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唯「私たちの歌を、聴いてください!」#6 【日常系】


唯「私たちの歌を、聴いてください!」




133名前:◆59JcttAZqc:2010/11/03(水)14:00:33.31 ID:Dc03aj20

場違いな六曲目、投下しますー。










134名前:◆59JcttAZqc:2010/11/03(水)14:02:15.35 ID:Dc03aj20

「うわあ、人いっぱいだあ……」

ギターを手に持ったまま、舞台袖から観客の数を数える。

「そりゃあ新入生全員来るからね」
「大丈夫だよ、梓ちゃん!今までいっぱい練習してきたんだし!」
「うん……。純、憂、ありがと」

そうだよね、何も心配すること無いよね。

「梓、もうすぐ出番だよ」
「う、うん……」
「頑張って、梓ちゃん!」

私は頷くと、ステージ上に上がった。
もうすぐ、幕が開く。
私は大きく深呼吸した。

――――― ――



135名前:◆59JcttAZqc:2010/11/03(水)14:03:59.43 ID:Dc03aj20

澪先輩は覚えているだろうか。私に「これが私たちにとって最高の曲なんだ」
と言っていたこと。

いつの日のことだっただろう。
確か、まだ私が入部して間もない頃。
辞めようかと迷っていたとき、澪先輩はそう言って、電話越しに歌ってくれた。
今思えばあの恥ずかしがり屋の澪先輩が、私のためにそれを我慢して歌ってくれてた
んだなあ、と嬉しくなる。

「梓。私な、軽音部の皆でこの曲演奏するの、すごく楽しくて、すごく好きなんだ。
最初の学園祭のことは思い出したくもないけど……。だから、梓。私、梓とも
一緒に演奏したいんだ。五人になった軽音部のサウンド、きっと良くなると思うし、
唯や律だってやるときはやるし……。五人でやったらもっと、楽しいと思う」

澪先輩は、そう言って私に自分の想いをぶつけてくれた。

澪先輩。
私、澪先輩の言葉、信じてみてよかったです。
軽音部に入って、良かったです。



136名前:◆59JcttAZqc:2010/11/03(水)14:05:44.59 ID:Dc03aj20

そして舞い戻った軽音部で待っていたのはやっぱり、練習の日々ではなく、
お茶会の日々。
初めは「練習しましょうよ!」と口を酸っぱくしていた私も、いつのまにか
それに馴染んでしまっていた。

「お茶会がなきゃ放課後ティータイムじゃないもんね」

そう言って笑ったのは誰だっけ。
あぁ、そうだ。ムギ先輩。

「梓ちゃん、私たちが卒業してもお茶会は続けてね!」

大丈夫ですよ、ムギ先輩。
「お茶、お茶!」とうるさい先生のためにも、お茶会、続けてます。
憂がほとんどしてくれているんですが。

ムギ先輩も、見に来てくれてるかな。
そういえば、初めてのライブのとき、こうして幕が開く前、緊張が私を呑み込もうとして
いたとき、突然ムギ先輩は歌い始めた。
唯先輩はギターを忘れてその場にいなかったし、澪先輩も私と一緒でカチコチで、
律先輩だって落ち着きなかった。

「ムギ先輩?」
「皆、唯ちゃんきっとすぐ戻ってくるし大丈夫だよ!私たちは出来る限りのことを
やって唯ちゃんを待ってよう」

ムギ先輩はそう言って歌い続けた。
律先輩が、そして澪先輩が、一緒に口ずさむ。
気がつくと、私も一緒になって歌っていた。
二番に入ったとき、幕は開いた。
いつのまにか、私の中の緊張は溶けて消えていた。

ムギ先輩がさりげなく教えてくれた緊張の解消法。
その時の曲も、やっぱりあの曲だった。



137名前:◆59JcttAZqc:2010/11/03(水)14:07:29.07 ID:Dc03aj20

「この曲はな、私たちの本当の意味での最初の曲」

律先輩はそう誇らしげに言っていたっけ。
確か初め、曲だけ作って歌詞は考えてなかったんだよなあ、とも。
それはあんまり誇らしげには言えないことだと思うけど。

律先輩は、本当に大雑把で元気だけが取り柄のような人で。
だけど、無責任なように見えて、皆をちゃんと最後まで引っ張ってくれて、軽音部のことを
ちゃんと考えてくれていた。

「梓、私たちの曲、ひとまず全部梓に預ける。頑張ってくれよ、部長」

律先輩は私の頭を優しく叩くと、「大丈夫だよ、んな泣きそうな顔しなくても」
と笑った。

「私だって部長出来たんだし、梓にできないわけないだろ」

そして、律先輩は私に訊ねた。
「私たちの曲を好きか」と。

「当たり前です」
「うん、私も大好き。だから全部覚えとけよ、私たちの曲。それで梓が卒業するとき、
梓の作った新しい極も含めて全部、また新しい部員に預けて来い」
「はい……」
「だーかーら。そんな顔するんじゃねーの。私たちはずーっと仲間だろ?唯語で言うと、
放課後ティータイムはいつまでも放課後なんだから」

あの時、律先輩だって泣きそうになってたのに。
最後までずっと、笑ってた。

ねえ律先輩。
私、ちゃんとこの軽音部の部長、出来てますか?
放課後ティータイムの一人として、この場所に立っていいですか?



138名前:◆59JcttAZqc:2010/11/03(水)14:08:45.73 ID:Dc03aj20



「大丈夫だよ、あずにゃん!」

突然、懐かしい声が聞こえた。
声のしたほうを見ると、やっぱり、唯先輩がいた。
舞台袖で、私にもう一度、唯先輩は叫んでくれた。

「大丈夫だよ」と。
独りじゃないよ、と。





139名前:◆59JcttAZqc:2010/11/03(水)14:10:16.87 ID:Dc03aj20

「あずにゃあん」

唯先輩はいつでも渡しに抱きついてきて、練習して下さいと言っても中々してくれなかった。
でも、いざステージに立つと、唯先輩はすごく輝いていて、かっこよかった。
私は唯先輩が立っていたこのステージに、少しでも近付きたくて入部したんだっけ。

あの時の新歓ライブ。私は未だに忘れていない。
唯先輩の、澪先輩の歌声。
重なり合う音。

そして去年の新歓ライブで、私はあの時憧れた先輩たちと一緒に演奏した。

そして今。
私はこの場所に、一人で立っている。

「ねえあずにゃん。皆で演奏するの、楽しいねっ」

唯先輩の笑顔が浮かぶ。
卒業式の日、先輩たちは私の為に歌ってくれた。
私は卒業していく先輩たちのために、演奏した。

重なった音が、私の身体を震わせた。

「もう一回!」

私の始めての学園祭の時のように、曲が終わると唯先輩は叫んだ。
楽しくて、楽しくて、仕方がなくて。
いつのまにか涙は乾き、私は笑顔になっていた。



140名前:◆59JcttAZqc:2010/11/03(水)14:14:30.80 ID:Dc03aj20

演奏することは楽しいんだと唯先輩から教えられた。
演奏することを楽しむんだと唯先輩は言っていた。

それを聞いたとき、私は「あぁ、そっか」と思った。
だから私は、大して上手くもなかった先輩たちの演奏に、あんなに心が動かされたんだと。

でも、それを聞いた時の私は、一人になっちゃうと焦って、怖くて、
「一人じゃ演奏したって楽しくないです!」と先輩にすがり付いてしまった。
唯先輩は困ったような顔をして、ただ私の頭を撫でてくれていた。

結局、私は最後の最後まで先輩たちに迷惑を掛けてしまった。
先輩たちが部室に来なくなって暫く、私は部室にいることさえ出来なかった。
そんな私を元気付けたのは、ほかでもない、歌だった。

先輩たちが残していった、放課後ティータイムの記憶。

大丈夫、私たちはずっと一緒だよ。
そんな声が、先輩たちの演奏から聞こえた気がした。



141名前:◆59JcttAZqc:2010/11/03(水)14:15:49.90 ID:Dc03aj20

そうだ、私はもうずっと唯先輩たちに会えないわけじゃない。
もうずっと、一緒に演奏できないわけじゃない。
私は、独りじゃない。

だから歌うよ、放課後ティータイムとして。
新しい放課後ティータイムをスタートさせるために。
私たちの、始まりの歌を。

――――― ――



142名前:◆59JcttAZqc:2010/11/03(水)14:20:16.42 ID:Dc03aj20

幕が上がった。

先輩たちを心配させないように。
私は大丈夫だって伝えるために。
新たな部員のために、私は……!


「あずにゃん!」


唯先輩の声が。それに重なるように、「梓!」「梓ちゃん!」と優しい声が聞こえた。
振り向いて見てみると、唯先輩の隣に、他の先輩たちの姿もあった。

目が合う。
先輩たちが、頷いてくれる。
私も頷き返す。

すっと息を吸い込んだ。
今、このステージにいる私は一人だけど、独りじゃない。

「“私たち”の曲、聴いてください!『ふわふわ時間』!」

終わり。



143名前:◆59JcttAZqc:2010/11/03(水)14:21:51.19 ID:Dc03aj20

あぁ、なんとか30分以内に終わらせられた……。
ぐだぐだ長くて読みにくくてすいません。

次は七曲目です。




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唯「私たちの歌を、聴いてください!」#6
[ 2010/11/03 17:12 ] 日常系 | | CM(0)

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