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朋也「軽音部? うんたん?」#6 【クロス】


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朋也「軽音部? うんたん?」#index




377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:24:27.59 ID:1qYNd8dxO

4/17 土

唯「あ、おはよ~」

女の子「おはようございます」

朋也「ん…」

平沢と、その隣にもうひとり。
髪を後ろで束ねた女の子がいた。校章の色は、二年のものだ。

唯「岡崎くん、やったねっ。合格だよっ」

朋也「なにが」

事情が飲み込めない。

唯「前に言ったでしょ? もう少し早く来れば私の妹と一緒にいけるって」

そういえば、言っていたような…。

唯「これが、私の妹でぇす」

女の子「初めまして。平沢憂です」

平沢に大げさな手振りで賑やかされながら、そう名乗った。

朋也「はぁ、どうも…」

見た感じ、妹というだけあって、顔はよく似ていた。



378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:24:55.60 ID:cUBlBpOS0

雰囲気的には平沢に比べ少し堅い感じがある。
まぁ、それも、見知らぬ上級生に対する、作った像なのかもしれないが。

憂「岡崎さんのことは、お姉ちゃんからよく聞いてます」

朋也「はぁ…」

なにを言われているんだろう。

憂「聞いてた通りの人ですね」

朋也「あん? なにが」

憂「お姉ちゃん、よく岡崎さんのこと…」

唯「あ、憂っ、あそこっ、アイスが壁にめり込んでるっ」

憂「え? どこ?」

唯「あ~、残念、もう蒸発してなくなっちゃった」

憂「えぇ? ほんとにあったの?」

唯「絶対間違いないよっ、多分っ」

憂「どっちなの…」

朋也(にしても…うい、ねぇ…う~む…)

俺は、その響きに引っかかりを覚えていた。



379 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:26:11.53 ID:1qYNd8dxO

どこかでその名を聞いた気がする。

朋也(どこだったかな…)

記憶をたどる。
そう…あれは確か、軽音部の新勧ライブの日だったはずだ。
薄暗い講堂の中、会話が聞えてきた。
そこで、お姉ちゃん、と言っていたのが、その うい という子だった。
とすると…あの時、あの場に居たのはこの子だったのだ。

憂「あの…どうかしましたか?」

はっとする。
俺は考え込んでいる間、ずっとこの子を凝視してしまっていた。
さすがにそんなことをしていれば、不審に思われても仕方ない。
ただでさえ、俺は生来の不機嫌そうな顔を持っているのだ。
よく人に、怒っているのかと聞かれるくらいに。

朋也「いや、なんでも」

精一杯の作り笑顔でそう答えた。
不自然さを気取られて、さらに引かれていないだろうか…。
それだけが心配だった。

唯「私たち、ちょうどさっき来たばっかりなんだよ」

朋也「そうなのか」

唯「うん。でね、なんか、予感してたんだ」



380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:26:32.99 ID:cUBlBpOS0

朋也「予感?」

唯「うん。そろそろ岡崎くんが来るんじゃないかってね」

朋也「そら、すげぇ第六感だな。大当たりだ」

唯「違うよぉ。そんなのじゃないって」

唯「岡崎くん、日に日に来るの早くなってたでしょ。それでだよ」

今週はずっと朝から登校してたからな…。
そろそろ体が慣れてきたのかもしれない。
といっても、相変わらず眠りにつくのは深夜だったから、今も眠気はたっぷりあるが。
どうせまた、授業中は寝て過ごすことになるだろう。

唯「ずっとがんばり続けてたから、今日はこんなボーナスがつきました」

妹を景品のようにして、俺の前面にすっと差し出した。

朋也「じゃあ、さらに早くきたらどうなるんだ」

唯「え? えーっとね…」

しばし考える。

唯「どんどん憂の数が増えていきますっ」

憂「お、お姉ちゃん…」

朋也「そっか。なら、あと三人くらい増やそうかな」



382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:27:49.13 ID:1qYNd8dxO

憂「ええ!? お姉ちゃんの話に乗っちゃった!?」

憂「っていうか、私は一人しかいませんよぅ」

唯「そうなの?」

憂「常識的に考えてそうだよぉ、もう…」

唯「憂なら細胞分裂で増えるくらいできるかなぁと思って」

憂「それ、もはや人じゃないよね…」

妹のほうは姉と違って普通の感性をしているんだろうか。
突拍子も無いボケに、冷静な突っ込みを入れていた。

唯「じゃ、そろそろいこっか」

憂「うん」

ふたりが歩き出し、俺もそれに続いた。

―――――――――――――――――――――

唯「あーあ、とうとう全部散っちゃったね、桜」

憂「そうだね」

平沢姉妹と共に坂を上っていく。
これを、両手に花、というんだろうか…。
意識した途端、なんとも気恥ずかしくなる。



383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:28:14.98 ID:cUBlBpOS0

朋也(ホストじゃあるまいし…)

俺はワンテンポ遅れて、後ろを歩いた。

憂「岡崎さん、どうしたんですか?」

その変化に気づいたのか、後ろにいる俺に振り返った。

朋也「いや、別に」

唯「ああっ、わかった! 憂、気をつけないとっ」

憂「え? なに?」

唯「岡崎くん、坂で角度つけて私たちのスカートの中覗こうとしてるんだよっ」

憂「え? えぇ?」

その、覗く、という単語に反応してか、周りの目が一瞬俺に集まった。

朋也(あのバカ…)

朋也「んなわけねぇだろっ」

俺は一気にペースを上げ、ふたりを抜き去っていった。

唯「あ、冗談だよぉ。待ってぇ~」

憂「岡崎さん、早いですっ」



384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:30:17.61 ID:1qYNd8dxO

ぱたぱたと追ってくる元気な足音が後ろからふたつ聞こえていた。

―――――――――――――――――――――

唯「もう許してよぉ…ね?」

下駄箱までずっと無視してやってくる。
平沢はさっきから俺の周囲をうろちょろとして回っていた。

朋也「………」

憂「あれは、お姉ちゃんが悪いよ、やっぱり」

唯「うぅ、憂まで…」

朋也「よくわかってるな」

俺は妹の頭に手を乗せ、ぽんぽんと軽くなでた。

憂「あ…」

唯「………」

それを見ていた平沢は、片手で髪を後ろでまとめ…

唯「私が憂だよっ。憂はこっちだよっ」

微妙な裏声でそういった。

朋也(アホか…)



385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:33:39.35 ID:cUBlBpOS0

だが、同時に毒気も抜かれてしまった。

朋也「似てるけど、あんま似てない」

平沢の頭にぽん、と触れる。

唯「あ、やっと喋ってくれたっ」

憂「よかったね、お姉ちゃん」

唯「うん。えへへ」

ふたりして、喜びを分かち合う。
仲のいい姉妹だった。

梓「…おはようございます」

いつの間にか、軽音部二年の中野が近くに立っていた。
こいつも、今登校してきたんだろう。

唯「あっ、あずにゃん。おはよう」

憂「おはよう、梓ちゃん」

梓「うん、おはよう憂」

梓「………」

じろっと俺を睨む。
そして、平沢の手を引いて俺から離した。



386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:35:08.36 ID:1qYNd8dxO

唯「あ、あずにゃん?」

そして、俺の方に寄ってくる。

梓「…やっぱり、仲いいんですね。頭なでたりなんかして…」

ぼそっ、と不機嫌そうにささやいた。

梓「しかも、憂にまで…」

朋也「いや、ふざけてただけだって…」

梓「へぇ、そうですか。先輩はふざけて女の子の頭なでるんですか」

梓「やっぱり違いますね、女の子慣れしてる人は」

朋也「そういうわけじゃ…」

言い終わる前、平沢のところに戻っていった。

梓「先輩、今日も練習がんばりましょうねっ」

言って、腕に絡みつく。

唯「うんっ…って、あずにゃんから私にきてくれたっ!?」

梓「なに言ってるんですか、いつものことじゃないですか」

梓「私たち、すごく仲がいいですからね。もう知り合って一年も経ちますし」



387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:35:26.19 ID:cUBlBpOS0

梓「その間にかなり絆は深まってますよ。部外者がそうやすやすと立ち入れないほどに」

ちらり、と俺を見る。

唯「う…うれしいよ、あずにゃんっ」

がばっと勢いよく正面から抱きしめた。

梓「もう、唯先輩は…」

中野もそれに応え、腕を回していた。
しばしそのままの状態が続く。

梓「ほら、もう離してください」

回していた手で、とんとん、と背中を軽く叩く。

梓「続きは部活のときにでも」

唯「続いていいんだねっ!?」

梓「ええ、どうぞ」

唯「やったぁ!」

ぱっ、と離れる。

梓「憂、いこ」

憂「うん」



388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:36:40.46 ID:1qYNd8dxO

二年の下駄箱がある方に連れてだって歩いていく。

朋也(俺、あいつに嫌われてんのかな…)

―――――――――――――――――――――

教室に到着し、ふたりとも自分の席についた。
まだ人もそんなに多くない。
かなり余裕のある時間。俺にとっては未知の世界。
そんなに耳障りな声もなく、眠るには都合がよかった。

唯「岡崎くん」

今まさに机に突っ伏そうとしたその時、声をかけられた。

朋也「なんだ」

唯「岡崎くんたちがやってるお仕事のことなんだけどね…」

朋也「ああ」

唯「あれって、遅刻とか、サボったりしなかったら、やらなくていいんだよね?」

多分こいつはまた、さわ子さんにでも話を聞いたのだろう。
あの人は軽音部の顧問を務めているらしいし…
会話の中で、その事について触れる機会は十分すぎるほどある。

朋也「みたいだな」

唯「じゃあ、最近ずっと遅刻してない岡崎くんは、放課後自由なんだよね?」



389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:37:04.21 ID:cUBlBpOS0

朋也「ああ、まぁな」

唯「だったらさ…何度もしつこいようだけど…遊びにおいでよ。軽音部に」

朋也「前にも言っただろ。遠慮しとくって」

唯「でも、お昼だって私たちと一緒に食べて、盛り上がってたでしょ?」

唯「あんな感じでいいんだよ?」

朋也「それでもだよ」

唯「…そっか」

しゅんとする。

唯「やっぱりさ…」

でも、すぐに口を開いた。

唯「部活動が嫌いって言ってたこと…関係あるのかな」

朋也「………」

あの時春原が放った不用意な発言が、今になって負債となり、重くのしかかってきた。
きっかけさえ作らなければ、話題にのぼることさえなかったはずなのに。
そもそも、自ら進んで人にするような話でもない。

だが、もし、仮に…
こいつとこれからも親しくなっていくようであれば…
そうなれば、いつかは訊かれることになっていたかもしれないが。



390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:38:47.29 ID:1qYNd8dxO

こいつは、そういうことを気にしてしまうだろうから。
………。
俺は頬杖をついて、一度視線を窓の外に移した。
そして、気を落ち着けると、また平沢に戻す。

朋也「…中学のころは、バスケ部だったんだ」

朋也「レギュラーだったんだけど、三年最後の試合の直前に親父と大喧嘩してさ…」

朋也「怪我して、試合には出れなくなってさ…」

朋也「それっきりやめちまった」

………。
こんな身の上話、こいつにして、俺はどうしたかったのだろう。
どれだけ、自分が不幸な奴か平沢に教えたかったのだろうか。
また、慰めて欲しかったのだろうか。

唯「そうだったんだ…」

今だけは自分の行為が自虐的に思えた。
その古傷には触れて欲しくなかったはずなのに。

唯「………」

平沢は、じっと顔を伏せた。

唯「私…もう一度、岡崎くんにバスケ始めて欲しい」

そのままの状態で言った。



391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:39:08.84 ID:cUBlBpOS0

そして、今度は俺に向き直る。

唯「それで、みんなから不良だなんて呼ばれなくなって…」

唯「本当の岡崎くんでいられるようになってほしい」

本当の俺とはなんだろう。
こいつには、俺が自分を偽っているように見えるのだろうか。
そんなこと、意識したことさえないのに。

唯「みんなにも、岡崎くんが優しい人だって、わかってほしいよ」

ああ、そういえば…
こいつの中では、俺はいい人ということになっていたんだったか…。
だが、それも無理な相談だった。

朋也「…無理だよ」

唯「え? あ、三年生だからってこと…」

朋也「違う。そうじゃない」

もっと、根本的な、どうしようもないところで。

朋也「俺さ…右腕が肩より上に上がらないんだよ」

朋也「怪我して以来、ずっと…」

…三年前。
俺はバスケ部のキャプテンとして順風満帆な学生生活を送っていた。



392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:40:21.55 ID:1qYNd8dxO

スポーツ推薦により、希望通りの高校に進み、そしてバスケを続けるはずだった。

しかし、その道は唐突に閉ざされた。
親父との喧嘩が原因だった。
発端は、身だしなみがどうとか、くつの並べ方がどうとか…そんなくだらないこと。
取っ組み合うような喧嘩になって…
壁に右肩をぶつけて…
どれだけ痛みが激しくなっても、意地を張って、そのままにして部屋に閉じこもって…

そして医者に行った時はもう手遅れで…
肩より上に上がらない腕になってしまったのだ。

唯「あ…ご、ごめん…軽はずみで言っちゃって…」

朋也「いや…」

………。
静寂が訪れる…痛いくらいに。

朋也「…春原もさ、俺と同じだよ」

先にその沈黙を破ったのは俺だった。

朋也「一年の頃は、あいつも部活でサッカーやってたんだ」

朋也「でも、他校の生徒と喧嘩やらかして、停学食らってさ…」

朋也「レギュラーから落ちて、居場所も無くなって、退部しちまったんだ」

唯「そう…だったんだ…」

唯「でも…春原くんは、もう一度、サッカーできるんじゃないかな」



393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:40:45.33 ID:cUBlBpOS0

朋也「再入部するってことか」

唯「うん」

朋也「それは…無理だろうな。あいつ、連中からめちゃくちゃ嫌われてるんだよ」

朋也「あいつの喧嘩のせいで、今の三年は新人戦に出られなかったらしいからな」

朋也「第一、あいつ自身、絶対納得しないだろうし」

唯「でも…やっぱり、夢中になれることができないって、つらいよ」

唯「なんとかできないかな…」

朋也「なんでおまえがそんなに必死なんだよ…」

唯「だって、私も今、もうギター弾いちゃだめだって…
  バンドしちゃだめだって言われたら、すごく悲しいもん」

唯「きっと、それと同じことだと思うんだ」

唯「私は、岡崎くんや春原くんみたいに、運動部でレギュラーになれるほどすごくないけど…」

唯「でも、高校に入る前は、ただぼーっとしてただけの私が、軽音部に入って、みんなに出会って…」

唯「それからは、すごく楽しかったんだ。ライブしたり、お茶したり、合宿にいったり…」

唯「それが途中で終わっちゃうなんて絶対いやだもん」

唯「もっとみんなで演奏したいし、お話もしたいし、お菓子も食べたいし…ずっと一緒に居たいよ」



395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:44:33.15 ID:1qYNd8dxO

唯「だから、なんとかできるなら、してあげたいんだ」

唯「それじゃ、だめかな」

こいつは、自分に置き換えて考えていたらしい。
よほど軽音部が気に入っているんだろう。
その熱意が、言葉や口ぶりの節々から窺えた。
つたなくても、伝えようとしてくれるその意思も。

朋也(いや…それだけじゃないよな、きっと)

いつだってそうだった。
俺が親父を拒否して彷徨い歩いていた時も、ずっと後ろからついてきた。
朝だって、ずっと待っていた。自分の遅刻も顧みずに。

朋也「…おまえ、すげぇおせっかいな奴な」

唯「う…そ、そうかな…迷惑かな、やっぱり…」

朋也「いや…いいよ、それで」

唯「え?」

肯定されるとは思っていなかったんだろう。
それが、表情にわかりやすく現れていた。

朋也「ずっとそういう奴でいてくれ」

そんな真っ直ぐさに救われる奴もいるのだから。



396 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:45:27.63 ID:cUBlBpOS0

…少なくとも、ここにひとり。

唯「あ…」

一瞬、固まったあと…

唯「うん、がんばるよっ」

そう、はっきりと答えた。

朋也「俺、寝るからさ。さわ子さん来たら起こしてくれ」

唯「え、ずるい! 私も寝る!」

朋也「目覚ましが贅沢言うなよ」

唯「もう、目覚まし扱いしないでよっ」

朋也「じゃ、どうやって起きればいいんだよ」

唯「自力で起きるしかないよね」

朋也「無理だな」

唯「それじゃ、私に腕枕してくれたら、起こしてあげるよ」

朋也「おやすみ」

唯「あ、ひどいっ!」



397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:47:15.02 ID:1qYNd8dxO

視界が暗くなる。目を閉じたからだ。
それでも、窓の方に顔を向けると、
まぶたの上からでも光が眩しく感じられた。

頭を動かし、心地いい位置を模索する。
腕の隙間から半分顔を出すと、しっくりきた。
そのまま、じっとする。
次第に意識が薄れていく。
室内の静けさ、春の陽気も手伝って、すぐに眠りに落ちていった。

―――――――――――――――――――――

………。

―――――――――――――――――――――

SHRが終わり、放課となる。

朋也(ふぁ…)

昼になり、ようやく体も目覚めてくる。
一度伸びをして、血の巡りを促す。
頭にもわっとした圧迫がかかった後、脱力し、心地よく弛緩した。

唯「岡崎くん、聞いて聞いてっ」

朋也「…ん。なんだ」

唯「あのね、あした、みんなでサッカーしない?」

朋也「はぁ?」



398 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:48:19.33 ID:cUBlBpOS0

唯「ほら、あしたって日曜日でしょ。だから、学校に集まって、やろうよ」

朋也「それは、やっぱ…」

春原のことで、なにか意図するところがあるんだろうか。

唯「…うん。なんの助けにもならないかもしれないけど…」

唯「春原くんが、少しでも夢中になれた時のこと思い出してくれたらいいなって」

やっぱり、そうだった。

朋也「俺も行かなきゃだめなのか」

唯「もちろんだよ。岡崎くんは、春原くんとすっごく仲いいからね」

朋也「いや、別によくはないけど」

唯「照れちゃってぇ~。いつも楽しそうにしてるじゃん」

朋也「それは偽装だ。フェイクだ。欺くための演技なんだ」

朋也「実際は、おたがい寝首を掻かれまいと、常に牽制し合ってるんだ」

唯「もう、変な設定捏造しないでいいよ。岡崎くんは来てくれるよね」

朋也「暇だったらな」

唯「うん、待ってるね」



399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:50:26.99 ID:1qYNd8dxO

まぁ、どうせ、あいつが断れば、その計画も流れてしまうのだ。
伸るか反るかで言えば、反る方の可能性が高いだろう。

春原「おーい、岡崎。飯いこうぜ」

考えていると、ちょうど春原が前方からチンタラやってきた。

唯「あ、春原くん。あのさ、あしたみんなでサッカーしない?」

春原「あん? サッカー?」

唯「うん。学校に集まってさ、やろうよ」

春原「やだよ。なんで休みの日に、わざわざんなことしなくちゃなんないだよ」

唯「練習じゃないんだよ? 遊びだよ?」

春原「わかってるよ、そのくらい。
   試合に出るわけでもないのに練習なんかするわけないしね」

唯「岡崎くんも来るんだよ?」

春原「え? マジ?」

驚きの表情を俺に向ける。

朋也「…まぁ、暇だったら行くってことだよ」

春原「ふぅん、珍しいこともあるもんだ」

唯「どう? 春原くんも。いつも一緒に遊んでるでしょ?」



400 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:50:56.08 ID:cUBlBpOS0

春原「そうだけど、こいつが行くとこに、必ず僕もついていくってわけじゃないからね」

唯「ムギちゃんなら、きっとお菓子も紅茶も用意してくれると思うよ?」

春原「え、ムギちゃんもくんの?」

唯「まだ誘ってないけど、言えばきてくれると思うな」

春原「ふぅん、そっか…」

顔つきが変わる。

春原「ま、そういうことなら…行くよ」

なにかしらの下心があるんだろう。
じゃなきゃ、こいつがわざわざ休日を使ってまで動くはずがない。

唯「ほんとに? よかったぁ」

唯「それじゃあ、時間は何時ごろがいいかな」

春原「昼からなら、起きられるけど」

唯「う~ん、なら、1時くらいからでどう?」

春原「いいけど」

唯「決まりだね。集合場所は校門前でいいよね」

春原「ああ、いいよ」



401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:52:36.62 ID:1qYNd8dxO

唯「岡崎くんも、いい?」

朋也「ああ」

唯「じゃ、私みんなにも頼んでくるよ」

言って、席を立つ。

唯「あ、そうだ。今日も一緒にお昼どう?」

春原「どうする? おまえ、学食でいいの?」

朋也「俺は、別に」

春原「あそ。じゃ、僕も、学食でいいや」

朋也「つーことだ」

唯「じゃ、またあとで、学食で会おうねっ」

朋也「ああ」

平沢は仲間を呼び集めるため、俺たちは席を取るために動き出した。

―――――――――――――――――――――

朋也「おまえ、明日ほんとにくんのか」

春原「ああ、いくね。それで、ムギちゃんに僕のスーパープレイをみせるんだ」



402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:53:23.39 ID:cUBlBpOS0

春原「それでもう、あの子は僕にメロメロさ」

朋也「やっぱ、そういう魂胆か」

春原「まぁね。それよか、おまえこそ、よく行く気になったね」

春原「そういうの、好きな方じゃないだろ。なんで?」

朋也「別に…なんとなくだよ」

春原「ふぅん。僕はてっきり、平沢と居たいからだと思ったんだけど」

朋也「はぁ? なんでそうなるんだよ」

春原「だって、おまえら一緒に登校したりしてるんだろ」

どこで知ったんだろう。
こいつには言っていなかったはずなのに。

春原「それに、いつも仲よさそうにしてるじゃん」

春原「でも、付き合ってるってわけじゃなさそうだし…」

春原「両思いなのに、どっちも好きだって伝えてない感じにみえるね」

昨日同じようなことを言われたばかりだ。
傍目には、そういうふうに見えてしまうんだろうか…。

春原「ま、おまえ、そういうとこ、奥手そうだからなぁ」



403 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:55:47.13 ID:1qYNd8dxO

朋也「勝手にひとりで盛り上がるな。まったくそんなんじゃねぇんだよ」

春原「そう怒るなって。明日は頑張ってかっこいいとこみせとけよ」

春原「おまえ、運動神経いいんだしさ」

春原「まぁ、でも、本職である僕の前では、引き立て役みたいになっちゃうだろうけどね」

朋也「そうだな。おまえの音色にはかなわないな」

春原「音色? うん、まぁ、僕のプレイはそういう比喩表現がよく似合うけどさ…」

朋也「うるさすぎて、指示が聞えないもんな」

春原「って、それ、絶対ブブゼラのこと言ってるだろっ!」

朋也「え? おまえ、本職はブブゼラ職人だろ?」

春原「フォワードだよっ!」

朋也「おいおい、素人がピッチに立つなよ」

春原「だから、ブブゼラ職人じゃねぇってのっ!」

―――――――――――――――――――――

律「いやぁ、ほんと、めでたいな」

澪「改めておめでとう、和」



404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:56:37.42 ID:cUBlBpOS0

紬「おめでとう」

唯「おめでと~」

和「ありがとう」

今朝のSHRで、先日の選挙結果が発表されていたのだが…
真鍋は見事、というか、順当に当選していた。
副会長はあの坂上だった。
他の役員は、興味がないのですぐに忘れてしまったが。

和「これから忙しくなるわ」

澪「大変な時は言ってくれ。力になるから」

和「ありがとね、澪」

澪「うん」

律「おい、春原。あんたのおごりで、特上スシの食券買って来いよ」

春原「ワリカンだろっ!」

そもそもそんなメニューは無い。

紬「そんなのもあるの?」

朋也「いや、あるわけない」

紬「なぁんだ。あるなら、私が出してもよかったのに」



405 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:58:40.77 ID:1qYNd8dxO

軽く言ってのけるところがすごい。

律「セコいな、春原」

春原「るせぇよ、かっぱ巻きみたいな顔しやがって」

律「なっ、あんたなんか頭に玉子のせてんじゃねぇかよっ」

春原「あんだと!?」

律「なんだよ!?」

唯「はい、そこまで!」
紬「お昼時にね、判定? だめよ、KOじゃなきゃっ」

割って入ろうとした平沢を、横から琴吹が腕を取って制止させた。

唯「む、ムギちゃん?」

紬「嘘、ごめんなさい。冗談よ」

ぱっと手を離す。

紬「五味を止められるのはレフリーだけぇ~♪」

朋也(PRIDE…)

琴吹は謎のマイクパフォーマンスを挟みはしたが、仲裁する側に回っていた。
平沢も困惑状態から復帰すると、一緒に止めに入っていた。



406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 17:59:20.56 ID:cUBlBpOS0

―――――――――――――――――――――

妙な間はあったが、平沢と琴吹に制され、争いは一応の収まりを見せた。
両者ともそっぽを向いている。
まるで子供の喧嘩のようだった。

澪「毎回毎回…よく飽きないな…」

律「ふん…」

和「明日を機に仲良くなればいいんじゃない」

唯「そうだね。りっちゃんと春原くんは同じチームがいいかも」

律「えぇ、やだよっ」

春原「つーか、こいつもくんの?」

唯「うん。みんな来てくれるって」

律「わりぃか、こら」

春原「ふん、まぁ、明日は僕のすごさをその身をもって思い知るがいいさ」

律「あん? おまえなんか、りっちゃんシュートの餌食にしてくれるわっ」

春原「なんだそりゃ。陽平オフサイドトラップにかかって、泣きわめけ」

律「なにぃ? りっちゃんサポーターたちが暴動起こしてもいいのか?」



407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:01:13.21 ID:1qYNd8dxO

春原「んなもんは陽平ボールボーイで鎮圧できるね」

律「むりむり。りっちゃんラインズマンがすでに動きを抑えてるから」

春原「卑怯だぞ! 陽平訴訟を起こしてやるからな!」

律「あほか。こっちにはりっちゃん弁護士がついてるんだぞ」

律「あきらめて、『敗訴』って字を和紙に達筆な字で書いとけ」

律「それで、その紙を掲げて泣きながらこっちに走ってこいよ、はっははぁ!」

澪「もはや、サッカー全然関係ないな…」

―――――――――――――――――――――

食事を済ませ、連中と別れる。
春原は今日もまた奉仕活動に駆り出されていってしまった。
月曜日の時同様、俺はひとりになってしまい、暇な時間が訪れる。
差し当たっては、学校を出ることにした。

―――――――――――――――――――――

家に帰りつき、着替えを済ませて寮に向かう。

―――――――――――――――――――――

道すがら、スーパーに菓子類を買いに寄った。
資金源は、芳野祐介を手伝った時のバイト代だ。
もう先週のことだったが、無駄遣いもしなかったので、まだ全然余裕があるのだ。



408 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:01:54.47 ID:cUBlBpOS0

―――――――――――――――――――――

買い物を終え、店から出る。
レジ袋の中には、スナック菓子、アメ、ソフトキャンディーなどが入っている。
その中でも一番の目玉は、「コアラのデスマーチ」という、新発売のチョコレートだ。
パッケージには、重労働に従事させられるコアラのキャラクター達が描かれている。
当たりつきで、ひとつだけ過労死したコアラが居るらしい。
製造会社の取締役も、よくこんなものにゴーサインを出したものだ。
なにかの悪い冗談にしか見えない。

声「あれ…岡崎さんじゃないですか」

突っ立っていると、横から声をかけられた。

憂「こんにちは」

朋也「ああ…妹の…」

見れば、向こうも俺と同じで私服だった。
プライベート同士だ。

憂「憂です。もう忘れられちゃってましたか?」

朋也「いや…覚えてるよ」

朋也「憂…ちゃん」

呼び捨てするのもどうかと思い、ちゃんをつけてみたが…
どうも、呼びづらい。
かといって、平沢だと、姉と同じで区別がつかず、座りが悪いような…。



409 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:03:24.88 ID:1qYNd8dxO

憂「岡崎さんもお買い物ですよね」

朋也「ああ、そうだよ」

憂「なにを買ったんです?」

俺が手に持つレジ袋に興味を示してきた。

朋也「菓子だよ」

憂「あ、いいですね、お菓子。私も、余裕があれば買いたかったなぁ」

その、余裕とは、金の問題じゃなく、持てる量のことを言っているんだろう。
この子は、買い物バッグを両手で持っていたのだ。
そしてそのバッグの口からは、野菜やらビンやらが顔を覗かせている。
もう容量に空きがない、といった感じで膨らんでいた。

憂「これですか? 夕飯の材料と、お醤油ですよ」

憂「お醤油がもう切れそうだったから、買いに来てたんです」

憂「そのついでに、夕飯の材料も買っておこうかと思いまして」

朋也「ふぅん、そっか…」

しかし、重そうだ。

朋也「自転車で来てたりするのか」

憂「いえ、カゴに入りきらないだろうと思って、歩きですよ」



410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:04:04.54 ID:cUBlBpOS0

ということは、これを持ったまま、家まで歩いていくことになるのか。
それは、少しキツそうだ。

朋也「それ、俺が持とうか?」

憂「え?」

朋也「いや、家までな」

憂「いいんですか? 岡崎さん、これからなにか予定ありませんか?」

朋也「ないよ。暇だから、手伝ってもいいかなって思ったんだよ」

憂「でも、悪いですよ、さすがに…」

朋也「いいから、貸してみ」

憂「あ…」

少し強引に奪い取った。
ずしり、と重みが伝わってくる。

朋也「憂ちゃんは、こっちを持ってくれ」

俺の菓子が入ったレジ袋を渡す。

憂「あ、はい…」

できてしまった流れに戸惑いながらも、受け取った。



411 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:05:23.83 ID:1qYNd8dxO

朋也「じゃ、いこうか」

憂「は、はい」

―――――――――――――――――――――

ふたり、肩を並べて歩く。
俺はほとんど自宅へ引き返しているようなものだった。
平沢の家とはだいたい同じ方角にあるからだ。

憂「重くないですか?」

朋也「ああ、このくらい、平気だよ」

憂「すごいですね。私、休みながら行こうと思ってたのに」

朋也「まぁ、女の子は、それくらいが可愛くて、丁度いいんじゃないか」

憂「そうですか?」

朋也「ああ」

憂「私は、軽々と片手で持ってる岡崎さんは、男らしくていいと思いますよ」

朋也「そりゃ、どうも」

憂「どういたしまして」

にこっと笑顔になる。やっぱり、その笑顔も平沢によく似ていた。
さすが姉妹だ。髪を下ろせば、見分けがつかなくなるんじゃないだろうか。



412 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:05:49.10 ID:cUBlBpOS0

朋也「そういえば、平沢の弁当とか、憂ちゃんが作ってるんだってな」

憂「そうですね、私です」

朋也「これだって、おつかいとかじゃなくて、自分で作るために買ったんだろ」

バッグを手前に掲げてみせる。

憂「はい、そうです」

朋也「えらいよな」

憂「そんなことないですよ」

朋也「いや、親も、めちゃくちゃ助かってると思うぞ。なかなかいないよ、そんな奴」

憂「いえ、うちのお父さんとお母さんは、昔から家を空けてることが多いんですよ」

憂「今だって、どっちもお仕事で海外に行ってて、いないんです」

憂「だから、家事は自然とできるようになったんです」

憂「っていうか、しなきゃいけなかったから、って感じなんですけどね」

朋也「ふぅん…」

そうだったのか…。
なら、平沢も家事が器用にこなせたりするんだろうか。
でも、前に、弁当を妹に作ってやれ、と言われ、無理だと即答していたことがあるし…。
あいつは、掃除や洗濯を主にやっているのかも。



413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:07:01.70 ID:1qYNd8dxO

朋也「ま、それでもえらいことには変わりないよ」

朋也「だからさ、ご褒美っていうと、ちょっとアレかもだけど…」

朋也「俺の菓子、好きなのひとつ食っていいぞ」

憂「いいんですか?」

朋也「ああ」

憂「ありがとうございますっ」

憂「どれにしようかな…」

袋の中を覗く。
そして、おもむろに一つ取り出した。

憂「…コアラのデスマーチ?」

よりにもよって、それか。

朋也「なんか、新発売らしいぞ」

憂「絵が怖いです。名前もだけど…」

朋也「コアラがムチでしばかれてるだろ。そこは、コアラがコアラに管理される施設なんだ」

朋也「上級コアラと下級コアラがいて、その支配構造がうまく機能しているらしい」

憂「やってることが全然かわいくないです…」



415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:07:21.73 ID:cUBlBpOS0

朋也「ま、食ってみろよ。味とストーリ-は関係ないだろうからさ」

憂「はい…」

開封し、中から一個取り出した。

憂「わぁっ、岡崎さん、この子、し、死んでますっ」

朋也「それ、当たりだ」

なんて強運な子なんだろう。
一発目から引き当てていた。

憂「当たりって…」

朋也「その死体食って、供養してやってくれ」

憂「うぅ…死体なんて言わないでくださぁい…」

目を潤ませながら半分かじる。

憂「あ…イチゴ味だ…おいしい」

朋也「臓器と血みたいなのが出てきてないか、その死体」

憂「イチゴですよぉ…生々しく言わないでくださいよぉ…」

―――――――――――――――――――――

憂「ありがとうございました」



416 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:08:38.19 ID:1qYNd8dxO

朋也「ああ」

平沢家の手前まで無事荷物を運び終え、そこで手渡した。
ここで俺の役目も終わりだった。

憂「それから…すみませんでした」

朋也「いや、いいって」

憂「でも…結局、私が全部食べちゃって…」

ここまで来る間、憂ちゃんは俺の菓子を完食してしまっていた。
それも、俺が譲ったからなのだが。
喜んでくれるのがうれしくて、次々にあげていってしまったのだ。

憂「あの、よければ、ホットケーキ作りますけど…食べていきませんか?」

朋也(ホットケーキか…)

普段甘いものが苦手な俺だが、時に、体が糖分を欲することがある。
それが、まさに今日だった。
だからこそ、スーパーで駄菓子なんかを買っていたのだ。

どうせなら、そんな既製品を買い直すよりも、手作りの方が味があっていいかもしれない。
加え、両親は現時点で不在だとの言質が取れていたため、俺の気も楽だった。
家に上がらせてもうらうにしても、とくに抵抗はない。
ただ、女の子とふたりきり、という状況が少し気になりはしたが。

朋也「いいのか?」

憂「はいっ、もちろん」



417 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:08:55.99 ID:cUBlBpOS0

朋也「じゃあ…頼むよ」

憂「任せてくださいっ、がんばって作りますからっ」

意気込みを感じられる姿勢でそう言ってくれた。

憂「さ、どうぞ、あがってください」

憂ちゃんに通され、平沢家の敷居をまたぐ。

―――――――――――――――――――――

憂「じゃ、出来上がるまで、ここでくつろいでてくださいね」

俺をリビングに残し、荷物を持って台所に向かっていった。
とりあえずソファーに腰掛ける。
…尻に違和感。
なにか下敷きにしたらしい。
体を浮かせ、取り出してみると、クッションだった。
ぼむ、と隣に置く。

朋也(ん…?)

再びクッションを手に取る。

朋也(やっぱり…)

平沢の匂いがした。
いつもこれを使っているんだろうか。



418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:10:10.91 ID:1qYNd8dxO

朋也(………)

顔を埋めてみる。

朋也(ああ…いい…)

朋也(あいつ、いい匂いするもんな…)

朋也(………)

朋也(って、変態か、俺はっ!)

我に返り、すぐさま顔を離した。
背後が気になり、振り返る。
憂ちゃんは、俺に背を向け、なにやら冷蔵庫から取り出していた。
見られてはいなかったようで、ほっとする。

朋也(しかし、妙な安心感がある空間だよな、ここ…)

ごみごみとした春原の部屋とは大違いだ。
まぁ、そのせいで、無用心にもこんな暴挙に出てしまったのだが。

朋也(にしても…なにしてようかな…)

携帯があれば、こういう時、楽しく暇も潰せるんだろうな…。
生憎と俺はそんなものは持ち合わせていなかったが。
今時の高校生にしては、かなり珍しい部類だろう。
うちの経済状況では持つこと自体厳しいから、それも仕方ないのだが。
持ってさえいれば、春原にオレオレ詐欺でも仕掛けて遊べるのに…。
例えば…



419 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:10:31.93 ID:cUBlBpOS0

―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

プルルル

がちゃ

春原「はい。誰」

声『俺だよ、オ・レ』

春原「あん? 誰? 岡崎?」

声『だから、オレだって言ってんだろっ! 何度も言わせんなっ! 殺すぞっ!』

声『あ、後さ…う○こ』

ブツっ

ツー ツー ツー

春原「なにがしたかったんだよっ!?」

―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

朋也(なんてな…)

いや…それはただのいたずら電話か…。
難しいものだ、詐欺は。



420 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:11:51.18 ID:1qYNd8dxO

朋也(妄想はもういいや…)

朋也「憂ちゃーん、テレビつけていいかー」

リビングの向こう、台所にいる憂ちゃんに聞えるよう、少し声を張った。

憂「あ、どうぞ~」

許可が下りた。
テーブルの上にあったリモコンを拾い、チャンネルを回す。
土曜の午後なんて、ロクな番組がやっていない。
救いがあるとすれば、あの長寿昼バラエティ番組だけだったが、すでに終わっている時間だ。
しかたなく、釣り番組にする。
俺は、呆けたようにぼーっと眺めていた。

―――――――――――――――――――――

憂「できましたよ~」

おいしそうな香りを伴って、憂ちゃんがホットケーキを持ってきてくれた。

憂「はい、どうぞ」

皿に盛ってくれる。

憂「シロップはお好みでどうぞ」

ホットケーキの横に、使い捨ての簡易容器が添えられてあった。

朋也「サンキュ」



421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:12:34.36 ID:cUBlBpOS0

フォークで生地を刺し、口に運ぶ。
もぐもぐ…

朋也「うめぇ…」

憂「ほんとですか? お口に合ってよかったです」

嬉しそうな顔。
俺はさらに食を進めた。
が、憂ちゃんは一向に手をつけない。

朋也「食べないのか」

憂「私はお菓子をたくさん食べましたから…」

憂「これ以上甘いもの食べると太っちゃいますよ」

やっぱり、女の子だとそういうところを気にするものなのか。
男の俺にはよくわからなかった。

憂「だから、岡崎さんが食べてくれるとうれしいです」

朋也「じゃあ、遠慮なく」

再び手をつけ始める。
本当においしくて、いくらでも食べられそうだった。

―――――――――――――――――――――

朋也「…ふぅ。ごちそうさま」



422 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:13:47.76 ID:1qYNd8dxO

憂「おそまつさまでした」

すべてて食べきり、皿の上にはなにも残っていなかった。
片づけを始める憂ちゃん。

朋也「俺も食器洗うの手伝おうか」

帰る前にそれくらいしていってもいいだろう。

憂「いえ、いいんです。岡崎さんはお客さんですから」

憂「それより、岡崎さん…」

ハンカチを取り出す。

憂「口の周り、ちょっとついてますよ。じっとしててくださいね」

朋也「ん…」

ふき取られていく。

憂「はい、綺麗になりました」

朋也「言ってくれれば、自分の手で拭ったのに」

憂「あ、ごめんなさい…お姉ちゃんにもいつもしてあげてるんで、つい」

朋也「いつも?」

憂「はい」



423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:14:09.33 ID:cUBlBpOS0

あいつは…そんなことまでしてもらっているのか。
もしかして、妹に全局面で世話してもらってるんじゃないかと、そんな気さえしてきた。

朋也「…仲いいんだな」

憂「とってもいいですっ」

強く言う。主張したかったんだろう。
憂ちゃんは満足した顔で食器をひとつにまとめると、台所へ持っていった。

朋也(にしても…よくできた子だよな)

台所に立ち、洗い物をする憂ちゃんを見て思う。

朋也(ああ…憂ちゃんが俺の妹だったらな…)

―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

声「お兄ちゃん、起きて。朝だよ」

朋也「…うぅん…あと半年…夏頃には起きる…」

声「セミの冬眠じゃないんだから。起きなさい」

勢いよく布団が剥がされる。

憂「おはよう、お兄ちゃん」

朋也「………」



424 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:15:19.07 ID:1qYNd8dxO

憂「もう、うつ伏せになってベッドにしがみつかないでよ…」

朋也「眠いんだ」

憂「顔洗ってきたら?」

朋也「めんどくさい」

憂「じゃあ、どうやったら目が覚めてくれるの…」

朋也「いつものやつ、してくれ」

憂「え? いつものって?」

朋也「目覚めのちゅー」

憂「だ、だめだよ、そんなの…私たち兄妹なんだよ…?」

憂「それに、いつもって…そんなこと一度も…」

朋也「いいじゃないか。おまえが可愛いから、したいんだよ」

朋也「だめか…?」

憂「う…じゃ、じゃあ、絶対それで起きてね…?」

憂「ん…」

ほっぺたにくる。
俺は顔を動かして、唇に照準を合わせた。



425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:15:37.79 ID:cUBlBpOS0

やわらかい感触が重なり合う。

憂「んんっ!?」

ばっと身を離す。

憂「な、なんで口に…」

朋也「とうっ」

ベッドから跳ね起きる俺。

朋也「憂っ! 憂っ!」

憂「あ、いやぁ、やめて、お兄ちゃん、だめだよぉ…」

憂「あっ…」

―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

朋也(………)

朋也(いい…すごく…いい!)

俺は台所にいる憂ちゃんの背を目指して歩み寄っていった。

朋也「憂ちゃん…」

背後から声をかける。



426 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:17:23.65 ID:1qYNd8dxO

憂「はい…?」

手を止めて振り返ってくれる。

朋也「俺の妹になってくれ」

憂「えぇ!? そ、それは…」

朋也「だめか?」

憂「いろいろと無理がありますよぉ」

自分でもそう思う。
だが、情熱を抑え切れなかった。

憂「それに、私にはお姉ちゃんがいますし」

朋也「…そうか」

憂「そ、そんなに落ち込まないでくださいよぉ」

憂「私、岡崎さんにそう言ってもらえて、うれしかったですから」

朋也「じゃあ、せめて、俺のことを兄だと思って、お兄ちゃんって呼んでみてくれ…」

憂「それで、元気になってくれますか?」

朋也「ああ」

憂「わかりました、それじゃあ…」



427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:17:42.22 ID:cUBlBpOS0

すっと深呼吸する。

憂「お兄ちゃんっ」

まぶしい笑顔。首をかしげるというオプションつきだった。

朋也「…はは、憂はかわいいな。よしお小遣いをやろう」

財布から万札を抜き取る。

憂「わわっ、いいですよ、そんなっ。しまってくださいっ」

朋也「なに言ってるんだよ。俺たち、仲良し兄妹じゃないか」

憂「それは台本の上でのことですよっ、目を覚ましてくださぁいっ」

朋也「ハッ!…ああ、いや、悪い…本当の俺と、役の境目がわからなくなってたよ」

憂「もう…変な人ですね、岡崎さんって」

言って、笑う。俺も気分がいい。
素直に笑ってくれる年下の女の子というのは、新鮮だった。

朋也「なぁ、憂ちゃん。この後、予定あるか」

憂「え? そうですね…」

小首をかしげて考え込む。

憂「う~ん…夕飯の材料はもう買っちゃったし…とくにないですね」



428 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:18:48.93 ID:1qYNd8dxO

朋也「じゃあ、お兄ちゃ…いや、俺とどこか出かけないか」

今から寮に向かっても、春原が戻っている保証はない。
あの部屋でひとり過ごすくらいなら、そっちの方がよかった。

憂「いいんですか? 私となんかで」

朋也「憂ちゃんだから誘ってるんだよ」

憂「ありがとうございますっ。私も、岡崎さんに誘ってもらえてうれしいです」

朋也「それは、一緒に遊びに出てくれるって、そう取っていいのか」

憂「はい、もちろんです」

朋也「そっか。じゃあ、その洗い物が終わったら、出るか」

憂「はいっ」

―――――――――――――――――――――

食器の洗浄も済ませ、家を出た。
目的地はまだ決めていない。

朋也「どこにいく? 憂ちゃんの好きなところでいいぞ」

憂「いいんですか?」

朋也「ああ」



429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:19:09.45 ID:cUBlBpOS0

憂「それじゃあ、私、前から行ってみたい所があったんですけど…」

朋也「どこだ」

憂「商店街に新しくできた、ぬいぐるみとか、可愛い小物とかを売っているお店です」

憂「今、うちの学校の女の子の間で人気なんですよ」

朋也「ふぅん、そんなとこがあるのか」

憂「はい。だから、そこに付き合って欲しいです」

朋也「ああ、いいよ」

憂「ありがとうございますっ」

―――――――――――――――――――――

商店街までやってくる。
件の店はまだ真新しく、外観や内装が小綺麗だった。
ファンシーな看板を掲げ、手前には手書きの宣伝ボードが立てかけられてある。
店内には、所狭しと商品群が並べられていた。
客層は、この有りようからしてやはりというべきか、女性客ばかりだった。

憂「わぁ、ここですここですっ」

つくやいなや、目を輝かせてはしゃぎ出す憂ちゃん。

憂「いきましょ、岡崎さんっ」



430 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:20:18.11 ID:1qYNd8dxO

朋也「あ、ああ…」

この中に男の俺が入っていくことに多少気後れしつつも、憂ちゃんに従った。

―――――――――――――――――――――

憂「うわぁ、かわいいっ」

憂ちゃんが立ち止まったのは、小さめのぬいぐるみが並べられたブロックだった。
デフォルメされ、丸みを帯びた動物キャラの頭部が手のひらサイズで商品化されている。
俺もひとつ適当なものを手に取ってみた。
ぐにゃり、と柔らかい感触がした。低反発素材でも使っているんだろうか。

憂「う~ん、でも、やっぱりないなぁ…」

朋也「なんか探してるのか」

憂「はい…」

持っていたぬいぐるみを棚に戻し、俺に向き直る。

憂「岡崎さん、だんご大家族って覚えてます?」

朋也「ああ、けっこう鮮明に」

それは、最近思い出す機会があったからなのだが。

憂「ほんとですか? よかったです、覚えててくれて」

憂「あれ、かわいいですよねっ」



431 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:20:41.35 ID:cUBlBpOS0

朋也「ん、まぁ、多分な」

一応同意の姿勢だけは見せておく。

憂「でも、もうかなり前にブームが終わっちゃったじゃないですか」

憂「それで、世間からも忘れられちゃってて…」

憂「それでも、私もお姉ちゃんも、いまだに好きなんですよ、だんご大家族」

憂「だから、この小さな手のひらシリーズにないかなぁって、思ったんですけどね」

需要が無くなったことを知っていてなお探すんだから、想いもそれだけ深いんだろう。

朋也「じゃあ、こういうのはどうだ」

俺はうさぎの頭を棚から拾い上げた。

朋也「ほら、これの耳ちぎって、凹凸無くしてさ」

朋也「シルエットだけなら、だんごに見えなくもないだろ」

憂「そ、そんな残酷なことしてまで欲しくないですよぉ」

朋也「そうか? じゃあ、これを三つくらい買って、串で刺して繋げるのはどうだ」

憂「さっきのと接戦になるくらい残酷ですっ」

朋也「なら、これを…」



432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:21:48.14 ID:1qYNd8dxO

憂「も、もういいですっ、気持ちだけ受け取っておきます…」

朋也「これを、憂ちゃんの鼻の穴に詰めてみよう、って言おうとしたんだけど…」

朋也「その気持ち、受け取ってくれるのか?」

憂「…岡崎さん、もしかして、からかってます?」

朋也「バレたか」

憂「…意地悪ですっ」

ぷい、とそっぽを向かれてしまった。
やりすぎてしまったようだ。

―――――――――――――――――――――

その後、なんとか機嫌を取ることに成功し、また一緒に見て回った。
憂ちゃんが興味を示したコーナーに留まり、しばらく見たのち、移る。
そんなことを繰り返していた。

―――――――――――――――――――――

朋也(やべ…)

巡って回る内、俺の目に見かけたことのある顔が留まった。
同じクラスの女たちだった。何人かで固まって、楽しげに店内を闊歩している。
そういえば、憂ちゃんが言っていた。
この店は今、うちの学校の女に人気があると。
なら、こういうブッキングをすることだって、十分ありえたのに…うかつだった。



433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:22:16.22 ID:cUBlBpOS0

俺がこんな店に出入りしているなんて思われたら、たまったもんじゃない。
その情報が春原の耳に入った日には…想像もしたくない。
俺は壁にぴったりと張りついてやりすごすことにした。

憂「岡崎さん、なにをやってるんですか?」

背中から憂ちゃんの声。

朋也「いや…知ってる顔がいたから、ちょっとな…」

憂「ああ…恥ずかしいんですね」

朋也「まぁ…そういうことだ」

憂「じゃあ…これを被って変装してください」

俺になにか手渡してくる。

朋也「お、サンキュ」

後ろ手に受け取って、それを目深に被った。

朋也(これでなんとかなるかな…)

声さえ聞かれなければ、制服を着ているわけでもなし、
他人の空似で受け流してくれるかもしれない。
そうなってくれることを願いながら、俺は向き合っていた壁から離れた。

憂「よく似合ってますよ」

振り向きざまに第一声。



435 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:23:25.20 ID:1qYNd8dxO

朋也「そうか?」

しかし、俺はなにを被ったんだろう。
なにも考えず、機械的に被ってしまったからな…。

憂「ご自分でも、鏡で確認してみたらどうですか?」

俺の目線より少し下、そこに小さな鏡が置かれていた。
覗いてみる。

朋也「…これ」

ネコミミ付きフードだった。

憂「あはは、かわいいです、岡崎さん」

朋也「…おまえな」

憂「さっきのお仕返しです。罰として、ここにいる間ずっと被っててくださぁい」

朋也「…はぁ」

これじゃ、顔は隠せても余計目立つことになってしまう…。

朋也「ほかにマシなの、なんかないのか」

憂「ありますよぉ。イヌミミがいいですか? それとも、ウサミミがいいですか?」

朋也「そんなのしかないのかよ…」



436 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:24:02.16 ID:cUBlBpOS0

憂「ふふ、ここはそういうお店ですよ?」

そうだったな…。
仕方なく、俺は憂ちゃんの罰ゲームに従った。

―――――――――――――――――――――

憂「あ、これ、かわいいなぁ…買っちゃおうかなぁ…」

やってきたのは、携帯ストラップの陳列棚。
俺とは縁のない場所だ。

憂「う~ん、でも、こっちも捨てがたいし…」

憂「岡崎さん、これとこれ、どっちがいいと思いますか?」

両手にそれぞれ別の商品を持って、俺に意見を求めてくる。

朋也「う~ん…俺はこれがいいかな」

そのどちらも選ばずに、俺は新たに棚から取り出した。

朋也「この、『ごはんつぶ型ストラップ』って、なんかよくないか」

憂「えぇ? なんですか、それ?」

朋也「なんか、携帯にご飯粒がついているように演出できるらしいぞ」

憂「いやですよぉ、そんなの…常に、さっきご飯食べてきたよって感じじゃないですか…」



437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:25:15.82 ID:1qYNd8dxO

朋也「いやか?」

憂「はい」

なかなかおもしろいと思ったのだが…。
しぶしぶ元の場所に納める。

憂「これかこれ、どっちかで言ってください」

再び俺の前に掲げてくる。

朋也「う~ん…じゃあ、そっちの、クマの方で」

憂「クマさんですか? じゃあ、こっち買っちゃおうかな…」

朋也「待て。買うなら、払いは俺がする」

憂「え? 悪いですよ、そんな…」

朋也「いや、ここで好感度を挽回しておきたいんだ。序盤で失敗しちまったからな」

憂「そんなこと気にしてたんですか…」

朋也「ああ。だから、俺にまかせろ」

憂「ふふ、じゃあ…お言葉に甘えて」

朋也「よし」

―――――――――――――――――――――



438 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:25:37.32 ID:cUBlBpOS0

ストラップをレジに通し、店を出た。
ついでに、ネコミミフードも買っていった。
長いこと被っていて、買わずに出るのもためらわれたからだ。

憂「いいんですか? こっちも、もらっちゃって…」

朋也「ああ、いいよ。俺が持ってても仕方ないしな」

俺はストラップと一緒に、フードも譲っていたのだ。

憂「でも、これ、けっこう高かったですよね…?」

朋也「ああ、大丈夫。まだ余裕あるから」

憂「岡崎さん、アルバイトでもしてるんですか?」

朋也「まぁ、前はしてたけど、今はやってないな」

朋也「でも、この前単発で、でかいの一個やったっていうか…
   あぶく銭みたいなもんだから、気にすんなよ」

ぽむ、と頭に手を置く。

憂「あ…はいっ」

にっこりと微笑んでくれる。

憂「ありがとう、お兄ちゃんっ」

朋也(う…)



439 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:26:50.95 ID:1qYNd8dxO

胸が高鳴る。破壊力抜群だった。

朋也「…うん」

憂「あはは、…うん、って。岡崎さん顔真っ赤です」

朋也「…憂ちゃんがいきなり妹になるからだ」

憂「ごめんなさぁい」

いたずらっぽく言う。

朋也(さて…)

店の中に居る時はわからなかったが、
外はもう陽が落ち始め、ほんのりと暗くなっていた。
それだけ時間を忘れて見回っていたのだ。
おそるべし、ファンシーショップ…。

まぁ、入店したのが三時半あたりだったので、
実際それほどでもないのかもしれないが。

朋也「もう、帰らなきゃだよな、憂ちゃんは」

憂「はい、そうですね。帰ってお夕飯作らないと…」

朋也「なら、送ってくよ。もういい時間だしな」

憂「ほんとですか? ありがとうございますっ」

―――――――――――――――――――――

平沢家。その門前まで帰り着く。



440 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:27:12.99 ID:cUBlBpOS0

朋也「じゃあな」

憂「はいっ。今日はありがとうございました」

別れの挨拶も済ませ、立ち去ろうと踵を返す。

唯「あれ? 岡崎くんだ」

朋也「よお」

そこへ、ちょうど平沢が帰宅してきた。

唯「どうしたの? うちになにか用?」

憂「私を送ってきてくれたんだよ、お姉ちゃん」

唯「送ったって? 憂を? 代引きで?」

憂「Amaz○n.comじゃないんだから…」

憂「あのね、岡崎さんと一緒に出かけてて、
  それで、もう暗いからって送ってきてくれたの」

唯「えぇ!? 岡崎くんと遊んでたの?」

憂「ちょっと付き合ってもらってたんだ。
  ほら、あの商店街に新しくできたお店あるでしょ?」

憂「あそこに、ついてきてもらってたの」

唯「えぇっ!? っていうか、なんでもうそこまで仲良くなってるの?」



442 名前:ミス:2010/09/25(土) 18:29:53.49 ID:cUBlBpOS0

唯「私と初めて会ったときは、すっごく冷たかったのにぃ…」

朋也「そうだっけ」

唯「そうだよぉ。『ああ』とか、『好きにしろよ…』とかしか言わないし…」

俺を真似た部分だけ声色を変えて言った。

唯「最近になって、ようやくちょっと心開いてくれたかなぁって感じだよ」

唯「なのに、憂とは初日から遊びに行くまでになってるし…これは差別だよっ」

唯「悪意を感じるよっ」

憂「お姉ちゃん…あんまりお兄ちゃんを責めないであげて」

朋也(ぐぁ…)

唯「…お兄ちゃん?」

平沢が訝しげな顔になる。

朋也「今はやめてくれっ」

憂「ふたりっきりの時だけしかそう呼んじゃだめなの? お兄ちゃん?」

朋也「だぁーっ! だから、やめてくれぇ、憂ちゃんっ!」

唯「…ふたりっきりの時? 憂…ちゃん?」



444 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:32:12.83 ID:1qYNd8dxO

唯「………」

じと~っとした目を向けられる。

唯「…中で詳しく聞こうか」

こぶしを作り、親指で自宅を指さす。
その顔は、あくまで笑顔だったが…それが逆に怖い。

―――――――――――――――――――――

唯「ふぅん、岡崎くんってそんな趣味だったんだ?」

テーブルにつき、説教される子供のように俺は正座していた。

唯「そんなこと、言ってくれれば私がしてあげたのに…」

朋也「いや、おまえ、タメじゃん。リアルじゃないっていうか…」

唯「失礼なっ! 私、妹系ってよく言われるのにっ」

朋也「じゃ、一回やってみてくれよ」

唯「いいよ? じゃ、いきます…」

こほん、と咳払い。

唯「お兄ちゃんっ」

満面の笑顔。



445 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:33:04.41 ID:cUBlBpOS0

両手を開き、俺の前に突き出している。

朋也「なんか、違うんだよな…」

唯「むぅ、なにが違うのっ」

朋也「いや、そのポーズとかさ…なんだよ」

唯「庇護欲を煽るポーズだよ」

朋也「そういう計算が目に付くんだよなぁ…
   それに、全体の総量として妹力が足りない感じだ」

朋也「まぁ、おまえは、どこまでいっても姉だな」

唯「それはその通りだけど…なんか悔しい…」

朋也「まぁ、そういうわけだからさ。俺、帰るな」

赤裸々に語ってしまった恥ずかしさもあり、早くこの場を去りたかった。

唯「まぁ、待ちなよ。せっかくだから、一緒に夕飯してこうよ」

朋也「いや…」

唯「う~い~、岡崎くんのぶんも夕飯作ってくれるよね~?」

被せるようにして、台所で作業する憂ちゃんへ声をかけた。

憂「岡崎さんがそれでいいなら、作るよ~」



446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:36:29.88 ID:1qYNd8dxO

向こうからは好意的な返答が届く。

唯「だってさ。どうする? おにいちゃん」

朋也「だから、それはもうやめろっての…」

朋也(でも、どうするかな…)

いや…もう答えは出ている。
コンビニ弁当なんかより、憂ちゃんの手料理の方がいいに決まってる。

朋也「俺の分も頼んでいいか、憂ちゃん」

あまりまごつくことなく、俺は注文を入れていた。

憂「は~い、まかせてくださぁい」

二つ返事で引き受けてくれる。

唯「うん、素直でよろしい」

朋也「そりゃ、どうも」

唯「ところでさ、なんで憂にはちゃんづけなの?」

朋也「年下だし、苗字だと、おまえと被るからな」

唯「えぇ、そんな理由? なら、私も唯ちゃんって呼んでよっ」

朋也「アホか」



447 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:36:51.24 ID:cUBlBpOS0

唯「私も朋ちゃんって呼ぶからさっ。そうしよ?」

朋也「ありえないからな…」

唯「ちぇ、けち~…いいもん、別に。私にはギー太がいるから」

言って、横に置いてあったケースからギターを取り出した。

唯「だんごっ、だんごっ」

ギターを弾きながら歌いだす。
それは、俺も聞いたことのある、だんご大家族のテーマソング。
だが、オリジナルとは違い、曲調が激しかった。

唯「だんごっ、大家族ぅ、あういぇいっ!」

ロック風にアレンジしていた。

唯「岡崎くんも、サビはハモってよぅ、あういぇいっ!」

サビなんて知らない。
とりあえず、適当にだんごだんご言って合わせておいた。

―――――――――――――――――――――

憂「お待ちどうさま~」

憂ちゃんがお盆に料理を乗せて運んできてくれる。
まずは前菜のようだった。



449 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:41:03.00 ID:cUBlBpOS0

唯「わぁ、肉じゃがだぁ」

憂「はいお姉ちゃん」

平沢に手渡す。

唯「ありがと~」

憂「岡崎さんも」

朋也「ああ、サンキュ」

俺も受け取った。
最後に自分の座る位置に置くと、また台所へ戻っていった。

朋也「おまえは料理したりしないのか」

唯「ん? しないけど」

朋也「じゃあ、おまえ、家事は掃除とかやってるのか」

唯「それも、憂だよ?」

朋也「なら、おまえはなにをやってるんだよ」

唯「私はね、生きてるんだよ」

朋也「あん?」

そりゃ、死んでるようにはみえないが。



455 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:47:11.84 ID:1qYNd8dxO

唯「だからね、私は生きてるから…いいんだよ…」

つまり、なにもしてないということか…。

朋也「神秘的に言うな。憂ちゃんに全部やらせてるだけだろ」

唯「ぶぅ、だって憂がやったほうが全部上手くいくんだもん」

唯「私が掃除しても、逆に、変な取れないシミとかついちゃうし…」

唯「料理だって、やってたら、電子レンジの中でアルミホイルが放電したりするんだよ?」

それは料理の腕とはあまり関係ない。常識の問題だった。

朋也「ほんと、おまえ、憂ちゃんいてよかったな」

朋也「親御さん、家空けてること多いって聞いたけど、おまえ一人じゃ即死してたよ」

唯「そんな早く死なないよっ! 丸二日は持つもんっ!」

延命するにしても、そう長くは持たないようだった。

憂「はい、これで最後だよ~」

今度は焼き魚と、人数分のコップ、そして麦茶を持ってきてくれた。
先程と同様、俺たちに配膳してくれる。最後に自らのぶんを揃え、食卓が整った。

唯「じゃ、食べようか」

ぱんっ、と手を合わせる。



456 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:47:36.82 ID:cUBlBpOS0

憂ちゃんもそれに倣った。

唯「いただきます」
憂「いただきます」

綺麗に声が重なる。

朋也「…いただきます」

俺も若干遅れて同じセリフを言った。
こんなこと、かしこまってやるのはいつぶりだろう。
少なくとも、うちではやったことがない。
小学校の給食の時間以来かもしれない。

唯「ん~、おいしい~」

憂「ほんと? ありがと、お姉ちゃん」

唯「憂の料理はいつもおいしいよぉ。お弁当もね」

憂「えへへ」

仲良く会話する姉妹。
本来ならここに両親が居て、一緒に食事をして…
それで、その日学校であったことなんかを話すんだろうか。
そういった光景があるのが、普通の家族なんだろうか。
俺にはわからなかった。
ただ…
無粋な俺なんかが、土足で踏み込んでいい場所じゃないことは漠然とわかる。



457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:48:51.77 ID:1qYNd8dxO

唯「どうしたの? 岡崎くん。ぼーっとしちゃって」

朋也「いや…なんでもないよ」

言って、肉じゃがを口に放り込む。

朋也「うん…うまいな」

憂「ありがとうございますっ」

唯「私も料理勉強しようかなぁ…」

憂「お姉ちゃんならすぐできるようになるよ」

唯「ほんと? じゃあ、今度教えてよ」

憂「うん、いいよ。お姉ちゃんの今度は、今まで一度も来たことないけどね」

唯「あはは~、そうだっけ」

憂「ふふっ、うん、そうだよ」

ふたりとも同じように、えへへ、と笑いあう。
俺は箸を動かしながら、その様子をぼんやりと傍観していた。

―――――――――――――――――――――

唯「だいぶ遅くなっちゃったね」

平沢が玄関の先まで見送りに来てくれる。



459 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:49:19.90 ID:cUBlBpOS0

憂ちゃんは中で後片付け中だ。

朋也「そうだな。長居しちまった」

あの場は本当に居心地がよく、離れることがひどくためらわれた。
それは、なんでだろう。
あの感覚はなんだったんだろう。

唯「どうせなら、泊まってく?」

朋也「馬鹿。んなことできるかよ」

唯「なんで? 明日は休みだし、みんなでサッカーする日だよ?」

唯「ちょうどいいじゃん」

朋也「そういうことじゃなくて…」

男を泊める、というその意味に、なにか感じるところはないのだろうか。
それとも、俺がそんな風に見られていないだけなのか。

朋也「とにかく、もう、帰るよ」

唯「ちぇ、つまんないなぁ…」

朋也「じゃあな」

唯「うん、また明日ねっ」

―――――――――――――――――――――



460 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:50:56.22 ID:1qYNd8dxO

平沢家で過ごしていた今さっきまでの時間。
それが別世界の出来事に思われるような、あまりに違いすぎる空気。
気分が重くなる。
ただ、静かに眠りたい。

朋也(それだけなのにな…)

―――――――――――――――――――――

居間。
その片隅で、親父は背を丸めて、座り込んでいた。
同時に激しい憤りに苛まされる。

朋也「なぁ、親父。寝るなら、横になったほうがいい」

やり場の無い怒りを抑えて、そう静かに言った。

親父「………」

返事は無い。
眠っているのか、ただ聞く耳を持たないだけか…。
その違いは俺にもよくわからなくなっていた。

朋也「なぁ、父さん」

呼び方を変えてみた。

親父「………」

ゆっくりと頭を上げて、薄く目を開けた。



461 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:51:37.98 ID:cUBlBpOS0

そして、俺のほうを見る。
その目に俺の顔はどう映っているのだろうか…。
ちゃんと息子としての顔で…

親父「これは…これは…」

親父「また朋也くんに迷惑をかけてしまったかな…」

目の前の景色が一瞬真っ赤になった。

朋也「………」

そして俺はいつものように、その場を後にする。

―――――――――――――――――――――

背中からは、すがるような声が自分の名を呼び続けていた。
…くん付けで。

―――――――――――――――――――――

こんなところにきて、俺はどうしようというのだろう…
どうしたくて、ここまで歩いてきたのだろう…
懐かしい感じがした。
ずっと昔、知った優しさ。
そんなもの…俺は知らないはずなのに。

それでも、懐かしいと感じていた。
今さっきまで、すぐそばでそれをみていた。
温かさに触れて…俺は子供に戻って…
それをもどかしいばかりに、感じていたんだ。



462 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:53:10.75 ID:1qYNd8dxO

………。

「だんごっ…だんごっ…」

近くの公園から声がした。
それは、今となってはもう耳に馴染んでいた声音。
平沢だった。
あんなところでなにをしているんだろう。

俺はその場に呆然と立ちつくし、動くことができなかった。
そうしている内、平沢が俺のいる歩道に目を向けた。
こっちに気づいたようで、小走りで寄ってくる。

唯「あ、やっぱり岡崎くんだ。どうしたの? うちに忘れ物?」

朋也「いや、別に…」

唯「じゃあ…深夜徘徊?」

内緒話でもするように、ひそっと俺にささやいてくる。

朋也「馬鹿…そんなわけあるか」

もう俺は冷静だった。

朋也「ただ、帰るには時間が早すぎたからさ…」

唯「えー? もうお風呂あがって、バラエティ番組みててもおかしくない頃だよ?」

朋也「俺にとっては早いんだよ。いつも夜遊びしてるような、不良だからな」



463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:53:36.40 ID:cUBlBpOS0

唯「またそんなこと言ってぇ…」

朋也「おまえのほうこそ、こんなとこでなにやってたんだよ」

唯「ん? 私はね、歌の練習だよ」

朋也「こんな時間に、しかも外でか」

唯「うん」

朋也「それ、近所迷惑じゃないのか」

校則さえまともに守れない俺が言うのも違う気がしたが。

唯「大丈夫だよ。ご近所さんはみんな甘んじて受け入れてくれてるから」

朋也「そら、懐の深い人たちだな」

唯「私が小さかった頃から知ってるからかなぁ…みんな優しいんだよ」

唯「とくに、渚ちゃんとか、早苗さんとか、アッキーとか…古河の家の人たちはね」

そんな名前を出されても、俺にはピンと来ない。

朋也「そっか…」

朋也「なら、がんばって練習してくれ」

言って、歩き出す。



464 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:54:45.33 ID:1qYNd8dxO

唯「あ、岡崎くんっ」

朋也「なんだよ」

立ち止まる。

唯「これからまだどこかにいくの?」

朋也「ああ、そうだよ」

唯「あした、体大丈夫?」

朋也「まぁ、多分な」

唯「っていうか、平日とかも、それで辛くないの?」

唯「いつも、すごく眠そうだし…」

唯「やっぱり、夜遊びはやめといたほうがいいんじゃないかな」

朋也「いいだろ、別に。不良なんだから」

唯「それ、本当にそうなのかな。今でも信じられないよ」

唯「岡崎くん、全然不良の人っぽくないし…」

朋也「中にはそういう不良もいるんだ」

唯「前に、お父さんと喧嘩してるって言ってたよね?」



465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:55:04.59 ID:cUBlBpOS0

唯「それで、喧嘩が原因で、肩も怪我しちゃったって…」

唯「それと関係ないかな?」

唯「お父さんと顔を合わせないように、深夜になるまで外を出歩いて…」

唯「それで、遅刻が多くなって、みんなから不良って噂されるようになって…」

唯「違う?」

なんて鋭いのだろう。
あるいは、安易に想像がつくほど、俺は身の上を話してしまっていたのか。

朋也「違うよ」

俺は肯定しなかった。こいつの前では、悩みの無い不良でいたかった。

唯「本当に、違う?」

朋也「まだお互いのことよく知らないってのに…よくそんな想像ができるもんだな」

唯「できるよ。そうさせるのは…岡崎くん自身だから」

唯「きっと、なにか理由があるんだって、そう…」

唯「そう思ったんだよ」

朋也「もし、そうだとしたら…」

朋也「おまえはどうするつもりなんだ」



466 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:56:29.43 ID:1qYNd8dxO

訊いてみた。

唯「岡崎くんは、私が遅刻しないように、いつも頑張って早くきてくれるから…」

唯「私も、それに応えてあげたい」

唯「できるなら、力になってあげたいよ」

朋也「親父に立ち向かえるように、か…?」

唯「それはダメだよ。立ち向かったりしたら…分かり合わないと」

朋也「どうやって」

唯「それは…」

唯「すごく時間のかかることだよ」

朋也「だろうな。長い時間がいるんだろうな」

朋也「俺たちは、子供だから」

俺は遠くを見た。屋根の上に月明かりを受けて鈍く光る夜の雲があった。

唯「もしよければ…うちにくる?」

平沢がそう切り出していた。
それは、短い時間で一生懸命考えた末の提案なんだろう。

唯「少し距離を置いて、お互いのこと、考えるといいよ」



467 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:56:50.13 ID:cUBlBpOS0

唯「ふたりは家族なんだから…だから、距離を置けば、絶対にさびしくなるはずだよ」

唯「そうすれば、相手を好きだったこと思い出して…」

唯「次会った時には、ゆっくり話し合うことができると思う」

唯「それに、ちゃんと夜になったら寝られて、朝も辛くなくなるよ」

唯「一石二鳥だね」

唯「どうかな、岡崎くん」

唯「岡崎くんは、そうしたい?」

朋也「ああ、そうだな…」

朋也「そうできたら、いいな」

唯「じゃ、そうしよう」

事も無げに言う。

朋也「馬鹿…」

朋也「おまえは人を簡単に信用しすぎだ」

近づいていって、頭に手を乗せる。

唯「ん…」



468 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:57:49.29 ID:1qYNd8dxO

くしゃくしゃと少し乱暴に撫でた。

朋也「じゃあな。また明日」

唯「あ…うん」

背中を向けて歩き出す。
俺は支えられた。あいつによって。
いや、支えられた、というのは違うような気がする。
あいつはただ、そばにいただけだったから。
でも、それだけで、俺は自分を取り戻すことができた。
同じようなことが前にもあった気がする。
不思議な奴だと…そう、胸の内で感じていた。

―――――――――――――――――――――


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