梓ちゃんが寄り添っている。
意識はまだ回復していないけれど、
先生が言うには命に別状はないだろうとのことだった。

さわ子「折角真鍋さんが気をつけろって言ってくれたのに」

和「……えっと、それじゃあ」

さわ子「そう。多分あの子は憂ちゃんじゃないわ」

和「憂じゃない……?」

じゃあ、あれは誰なのか。何の目的で憂のふりを?
常識を大きく外れた出来事がいっぺんに襲いかかってきて、
私の思考回路はもうとっくにパンクしてしまっている。

さわ子「うーん、どこから話せばいいかしらね……」

先生が私を見て、困ったように小首を傾げる。

さわ子「多分信じられないようなことを今から言うけど、いい?」

和「……もう、信じられないことばかり起こってますから、今更です」

そう答えたら先生は少し笑って、さすが真鍋さんね、と目を細めた。



854 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 05:06:11.38 ID:ezMQWQR10

 ・
 ・
 ・

和「……ウイルスの、培養……ですか?」

さわ子「そ。ウイルスを培養するための場所として、ここが選ばれたってわけ」

山中先生はそう言って、トントン、と机を人差し指で弾いた。

和「どうして……」

さわ子「そのウイルスは、環境とか、まあ色々な要素に影響を受けるんだけど、
    この星ではあなたたちくらいの年齢の女の子の中で培養するのが最適らしくてね」

和「はあ……」

この星では、だなんて。
平然とした顔で言うもんだから私もあっさり頷いたけれど、
やっぱり、私の思考回路はもう色々と麻痺しているらしい。

和「それじゃあ、あの狂った人たちは」

さわ子「ウイルス感染者。平たく言うと、” 人間じゃない存在に変えられた者 ”ね」

和「……」

さわ子「そうやって知能の高い生命体を滅ぼすのが、あいつらのやり方だから」

……そうなんだ。無意識にそう言いそうになって、ギリギリで飲み込んだ。



856 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 05:14:31.93 ID:ezMQWQR10

和「それで、じゃあえっと……山中先生はいったい……」

さわ子「んー。しがない美人音楽教師! ……でいたかったんだけど」

和「……」

さわ子「まあ分かりやすく言えば、地球よりもうちょっと広い規模で取り締まる、
    日本で言えば公安みたいなものかな」

和「はぁ……」

もはや自分が発している言葉が、相槌なのか溜息なのかもよくわからない。

さわ子「真鍋さんがそんな顔するのも分かるけど……一応、事実なのよねこれ全部」

だから受け入れてくれると嬉しいわ、と、山中先生は少し寂しそうに微笑んだ。
そして、はた、と気付く。途端、悪寒に襲われる。

和「じゃあ……唯と憂は」

さわ子「うん……あの子達は多分、培養の苗床として最適な個体とみなされたのね」

和「ーーーー!! そんなっ、じゃあ、のんびりしてる場合じゃ……!!」

さわ子「そうねえ、のんびりしてちゃダメよね。ところで真鍋さん」

和「なんですか?」

さわ子「あなたはどこに居ると思う? あの子たち」



858 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 05:28:50.75 ID:ezMQWQR10

こんな時に何を呑気な……と言いそうになって、先生の顔を見て口をつぐんだ。
のんびりとした口調とは裏腹に、初めて見る真剣な目。

和「あのふたりの居場所……」

さわ子「そう。あなたが思った場所でいいの。あなたの勘で」

山中先生はそう言って、静かに口を閉じた。
私が答えを出すまで、何も言わないつもりなのかもしれない。

和「……」

さわ子「……」

焦る気持ちと、自分を落ち着けようとする思いが心臓を強く叩く。

後ろのほうで、小さなうなり声と、律先輩、と呼ぶ梓ちゃんの声が聞こえた。
途端に、律の言葉がフラッシュバックする。

律『この状況で生徒会長もなにもないだろッ!まずは自分の身を守れよ!』



和「ーーーー生徒会室」

さわ子「行くわよ、和ちゃん!」

私の答えを聞くや否や、山中先生が弾かれたように立ち上がった。
私も慌てて立ち上がり、駆け出した先生のあとを追った。



861 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 05:47:49.32 ID:ezMQWQR10

人間業とは思えない身体の動きで、山中先生がリビングデッド達をなぎ倒していく。
必死でその後を追いながら、人間業なんて言葉じゃもうこの人を測れないんだっけ、と
頭の端だけが妙に冴えていることに気付く。

さわ子「こうやって暴れるの久し振りでね、最初はちょっと調子に乗り過ぎちゃった」

……今、確実に語尾に音符飛びましたよね、先生。
なんかもう、色々、いいや。

さわ子「さあ、着いたわよ。生徒会室」

しつこく食い下がっていた最後の一人をあっさりと蹴り飛ばすと、
山中先生は乱れた髪をさらりと掻きあげて私を見た。

和「……ここにいるでしょうか。あのふたりは」

さわ子「さあ? 入ってみなきゃわからないわね」

あっさりと首を傾げた先生を、思わず睨みそうになる。

さわ子「でも私は信じるわよ? あなたの勘と、あなたたちの絆をね」

和「…………。案外くさい台詞を言うんですね、山中先生も」

そう返したら先生は少し目を見開いて、
やっぱり私好きだわ、真鍋さんみたいな人、と微笑んだ。



862 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 06:01:17.07 ID:ezMQWQR10

ばあん!と勢い良く蹴り飛ばされて、木製のドアがまっぷたつに割れた。
こういう時は相手に悟られないように静かに入るものなんじゃないんですか、先生。

さわ子「あら、大正解♪」

嬉しそうに声を上げたさわ子先生の肩越しに、
揺れるオレンジ色のリボンが見えた。

 「あらら、見つかっちゃいましたか……さすが、と言わざるを得ませんね」

さわ子「まどろっこしい言い回しをする子ねえ」

憂……のフリをしたその人物は、
ゆっくりと振り返って私と先生を交互に見ると口元にいやらしい笑みを浮かべた。

憂の顔で、そんな笑い方しないで。
不快感と怒りがごちゃまぜになって、全身が総毛立つ。

生徒会室の真ん中に、唯と、今度こそ本物の憂が、並んで寝かされている。
ぱっと見る限り、何かされた様子は見当たらない。
……緊張の中にあって、ほんの少しだけ安堵する。

さわ子「あなたの所属惑星はだいたい把握してるんだけど、
    とりあえずその仮面、剥いでもらっていい? 割と不快だから」

山中先生が腕組みをして、目の前の彼女に笑いかけた。



864 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 06:11:23.20 ID:ezMQWQR10

 「ええ、いいですよ」

彼女はそう笑い返して、顎と耳の付け根にずぶりと親指を突き立てた。
ハリウッドの特殊メイクよろしく、めりめりと音を立てて憂の顔が剥がれていく。

さわ子「……」

和「……。えっ?!」

剥がされた顔の下から覗いた別の顔に、驚愕した。
嘘、なんで……


和「なんで……あなたが……」


高橋さん。

名を呼んだ私に、彼女ーー高橋風子はにっこりと微笑んでみせて、
ブレザーのポケットから出した眼鏡をカチャリと掛けた。



865 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 06:24:17.93 ID:ezMQWQR10

動揺する私を気にも留めない様子で、先生と高橋さんがにらみ合う。

さわ子「それで、もうその子たちに種は植えちゃったの?」

軽い感じで、山中先生が穏やかでない問いを投げかける。

風子「残念ながらまだです。こんなに早く見つかると思わなかったから」

さわ子「あらそう、それはよかった」

風子「こちらとしては、よろしい展開ではありませんけどね」

高橋さんはそう言って苦笑すると、ふ、と私に視線を移した。

風子「それにしても真鍋さんって、思っていたよりもずっと勇敢なのね」

和「……」

風子「最初はね、真鍋さんを囮にして唯ちゃんを捕まえようかと思ったんだけど。
   パニックが起きたら真っ先に生徒会室に来ると思ったのに、予想が外れちゃった」

からからと楽しげに言う彼女の笑顔は、私の知っている高橋さんのそれではなかった。



866 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 06:34:17.40 ID:ezMQWQR10

風子「しょうがないからオカ研の子達をちょっと使って、先に唯ちゃんの妹を捕まえたの」

高橋さんはそう言うと、くいくい、と右手の人差し指を曲げてみせた。
よくわからないけど、洗脳……ということかしら。

風子「それで……軽音部のあのちっちゃい子……あずにゃんちゃん、だっけ?
   あの子を囮に唯ちゃんを捕まえようかなって。まあそれも失敗しちゃったけどね」

さわ子「やってることはえげつないのに、随分といい加減な計画だこと。
    それで、鈴木さんをうちのクラスに閉じ込めたのはどうして?」

風子「ああ、あの子は……。まあ、何かに使えるかもしれないかなって」

……運が良いのか悪いのか。
心の中で、少しばかり純ちゃんに同情する。

風子「それにしても、ずるいですよ先生」

さわ子「うん? 何が?」

風子「軽音部の部室。あの周辺に、香料仕込んでるなんて」

和「……香料?」

呟いた私を、さわ子先生がちらりと見て微笑んだ。



867 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 06:44:42.10 ID:ezMQWQR10

さわ子「正常な人は感じないけど、ウイルス感染者が酷く嫌う香りを出す草があるの。
    今回の件が報告されてすぐに、音楽室周辺にそれを仕込んでおいたってわけ」

校内全体に使うほどの量がなくて、音楽室周辺だけになっちゃったけど。
先生はそう言葉を続けて苦笑いを浮かべた。

さわ子「とは言っても……まさかあなたが直接乗り込むとはね。
    私としたことが、とんでもないミスをしちゃったわ」

あの子達を傷つけてしまうなんて。
微笑みを浮かべたままサラリと流した言葉の語尾が、ほんの少しだけ揺れた気がした。

風子「……まあ結果的に、私の負け、ですけどね」

さわ子「勝ち負けじゃないと思うけど、勝ち負けなら、そうね。あなたの負けよ」

風子「はい、認めます。じゃあ……この子の身体も、お返ししますね」

高橋さんはそう言って、す、と右手を自身の胸に当てた。
そして次の瞬間、彼女の身体は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。



868 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 06:59:57.24 ID:ezMQWQR10

山中先生はその様子を酷く冷めた目で眺めながら、
まさか逃げ切れるなんて思ってないわよね、と虚空に向かって笑いかけた。

ばちん、と、突然天井のほうから何かが弾ける音が聞こえた。
咄嗟に身をすくめて、表情を変えず上を見ている先生の様子を伺う。

和「先生……? いまのは」

さわ子「うん? ああ、悪さをした子に、お仕置きをちょっとね」

そう言ってニッコリと笑った山中先生は、
こんな時にそんなことを言うのもどうかなとは思うけれど、
やっぱり、美しかった。


さわ子「ええとそれじゃ、一応唯ちゃんと憂ちゃんが無事か診るから、
    真鍋さんは高橋さんを起こしてあげてね」

和「あ、はい」

先生に促されて、唯と憂を横目で気にしつつ、
私は床にうつぶせに倒れた高橋さんの元に駆け寄った。



869 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 07:08:55.80 ID:ezMQWQR10

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

律「唯、和、おはよー」

澪の机に浅く腰掛けた律が、私達に向かって手を振る。
律と、振り返った澪におはようと返して、唯と並んで自席に向かう。

唯「ねえ和ちゃん」

和「なあに?」

椅子を引いたところで名を呼ばれ、首を捻って唯と目を合わせる。

唯「なーんか最近、ちょっと、へんじゃない?」

和「へん?」

唯「うん……なんていうか……ここ数日のことが……ふわふわしてて」

唯はそう言うと、うぅん、と唸りながら首を傾げる。

和「ふわふわ? ちょっと夜更かしし過ぎなんじゃない?」

唯「ええ~? ちゃんと寝てるよぉ? 憂もなんかへんって言ってるし」

不満そうな声を出した唯に眉を上げてみせてから、椅子に腰掛けた。



870 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 07:18:01.76 ID:ezMQWQR10

実を言うと、私もなんだかぼうっとした感覚が頭の後ろのほうに漂っていた。
唯はここ数日と言っていたけれど、時間というか、手触りというか、
持っていたはずの何かが欠落してしまったようなおかしな感覚。


おはよう、と挨拶を交わすムギの声が聞こえて、教室後ろ側の扉を見る。
ムギが私と唯に向かって手を振って、私たちも振り返す。

その後ろから、高橋さんがひょっこりと顔を覗かせた。

……あら?

私が見ていることに気付いた高橋さんが、おはよう、と口角を上げる。
私も挨拶を返して、高橋さん、と彼女の名前を呼んだ。

和「ねえ高橋さん、眼鏡変えたの?」

風子「あ、うん。なんか、いつの間にかレンズがちょっと欠けちゃって……」

和「似合ってるよ、その眼鏡も」

高橋さんはありがとう、と言って、少し恥ずかしそうに微笑んだ。



872 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 07:26:22.23 ID:ezMQWQR10

チャイムがHRの時間を知らせ、ほぼ同時に山中先生が教室に入ってきた。
生徒達が一斉に、ガタガタと自席につく。

さわ子「みんな、おはよう」

おはようございます、とクラスメートの声が揃う。
先生はいつものように出席簿を開いて、クラスメートの名を順に呼んでいく。

さわ子「巻上さん、松本さん、……真鍋さん」

和「はい」

ふと、山中先生が顔を上げて私を見た。
視線を合わせて、小さく笑う。

それはほんの一瞬のことで、先生はすぐに次の生徒の名を呼んだ。

先生の笑った意味がわからず、けれどなにかを思い出しそうで、
でもやっぱり思い出せなくて、思わず首を傾げる。



874 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 07:33:53.04 ID:ezMQWQR10

唯「ねえ和ちゃん、どうかした?」

後ろから背をつつかれ、唯がこそこそと声を掛けてきた。
少しだけ上体を捻って彼女と目を合わせ、なんでもない、と返す。

さわ子「真鍋さん、平沢さん。HR中の私語は慎みなさい?」

山中先生にたしなめられて、慌てて前を向く。
クラスメートのみんながこちらを見てくすくすと笑い、肩をすくめる。


なんだかもどかしいけれど、そんなに悪い気分でもない。
忙しくて楽しい一日を過ごすうちに、もやもやも忘れてしまうだろう。


眼鏡を少し押し上げたらまた先生と目が合って、
今度は私のほうからニコリと笑ってみせた。





おわりん



875 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 07:38:01.09 ID:ezMQWQR10

なんかもうはちゃめちゃになってしまった・・・
途中、和→さわちゃんの呼称を何度も間違ってごめんなさい

それからレスに軽い気持ちで返してこんなことになってしまった
odQSLUnc0→Q4u+swbg0 さんもごめんなさい。とても乙でした
読んで下さった方ありがとう。楽しかったです




876 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 07:38:08.87 ID:u5sR3sV00

乙のど~



877 名前: 【17.7m】 :2011/10/25(火) 07:44:43.43 ID:jaoq1DUTO

乙!

即興でここまで書くのは凄い



899 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/25(火) 11:57:06.09 ID:XstxkVryO

おはのど!
今日ものどかな風が吹きますように

SS乙です。








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