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律「…イリス」#前編 【クロス】


http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1282655675/

梓「レギオン?」
唯「ギャオス?」
律「…イリス」#前編
律「…イリス」#後編




3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:16:58.72 ID:pEXLzDfc0

― 8月24日 沖ノ鳥島近海 深海調査研究船「かいれい」

クルーA「光量不足だ…カメラ感度を…」

無人潜航艇のカメラモニターには異様な物体が浮かび上がった。

クルーA「ガメラ!?」

クルーB「骨だ…」

チーフ「まさか…」

クルーB「ここは…」

クルーA「ガメラの墓場…」





4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:17:58.28 ID:pEXLzDfc0

― ???


『―番組の途中ですが、今入りましたニュースをお伝えします。
 先程博多港に大型の生物が出現しました。現在自衛隊が出動しています。繰り返します』

『―現在生物は瀬戸内海に潜伏しているとの見方が強まり、
 付近を航行中の船舶に厳重な注意を呼びかけています―』

『―なお、政府の通達に従い、
 海の生物をガメラ、鳥型の生物をギャオスと、呼称します。繰り返します―』

『―夕方から朝にかけては、決して外に出ないようにしてください。
 とりわけ広い道路ではギャオスに襲われやすく、厳重な注意が必要です』

『―政府は今朝7時をもってギャオスとの総力戦に臨むことをを決定しました。

 この作戦は同時かつ多重的な攻撃によりギャオスを圧倒することが骨子とされています―』

『これに伴って、作戦行動の中心となる港区周辺では戦場と化すことも予想され―』



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:18:29.75 ID:pEXLzDfc0

『―隕石の1つは日本北部の北海道、札幌市、南約50キロの山間部に落下しました。
 樹木が燃える被害の他死傷者はいない模様です―』

『―札幌市営地下鉄の南北線は現在、全線運転を中止しています。
 構内で危険物が発見されたためということですが、まだ詳しい情報は―』

『―札幌を飛び立ったガメラは石狩湾に墜落し、
 異生物の夥しい死骸が海岸に打ち上げられました。ここ石狩市厚田区の望来浜では―』

『―共生する大勢の者達、レギオンと仮称される生物は、
 ガメラの出現によって根絶されたと見解が出されていますが、その一方で飛翔し―』

『―突然姿を現した植物体を中心に半径6キロの地区には避難命令が、
 半径10キロの地区には避難指示が出されています。該当地域には―』

『―この度のレギオンの侵攻は我が国の基本的生存権の重大な危機と受け止め、

 また、憲法九条の下において許容されている自衛権を発するにあたっての要件、
 すなわち我が国に対する急迫不正の侵害であること―』



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:19:38.48 ID:pEXLzDfc0

― 9月15日 4時02分 桜ヶ丘 平沢家

憂「…お姉ちゃん!」

9月の空が白む中、憂は悪夢にうなされて目覚めた。

ギャオスの悪夢。レギオンの襲来。

二度の怪獣襲撃に際してガメラと「交信」できる唯が果たした役割は大きかった。

しかしレギオン戦の最中、唯の勾玉は砕け散り、

唯はガメラと交信する術を喪ったものの、憂の中には漠然とした不安は残り続けた。

憂「…さ。今日も頑張ろう。」

憂は不安を振り払うように大きく深呼吸して立ち上がった。



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:21:29.79 ID:pEXLzDfc0

― 同 8時05分 同 田井中家

律「あー、眠いー」

聡「姉ちゃん遅刻するぞ」

律「うっさい!」

聡「じゃあ、いってきます」

律「はいはい。いってらっしゃい」

まだ準備をしている律を尻目に聡は元気よく家を出て行った。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:23:05.13 ID:pEXLzDfc0

― 同日 10時59分 東京都中央区 八洲火災海上損害保険

社員「専務より承っております。私、生瀬と申します」

恵「曽我部恵です」

社員「わが社が所有する勾玉状の物体についてご質問があると」

恵「拝見できます?」


― 同 資料室


社員は金属のキャビネットからひとつの木箱を取り出した。

恵「これが…」

社員「ご覧の通り、先のレギオン戦の際に全部自壊しまして、発見当時の原型は残ってません」

仕切られた箱の中には砕け散った勾玉が並んでいた。

恵「…これと同じ物がいくつか流出したと」

社員「ええ。合同調査でしたし、環礁自体も最終的に処分しましたからいくらでも…」



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:23:48.91 ID:pEXLzDfc0

恵「平沢唯さんはご存知ですか?」

社員「ええ、同じ物を持っていらっしゃったとかで…
   琴吹家の方を通じて彼女も一度いらっしゃったことが」


社員「…でも今になって、なぜこんな?」

恵「天地否、それ滅びなん」

社員「はっ?」

恵「天と地とが背きあう、亡びるかも知れぬ」

社員「え?はぁ?」

恵「平穏に見えて危機はすぐ目の前にある。五経のひとつ『易経』にある言葉です」



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:25:01.60 ID:pEXLzDfc0

― 同日 13時16分 桜が丘女子高等学校 3の2教室


風子「あ、これこれ。桜が丘最古の神社って」

ぎっしり書き込まれたフィールドノートと挟まっていた写真を机に並べる。

澪「そういうのはオカ研に任せておけよ…」

和「随分古そうな神社ね」

澪「何だこの神社?」

結局澪もそれを覗き込んだ。

風子「柳星神社、柳星張が寝てるっていう言い伝えがあるの」

和「柳星張?」

風子「去年の学園祭の郷土研究会の出し物で調べて覚えてたんだ」



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:26:07.05 ID:pEXLzDfc0

和「へえ」

風子「これ、東町にあるんだよ」

澪「うん」

風子「ところが柳星張って名前は…大きな災いを意味しているの。
   蘇ったらこの世が滅ぶようなものを封印してて―」

澪「わ、災い!?」

風子「うん。石が祀られてるんだけど、その石が動くとき、この世は滅ぶって」

澪「…」

風子「江戸時代になって力自慢の相撲取りがこの石を動かそうと挑戦したけどやっぱり動かない」

和「当然石が動いたら滅ぶ時ってことね」

澪「…」



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:26:47.33 ID:pEXLzDfc0

風子「ええ…澪ちゃん聞いてないよ…」

和「まだあんまり怖いところじゃないわよ…それで柳星張ってどんな意味なの?」

風子「あ、それで、柳星張の意味なんだけど…」

フィールドノートをめくった。

風子「まず、月は28日で天球を一周するので昔の中国や日本では28宿って分けられていたの。
   で、その中の南方三宿、西洋の星座だとうみへび座になるものが柳星張。
   柳は頭、星は赤い南斗、南の守護神、張は羽根を広げた姿を意味してるみたい。

   守護神は東に青龍、西に白虎、北に玄武、南は朱雀、鳳凰と言われてるので、
   柳星張は朱雀になる、ってことみたいだよ」

和「じゃあ、朱雀を封印してるってこと?」



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:28:02.31 ID:pEXLzDfc0

風子「そうそう。確か、南北は対立の関係とされてるんだって」

和「じゃあ、朱雀は南から来る敵への備えってことかしら」

和がそう言うとチャイムが鳴った。

和「ん…」

風子「あ…」

澪「…」


澪「…」

律「おい澪?」

律が気づくまで澪は固まったままであった。



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:28:56.47 ID:pEXLzDfc0

― 同日 同時刻 東京都府中市 航空総隊司令部 作戦指揮所

パイロット「トレボー。アンノウンとの速力差大。捕捉不可能」

要撃管制官「ラジャー。ワイバーン、次の指示があるまで現状を維持せよ」


― 同日 16時30分 東京都千代田区霞が関 中央合同庁舎5号館 会議室

環境省審議官「どうも。長峰さん。お久しぶりです。
       この場は一応ガメラに限らず、様々な巨大生物への対策を考える場として設けました。
       何故立て続けに日本が怪獣に襲われるのか、抜本的解決策は存在するのか、と。
       あれ以来…省内で私はこれの専門家扱いされてまして」

鳥類学者「…お久しぶりです。斎藤審議官。ところであの人は…?」

審議官「あの人ですか…曽我部恵…国交省のガメラ対策室のオブザーバと聞きました。
    なんでも日本の根っこのポジションにいる人だとか…。
    審議会への参加もかなり上の方からねじ込まれました。
    うむ。好奇心を持たない方が身のためだ」



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:29:58.92 ID:pEXLzDfc0

恵「…」

恵は配られたレジュメに目を通していてこちらには気付いていない。

鳥類学者「…」





恵「既存の概念は通用しない今、ガメラと交信した少女という話ももう一度見直すべきではないでしょうか」

文化人類学者「マナ、と呼ばれる太平洋島嶼地域のアジア先住民が持っている古代のエネルギー概念、この―」

防衛省一佐「防衛省技本では巨大生物対策研究室を設置、新型装備の開発への予算分配を変更し」

警察庁局長「福岡、札幌と政令指定都市で相次いで発生したケースも踏まえて巨大生物出現時の一次対応を」

会議は淡々と進められていった。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:30:42.61 ID:pEXLzDfc0

― 同日 23時30分 桜が丘 真鍋家


『イギリス国内で初のギャオスが確認されました。ギャオスが確認されたのは南部の―』

『次のニュースです。政府は今日、巨大生物被害対策審議会を開き、
 先月沖ノ鳥島沖海底で発見されたガメラと思われる大量の―』

テレビには審議会の会場が映し出されている。

その中には見覚えのあるひとりの女性の姿があった。

和「あれ?」

僅か一瞬映り込み、すぐにフレームアウトした参加者。

しかしその姿は和にとって明らかに見知った誰かであった。
和が考え込んでいるうちにニュースは次の内容に移った。

『続いてのニュースです。航空自衛隊のスクランブル発進の回数が
 今月に入ってから78回と極めて異常なペース―』

和「曽我部先輩…」



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:31:50.67 ID:pEXLzDfc0

和は呟いた。

(恵「唯ちゃん…ガメラと交信できるんですって?聞いちゃったわよ―」)

レギオンが仙台を襲撃した際の恵の言葉が脳裏をよぎる。

そういえば何故曽我部先輩は唯のことを?

機密事項にされたはずのことを何故?

和は携帯電話を取ると、紬にメールを打ち始めた。



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:32:24.51 ID:pEXLzDfc0

― 9月16日 8時59分 桜が丘女子高等学校 3の2教室


紬「和ちゃん…」

和「曽我部先輩が審議会にいようがいまいが、構わないけど…唯は…」

紬「とにかく今調べてもらってるからもう少し待ってて」

和「巻き込んじゃってごめんね」

紬「あ、返事来たわよ」

和「どう?」

携帯電話を見つめる紬を和は覗き込んだ。

紬「調べてもらったらやっぱり…曽我部先輩…政治関係に関わってるみたいよ…」

和「まさか…?」

紬「間違いないわ…それに和ちゃん見たんでしょ?」



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:33:23.89 ID:pEXLzDfc0

― 同日 15時45分 桜が丘女子高等学校 廊下


恵「あら、唯ちゃん」

唯「あっ!曽我部先輩!お久しぶりです!」

恵「元気?」

唯「はい!とっても」

鼻息荒く唯は答えた。

恵「近々また改めて会う事になると思うからよろしくね~」

恵はそれを見て微笑むと去っていった。

唯「はい!」


和「唯!今曽我部先輩いた!?」

唯「うん!いたよ~」

和「!?」

和(やっぱり唯のことを知ってる…)



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:35:13.63 ID:pEXLzDfc0

― 同日 16時42分 桜が丘女子高等学校 音楽準備室

律「おうじゃあ、私が死にかけたら助けてくれよ」

澪「律こそ私が死にかけたら助けてくれるのか」

律「たはっ!もちろんこの田井中律、地の果てまでも澪姫を助けに参ります!」

澪「ハハハ」

律「なぁ、澪…」

澪「ん?どした?」

律「いや…大切な人を失うって恐ろしい事だよな…」

澪「なんだよ急に」

律「いや…なんか…」



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:35:59.88 ID:pEXLzDfc0


― 同日 16時59分 同 東中学校

聡「ねーちゃんに誕生日プレゼント買ってやろうと思ってさ」

友「お、姉ちゃん誕生日か?」

聡「…先月の21日」

友「え?お前まさか…」

聡「忘れてた…」

友「なら明日渋谷行く時買っちゃおうぜ」

聡「あっ!それいいな!姉ちゃんもさすがに納得だろ」



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:36:42.31 ID:pEXLzDfc0

― 同日 21時47分 桜が丘中央 コンビニ


姫子「いらっしゃいませこんばんはー」

純「これ下さい」

姫子「お会計20円になります」

(また2時間も立ち読みしてチロルチョコ…ジャズの2年だろお前…)

純「あ、レシートいらないです」

(絶対コイツ唯先輩のクラスにいる女だ…無断バイトかよこの茶髪…)

姫子「ありがとうございましたー」

(早く帰れ帰れ!)

純「どうもー」

(早く辞めろ辞めろ!)



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:37:20.65 ID:pEXLzDfc0

― 9月17日 18時59分 東京都渋谷区 代々木公園


ホームレスA「さこやん!愚痴やら身の上話やら聞きたくねぇぞ」

ホームレスO「貴様なんかに話せるか!」

酔っ払ったホームレス二人がベンチでクダを巻いていると火球と化したギャオスが上空を通過する。

ホームレスの片手にあったワンカップは滑り落ち、地面で砕け散った。

ホームレスA「あっ、もってぇねぇ」

ホームレスO「あ、あれはギャ…ギャオ…アレがこの上におるっちゅうことは…」



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:38:37.37 ID:pEXLzDfc0

― 同 同時刻 東京都渋谷区 渋谷駅前


聡「我ながらいいセンスだと思う。うん」

友「お姉ちゃん喜ぶぜきっと。中学生でこんな高い物を…って」

聡「よし。早く帰ろうぜ」

聡と友人は渋谷駅の入口に向かって広場を歩いていた。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:39:15.12 ID:pEXLzDfc0

JKλ「おー花火?あれ、違うな?」

JKω「何あれ?」

ガキ「ママ、花火」

JKα「ねぇ、なんか落ちてくるよ」

JKσ「でっかくね?」

DQN1「あれ、ギャオスじゃね?」

DQN2「やべぇ!落ちてくるよパネェ」

その騒ぎに気づいた二人も空を見上げる。

聡「なんだ…あれ…?」

友「まさか…」



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:40:15.79 ID:pEXLzDfc0

衆目の中、猛火に包まれたギャオスがそのまま渋谷駅へ落下した。

JR渋谷駅ホーム上屋は一瞬で押し潰されて落下し、

停車中だった山手線の電車が上下線揃って成すすべもなくその下敷きになる。


更に駅の外では降下して来たガメラの回転ジェットの風圧に巻き込まれ、地下鉄銀座線の電車が急停車する。

そしてバス乗り場に並んだバスやタクシー、右往左往するその乗客達を踏み潰し、ガメラが降り立った。

振動で周囲のガラスは砕け散り、圧死を逃れた人々に上から襲いかかる。


真っ白い粉塵が晴れると、ガメラの姿が現れる。

咆哮を上げてその巨体を起こすと、様子を伺っていた野次馬も一斉に蜘蛛の子を散らすかのように走りだす。

そして渋谷駅の瓦礫の中ではギャオスが断末魔の声を上げていた。



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:41:52.94 ID:pEXLzDfc0

リア充ア「逃げろ!」

リア充イ「うわああああああああああああ」

リア充ウ「ガメラだああああ!」

JK「たすけてー」

DQN「やべえええええええええええええ」

クラクションや怒号が響き渡る中、ガメラは辺りを踏み潰しつつギャオスに歩み寄る。

ギャオスは火球の直撃とガメラの攻撃により、目は飛び出し、羽は折れ、血を流していた。

ガメラはそれを睥睨すると、全く躊躇いなくプラズマ火球を発射した。

その火球は凄まじい火炎旋風を巻き起こし、ハチ公と渋谷駅にいた人々を一瞬にして飲み込んでいく。

その地獄が迫る先には聡とその友人の姿もあった。

二人も逃げる雑踏に混じって走りだす。



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:42:50.74 ID:pEXLzDfc0

聡「逃げよう!」

友「うわぁ!」

聡は転んだ友人をかばって覆いかぶさったものの、

聡の抵抗はほんの少しだけ友人を死から遠ざけただけであった。

次の瞬間には聡もろともその友人すら焔の中へ消え去った。


ガメラが勝どきをあげようとしたところで更に二体目のギャオスがガメラに襲い掛かる。

ガメラの移動と共にその破壊の舞台も渋谷センター街に移る。

身動きがとれないほどの雑踏の頭上でギャオスの超音波メスは

建ち並ぶビルを切り裂き、ガメラの火球はセンター街を焼き払う。

そして二発目のガメラの火球は口元と同じ高さのビルを巻き添えに

二体目のギャオスも撃破し、その巨体を空中で四散させた。



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:43:35.08 ID:pEXLzDfc0

そのギャオスの肉塊は炎の塊となって一帯に降り注ぎ、

ようやく安堵しかけた人々を更に押しつぶした。

ガメラが去り、焔に包まれた阿鼻叫喚と化した渋谷センター街。その片隅。

ガキ「ガメラが助けてくれたよ!」

― 実際には渋谷にいた人々でガメラの恩恵に預かったのはほんの僅かであった。

ガメラとギャオスの戦いは僅か2時間で聡を始めとした

2万人の人生を大きく書き換え、その多くは儚く潰えていった。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:44:57.82 ID:pEXLzDfc0

― 同 21時19分 桜が丘 平沢家

憂「お姉ちゃん!テレビ!テレビ!」

唯「うーいーなぁーにー」

床に寝そべっていた唯はテレビの方に転がって向きを変えた。

テレビ『渋谷現場より繰り返しお伝えします。
    週末金曜日の夜、街が賑わう時間帯に惨劇が起きました。
    まだ公式な発表はありませんが、目撃証言などから代々木公園に落下した巨大生物はギャオス。
    渋谷周辺に多大な被害を与えたのはガメラであるという見方が強まっています』

唯「ギャオスにガメラ!?」

唯は思わず起き上がった。

『渋谷から飛び立ったガメラと思われる生物の映像です―』

憂「ガメラ…また…」

憂は沸き上がってくる不吉な予感を感じた。



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:46:03.78 ID:pEXLzDfc0

― 9月18日 8時55分 桜が丘女子高等学校 3の2

ワンセグ『この突然の災害による死傷者数は一説に一万五千人とも二万とも言われ、
     正確にはどれほどの数になるのかまだ全くわかりません。
     消防、自衛隊による必死の救出活動が続く中、被害に遭った肉親や友人を探す人々や―』


律「聡が昨日渋谷に行ってたんだ…」

澪「え?」

唯「聡君が!?」


『――私鉄、JR各線でも線路の破断等から帰宅難民状態が続き――主要幹線道路――も麻痺
 ――携帯電話各社も基地局に大きな被害を受け、
 通信回線が輻輳状態となっているため――171、災害伝言ダイヤルの――』

律「まだ帰って来てない…」

紬「繋がりにくいみたいだから…」

唯「…」


『――首相官邸前です。古澤官房長官は緊急記者会見を行い、
 菅原首相は本日中に現場を視察する意向を明らかにしました―』

重苦しい空気は徐々に広がっていった。



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:47:18.71 ID:pEXLzDfc0

― 10時40分

2時間目の授業が終わった休み時間、さわちゃんが現れると、律を廊下へ連れだした。

さわ子「たいなかさーん、ちょっと…」

廊下でボソボソとした二人の声が聞こえる。

「え?またまたぁ」という律の声だけがはっきりと聞こえた。

そして戻ってきた律の表情はこわばっていた。

律「さわちゃん…何言ってんだよ…何言ってんだ…」



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:47:58.96 ID:pEXLzDfc0

澪「ん?どした」

澪は意図的に軽い調子で聞いた。

律「まさか…そんな…間違い…」

律はボソボソと呟いている。

澪「律?」

唯「りっちゃん?」

紬「りっちゃん…」

律「帰る…」

出際に振り返った律の顔は蒼白だった。

澪「…」



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:49:30.41 ID:pEXLzDfc0

―9月19日 8時55分 桜が丘 平沢家

テレビ『今日未明、沖ノ鳥島付近を哨戒中の海上自衛隊がガメラを捕捉、これを攻撃しました。
    現時点でこの攻撃がガメラに与えた効果はわかっていません。
    その後ガメラは航空機、護衛艦の追跡を振りきり公海上へ逃走しました』

テレビには護衛艦が速射砲を連射する資料映像が映し出されていた。

唯「…」

テレビ『ロイヤルエアーシステム、
    シンガポール発ベルリン行きのエアバス機がエジプト上空で消息を絶ちました。

直前に機長から巨大な鳥が接近という交信があったことから、ギャオスの―』

憂「また…ギャオス…?」

いつの間にか背後には憂が立っていた。

唯「…そうだね」

憂「お姉ちゃんもう行かないでね…」

唯「あはは。もう私ガメラと話せないから大丈夫だよ…憂…」

唯は憂を強く抱きよせた。



66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:51:11.02 ID:pEXLzDfc0

― 9月20日 8時32分 桜が丘女子高等学校 3の2


月曜日、律は当然ながら学校を欠席した。

さわ子「田井中さんは忌引で欠席です。弟さんが亡くなられました」

さわちゃんが沈痛な面持ちでHRを始める

唯「りっちゃん…」

澪「律…」


― 13時16分


廊下の片隅で唯は泣きじゃくっていた。

唯「ガメラが…ガメラが聡君を…」

和「唯。あなたのせいじゃないの。あなたはもうガメラと関係ない」

唯「でも…でも…」



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:52:20.90 ID:pEXLzDfc0

― 9月23日 8時55分 桜ヶ丘 桜が丘女子高等学校 3の2


聡の葬儀が終わった次の日、揃った面々は暗く沈んでいた。

紬「律ちゃんやっぱりお休みね…」

唯「りっちゃん…」

和「弟を亡くしたらそうそう…」

澪「私は何もしてやれないのか…」

律「あのー」

唯「…」

紬「大切な誰かを失う…そんな事…」

澪「律…私はなんもしてやれない…」

律「あの…おはようございます…」

唯澪紬和「「「「!?」」」」



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:52:59.42 ID:pEXLzDfc0

澪「律!休むんじゃなかったのか!?」

唯「り、りっちゃん…」

紬「無理しないほうがいいわよ!?」

和「こういう時はゆっくりしないと」


律「あー、いや…一応葬儀も済んだし…あ、
  ごめんな。葬式はみんなもわざわざ休んで貰っちゃってな」


唯「…りっちゃあああん」

律「なんだよ唯!?」


一見律はいつもと変わらないような調子で振舞っていた。

しかし、学校が終わると同時に律は姿を消した。



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:54:05.80 ID:pEXLzDfc0

― 同 18時10分 桜ヶ丘東町 柳星神社


律「はぁ…」

気づくと律は郊外にある神社にいた。

古びた鳥居の額束には「柳星張」と刻まれている。

律「なんだここ…」

そのままかび臭い祠の上がり段に腰掛ける。

考えてはいけないとは思いつつも聡のことを考えてしまう。

律は耐えられなくなり頭を抱え込んだ。

ガメラのせいで…ガメラさえいなければ…。



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:55:27.88 ID:pEXLzDfc0


「違う…ギャオスもいたんだ…仕方ないんだ…仕方ない…唯だってもう関係ないし悪くない…」

それを言い聞かせるように何度も口に出す。

更にあれ以来唯を責めたくなる気持ちが心の何処かに潜んでいるのは感じていた。

唯なら止めれたのではという思いが払拭できない。

それを誤魔化すように空を見上げると、空はもう暗くなってきていた。

律「…帰ろう」

一度は立ち上がった律だったが何かが気になり、祠の木の扉に手をかけた。

鍵はかかっておらず、渋い扉は開いた。



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:56:44.84 ID:pEXLzDfc0

中には卵形のゴツゴツした岩が奉られている。

近づいていこうとすると何かに躓いた。

亀の甲羅を象ったような石だった。

それをどかして奥の方へ進む。

「…」

そして何を思ったか祭ってある石を律は持ち上げた。

「うっ重い!…ちくしょう!」



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:57:32.32 ID:pEXLzDfc0

律はそれをそのまま外に放り、踏み石に叩き付けた。

石にはバキバキと音を立てひびが入る。

取り上げて確認しようとすると、ますますひびは広がった。

「や…やばい!」

ようやく冷静になった律は自分の行為の重大さに気づき、

慌ててそれを放り出すと逃げ出した。

そんな律が石の裏側に彫られた朱雀の絵に律が気づくことはなかった。



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:58:15.51 ID:pEXLzDfc0

― 同 23時47分 田井中家


テレビ『――内閣はガメラ掃討のため自衛隊の出動を決定しました』

『ガメラ掃討決定についてどう思われますか?』

『前回のギャオスの事件もありますけど…やはり脅威なのでは?』

『日本の敵は日本が始末するべき、当然ニダ!』

『ガメラですか?以前福岡に住んでたんですけどあの被害はひどくて…』

数人のインタビュー映像の後、画面には再び渋谷の炎を背に飛び立つガメラの映像が映し出された。

律「コイツ…」



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:59:00.14 ID:pEXLzDfc0

― 同 23時47分 平沢家

『一連のガメラ関連の損失は既に2兆4千万円という民間シンクタンクの試算が発表されました―』

唯「私が…私がガメラと…ガメラと交信できれば…こんなことにならなかったんだ…」

唯はソファーで膝を抱え込んでいた。

憂「お、お姉ちゃん?」



86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 22:59:39.90 ID:pEXLzDfc0

― 9月24日 16時59分 桜ヶ丘東町 柳星神社

律「…」

学校が終わってからすぐに律は再びあの神社に来ていた。

自分が叩き付けた石への良心の呵責もあったが、

それ以上に何かが律にとって引っかかった。

律は祠を覗き込んだ。

???「キュウ!」

律「う、うわぁ」

律はそのまま尻餅をついた。

祠の中に奇妙な生物がいた。

背中には渦巻き型の殻のようなものがあるが、足のようなものが数本見える。



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:00:31.72 ID:pEXLzDfc0

律「…びっくりした…なんだこいつ?」

かたつむりとも違う奇妙な生物は律の方におずおずと近づいてくる。

黄色い頭部につぶらな目、そしておずおずとした仕草は律の心を掴んだ。

律「は、は…お前可愛いじゃん」

律が近づこうとしたところ、生物は突然触手で触れてくる。

何かが目の前にフラッシュバックする。

ガメラだ。イリスはガメラを憎んでいる―、そう律は感じ取った。

律「お前も…ガメラに…?」

???「キュウ?」



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:01:13.00 ID:pEXLzDfc0


生物は触れていた白くぬめぬめとした触手をそっと離し、別の方を指す。

その先を追っていくと黒く尖った勾玉が落ちている。

律「これ…勾玉か…?」


律「くれるのか?」

???「キュウウ」

生物は頷くように首を動かして擦り寄ってくる。

律「お前…」


???「キュ」

律「…ちょっとぬめぬめするけどかわいいなぁ!」

律は思わず生物を抱きしめていた。



96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:03:04.54 ID:pEXLzDfc0

― 9月25日 15時55分 桜ヶ丘 桜が丘女子高等学校 3の2


澪「アイリスだな」

和「ギリシア神話の虹の女神」

風子「そうそう。正解。アイリス。イリスって言う場合もあるよね」

澪「なんか綺麗な響きだよな」

風子「本当よねー」

少し離れたところで三人の会話を耳に挟んだ律。

律にとっては会話の内容よりも「イリス」という単語が重要であった。

律「イリス…いい響きだな…」

律「そうだ…あいつの名前をイリスにしよう!」



99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:04:28.02 ID:pEXLzDfc0

―15時55分 廊下


唯「あっ、りっちゃん帰るの?」

律「おう!」

和「気をつけてね」

律「じゃあ!」

そのまま律は朗らかに走り去った。

和「空元気かしら…」

唯「りっちゃん無理しなくてもいいのに…」


―16時09分 音楽室


澪「あれ?律帰ったのか…」

梓「はい。ちょっと部室に顔出してくれましたけど…」

梓がトンちゃんに餌をやりながら答えた。

澪「そうか…」



103 名前:>>97 そうです。春のに必死ですごめんなさい:2010/08/24(火) 23:06:11.46 ID:pEXLzDfc0

― 同 22時32分 桜ヶ丘東町

さわ子は夕方からの出張の帰り道、郊外にある隣町からの抜け道を走っていた。

東町の柳星神社を通る街灯もまばらな夜道、ヘッドライトに人影が照らされた。


さわ子「あれ?りっちゃん?」

さわ子は歩道を歩く人影を車で追い抜きながら、ミラーで確認する。

「えっ!ちょっとこんなところで何やってるのよー!」

間違いないことを確認するとさわ子は車を停めて律を取り押さえに向かう。


律「うわ!さわちゃん!?」

さわ子「待ちなさい!こんなトコで何してんの!」

律「散歩です!ただの散歩です!」

さわ子「こんな山奥まで散歩に来るわけないでしょ普通!こんな時間に!待ちなさい!」

律「あああああああ!」



109 名前:>>106 亀滅亡設定嫌いなんだ。ごめん:2010/08/24(火) 23:08:11.66 ID:pEXLzDfc0

― 9月26日 13時09分 桜ヶ丘 桜が丘女子高等学校 職員室

さわ子「何してたの?」

律「いや…何も…さわちゃ…さわ子先生も大げさだな…」

さわ子「あんなところにいるのって尋常じゃないわよ。
    まして言っちゃ悪いけどあなたは肉親を亡くしたばかりだし」

律「いや…ホント、ほら、日本史の課題で」

さわ子「あなた部活にも出なかったでしょ」

律「…」

澪「失礼します」

律が完全に形勢不利となったところに澪が入ってきた。

律「あ、澪」

さわ子「あら?どうしたの?」



110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:09:21.02 ID:pEXLzDfc0

澪「あの、律が何か…?」

さわ子「何でもないわよー。大丈夫大丈夫」

律「あの、行っていいでしょうかさわ子先生」

さわ子「…仕方ないわね。と、に、か、く!
    何かあったらひとりで抱え込まないでね!わかった!?」

律「はい!さわ子先生!」


澪「?」


― 同 廊下


澪「律…なんかあったのか?」

律「あ、ああ…そうだ!澪に見せたいものがあるんだ!」



112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:10:33.93 ID:pEXLzDfc0

― 同 18時59分 桜ヶ丘東町 柳星神社

澪「り、律…なんだそれ…」

律の横には巨大なカタツムリがいた。

澪「ぎゃあああああああ」

近づいてみるとカタツムリとは違う上に、
足が何本もあることに気づいた澪は思わず悲鳴をあげた。

律「お、おいやめろ!怯えてるだろ!」

澪「わ、私の方がよ、よっぽど!」

律「なぁ、可愛いだろ?」

澪「そ、そ、それ、なんだよっ!」

律「イリスって言うんだ。私が名づけた」

澪「…」

(風子『蘇ったらこの世が滅ぶようなものを―』)

風子の声が脳裏をよぎった。



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:11:39.91 ID:pEXLzDfc0

― 9月27日 13時46分 桜ヶ丘 桜が丘女子高等学校 3の2


澪「そ、そのりゅうせいちょう、ってあれ、ふ、封印とか出来ないのか」

風子「え?確かね…」

風子はノートのページをめくった。

風子「あ、あった。十握剣、とつかのつるぎ、ってあって。
   それが龍星張を封印する手段なんだって」



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:12:11.66 ID:pEXLzDfc0

― 同 17時46分 桜ヶ丘東町 柳星神社


澪「おい!あれどうしても育てるつもりなのか!?」

律「ほっといたら死んじゃうだろ」

澪「大きくなって食べられたらどうするんだよ!」

律「大丈夫だ」

澪「なんでそんなことわかるんだよ!?」

律「いいから…」

そう言いながら律は途中のコンビニで買った牛乳や缶詰をイリスの前に並べる。


イリス「キュウウ…」

律「食べないな」

澪「まだモノを食べられないくらい―」

いきなり触手を伸ばしたイリスはそのまま缶詰に突き立てる。

するとペコペコという音と共に缶詰はそのままペシャンコになった。

澪「な、中身だけ吸い取った…」



120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:13:06.35 ID:pEXLzDfc0

― 同 22時08分 桜ヶ丘 平沢家


『今日午後、海上自衛隊厚木航空基地所属のP3C対潜哨戒機が
 大島沖でガメラを探知、対潜爆弾で攻撃し―』

『ガメラについて世論の反応は―』

『いいんじゃないですか?追いかけて攻撃しても。日本の敵なら日本が倒さないと―』

『怖いですよぉ。おちおち外も歩けない』

『福岡での被害を考えたらどうにかしないと』

『しかし、ガメラがいなかったら今の私達の生活はなかった事も事実で―』

ガメラに対して好意的な発言をしようとしたインタビューは途中で切られ、

再びガメラ攻撃についての内容へ戻る。

もはやガメラへの反感は強まっていることは明らかであった。

唯「…」



122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:14:07.56 ID:pEXLzDfc0

数分後。唯は和に電話した。

和『もう唯は何もしなくていいはず。だって勾玉は割れたのよ?』

唯「そ、それはわかってるけど…」

和『それに世間を見て。ガメラへの敵意で一杯よ。
  唯、あなたがわざわざそこに出ていく必要なんてない。もう自衛隊に任せればいいのよ』



124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:14:45.39 ID:pEXLzDfc0

― 9月24日 16時18分 桜ヶ丘東町 柳星神社


律「イリス…」

学校から一目散にやってきた律が神社に着くと、イリスの姿はなくなっていた。

そして祠もめちゃめちゃに壊れている。

律(イリス…!)

律は直感で裏山に入っていった。



127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:15:57.74 ID:pEXLzDfc0

― 同 神社裏・桜山


律「イリス!」

イリス「キュウウ…」

弱々しい声が聞こえる。

獣道を駆け登るとイリスは雑木林の中に座っていた。

「ごめんよ…寂しかったんだろ?」

「ごめんね…」

「私を捜してたんだね…もう離れないから…」

律はイリスを抱きしめる。



130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:16:47.53 ID:pEXLzDfc0

「キュウ」

イリスは首を振ると、律の腕を離れて宙に浮いた。

律「イリス…熱いよ…」

律はそれを見上げ、熱に浮かされたようにブラウスのボタンを外す。

その胸元には青く光った勾玉があった。

イリスは触手を伸ばして律を包み込むように抱き寄せる。

その傍らに無数の動物のミイラが転がっていたことを律は気づくことなく意識を喪った。



133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:18:24.67 ID:pEXLzDfc0

― 同 19時22分 秋山家

澪の携帯電話が鳴った。

律母『あ、澪ちゃん?こんばんは。田井中律の母です。
   うちの律知らないかな?学校からまだ帰ってないのよ…』

澪「律がいないんですか!?」

律母『そうなのよ。聡のこともあるしちょっと心配で…』

澪「捜してきます!」

澪は話が終わらないうちに携帯をポケットに突っ込み、外に飛び出していた。


澪(そうか…あいつだ!)



136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:19:17.20 ID:pEXLzDfc0

澪が面々に連絡をしつつ神社に着いた時には、既に8時を回り真っ暗になっていた。

頭の中には風子から聞いた封印の手段がぐるぐる駆け巡っていた。

(風子『十握剣、とつかのつるぎ、ってあって。それが龍星張を封印する手段なんだって』)

(澪『それってどこにあるんだ?』)

(風子『同じ祠の中にケースがあってそこに奉ってあるよ』)

懐中電灯に照らし出されたのは半壊した祠。

あの不気味な生物の姿が脳裏をよぎる。

澪は祠の中に入るとひっくり返ったケースのガラスを叩き割り、十握剣を掴んでそのまま祠の裏へ進む。



138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:20:17.31 ID:pEXLzDfc0

澪「うわ!」

祠の裏にはくぼみがあり、そこには生々しい内臓と繭を掛け合わせたような異様な物体があった。

そしてその不気味な物体からは律の白い片足が覗いていた。


澪「!」

澪はためらわずその物体に十握剣を突き刺した。

裂けた物体からは不気味で変な匂いのする粘液が噴き出す。

そのまま澪は構わず頭を突っ込み、巻きついた紐のような内蔵を引きちぎりながら律を引っぱりだす。

「律!おい!」

「起きろ!律!」



140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:20:54.81 ID:pEXLzDfc0


「律!」

頬を叩いても揺さぶっても律は目を覚まさない。澪は背負ってとにかく外へ出ることにした。

紬「澪ちゃん!?」

目の前を眩しく照らされる。

追いついてきたらしく懐中電灯片手に紬が現れた。

澪「ムギ来るな!」

紬「えっ!?」

澪が背負っている人影に気づき、紬は絶句した。

律だ。ベトベトした粘液まみれになり、意識を失った律の姿があった。



141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:21:45.77 ID:pEXLzDfc0

― 同 21時55分 桜ヶ丘東町 柳星神社前


警察官A「誰か救急車に乗ってくれる?」

紬「私が!」

救急隊員「田井中さん!田井中律さん!?」

ストレッチャーに乗せられた律が救急車に運び込まれる。

警察官「君は何を見たんだ!?」

澪「律!律!りつぅ!」

救急隊員「閉めます!」

警察官「はい!」

警察官A「早く出して!」

サイレンを鳴らして救急車が走り去った。



143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:23:28.83 ID:pEXLzDfc0

―22時16分 平沢家


紬『それで、律ちゃんが…』

唯「うん…わかった。ありがとうムギちゃん…」

唯は携帯の終話ボタンを押した。


テレビ『えー、我が国においても、―県―市において、
    ギャオスの亜種と見られる生物の目撃情報がありました』

   『佐久間県知事は先程、災害派遣出動要請を自衛隊に要請、陸上自衛隊の―』

   『生物を目撃した場合はすぐに110番、もしくは市役所の対策本部に―』



144 名前:>今朝未明 ”削除”:2010/08/24(火) 23:26:38.67 ID:pEXLzDfc0

― 9月26日 1時47分 桜台南 高橋風子宅

郊外の新興住宅地、桜台南に風子の家はあった。

風子「…ん」

深夜、ガラスの割るような音と木を引き裂くような異様な物音に風子は目を覚ました。

起き上がるとメガネをかけ、廊下に出ると階下に向かって声をかけてみる。

風子「お母さん?」

しかし誰の返事も帰ってこず、今度は妙に肉々しい異様な音が聞こえてくる。

深夜ということもあり、電気を点けずに真っ暗な階段を降りていった。

風子「お母さん?お父さん?」真っ暗な廊下に降り立つと両親の部屋に向かおうとした。

風子「…あ」

しかしそれよりも先に風子の背中をイリスの触手が捉えていた。

風子はイリスに抵抗する間もなく引き寄せられる。

風子「ひっ!」

そのまま風子は体液を吸いつくされ、無残にも廊下に放り出された。

手始めに高橋家を全滅させたイリスは夜闇の中、次の住宅を襲撃した。



145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/24(火) 23:27:36.13 ID:pEXLzDfc0

― 同 8時40分 桜が丘女子高等学校 3年2組


さわ子「はい、えーと今日は高橋さん、中島さん、遠藤さんが…あれ?遅刻?
    おかしいなぁ…と、とにかく遅刻ね。3人遅刻。で、秋山さんは所用でお休みです。
    みんなー。もう3年生です。推薦取る人も含め、人として遅刻はしちゃダメよー」

さわ子先生の冴えない朝礼で一日が始まった。


和「あれ?3人も…それに風子が?」



148 名前:>>146 微妙:2010/08/24(火) 23:35:23.32 ID:pEXLzDfc0

― 同 9時50分 廊下

憂「どうでしたか!?」

紬「でね…調べたら…曽我部先輩の家系…昔は巫女なの…」

和「…まさかあれと交信できるとかないわよね」

紬「勾玉を介してるのはっきりしてるから…もしかしたら…」

憂「じゃああれ自体を操ってるとかどうです!?」

紬「わからない…あ、それでね、防衛省の分析によるとあれはギャオスの亜種みたいよ…」

和「私達がどうこうできる事じゃないだろうけど…」

紬「大切なのはこの気持ちだと思うの」

和「そうだよね」

憂「私、お姉ちゃんを守りたいです」


さわ子「はいみんなー教室戻ってー!
    警戒宣言が出たから今日は下校になるわよー!各クラスHRやるわよー」



176 名前:”復帰”しました:2010/08/25(水) 20:08:04.47 ID:fy8DZflQ0

― 同時刻 桜が丘東町

市道を走る自衛隊の車両。

その中の一台、高機動車の後部シートには澪の姿があった。

澪「…」

鳥類学者「…」

自衛隊員たちと向かい合わせになった澪はだんまりを決め込み、

車中にはエンジン音と風で暴れる幌の音のみが響いていた。




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律「…イリス」#前編
[ 2011/12/10 20:56 ] クロス | ガメラ | CM(0)

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