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憂「お姉ちゃん。学校に遅刻するよ?」唯「私もう社会人なんだけど」#前編
憂「お姉ちゃん。学校に遅刻するよ?」唯「私もう社会人なんだけど」#後編
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:25:08.71 ID:LqpTs3Q1P
憂「えっ?」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:30:09.93 ID:LqpTs3Q1P
憂「もう、変な冗談言わないでってば」
唯「……いや」
憂「はい、これワイシャツね」
唯「……あの」
憂「早く朝ご飯食べちゃってね。それから、襟足のところ寝癖ってるよ」
唯「ねぇ、憂」
憂「なぁに? お姉ちゃん」
唯「うちの職場は制服指定されてないし、出勤時間までまだ二時間もあるんだけど」
憂「……」
唯「だからもう高校生じゃ」
憂「朝シャワーしてくる!」
バタンッ
唯「……いつまでこんなこと続けるんだろう」
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:33:45.34 ID:LqpTs3Q1P
唯「ぱくぱく。もぐもぐ」
憂「はぁー。いいお湯だったぁ」
唯「ふーん」
憂「お姉ちゃんも浴びてくれば? 体がサッパリするよ」
唯「最近、職場のクーラーが寒いんだよねぇ。今水浴びしたら風邪引いちゃうし」
憂「……」
憂「ねね。今日も部活するんだよね。
思ったんだけど、紬さんにばかりお菓子持ってきてもらってるでしょ。
だからたまにはうちからも、ね。
スフレ詰めがあるから、よかった軽音部の皆さんにお裾分け」
唯「自分で食べて。ご馳走様」
憂「……そう」
唯「制、服、に、着替えてくるから」
憂「うん……」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:37:05.11 ID:LqpTs3Q1P
唯「あっ、あれ? サイズが合わない……。また憂か」
唯「うーいー! ちょっときて、うーいーー!」
憂「はいはいはーいっ。どうしたの?」
唯「ねぇ。また私のブラ勝手に取り替えたでしょ」
憂「また?」
唯「突っ込むところが違うって。憂が私のブラをどこかに隠したんでしょ?」
憂「……だって、サイズ違いが入ってたから……」
唯「サイズ違いかどうかよく見てよ。憂が交換したやつ、がばがば状態でしょ」
憂「お、お姉ちゃんそんなに見せつけないで……」
唯「……とにかく、今すぐここに持ってきて。
学校に遅刻するって急かしてるのは憂の方でしょ?」
憂「うん……。ちょっと待っててね」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:40:28.10 ID:LqpTs3Q1P
唯(今のうちに私服と通勤鞄を詰め込んでおいて)
唯(ギターは学校に置いてきたって言えばオーケー)
唯(今日はさわちゃんから電話くるかなぁ。最近大人しいし、大丈夫だよね)
唯「……憂、遅いなぁ……」
唯「ういー! ねー。まだー?」
憂「おかしいなぁ……。確か、この辺りに入れたと思ったんだけど」
唯「ねぇ。もしかして、隠した場所忘れちゃったんじゃないの?」
憂「そ、そんなことないよ。もうすぐ見つかるから」
唯「……はぁ」
憂「もうちょっと待ってて! 確か、この箱の中か、裏辺りに」
唯「あー、もういいよ。憂のクローゼットから適当に借りていくから。それで我慢する」
憂「お姉ちゃんが私のをつけるの……?」
唯「……私だって成長したんだよ?」
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:44:03.38 ID:LqpTs3Q1P
唯「準備よし。それじゃあ行ってきまー」
憂「お姉ちゃん。ギー太忘れてるよ?」
唯「学校に置いてきた。じゃ、行ってきー」
憂「またまたぁ。いつも夜遅くまでギー太弾いてるのはお姉ちゃんでしょ」
唯「いつも……? 例えば昨日の晩、ギターの音が聞こえてたかどうか憂は覚えてる?」
憂「昨日は、ええと、どうだったっけ……」
唯「ほらやっぱり」
憂「でも! お姉ちゃんがギー太を大切にしてるのはよく知ってるよ。
だから、学校に置いてけぼりなんて」
唯「ギー太じゃなくてギターだし」
憂「……」
唯「とにかく何も問題はないの。行ってきます」
憂「……行ってらっしゃい」
唯「よし。今日はセーフ!」
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:48:53.63 ID:LqpTs3Q1P
とみ「あら、唯ちゃん。おはようさんね」
唯「あ、お婆ちゃん。おはようございます。いい天気ですね」
とみ「ほんと、いいお天気ねぇ」
唯「これなら、洗濯物がよく乾きそう。お布団も」
とみ「そうねぇ。ぽかぽかになるわねぇ」
とみ「それにしても、唯ちゃん。
見かけはそこまで変わらないけど、中身はたあんと大人になったんでしょうねぇ」
唯「そうかな……。そうですかね?」
とみ「そうよ。唯ちゃんはもう立派な社会人よぉ」
唯「ですよねぇ……。はは」
とみ「……」
とみ「あのね、唯ちゃん。できればね、あんまり人様に口を出すものでもないと思うんだけど。
ほら、こんなボケかけのお婆さんだからね、憂ちゃんの気持ちは私にもよぉく」
唯「あ、もうこんな時間! お婆ちゃん、行ってくるね!」
とみ「あらあら。いってらっしゃい」
とみ「……もう、学校へ行く年でもないのにねぇ」
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:55:16.70 ID:LqpTs3Q1P
唯(ううぅ。心なしか、周囲からの視線がいたく刺さるような気がする)
唯(知り合いにこんな姿見せられないよ。ましてや、同級生なんかに出くわしちゃったら……)
唯(25歳で高校の制服なんて、コスプレ以外のナニモノでもないし……)
唯(とにかく早く、公園のトイレで着替えないと!)
ブロロロロッ
律(あれは……唯!? なんであんな格好してるんだ)
唯「ふぁー。会社に着いたー、けど早すぎて誰もいないー」
唯「朝早かったし、休憩室のソファで寝てようかなぁ」
唯「うん、そうしよう……。ぐー、ぐー」
―― ――
――
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:59:04.59 ID:LqpTs3Q1P
「――それでね、偶然見ちゃったのよ」
「――えーっ! あの人って、そういう趣味あったんですかぁ」
唯(……んぁ。よく寝た。そろそろ時間かな)
「平沢さんって、どこか変わった子だとは思ってたけど」
唯(え、平沢って私のこと!? この声、ロッカー室の方から聞こえる……)
「流石に人としてどうかと思いますよぉ」
唯(人としてどうかと? 一体何のことだろう……)
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:02:35.33 ID:LqpTs3Q1P
「いい歳して制服趣味なんて、驚くよりも呆れちゃったわ」
「ですよねぇ。未練がましいってゆーか、若干変態入ってませんかぁ」
「まだね、完全にプライベートでっていうんなら、私だって理解しないこともなかったのよ?」
「けど通勤に学生服なんて、どう考えてもナシですよ。犯罪入ってますってぇ」
唯(うそ……。見られてたんだ、あの恥ずかしい姿を……)
唯(でも! これは憂を思ってのことなんだし。別に好きでやってるわけじゃ!)
ガチャッ
唯「あっ……」
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:05:40.50 ID:LqpTs3Q1P
「ひ、平沢さん!? どうしてこんなところに……」
唯「おはようございます……。早く着きすぎたので、一眠りしようかと思って」
「おはようございまーす先輩。今起きたんですかぁ?」
唯「え……うん。扉が開く音で起きちゃいました」
「あ、そうなの。全く。遅刻は論外ですけど、早く来すぎるのも考えものですよ」
唯「はい。すいません……」
「分かったらさっさと動いて下さい。
今朝の会議の資料、たんまりコピー機にかけないといけないんですからね」
「っていうか、そろそろタイムカード押さないとまずいっすよ先輩」
唯「……そうだね。そうします」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:10:18.68 ID:LqpTs3Q1P
唯(やっと仕事終わった……。今日はやけに疲れた……)
プルルルル
唯(電話? 誰からだろう……)
唯(さ、さわちゃん!? 早く出なきゃ!)
ピッ
唯「はい。もしもし、平沢です」
さわ子『もしもし、平沢さん。
ちょうど仕事が終わっただろうところを見計らって電話かけてみたんだけど、今平気?』
唯「はい。今さっき終わったばかりで、帰宅中です」
さわ子『そう。なら話してる時間はあるわね』
唯「ありますけど、あの、それで今日はどんな迷惑を……」
さわ子『ちょっとタンマ。あなた、ここのところますます他人行儀になってない?』
唯「はぁ……」
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:14:34.32 ID:LqpTs3Q1P
さわ子『三年間も教師と生徒やった仲なのに……。
もうちょっと親しげにしてくれてもいいじゃない』
唯「はは。そんな時もありましたね」
さわ子『昔は餌を待つひな鳥みたいに、さわちゃーん、さわちゃーんって頼ってくれたのに』
唯「そうでしたっけ?」
さわ子『……こほん。それで、まぁ、平沢さんの気持ちも分からなくはないのだけど』
さわ子『けどね、この件で私に申し訳なく思うようなことは筋違いなの。
それだけは頭に入れておいて欲しいわ』
唯「……はぁ」
さわ子『平沢さんだって、今さっきまで自分の仕事をこなしてきたでしょう。
それと同じで、この件は、私にとって割り切ってしまえる仕事の一部なの』
さわ子『んまっ。でも、プライベートで唯ちゃんと話がしたいってことでもあるんだけどねっ』
唯「結局どっちなんですか?」
さわ子『どっちもよ。それでまず、あなたが知りたがってる結果から伝えるけど……』
さわ子『今日は来なかったわ』
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:17:59.70 ID:LqpTs3Q1P
さわ子『まぁここのところ、少しづつ頻度は減ってきているし、
無意識に刷り込み学習されてるって部分があるのかもしれないわ』
さわ子『もしくは、記憶の一部が時折戻ってきてるとか。あの頭でもね』
唯「そうですか。良かったです」
さわ子『良かった? まぁあなた側に立ってみれば、よい傾向かもしれないけどね』
唯「……どういうことですか?」
さわ子『……』
さわ子『憂ちゃんの状況全体を見ると、酷くなる一方なんじゃない?』
唯「それはもう。少し前から家計簿がつけられなくなっちゃったんです。
簡単な計算に時間を食うようになったり、お金が足りないって騒いだことも一回ありました」
さわ子『なるほどね。進行が続いてる証拠よ。学生ごっこは相変わらず続けてるの?』
唯「はい。ほとんど毎日のように……」
さわ子『そう。それは大変ね……』
さわ子『……ねぇ唯ちゃん。そろそろ専門医に指南を仰いだ方がいいんじゃない?』
唯「……でも。もう少し様子を見てからでも……」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:22:48.78 ID:LqpTs3Q1P
さわ子『保護監督のあなたがそう決めてるなら、私から無理強いすることはできないけど……』
さわ子『けどね、憂ちゃんがおかしくなっていることは、既に素人目にも判別できるレベルであるのよ?』
唯「それは分かってますけど」
さわ子『んもう。口を酸っぱくして言い続けてるから、私の唇は梅干しみたいになってるのよ?』
唯「あはは。せっかくの美人顔が台無しだね」
さわ子『全くね。その笑いを、たまには憂ちゃんにも見聞かせてあげなさい。そろそろ切るわよ』
唯「スミマセン。努力してみます」
さわ子『私も頑張らないと……。テストの採点を終わらせないと、今夜は帰れないのよぉ』
唯「はは。さわちゃんがんば。おやすみなさい」
さわ子『おやすみなさい』
ピッ
唯「……努力なんて、もうずっとしてきてるのに……」
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:25:46.22 ID:LqpTs3Q1P
ガチャッ
憂「おかえりなさい。お姉ちゃん」
唯「ただいまぁ。ご飯できてる? お腹減ったから、先に何か食べたい気分」
憂「うん、できてるよ。一応……」
唯「一応?」
憂「……あのね、今日はレトルトとお惣菜なの。手作りでなくてごめんね」
唯「今日は、じゃなくて今日も」
憂「……」
唯「別にそこまで気にしてないよ。手早く栄養を取れるなら文句言うつもりないし」
憂「明日は、明日は頑張って作るから!」
唯「あーうんうん、期待してるー」
憂「……」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:28:19.99 ID:LqpTs3Q1P
唯「はむはむ。むぐむぐ」
憂「……」
唯「さっきから箸が全然進んでないみたいだけど」
憂「えっ、そんなことないよ。そんなこと……」
唯「さっきから私ばっかり食べてない? 盛り減るのが遅いし」
憂「……ちょっとお腹の調子が悪いのかも」
唯「どうせ二回目の夕食なんじゃない」
憂「!!」
唯「あっ。あーほら、言葉のあやだよ。間食とか、おやつ食べ過ぎちゃったのかなぁって」
憂「……食べてないもん」
唯「……」
唯「お腹痛いなら無理して食べなくていいよ。ラップしておいて、また明日にでも食べよう」
憂「うん。そうする」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:31:24.80 ID:LqpTs3Q1P
唯「ごちそうさまでした」
憂「お粗末さまでした」
唯「お風呂入ってくるね。出たらすぐ寝ちゃうと思うけど」
憂「あ! ちょっと待って」
唯「ん? どうかしたの?」
憂「あ、あのね。今日、家の中を掃除してたら、
お姉ちゃんのクローゼットの奥からこれが見つかって……」
憂「ギー太なんだけど! どうしてか分からないけど、凄いボロボロになっちゃってて」
唯「ギターね。しばらく放っておけば、痛むのは仕方ないことだと思うけど」
憂「仕方ない!? だってお姉ちゃん、あんなにギー太を大切にしてたのに……」
憂「勝手に手入れするのは悪いかもって思ったんだけど、でも、我慢できなくて……」
唯「……」
唯「もうギター弾かないからいいんだよ」
憂「えっ?」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:34:09.30 ID:LqpTs3Q1P
唯「……でも、まぁ……。わぁ凄いピカピカ! 新品みたい!
あ、でも弦は張り替えなかったんだ」
憂「うん。やり方が分からなくて」
唯「ふぅん。そっかー、へー」
憂「……」
唯「とりあえずお風呂入ってくる」
唯「あ、それから、もういい年同士なんだから、
そろそろお互いの部屋に勝手に入るのはやめにしない?」
憂「……でも、お掃除とかお姉ちゃん一人じゃ」
唯「で、き、る、か、ら。やめにしようね?」
憂「……お姉ちゃんが、その方がいいって言うんなら……」
唯「くれぐれもよろしくね」
唯「特にギターはさ……」
憂「うん……」
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:36:36.18 ID:LqpTs3Q1P
唯「あー。さっぱりしたー」
唯「ベッドの上が一番落ち着くなー」
唯(……憂、まだお皿洗いに苦戦してるのかな)
唯(こんな生活、いつまで続ければ終わりが来るんだろう……)
唯(やっぱり病院に連れて行った方が……)
プルルルル
唯(電話……。またさわちゃんだったらやだなぁ)
唯(あ、りっちゃんだ)
ピッ
唯「もしもし平沢でございまーす」
律『もしもし田井中でござまあーっす』
唯「あはは。りっちゃん、久しぶりぃ。相変わらずのごよーすで」
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:41:36.54 ID:LqpTs3Q1P
律『久しぶりってほど離れちゃないだろう。唯こそ、相変わらず高校生のまんまなんじゃないか』
唯「そっ、そんなことないよ! やだなぁ、りっちゃんったら……」
唯(まさか制服出勤がバレてる!?)
唯「そ、そいで、何かごよう?」
律『ご用かっつーとご用なんだな。なぁ、久方ぶりに飲み会でもやらないか?』
唯「前に会ったときも飲み会だったのに?」
律『いいじゃんよー、細かいことはさー。酒を呑むのに理由がいるかい?』
唯「オール・オア・ナッシングだね! 家じゃ一滴も飲めないから、外ならがぽがぽいけちゃうよ」
律『ハハッ。憂ちゃんは健康に厳しいんだなぁ。気つけ程度なら良薬になるってのに。
きっと、唯がお酒飲んでる姿なんて見たくなぁい! っていう心持ちなんだろう』
唯「大体そんな感じ~」
唯(見つかったら有無を言わさず捨てられるんだけどね……)
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:45:51.47 ID:LqpTs3Q1P
律『そんで、いつやるかーっていう話なんだけど』
唯「うんうん」
律『今度の日曜日にしようと思ってるんだけど、どうだ?』
唯「今度のにちようー……って二日後じゃん! どうしてそんな急に?」
律『いやまぁ、私の肝臓が張り切りまくってて、酒はまだかー! って怒鳴り立てるもんだし』
唯「変なりゆうー」
律『後はなぁ、やっぱり、定期的にみんなの顔を見たくなるもんなんだよ。
唯だって、そういう気分に襲われる時ってあるだろ?』
唯「うーん。たまにあるかな」
律『だろだろ?』
唯「でも、自制心が働いちゃう時の方が多いかな。なんていうか、その時は昔に戻れててもさ、
後からやってくる現実に耐えられるかどうかっていうと、特に高校時代はさ……」
律『高校時代は……。その続きは?』
唯「たっ、大したことじゃないよ。楽しすぎたから余計にーってこと」
唯「ほら、私だってもう大人なんだから、難しい言葉を使うようにしてるだけー。ふんすっ!」
律『ふーん。あの唯さんも、センチメンタルになる時があるんですなー』
唯「あの唯さん、ってどういう意味なのさぁ」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:50:32.65 ID:LqpTs3Q1P
律『んで、日曜は出れるって捉えちゃっていいのか?』
唯「うん、行きたい気分。他には誰が来れそうなの?」
律『一番に連絡したのは澪なんだけど、土日とも出ずっぱりで無理らしい。
もう少しで実務が終わるらしいから、張り切らずにはいられないみたいだ。
よく過労死しないよなー全く』
唯「だねぇ。澪ちゃん、バリバリのキャリアウーマンになっちゃったし」
律『そう言う唯だって、お洒落なオフィルビルで会社員やってるんだろ?』
唯「まぁ、一応。でも私なんかほとんど事務みたいなものだから、澪ちゃんには遠く及ばないよ」
律『ふぅん。私なんてしがない宅配業者だぜ? ま、それはひとまず置いといて』
律『唯が二番目で、次はムギに連絡取ろうと思ってるんだけど、おそらくまだ海外にいるだろうな』
唯「ムギちゃん、どんなお仕事してるんだろうね。
もう三年くらい……ってことは、大学卒業してから一度も会ってないんだ」
律『だなぁ。んま、あいつのことだからちゃっかりやってるって。そんで、梓は余裕で捕まるだろうけど』
唯「まだ音楽の道続けてるんだよね。諦めてない、って言ったほうが当たってるかもしれないけど」
律『忙しくなりたくても、まだまだカレンダーには空白多しってとこだろう』
唯「この話、あずにゃんの前で言ったらきっと怒るだろうね」
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:55:13.88 ID:LqpTs3Q1P
律『あれだよなー。なんだかんだ私たち武道館目指すとか言ってたけど、意外に現実主義だったみたいだ』
唯「現実主義ねぇ。眩しいよね、現実って響き」
律『おーい唯。さっきからたまにキャラが崩れてないか? みつをを人生の師として設定したのか?』
唯「あはは。あんまり気にしないで。って、ここまで言っちゃうとかえって痛々しいかな」
律『……まぁまぁ。積もる話は日曜日ということで、どうせまた三人だろうけどな』
唯「はいはぁい。それじゃ、例の居酒屋で」
律『ん。詳しい時間が決まったらメールする。じゃーな』
唯「おやすみー」
律『のし!』
プツッ ―― ツー ツー
唯「なんだかんだりっちゃんは、りっちゃんなりに充実した日々を送ってるんだよね」
唯「それに比べて、私は……」
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:58:48.38 ID:LqpTs3Q1P
チュン チュン
憂「お姉ちゃん。学校に遅刻するよ?」
唯「ふあぁ。くあぁ……」
憂「ほぉら、早く起きて。もう朝ご飯できてるから」
唯「………」
憂「お姉ちゃん、なんだか重い顔してるよ。怖い夢でも見ちゃったの?」
唯「今日、土曜日なんだけど」
憂「またまたぁ。だって今日は……うん、平日だよ!」
唯「……」
唯「憂の中では何曜日の設定になってるの?」
憂「設定って何が?」
唯「あー、もうそんなところ突っ込まなくていいから!
で、今日は何曜日なのか分かって聞いてるんだけど」
憂「曜日は、確か、ええっと……」
唯「……」
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:01:25.04 ID:LqpTs3Q1P
唯「とりあえずごはんたべるし」
憂「どうぞ召し上がれ」
唯「またインスタントか……。もぐもぐ」
憂「……」
憂「あっ! お姉ちゃん、カレンダー見て!」
唯「カレンダーがどうかしたの? って、あ……」
憂「ほぉら、金曜日だよ。やっぱり私の言った通りだったでしょ。早く学校に行く支度を」
唯「あぁ……捲るの忘れてた……。今日は青い字のはずなのに……」
憂「もうっ。ズル休みしちゃ駄目だよ」
唯「在庫が切れたからって、日めくりタイプなんて使うんじゃなかった……」
憂「在庫?」
唯「いちいち聞き返さないで」
憂「とにかく早く学校に行く準備しないと。今から走れば、一時間目にならギリギリ間に合うよ。
ほら、出席が足りないと進路にも響いてくるってよく言うでしょ? 行きたい大学にだって」
唯「んあああああああああああああもう! 大学なんてとっくに卒業してるんだよ!」
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:04:13.54 ID:LqpTs3Q1P
憂「お姉ちゃん? 何言ってるの?」
唯「……」
憂「だってお姉ちゃんはまだ高校生だよ? そんな見え透いた嘘……」
唯「嘘つきは憂の方だし」
憂「違うよ。お姉ちゃんの方だよ」
唯「……何回何回何回言っても学習しないんだから」
唯「もう曜日のことはさぁ、テレビつけて勝手に納得してくれないかな」
ピピッ
唯「はい。左上のところに何て書いてありますか読んでみて?」
憂「土曜日って出てる……」
唯「ほぉら分かったでしょ。皿洗いは私がやるから、憂はその辺でごろごろしてればいい」
憂「……嫌だよ。私の仕事取らないでよ」
唯「間違ってる憂にお世話されたくないから」
憂「……くすん」
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:05:59.45 ID:LqpTs3Q1P
ジャー ―― キュッ
唯「ちょっと出かけてくるね」
憂「どこに行くの?」
唯「お昼は外で食べてくるね」
憂「ねぇ、どこに行くの?」
唯「……パチンコとか。競馬とか」
憂「おおおおおおおおおおおおおお姉ちゃんが不良に!?」
唯「やだなぁ嘘だから。あずにゃんちだよ」
憂「もう、脅かさないでよ。……ねね、私も一緒に行っていいかな?」
唯「それは無理かも。二人きりで遊ぶ約束だから」
憂「そうなんだ……。あっそうだ、さっきスフレ詰めを見つけてね、よかったら持って」
唯「かさばるからパス。ていうか、いい加減自分で開けて食べなって」
憂「ううん。もし家で開けるなら、お姉ちゃんと一緒に食べたいから」
唯「……その日がくるのならね」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:08:50.04 ID:LqpTs3Q1P
チュピーン!
ジャラジャラジャラ
唯「おー。今日はポケットがよく開くー」
パンパカパーン
唯「いけー! いてかましたれー、かばちたれー!」
唯「……やったー!」
―― ――
――
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:10:38.22 ID:LqpTs3Q1P
唯「今日はたんまり稼げたな~」
唯「ういー、ただいまー」
シーン
唯「うーいー、いないのー? いないならいないって返事してー!」
シーン
唯「……出かけてるのかな。でも、もう日は落ちきってるのに」
唯「携帯に連絡は……。って、電源切ってたんだった」
ピポパ トゥルルル ―― ガチャ
唯「もしもし、憂。今どこにいるの?」
憂『もしもし、お姉ちゃん。あのね、今買い出しに向かってるんだけど』
唯「こんな時間に買い物? もう暗いから、諦めて戻ってきなって」
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:14:25.63 ID:LqpTs3Q1P
憂『でも、お夕飯のおかずがないし。お惣菜だけ買ったらすぐに帰るから』
唯「……ねぇ、憂」
憂『なぁに?』
唯「昨日の夜に残したお惣菜が、手付かずで冷蔵庫に残ってるはずなんだけど」
憂『お姉ちゃん、記憶がごっちゃになってない?』
唯「それ私が言いたい台詞」
憂『……またまたぁ』
唯「それで話変えるけど、憂は今道に迷ってるんでしょ?」
憂『そんなことないよ。お姉ちゃんじゃあるまいし』
唯「なにその言い方」
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:17:33.09 ID:LqpTs3Q1P
唯「いいから、近くにある建物とか看板とか、何でも目に付くもの言って。
すぐに迎えに行くから。お姉ちゃんが着くまで、絶対にそこを動いたら駄目だよ」
憂『そんな言い方、子供じゃないんだから……』
唯「体は子供で頭脳が大人の方がまだ助かるんだけどね」
憂『……』
唯「言い訳は後で聞くから、今は」
ブヅッ ―― ツーツー
唯「この馬鹿妹」
唯「はぁ。もういっそ放置して、お巡りさんにでも連れてきてもらえば……」
唯「って、GPS使えばいいんだった」
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:22:20.26 ID:LqpTs3Q1P
唯「はぁ。はぁ。やっと着いた……」
憂「お姉ちゃん……」
唯「全く。どうやったら隣町まで来れちゃうの……」
憂「夜風が気持ちいいから、ちょっと遠回りに散歩でもしようかなって思って」
唯「ふぅん。わざわざスーパーからまっすぐ離れるように遠回りねぇ」
憂「……」
唯「おうちに帰ろう。おかずはあるものを食べればいいから」
憂「……でも」
唯「ほら、帰るよ。道端が好きなら、道路ん家の子にしちゃうからね」
憂「ま、待ってってばぁ!」
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:26:11.52 ID:LqpTs3Q1P
唯「ただいま。そしておかえり」
憂「ただいまー」
憂「ねえねえ、お姉ちゃん」
唯「うん?」
憂「なんだか懐かしかったね。二人だけで、夜更けにずーっと住宅街を歩いて帰ってきたの」
唯「憂……何か思い出したの!?」
憂「あの時は、私もお姉ちゃんも、右と左が分からないくらいに酔っ払っちゃって。
確かあれはお姉ちゃんの就職祝い……。あ、あれ? お姉ちゃんが就職って、どうして!?」
唯「そうだよ、憂。お姉ちゃんは大人になったんだよ。だから憂も大人なんだよ」
憂「私が大人? でも、お姉ちゃんは高校生……。えっ、あれっ」
唯「それは、何ていうか時間の流れは一定だから、ええと、上手い言い回しが……」
唯「――ッ!?」
唯(何!? なんか二階から臭う!! クサイ!!)
憂「お姉ちゃん?」
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:29:29.72 ID:LqpTs3Q1P
唯「ガスだ!」
憂「ガス!?」
唯「息を止めて!」
憂「えっ? えっ?」
唯「お姉ちゃんが何とかするから、外に出てて。いいね」
憂「で、でも」
唯「いいから!!」
唯(栓を締めて! 窓を開けて! それから――)
―― ――
――
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:32:16.66 ID:LqpTs3Q1P
唯「……」
憂「あの、お姉ちゃん……」
唯「……」
憂「返事しようよ。もう大丈夫なんだし。一緒にご飯の支度しよう?」
唯「……」
憂「黙ってたら、思ってること何も伝わらないよ。ね、お願いだから何か喋って」
唯「……」
唯「思ってること、本当に言っちゃっていいの?」
憂「そ、それは程度の差こそあれだと思うけど……」
唯「どうして謝ろうとしないの?」
憂「……」
唯「ねぇ、どうして謝らないの? 悪いことをしたらゴメンナサイしましょう。
憂が馬鹿みたいに私に言ってきたこと」
唯「自分から実践しようって気は起こらないの? ねぇどうなのさ」
憂「だって……。私のせいじゃないかもしれないし」
唯「ハァ?」
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:34:24.09 ID:LqpTs3Q1P
唯「だったら誰がやったっていうの?」
憂「それは……。例えば、泥棒さんの類とか」
唯「うちに入った泥棒が金品を盗まずに
お味噌汁だけ作りかけて逃げた。どんな冗談? 笑えないって」
憂「……」
憂「だったら、単なる嫌がらせとか」
唯「誰にそんな恨みを持たれてるの?」
唯「仮に、これが私怨だったとしても度が過ぎてる。殺人未遂の域だよ」
憂「そんな言い方って……」
唯「どこが間違ってるの?
あれ以上ガスが充満してたら、気づくより先に倒れてたかもしれないんだよ?」
唯「憂はお姉ちゃんを殺したいの?」
憂「……やめて」
唯「どうして私まで巻き添え食らわないといけないの?」
憂「やめて、お願いやめて……」
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:36:53.97 ID:LqpTs3Q1P
唯「泣いたら許されるとでも思ってるの」
憂「やめ……嫌……」
唯「憂はいつから頭が悪い子になっちゃったの」
憂「や、やぁ……」
憂「うぅ。ぐずっ……」
唯「……」
唯「お姉ちゃんもう寝る。ご飯はいらない。お風呂もいらない。
もうさっぱり寝て夢の中でふわふわしてたい」
憂「ま、待って……。ねぇ待って」
唯「……」
憂「側にいて。お願いだから、側にいて」
唯「離してくれない?」
憂「やだもん」
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:38:45.52 ID:LqpTs3Q1P
唯「離せって言ってるんだけど」
憂「やだ」
唯「離して」
憂「やだ」
唯「離せ」
憂「……」
唯「離せって言ってるでしょ!! この痴呆者!!」
憂「ひっ」
唯「大体なんで私が憂の面倒見なくちゃいけないの?
もう成人でしょ? 馬ッ鹿じゃないの!?」
唯「今まで散々お世話されてきたから、その恩返しをしなさい?
ふざけないでよ! 誰がそんなこと決めたっていうの?」
唯「いざ私が社会に歩こうとしたら、
後ろからしがみついてきて、足引っ張って、枷になって……」
唯「もう限界! 死ぬなら一人で死んで!
私まで道連れにするなんて、ふざけるのも大概にして!!」
バタンッ!
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:39:58.64 ID:LqpTs3Q1P
唯「……私は悪くない。私は間違ってない。そう、きっとそう」
唯「どうせ憂の涙なんて、記憶と一緒に蒸発して消えるんだ。
忘れるんだ。忘れる。全部忘れる」
唯「私はもう社会人として一人前なんだから。高校生も憂も卒業してるんだから」
唯「……いっそお見合いでもしちゃおうかな」
唯「……ぐー。すー」
―― ――
――
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:10:39.80 ID:LqpTs3Q1P
梓『えっ、今からですか?』
唯「うん、飲み会まで暇でさ。
もし時間空いてるなら、二人で何かして、それから一緒にって思ったんだけど」
梓『それだと、律先輩に悪い気が……』
唯「いいのいいの。どうせりっちゃんは朝から動けないタイプなんだから。
昨夜はお楽しみでしたねーって意味で」
梓『はぁ。そうなんですか』
唯「で、オーケー? それとも都合悪い?」
梓『まぁ、一応用事は入ってるのですけど。でも来てもらっても平気だとは思いますけど……』
唯「用事ってどんな?」
梓『レコーディングです。父が贔屓にしているスタジオが空いてるようなので、
特別に使わせてもらえることになったんです』
梓『それでバンドメンバーが集まるのですが……まぁ、そういうことなんですけど』
唯「私が入っていっちゃ駄目じゃん」
梓『あぁ。普通はそう考えますよね……』
唯「うん? 何かが普通じゃないってこと?」
梓『いえ、別に大したことでもないのですが……』
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:13:04.98 ID:LqpTs3Q1P
梓『簡潔に言いますと、メンバーの三人が唯先輩に一度会ってみたいと前々から言っていまして』
唯「どうして私に?」
梓『それは……。あのですね、その……』
唯「んん?」
梓『唯先輩のことがよく話題に出たりしまして、
いつか現物を目に収めておきたいという方向性になっていまして』
唯「誰が話題に出すの?」
梓『誰って……私以外に誰がいるんですか』
唯「あっ。ふーん、なるほどそういうことねぇ」
梓『なっ何ですかその含みのありそうな言い方は!
ともにかく、来てもらっても構いませんよということです』
唯「そっかぁ。うーん。どうしようかなぁ」
唯「……やめとこうかな」
梓『そうですか……』
唯「せっかく誘ってもらったのにごめんね」
梓『いえいえ。まぁちょっと急でしたし、レコスタでご対面ってのも無理がありましたかね』
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:15:45.51 ID:LqpTs3Q1P
梓『あっ、でもレコーディングが終わって、飲み会までだったら少しは時間ありますよ』
唯「後からメンバー集まって反省会とか、そういうのはやらないの?」
梓『今日はナシになってます。すぐに二人抜けないといけないみたいなので。唯先輩を選びます』
唯「嬉しいこと言ってくれるねぇ」
梓『だっ、だってバンドはチームワークが大切じゃないですか。
皆均等に付き合っていかないと、どこかで綻びが出るというものです』
唯「なんだか経験談っぽいね」
梓『……まぁ、そのことも含めてお話ししましょう。唯先輩』
唯「うん、分かった」
梓『そろそろ切りますね、唯先輩。機材の準備があるので』
唯「はあい。じゃ、終わったら電話ちょうだい」
梓『はい。ではまた』
唯「……」
梓『……』
唯「どっちから切る?」
梓『私から切りますっ!』
91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:19:30.66 ID:LqpTs3Q1P
――
―― ――
梓「せんぱーい! ここですよー!」
唯「お、めっけためっけた」
唯「久しぶりだねー。よっこらしょういちっと」
梓「唯先輩……しばらく会わないうちに台詞がおばさん臭くなりましたね……」
唯「なにをー、一つしか違わない癖に。私がおばさんなら、そっちもおばさんでしょ」
梓「あはは。昔の歌にそういうのありましたね」
梓「それで、どれくらいぶりでしたっけ? こうして顔を合わせるの。一年くらいでしょうか?」
唯「うん。だいたいそれくらいだと思けど……。じいいぃぃ」
梓「なっ、なんですかその思慮深い目付き……」
唯「あんまり変わってないね!」
梓「んもう! 背と胸だけを見て判断しないで下さい!」
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:24:02.16 ID:LqpTs3Q1P
唯「それギターだよね」
梓「あ、はい。スタジオに置いてくるわけにはいないので持ってきました。直行でしたし」
梓「フェンダー・ムスタング。何だかんだ、ずっと使い続けてるんです」
唯「むったん、だっけ?」
梓「ちゃんと覚えててくれたんですね。ムスタングのむったん、私の相棒です。きりり」
唯「ほおぉ。ライブパスも隙間ないくらい張ってあるし、なんだか手の届かない人になっちゃったみたい」
梓「またまた大袈裟ですって。ライブに出るだけなら、
ある程度の実力とコネさえ満たしていればいいんですから」
梓「そういう意味では、唯先輩だって同じ道を行く選択肢はあったかと思いますけど」
唯「……同じ道、ねぇ……」
梓「……」
梓「でもでも! ミュージシャンなんておよそ現実的ではありませんし、
堅実に生きる方が賢いということですよ」
唯「ふぅん。目指してる人でもそういうこと考えちゃうんだ」
梓「メンバーに聞かれたらおかんむりにされそうですけど、
どの金の卵だって同じことを考えてるはずですよ」
唯「でも止まれない、止まらない」
梓「そういうことですね」
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:27:07.42 ID:LqpTs3Q1P
梓「唯先輩はたまにギー太触ったりしてるんですか?」
唯「ギー太ねぇ。あんまり、っていうかほとんど放置しちゃってるのが現状かな」
梓「そうなんですか……」
唯「でも私って天才肌だし、練習したら一ヶ月くらいで元に戻れるかもっ?」
梓「なら試しにむったん使って弾いてみますか?」
唯「え、遠慮しとく……。ギー太以外だと使いこなせる気がしないっていうか……」
梓「でしたね。そう言い返されるだろうと思いました」
唯「あー、うーん。でもやっぱり、もうギターに触れる機会はないと思うな」
唯「一番に余裕がないし。仕事のことが頭にあると、身にも入らないだろうし」
梓「……うちのメンバー、二人は社会人ですよ?」
唯「え、本当に?」
梓「ええ。ドラムとベースがそうです。
ですから揃っての練習は平日の深夜や、土日の空いてる時間になることがほとんどですね」
唯「あっ、じゃあ今日レコーディングが終わって先に抜けた二人って」
梓「その通り、社会人の二人です。大事な用事って言ってましたけど、おそらく仕事関係のことかと」
梓「彼女たちの不等号はあちらに向いてるんです。それを強制することなんてできませんから」
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:31:52.52 ID:LqpTs3Q1P
唯「ふぅん、そうなんだ。ちなみに、残りの一人はどんな子なの?」
梓「ギターの子なんですけど、大学の軽音サークルからの付き合いなんです。
今は私と同じくフリーターなんですけど」
梓「電話で言ったチームワークが大切っていうのが、
この子に絡んでくるんですけど。……聞きたいですか?」
唯「うん。良かったら聞かせて欲しいな」
梓「はい。大筋から言いますと、私とその子が仲良くなりすぎて、
ベースとドラムが他所に行っちゃったんです」
唯「その出て行ったベースとドラムっていうのが、今いる社会人二人の前釜なんだ?」
梓「そうです。大学の軽音サークルからの付き合いでした。
学生の時は、なんだかんだ同じキャンバスにいたのでよく集まってたんですけど、
皆卒業すると、自然と寄り合う機会が減ってしまいました。
そこで関係が両極されてしまったんです。
周囲から目を瞑り、一人にしか焦点を当てなかった。
彼女たちが離れていくのは、少し考えれば分かることでした」
唯「……そうなんだ。何年も一緒に活動していたのに、そんな別れ方もあるんだ……」
梓「ええ。でもまぁ、学生時代でだって
ツーマンバンドって陰口叩かれてたくらいですから、時間の問題だったんですよ」
唯「そっか……。だからチームワークは大切なんだね」
梓「はい。ですから、先輩と先輩たちにその気があるなら、今からでもやり直せると思うんです」
唯「ちょ、ちょっと待って。いきなり話が飛んだよ!?」
99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:37:43.53 ID:LqpTs3Q1P
梓「唯先輩はさっき、ギターに触らないのは一番に余裕がないからだと言いましたよね」
唯「うん……」
梓「これは私の善がりな想像なのですけど、もしかして二番目があるんじゃないでしょうか」
梓「例えば、一緒に演奏する人がいないとか……」
唯「……はは」
梓「私、思うんです。私が大学サークルから続けたバンドは、もう壊れてしました。
しかし、先輩方のバンドは自然消滅しただけです。
だから、今からでも再生は可能なはずです。
他の皆さんにその気が無ければそれまでですが、
少しでも前向きなら……それは凄く勿体無いことだと思うんです」
唯「勿体無い、かぁ」
唯「でも、放課後ティータイムは五人あってこそだよ」
梓「それは嬉しいですけど……。言ってしまいますと、
私が観察する放課後ティータイムは、四人のまま変わってないんです」
唯「……どういうこと?」
梓「主観と客観は違います。下される評価は、常に客観に頼ったものになっちゃいます。
売れないバンド故の苦悩ですよ。
自分たちは最高の音楽だと思ってるのに、レコード会社からすればへのへのもへじ以下です。
ですから放課後ティータイムに関して、私が意見力を持つ発言は、
四人の状態であるべきなんじゃないかって思えてしまって」
唯「……まぁ、少なからず今のバンドを放り出すわけにはいかないもんね」
梓「そうですね。偉そうに言ってますけど、今のバンドが一番大切なのは当たり前ですから」
101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:42:51.44 ID:LqpTs3Q1P
梓「ただ、私が入部を決めた新入生歓迎ライブ、あれが最も鮮明に焼き付いていることは確かです。
私が見る放課後ティータイムは、あの地点からずっと途切れたままになってるんです」
唯「なるほどねぇ。社会の厳しさを知って、色々と大人に考えるようになったってことかぁ」
梓「ですよ。だから背と胸だけで判別して欲しくないと言ったんです」
梓「それで、どうですか? 今話したことを鑑みるに、唯先輩は」
唯「うーん……。またみんなで軽音をやれるなら、凄く楽しいだろうし嬉しいことなんだろうけど」
唯「でも、やっぱり余裕がないよ。手が回らないと思う。そういう事情もあるし……」
梓「事情……? あぁ、そうでしたね」
唯「えっ? その言い方、何か知って」
梓「あっ、いえいえ!
唯先輩が急に暗くなったので、突っ込まないで同意する方がよいかと思いまして。はは」
唯「なぁんだ。もー、気使いさんだなぁ」
唯「……さてと、もうすぐ待ち合わせの時間だね。そろそろ行こっか」
梓「あ、はい……」
唯「りっちゃんはまぁだカチューシャを」
梓「あっ、あの! 唯先輩!」
104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:46:20.10 ID:LqpTs3Q1P
唯「んっ、どうかしたの?」
梓「あの……私には言ってくれないのでしょうか」
唯「言うって、何を?」
梓「……その、名前を。今日まだ一度も呼んでくれてません。
私からばかり、唯先輩唯先輩ってさっきから……」
唯「あー。そういえばそうだったかも……」
梓「別に会話は成立しますけど、心持ち的にはちょっと不快です……」
唯「……ごめんね。なんていうか、あずにゃんは呼び慣れてたけど、
この年で言うのは流石に抵抗があるっていうか」
唯「でも梓ちゃんだと今更感っていうか違和感あるし。結局、決められないままに……」
梓「もう、いいですよ! 分かりましたから。好きな指示語でも使って呼べばいいんじゃないですか」
唯「お、怒らないでよぉ」
梓「別に怒ってなんかないですもん」
唯「むううぅぅっ!」
唯「機嫌直してってば、あずにゃーんっ!!」
梓「わっ! ちょっ! ハグは勘定にないです! 恥ずかしいですってば、離して下さいぃ!」
唯「嘘つけー! 本当は嬉しがって抱かれてた癖に! このこのっ、七年分溜めた愛情を味わうがいい!」
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