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朋也「軽音部? うんたん?」#7 【クロス】


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朋也「軽音部? うんたん?」#index




469 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:58:13.63 ID:cUBlBpOS0

4/18 日

目が覚めたのは、昼に程近いが、一応午前中だった。
久しぶりにゆっくり寝られたので、気分がいい。
布団からも未練なく抜け出せた。
その勢いに乗り、スムーズに洗顔と着替えも済ませた。
そして、その他諸々の用意が出来ると、すぐに家を出た。

―――――――――――――――――――――

適当なファミレスで食事を済ませ、退店する。
腕時計を見ると、待ち合わせの時間まであと30分だった。
ここからなら、歩いても十分間に合うだけの猶予がある。
それがわかると、俺は学校へと足を向け、悠長に歩き出した。

少し進んだところで、前方よりバスが走り去っていった。
今降りてきたであろう乗客の集団も、ばらけ始めている。
その中に、周囲とは異質な雰囲気が漂う女の子の姿を見つけた。

朋也(お…琴吹だ)

動きやすそうな服装で、バスケットと水筒を手に持っていた。
歩きながら見ていると、どうやら俺と同じ方向に進んでいるようだった。
あいつも、これから集合場所に向かうところなのだろう。
………。

朋也(まぁ、後ろつけてくのもなんだしな…)

俺は小走りで琴吹のもとへ駆け寄っていった。

朋也「よ、琴吹」



470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:59:27.73 ID:1qYNd8dxO

追いつき、横から声をかける。

紬「あら、岡崎くん。こんにちは」

朋也「ああ、こんちは」

紬「岡崎くんも、これから学校?」

朋也「ああ、そうだよ。おまえもだよな?」

紬「うん、そうよ」

朋也「じゃ、そんな遠くないし、一緒にいかないか」

紬「あ、いいねっ、それ。手をつないだりして、仲良くいきましょ?」

朋也「いや、手って…」

少しドモり気味になってしまう。

紬「ふふ、冗談、冗談」

くすくすと笑う。

朋也(はぁ…なに焦ってんだ俺…)

こいつを前にすると、どうも調子が狂ってしまう。



471 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 18:59:58.17 ID:cUBlBpOS0

―――――――――――――――――――――

朋也「そういえばさ、おまえ、先週日曜バイトしてたよな」

朋也「それも、このくらいの時間帯にさ。今日もあったんじゃないのか」

紬「うん、そうなんだけどね。シフト代わってもらったの」

朋也「昨日の今日でよく都合がついたな」

紬「うん、まぁ、ちょっと無理いってお願いしたんだけどね」

朋也「無理にか。なんでまた」

紬「私も、みんなと遊びたかったから」

シンプルな理由。
動機としてはいびつな部類なんだろうけど、こいつが言うとまっすぐに見えた。

紬「もう三年生だし、こういう機会もどんどん減っていくと思うの」

紬「だから、思いっきり遊べる時間を大切にしたくて」

朋也「そっか…」

そう、今年はもう受験の年だ。
気合の入った奴なんかは、今の時期から休み時間にも単語カードをめくっている。
部活をしている奴だって、引退すれば即受験モードに入るだろう。
こいつら軽音部も、どこかで区切りがつけばそうなるはずだ。
大会のようなものがあるのかは知らないが、どんなに長くても秋ぐらいまでだろう。



472 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:01:29.49 ID:1qYNd8dxO

それを考えると、本当に、今だけなのだ。
まぁ、それも、俺や春原にとってはなんの関係もない話だが。
きっと俺たちは最後までだらしなく過ごしていくことになるんだろうから。

朋也「でも、それならバイトなんかやめて時間作ればいいんじゃないのか」

紬「う~ん、でも、せっかく慣れてきたから、もう少し続けたくて…」

紬「それに、少しでもお金は自分で稼いだものを使いたいから」

朋也「おまえ、小遣いとかもらってないのか」

紬「アルバイトを始めてからはもらってないかなぁ」

朋也「へぇ…なんか、生活力あるな、おまえ」

紬「そう? ありがとう」

本当に、見上げたお嬢様だった。
そのバイタリティはどこからくるんだろう。

朋也(庶民の俺も見習うべきなんだろうな、きっと)

―――――――――――――――――――――

唯「あ、岡崎くん、ムギちゃんっ」

律「お、来たか」

紬「お待たせ~」



473 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:01:48.77 ID:cUBlBpOS0

校門の前、雑談でもしていたんだろうか、輪になって固まっていた。
メンバーは、軽音部の連中に加え、憂ちゃんと、真鍋がいた。
春原はまだ来ていないようだ。

憂「こんにちは、紬さん、岡崎さん」

紬「こんにちは、憂ちゃん」

朋也「よう」

律「岡崎、あんた憂ちゃんともよろしくやってるんだってな」

朋也「よろしくって…なにがだよ」

律「とぼけんなって。一緒に買い物出かけたんだろ、きのう」

また、知られたくない奴の耳に入ってしまったものだ…。
きっと、談笑中にでも先日のことが話の種となってしまったんだろう。
さっきから中野に冷たい視線を向けられているのも、それが理由に違いない。

律「やるねぇ、姉妹同時攻略か?」

朋也「おまえ、ほんとそういう話にするの好きな」

律「んん? 実際そうなんじゃないんですかぁ?」

朋也「違うっての…つーか、もういいだろ、このやり取り」

律「あんたがイベント起こすから悪いんだろぉ、このフラグ系男子め」



474 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:03:04.12 ID:1qYNd8dxO

そんなジャンルはない。

唯「ねぇ、りっちゃん。攻略って、なに? 弱点でも突いて一気にたたみかけるの?」

律「そんな、敵のHPを削る有効な攻撃のことじゃないって」

律「いいか? ここでいう攻略というのはだな、ずばり…」

ぐっと腕に力を入れる。

律「ヒロインをいかに自分のものにするか、ということだ!」

唯「ヒロイン?」

律「ああ。この場合ヒロインはおまえと憂ちゃんってことになるな」

唯「ふむふむ。それで?」

律「おまえの好感度は十分だと踏んだ岡崎は、次のヒロイン、憂ちゃんに移行したんだ」

律「それで、一緒に買い物に行き、フラグを立てた」

律「ゆくゆくは憂ちゃんの好感度もMAXにして、自分に惚れさせる」

律「そして、おまえと憂ちゃんを同時に手に入れて、ハーレムエンド、ってとこかな」

言いたい放題言われていた。

唯「おお、すごいねっ!…って、えぇ!?」



475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:03:25.11 ID:cUBlBpOS0

唯「岡崎くん、今のマジなの!?」

朋也「だから、違うっつの…」

唯「だよね、岡崎くんはそんな人じゃないよね」

律「ずいぶん信頼されてんなぁ。じゃ、憂ちゃんはどうなの」

憂「私ですか?」

律「うん。岡崎が彼氏って、どう?」

憂「そうですね…そうだったら、楽しいと思います」

律「おお!? 脈アリだ?」

梓「………」

中野の視線が鋭さを増す。
憂ちゃんにそう言ってもらえるのは素直に嬉しいが、この局面では複雑だ…。

憂「でも、岡崎さんは、お兄ちゃんですから」

朋也(ぐぁ…ここにきて…)

律「…お兄ちゃん?」

憂「はいっ。ね、お兄ちゃん?」

朋也「あ…いや…」



476 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:04:42.61 ID:1qYNd8dxO

憂「…お兄ちゃん、私のこと嫌い?」

朋也「いや…好きだよ…」

ああ…俺はなにを言ってるんだ…

憂「ありがとう、お兄ちゃんっ」

場が凍りついているのがはっきりとわかる…
終わりだ…俺はもう…

DEAD END

朋也(んなアホな…)

律「…まぁ、なんだ…そういう趣味か」

朋也「い、いや、待て、説明させてくれっ」

律「言い訳があるんなら、聞いてやるよ。最後にな」

朋也(最後ってなんだよ、くそっ…)

朋也「あー、えっと、そうだな…」

必死に頭の中で言葉を紡ぎだす。

朋也「俺、ひとりっこでさ、だから、そういう兄妹とかに憧れがあったっていうか…」

俺はしどろもどろになりながらもなんとか弁明した。



477 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:05:01.00 ID:cUBlBpOS0


律「ふーん、それで憂ちゃんに頼んだってことね」

朋也「ああ、そうだよ」

憂「ごめんなさい、少し悪乗りしちゃいました」

朋也「もうお兄ちゃんは今後禁止だ」

憂「はぁい」

律「ま、それでもかなり引くけどな」

朋也「ぐ…」

唯「でも、岡崎くんがお兄ちゃんってよくない?」

律「いや、全然」

唯「えー、そうかなぁ。私はいいと思うんだけどなぁ…」

唯「ね、お兄ちゃんっ」

腕に絡んでくる。

朋也「あ、おい…」

憂「あ、お姉ちゃんずるいっ」

もう片方も取られてしまう。



478 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:06:13.03 ID:1qYNd8dxO

朋也「おい、憂ちゃ…」

梓「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

突然奇声を発し、肩を怒らせずんずんとこちらに近づいてくる。

梓「えいっ!」

唯「うわぁっ」

憂「きゃっ」

無理やり平沢姉妹を俺から引き離し、距離をとった。

梓「唯先輩、あんな人に近づいちゃだめですっ!」

唯「え、でも…」

梓「だめったらだめなんです! あの人は…変態です!」

唯「そ、そんなこと…」

梓「あります! だから、だめです!」

唯「あ、あう…」

梓「憂も!」

憂「梓ちゃん、こわいよぉ…」



479 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:06:38.09 ID:cUBlBpOS0

梓「いいから、返事は!?」

憂「う、は、はい…」

俺は呆然と、その力強く説き伏せられている様子を遠くから眺めていた。

律「はっは、変態だってよっ」

朋也「………」

律「ま、元気出せって、ははっ」

笑いながら、ぱんっと肩を叩き、中野たちがいるところまで歩いていった。

朋也「……はぁ」

思いのほかヘコむ。

澪「あの…」

朋也「…なんだよ」

澪「梓が失礼なこと言って、すいません」

朋也「ああ…まぁ、しょうがねぇよ、言われても」

澪「そんな…梓はただ嫉妬してるだけっていうか…そんな感じなんだと思います」

朋也「嫉妬?」



480 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:08:50.70 ID:1qYNd8dxO

澪「はい。梓は、唯にかなり可愛がられてましたから…」

澪「それで、岡崎くんに唯を取られちゃうんじゃないかって、多分そう思ったんだと…」

紬「確かに、それはあるかもしれないわね」

朋也「はぁ…」

澪「だから、あの…元気出してくださいね」

よほど落ち込んでいるように見えたのか、そう励ましてくれた。

朋也「ああ、サンキュな。ちょっと救われた」

少し大げさに立ち直った風を装う。
一応、俺なりに礼儀をわきまえたつもりだ。

澪「あ、そ、それはよかったです…」

恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。
割と顔を合わせているのに、まだ慣れないんだろうか。
それとも、俺が苦手なのか…。

紬「それにしても、あんなに取り乱す梓ちゃん、初めて見たわぁ…
  あんな梓ちゃんも、可愛くていいかも」

紬「それに、岡崎くんにじゃれついてる時の唯ちゃんも、憂ちゃんも可愛いし…」

紬「岡崎くんにはもっと頑張ってもらわなきゃねっ」

くすくす笑いながら、おどけたように言う。



481 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:09:15.63 ID:cUBlBpOS0

朋也(なにをだよ…)

つんつん、と背中をつつかれる。

朋也「あん?」

和「で、どっちが本命なの? 唯? 憂?」

真鍋がひそひそと語りかけてきた。

和「あなたに唯を推した身としては、まず二股なんて許さないから」

朋也「どっちでもねぇっての。つか、もうそういうのは勘弁してくれ」

和「そうしてほしいなら、さっさと結論を出しなさい」

朋也「結論って、おまえ…」

一度、深く息を吐く。

朋也「そもそも、そんなんじゃねぇからこそ、やめてほしいんだけどな」

和「あなたがそうでも、唯のほうは違うわよ」

朋也「いや、あいつもそんな気はないって言ってたぞ」

和「あの子自身、まだはっきりとは気づいてないだけよ」

朋也「なんでおまえがそんなことわかるんだよ」



482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:10:35.07 ID:1qYNd8dxO

和「幼馴染ですもの。唯のことはそれなりに観察してきたつもりよ」

朋也「だとしても、おまえ自身恋愛したことないんだろ?」

朋也「だったら、実体験に基づいてないぶん、説得力に欠けるよな」

朋也「そんなの、おまえらしくないんじゃないのか」

和「それは…そうだけど…」

朋也「仮に…仮にだぞ? 平沢がもしそうだったとしてもだ」

朋也「俺が誰かに促されて、
   あいつの気持ちが未整理のまま結論出されたりするのは嫌なんじゃないのか」

和「………」

しばし、沈黙する。

和「…そうね。私が間違ってたわ」

すっと身を離した。

和「煙に巻かれたようで、少しシャクだけどね」

朋也「そう言うなよ」

和「でも、やっぱりあなたはなかなか見所があるわ。どう? 例の話、考え直してみない?」

朋也「いや、ありがたいけど、その気はない」



483 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:10:56.21 ID:cUBlBpOS0

和「そう。ま、一度断られてるしね。いいんだけど」

そう言うと、俺から離れていった。
向こうからは、部長たちが何事か騒ぎながら戻ってきている。
また、騒がしくなりそうだった。

―――――――――――――――――――――

春原「あれ、もうみんな来てんのか」

春原が腹をぽりぽり掻きながら、ちんたら坂を上ってきた。

律「あれ、じゃねぇっつーの! もう20分遅刻だぞっ!」

春原「わり、出掛けにちょっと10秒ストップに手出したら、長引いちゃった」

律「そんなもん暇なときにでもやれよなっ!」

春原「ま、いいじゃん。さっさといこうぜ」

律「ったく、こいつは…」

春原「って、その子、誰よ?」

憂「あ、初めまして。私、平沢憂と言います。二年生です」

春原「平沢? もしかして、妹?」

憂「はい、そうです」



484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:12:07.53 ID:1qYNd8dxO

唯「いぇい、姉妹でぇす」

春原「ふーん、あっそ。似てるね、顔とか」

憂「ありがとうございますっ」

似ている、はこの子にとって褒め言葉だったようだ。

春原「ま、いいや。行くぞ、おまえら」

律「遅れてきた奴がえばんなってーの…」

―――――――――――――――――――――

グラウンドまでやってくる。
今日は運動部の姿もなく、広い場内は閑散としていた。
おそらくは、他校で練習試合でもあって、出払っているのだろう。
俺もまだバスケをやっていた時分、休みの日は大抵そうだった。
なければ、普通に練習があったのだが。

なんにせよ、サッカー部がいなくてよかった。
…というか、いたらどうするつもりだったんだろうか。
平沢がサッカー部の動向を知っていたとは思えない。
となると…やっぱり、そこまで考えていなかったんだろうな…。

朋也(それよりも…)

朋也「今更だけど、勝手に使っていいのか、このコート」

唯「え? だめかな?」



485 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:12:37.99 ID:cUBlBpOS0

律「別にいいんじゃね? うちらだってこの学校の生徒だし」

朋也「いや、サッカー部の連中が気を悪くするんじゃないのかって話だよ」

春原「まぁ、大丈夫でしょ」

春原が答えた。

春原「今いないってことは、今日は朝練だけだったか、よそで試合があったんだろうからね」

春原「これから鉢合わせすることもないだろうし…あとでトンボだけ掛けとけばいいよ」

ソースがこいつというのは普段なら心許ないが、一応元サッカー部だ。
今回に限ってはそれなりに信憑性があった。

律「やけに自信たっぷりだな…なんか根拠でもあんの?」

朋也「こいつ、元サッカー部だからな」

律「え、マジで?」

春原「ああ、まぁね」

律「それできのう、実力がどうのとか言ってやがったのか…」

春原「ま、んなこといいからさ、とっとと始めようぜ」

朋也「そうだな。じゃあ、おまえ、番号入ったビブス着て、枠の中に立ってくれ」

朋也「俺たち、かわるがわるシュートで狙うから」



486 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:14:04.94 ID:1qYNd8dxO

春原「ってそれ、的が僕のみのストラックアウトですよねぇっ!?」

律「わははは! そっちのがおもしろそうだな!」

春原「僕はまったくおもしろくねぇよ!」

春原「最初はチーム分けだろ、チーム分けっ」

朋也「じゃ、春原対アンチ春原チームでいいか」

春原「僕を集団で攻撃するっていう構図から離れてくれませんかねぇっ!」

朋也「でも、俺たち奇数だしな。綺麗に分けられないし」

春原「だからって、僕一人っていうのは理不尽すぎるだろっ」

朋也「じゃあ、おまえ、右半身と左半身で真っ二つに別れてくれよ。それで丸く収まる」

春原「僕単体を無理やり偶数にするなっ!」

春原「って、もうボケはいいんだよっ」

春原「平沢、どうすんだ」

唯「う~ん、そうだねぇ…まず、春原くんと岡崎くんは別チームにしなきゃね」

春原「あん? なんで」

唯「男の子だからね。分けておきたいから」



487 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:14:29.64 ID:cUBlBpOS0

春原「ああ、なるほどね。いいよ」

唯「後は私たちで別れるよ」

春原「わかった」

唯「じゃ、みんな、ウラかオモテしよう!」

律「久しぶりだなぁ、そんなことすんの」

澪「律、なんでチョキを出そうとしてるんだ。じゃんけんじゃないんだぞ」

律「お約束お約束」

皆平沢のもとに集合し、円を作っていた。

春原「へっ、チーム春原対チーム岡崎の頂上決戦だな、おい」

朋也「今までトーナメント勝ちあがってきたみたく言うな」

春原「ドーハの悲劇が起こらなきゃいいけどねぇ、ふふん」

こいつは、絶対ドーハの悲劇が言いたかっただけだ。

―――――――――――――――――――――

チーム分けが終わり、メンバーが決まった。
Aチームは、俺、憂ちゃん、真鍋、秋山、部長。
Bチームは、春原、琴吹、中野、平沢。
こっちの方が人数は多いが、春原は元サッカー部だ。



488 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:15:48.53 ID:1qYNd8dxO

人材の差で、そこまでのハンデにはならないだろう。
両陣営に別れ、ボールを中央にセットする。
ちなみに、持ってきたボールは部長の弟のものだそうだ。
それはともかくとして、先攻は春原チーム。

春原「よし、キックオフだっ」

横にいた中野からパスを受け、春原がドリブルで切り込んでくる。

律「おっと、通すかよっ」

それに部長が対応した。

春原「はっ、デコのくせにスタメン起用か。世も末だなっ」

律「なにぃっ! 本田意識して金髪にしたようなバカのくせにっ」

律「実力が違いすぎて違和感あるんだよ、アホっ!」

春原「隙アリっ! とうぅっ」

律「わ、やべっ」

股の間にボールを通され、突破される。
屈辱的な抜かれ方だ。

春原「ははは、甘いんだよっ」

朋也「おまえがな」



489 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:16:14.27 ID:cUBlBpOS0

春原「ゲッ、岡崎っ」

通された先、俺が待ち構えていた。
ボールを奪い、カウンターを仕掛ける。

しかし初心者の俺では春原のようにボールコントロールが上手くいかない。
走ってはいるが、スピードが出せないのだ。
後ろからは春原が追ってくる。
前からは中野。

俺は周囲を見てパスを出せるか確認した。
秋山が右サイドに上がっている。しかもフリーだ。
好機と見て、パスを送ろうとした時…

梓「ていっ!」

ずさぁあっ!

朋也「うぉっ」

ボールではなく、直接俺の脚めがけてスライディングが飛んできた。
間一髪かわす。

梓「チッ」

朋也(舌打ちって、おまえ…)

春原「よくやった、二年!」

春原がボールを拾う。

律「今度は絶対通さねぇーっ」



491 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:17:36.67 ID:1qYNd8dxO

春原「平沢、押し込めっ」

前線にいる平沢にパスを送った。

律「あ、ずりぃぞっ! 勝負しろよ!」

春原「ははは、また今度な」

律「くそぅ、勝ち逃げしやがって…」

朋也「真鍋、頼んだぞっ」

真鍋は攻め込んできていた平沢をマークしていた。
ボールを受けた平沢と一対一の状況になっている。

唯「和ちゃん、幼馴染だからって手加減しないよっ」

和「その必要はないわ。あんた、運動神経ゼロじゃない」

唯「ムカっ! メガネっ娘に言われたくないよっ」

和「なら、私を抜いてゴールを決めてみなさい」

唯「言われなくてもっ」

平沢が走り出す。
…ボールをその場に置いたまま。

和「せめて、ボールを蹴るくらいはしなさいよ…」



492 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:17:58.23 ID:cUBlBpOS0

ぼん、と蹴ってクリアする。

唯「ああ!? 和ちゃんの鉄壁メガネディフェンスにやられた!」

和「なにもしてないけどね…」

春原「なぁにやってんだよ、平沢っ」

唯「ごめぇん、和ちゃんの動きが速すぎて見えなかったよぉっ」

その珍回答に、ずるぅ、とこける春原。

春原「…わけわかんねぇ奴だな…」

朋也「秋山、いけっ、ドフリーだぞっ」

さっきクリアされたボールは、秋山の手に渡っていた。
ゴールを遮るものは、キーパー以外なにもない。
ドリブルで進んでいく。

澪「ムギ、私は本気でいくからな」

紬「くす…どうぞ」

澪「はぁっ」

どかっ

紬「みえたっ」



493 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:19:06.00 ID:1qYNd8dxO

ばしぃっ!

飛び込みキャッチでボールを抱え込む。

澪「うわ、すごいな、ムギ…」

澪「って、ムギ…?」

琴吹はボールを抱え込み、そのまま足で締め上げていた。

紬「あ、つい癖で…」

ボールを持ち、立ち上がる。

紬「掴んだら逆十字で折って、そのまま三角締めに移行するよう言われてるから…」

つまり、ボールに関節技を掛けていたのか…。
つーか、そんな球体に間接なんかない。

澪「なんかわかんないけど、とりあえずすごいな…」

紬「ありがと。そぉれっ」

蹴りではなく、投げでボールをフィールドに戻した。
それなのに、なかなかの飛距離があった。
女にしては、かなりの強肩だ。

澪「すご…」

放物線を描き、やがて地面に着地する。



494 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:19:29.99 ID:cUBlBpOS0

2,3バウンドした後、ころころと転がった。
それを拾ったのは春原だ。
またドリブルで切り込んでくる。

律「させるかっ」

春原「またおまえか。おまえじゃ僕を止められねぇよ」

律「ふん、ほざけよ…」

じりじりと膠着状態が続く。

春原「ほっ」

律「あ、ちくしょっ」

春原は一度パスを出すフェイントを入れ、スピードで抜き去った。
俺がフォローに回る。
すると、フリーになった中野にパスが回った。
今度はこちらに失点の危機が訪れた。

梓「憂、岡崎先輩側に回るなんて、許さないからっ」

憂「そんなぁ、運だから仕方ないのにぃ…」

梓「御託はいいのっ! やってやるですっ」

憂「――――√v―^―v―っ!!」

憂ちゃんが機敏に動き出す。



495 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:20:46.69 ID:1qYNd8dxO

どかっ!

憂「ここだよっ」

バシィ!

その移動した先、どんぴしゃでボールが飛んでいった。

梓「な、なんで…私が打つ前に…」

憂「うーん、先読みって奴かな?」

ニュータ○プか。

梓「く…憂…やっぱりあなどれない…」

律「憂ちゃーん、パスパース!」

憂「はぁーい。いきますよぉ、律さん」

ボールが高く蹴られた。
グラウンドには、俺たちの声がこだましている。
まるで、はしゃぎまわる子供のようだった。
空を見上げる。
天気もよく、すみずみまで晴れ渡っている。
そんな中、たまにはこうやって健康的に汗を流すのも、悪くないものだ。

―――――――――――――――――――――

律「ふぃ~、ちかれたぁ~…」



496 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:21:30.73 ID:cUBlBpOS0

紬「お疲れ様。はい、アイスティー」

紙コップを渡す。

律「お、テンキュー」

ひとしきり遊んだ後、ピクニックシートを敷いて休憩を入れていた。
琴吹が用意してくれたケーキや紅茶、各自持ち寄った菓子類を囲んで座っている。

律「ぷはぁ、うめぇーっ」

澪「確かに、運動の後の一杯は格別だよな」

律「運動か…じゃ、今日はカロリーとか気にせず食べられるな、澪」

澪「別に、いつもそんな神経質になってるわけじゃ…」

律「嘘つけ、いつも写メで自慢のセルライト送ってくるじゃん」

澪「そんなことしたことないだろっ」

ぽかっ

律「あてっ」

春原「ははっ、殴られてるよ、こいつ」

律「ツッコミだっつーのっ」

朋也「おまえはいつもラグビー部に死ぬ寸前までガチで殴られてるけどな」



497 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:23:53.61 ID:1qYNd8dxO

春原「言うなよっ!」

律「わはは、だっせーっ!」

春原「黙れっ、負けチームっ」

律「ああ? まだ試合は終わってないだろ。つーか、たった一点リードしてるだけじゃん」

律「このハーフタイムが終わったら一気に逆転してやるよ」

春原「ふん、せいぜい無駄な足掻きをすればいいさ」

律「けっ、威張ってられるのも今のうちだぜ」

春原「はーっはっはっは!」
 律「はーっはっはっは!」

悪者のように高笑いする二人。

唯「なんか、生き生きしてるよね、春原くん」

隣にいた平沢が俺にそっと話しかけてくる。

朋也「かもな。あいつがあんなノリノリになってる時なんて、あんまないからな」

悪ふざけしている時ぐらいにしか見せない顔だった。

唯「じゃあ、やってよかったのかなぁ、サッカー」

朋也「ああ、多分な」



498 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:24:26.00 ID:cUBlBpOS0

言って、頭に手を乗せようとすると…

梓「ていっ」

ばしっ

朋也「って…」

中野に払われてしまった。

梓「唯先輩、このクッキーおいしいですよ。
  あ~んしてください。私が食べさせてあげます」

唯「わぁ、ありがとうあずにゃんっ」

唯「あ~ん」

寄り添って、口にクッキーを運ぶ中野。

唯「むぐむぐ…おいひぃ~」

梓「ですよね」

にやり、と俺を見てほくそ笑んでいた。

朋也(なんなんだよ、こいつは…)

―――――――――――――――――――――

律「うし、そんじゃ、そろそろ再開するか」



499 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:25:52.39 ID:1qYNd8dxO

菓子類も一通り食べつくし、しばらくだらけていると、部長がそう声を上げた。

春原「後半戦の開始だね」

律「開始五分で逆転してやるよ」

春原「はっ、軽く追加点取ってやるよ」

律「自分のゴールにハットトリックしてろ、オウンゴーラー春原め」

春原「おまえこそ、レフリーに後ろからスライディングかまして一発退場してろ」

ぎゃあぎゃあ言い合いながら立ち上がり、グラウンドへ向かって行った。
残された俺たちも、やや遅れてそれに続く。
すると…

男1「あれ? なにこいつら」

男2「あ、軽音部の子じゃね?」

男3「うぉ、マジだ」

男4「つか、春原もいるんだけど」

男5「岡崎もいるぞ」

男6「なに、あの組み合わせ」

向こうから私服の男たちが6人、ぞろぞろとやってきた。



500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:26:26.09 ID:cUBlBpOS0

春原「ちっ…」

俺は春原のそばまで小走りで寄っていった。

朋也「おい、春原、あいつら…」

春原「…ああ、サッカー部の連中だよ」

朋也「練習しにきた…ってわけじゃないよな」

春原「だろうね。向こうも僕らと同じで遊びに来たんだろ」

なら、試合があったわけじゃなく、朝練が終わって解散していただけだったのか…。

サッカー部員「おい、春原。ここでなにしてんだよ」

話していると、ひとりの男が若干敵意を含んだ言い方でそう訊いてきた。

春原「別に、遊んでるだけだっつの」

サッカー部員「そっちの軽音部の子たちはなんなんだよ」

春原「こいつらも、同じだよ」

サッカー部員「は? おまえ、軽音部の子たちと遊んでんの?」

サッカー部員「うわ、ありえねー」

サッカー部員「こんな奴がよく取り合ってもらえたな」



501 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:27:45.88 ID:1qYNd8dxO

サッカー部員「土下座して頼んだんじゃねぇの、僕で遊んでくださ~いってさ」

部員たちに、どっと笑いがおこる。

春原「ぶっ殺すぞ、てめぇらっ!」

春原がキレて、殴りかかっていく勢いで一歩を踏み出す。

サッカー部員「は? また暴力かよ」

サッカー部員「変わんねぇな、このクズは」

サッカー部員「おまえのせいで俺たち、どんだけ迷惑したかわかってんのか」

サッカー部員「関係ない俺たちまで、いろんなとこで頭下げさせられたんだぞ」

サッカー部員「新人戦だって出られなかったしな。実績あげないと、推薦だって危ういのによ」

サッカー部員「まだそのことで謝ってもねぇのに、あまつさえ俺たちに暴力振るうのかよ」

サッカー部員「今度は退学んなるぞ、てめぇ」

春原「……くそっ」

踏みとどまる。
そうさせたのは、退学だなんて脅しじゃない。
きっと、胸の奥底では感じていたであろう罪悪感の方だったはずだ。

サッカー部員「君ら、軽音部の子たちだよね?」



502 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:28:25.66 ID:cUBlBpOS0

春原に取っていた態度とは打って変わって、陽気に声をかけてくる。

サッカー部員「こんな奴らとじゃなくてさ、俺らと遊ばね?」

自分たちから一番近い位置にいた部長に訊いてから、後方にいた連中を眺め渡した。

律「………」

だが、部長を筆頭に、誰もなにも言わない。

サッカー部員「うわぁ、やっぱ、りっちゃん可愛いって」

サッカー部員「ばっか、澪ちゃんだろ」

サッカー部員「俺唯ちゃん派」

サッカー部員「あずにゃんだろ、流石に」

サッカー部員「おまえら、ムギちゃんのよさわかれよ」

答えないでいると、その内、内輪で盛り上がり始めた。

サッカー部員「つか、見たことない子もいるけど、あの二人もかわいくね?」

サッカー部員「うぉ、マジだ。後ろで髪上げてる子と、メガネのな」

サッカー部員「つか、メガネのほうは、生徒会長じゃん」

サッカー部員「そうなの?」



503 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:29:38.92 ID:1qYNd8dxO

サッカー部員「昨日発表あったじゃん」

サッカー部員「知らねぇ。寝てたわ、多分」

一斉に笑い出す。

律「…わりぃけど、あんたらと遊ぶ気にはなんないわ」

サッカー部員「えー、なんでだよ」

サッカー部員「カラオケいこうよ。おごりでもいいよ」

律「あたしら、サッカーしに来てんだよね。カラオケなら、あんたらでいきなよ」

サッカー部員「サッカー? 俺らも、そうなんだけど」

サッカー部員「サッカーがしたいなら、俺らのほうがいいよ」

サッカー部員「春原みたいな半端な奴とか、岡崎みたいなただのヤンキーとやるより楽しいよ」

サッカー部員「そうそう、いろいろヤって、楽しもうよ」

サッカー部員「ははは、腰振んなよ、おまえ」

サッカー部員「ははははっ」

サッカー部員「ははっ、てかさぁ、春原が今更サッカーってどうなの」

サッカー部員「マジ、ウケるよな」



504 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:30:12.04 ID:cUBlBpOS0

サッカー部員「どうせ素人相手にカッコつけたかったんだろ」

サッカー部員「それしかねぇな。マジでカスみてぇ」

唯「…どうしてそこまでいうの?」

平沢が口を挟む。

サッカー部員「ん?」

唯「春原くんが喧嘩して、大会出られなかったのは、残念だったけど…」

唯「もう、終わったことなんだし…そんなに言わなくてもいいでしょっ!」

サッカー部員「あー、あのさぁ…」

一番体格のいい男が、ぽりぽりと頭を掻きながら前に出てくる。

サッカー部員「まぁ、お遊びクラブで仲良しこよしやってる子には、わかんないかもだけどさ…」

サッカー部員「俺ら、マジで部活やってんだ? そんで、将来とか懸かってんの。わかる?」

澪「そんな、私たちだって真剣に…」

サッカー部員「軽音部って、茶飲んでだらだらしてるだけなんでしょ? けっこう有名だよ」

澪「それは…」

梓「そんなことないですっ! 馬鹿にしないでくださいっ!」



505 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:31:23.41 ID:1qYNd8dxO

サッカー部員「ああ、ごめんね。馬鹿にしてないよ」

サッカー部員「あずにゃんのプレイ、最高~」

サッカー部員「萌え萌え~」

他の部員が横から茶化しを入れると、皆へらへらと笑いあった。

梓「………」

中野の顔が紅潮していく。
奴らの態度は、どうみても馬鹿にしているそれだった。

サッカー部員「ま、だからさ、公式戦って、超大事なんだ。
       それを台無しにされたら、普通怒るよね」

唯「でも…でも…言ってることがひどすぎるよ…」

サッカー部員「クズにはなに言ってもいいんだよ」

唯「クズなんかじゃないよっ! 春原くんは、ちゃんとした、いい人だよっ!」

サッカー部員「ぶっははは! それ、マジで言ってんの?」

サッカー部員「いい人とかっ、ははっ、春原がかよっ」

サッカー部員「ああ、やっぱ、唯ちゃん頭弱ぇなぁ」

また下品に笑いあった。

唯「うぅ…」



506 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:31:53.43 ID:cUBlBpOS0


朋也(こいつら…)

もう、限界だった。
そもそも、最初からどこか癇に障る奴らだったんだ。
春原が踏みとどまっていなければ、俺も喧嘩に加わるつもりだった。
一度は耐えたが、それももう終わりだ。
手を出したほうが負け? そんなもん知ったことか。
喧嘩を売ってきたこと、死ぬほど後悔させてやる。

春原「おい、岡崎…」

朋也「…ああ」

春原も俺と同意見のようだった。
ぶっ飛ばしてやろうと、そう意気込んだ時…

律「あーあ、もういいや。みんな帰ろうぜ」

部長がそう言った。

律「なんかこいつらもここ使うみたいだし…
  それに、しらけちゃったしな。変なのが来たせいで」

律「はい、撤収~」

言って、敷かれたままのピクニックシートの方に足を向けた。

サッカー部員「や、ちょっと待とうよ」

部長の腕を掴んで引き止める。



507 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:33:11.56 ID:1qYNd8dxO

サッカー部員「ぜってぇ俺らと遊んだほうがおもしれぇって」

律「触んなっ。離せ、バカっ」

その手を乱暴に振り払う。

サッカー部員「っ、んだよ、こいつ…調子乗りすぎ」

サッカー部員「ちっと可愛くて人気あるからって、これはねぇわ」

サッカー部員「ライブとか言って、下手糞な演奏しても、チヤホヤされるもんな」

サッカー部員「ああ…それはあるかも」

サッカー部員「よな? 聴きに来てる奴らなんか、ほとんどこいつらの体目当てだし」

サッカー部員「体って、おまえさっきからエっロいな」

サッカー部員「はは、うっせぇ」

律「なんだと…? 大人しく聞いてりゃ、つけあがりやがって…」

サッカー部員「え? 怒っちゃう? もしかして、自覚なかったの?」

サッカー部員「うわぁ、勘違い系?」

サッカー部員「痛ぇ奴」

サッカー部員「つーか、部員が可愛い子ばっかなのはそういうことだろ、どうせ」



508 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:33:41.33 ID:cUBlBpOS0

サッカー部員「ああ、全員が客寄せパンダってことな。じゃ、図星突かれて怒ったのか」

サッカー部員「ははは、マジでそれっぽ…」

いい終わる前、その部員は殴り倒されていた。

サッカー部員「っつ…てめぇ、春原ぁっ!」

倒れこんだまま、怒声をあげる。

春原「馬鹿にしてんじゃねぇっ!」

春原が吠えた。

律「春原…」

春原「こいつらはなぁっ、そんなんじゃねぇんだよっ!」

サッカー部員「はぁ? なんだこいつ…」

春原「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」

突っ込んでいく。
たちまち乱闘になった。

澪「ど…どうしよう、誰か呼んでこないとっ…」

朋也「やめてくれ。んなことされたら、俺らが捕まっちまうよ」

澪「え…」



509 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:35:16.17 ID:1qYNd8dxO

朋也「真鍋、事後処理頼めるか」

和「ま、なんとかしてみるわ」

朋也「頼んだぞ」

前を見る。
春原が囲まれて、四方から蹴りをもらっていた。
ぐっ、と拳にに力を込める。
2対6。不利だが、不思議と負ける気はしなかった。

朋也「てめぇら、俺に背中向けてんじゃねぇっ!」

唯「あっ、岡崎くんっ…」

後ろから平沢の声がした。
だが、振り返ることはしなかった。
まっすぐ敵に向かって拳を振り下ろす。
相手の嗚咽する声と、拳に鈍い痛みが走ったのは同時だった。

―――――――――――――――――――――

呼吸が苦しい。
ずっと全力で殴り続けていたから、まったく余力が残っていない。
体重を支えるその脚にも、まともに力が入らない。
立っているのがやっとだった。
それに加え、身体中が痛む。
打撲に、擦り傷、切り傷…鼻血も出ている。
口の中には血の味が広がっていて、なんとも気持ち悪かった。
もう、ボロボロだ。



510 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:35:51.94 ID:cUBlBpOS0

春原「楽勝だったな……げほっ」

散々殴られたその顔で、苦しそうに咳き込んだ。
ひどい表情だ。きっと今、俺も同じ状態なんだろう。

朋也「その顔で言うなよ…」

春原「へっ…」

ぐい、と血を拭う。

春原「ま、やっぱ、僕ら最強ってことだね…」

朋也「特に俺はな…」

春原「あんた、結構ナルシストっすね…」

喧嘩は、一応の決着がついた。
KOというわけじゃない。連中の方が撤退していったのだ。
それほど喧嘩慣れしていなかったのだろう。
痛みと、本気で殴りかかってくる相手への恐怖からか、終始引き気味だった。
そのおかげで、あまり長引かずに済んだ。
部活も辞めて長いこと経ち、持久力の落ちている俺たちにはありがたかった。

和「お疲れ様」

真鍋がタオルを渡してくれる。
俺たちはそれを受け取り、汗と血を拭き取った。
そして、顔を上げて一番最初に目に入ってきたのは、泣いている平沢の姿だった。
見れば、部長と真鍋以外、全員すすり泣いていた。



513 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:45:38.09 ID:cUBlBpOS0

律「あんたら…大丈夫か」

春原「無傷だけど」

律「そんなわけないだろ、見た目的にも…」

和「なんにせよ、治療は必要ね」

朋也「そうだな。おまえの部屋、なんかあったっけ」

春原「絆創膏ならあるよ」

朋也「ないよりマシか…まぁ、いいや」

朋也「そういうことだからさ、悪いけど俺たち、帰るわ。もう、フラフラだからな…」

和「待って。絆創膏だけじゃ駄目よ」

和「私たちが薬局で必要なもの買ってくるから、待ってて」

春原「できれば、もう帰りたいんすけど…」

和「じゃあ、寮で待ってて。確かあなた、地方からの入学で、寮生活してたわよね」

春原「はぁ、まぁ…」

和「唯と律はこの二人を支えながら送ってあげて」

和「坂の下をちょっと行ったところに寮があるから、そこまで」



516 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:47:17.92 ID:1qYNd8dxO

唯「ぐす…うん…わかったよ…」

律「お、おう」

和「憂と琴吹さんは、グラウンドをトンボでならしておいて欲しいんだけど…」

それは、血が飛び散って、いたるところに黒いシミを作っていたからだろう。

憂「は、はい、任せてください」

紬「うん、任せて」

和「私と梓ちゃんと澪は、薬局に買出しね」

澪「わ、わかった」

梓「は、はい」

和「じゃ、みんな、さっと動きましょ」

その一言で、各自行動を開始した。
仕切るのが上手いやつだった。
人の上に立つ器とはこういうものなんだろうか…。
ぼんやりと思った。

―――――――――――――――――――――

唯「う…ひっく…ぐすん…」

朋也「おい…もう泣きやめ」



517 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:47:44.11 ID:cUBlBpOS0

唯「だっでぇ…うぅ…」

俺は平沢に、春原は部長に支えられながら、坂を下っていく。

唯「わだしがサッカーやるなんていっだがら…ぐすん…」

朋也「おまえのせいじゃないだろ」

春原「そうそう。あのバカどもが分をわきまえず喧嘩売ってきたのが悪いんだよ」

唯「うう゛…ぐすん」

律「…その件だけどさ、あんた、ちょっと見直したよ」

春原「あん? なんだよ、気色悪ぃな…」

律「いや…ほら、私たちが馬鹿にされたとき、あんた、すげぇ怒ってくれたじゃん?」

律「それがなんていうか…な? 意外だったんだよ」

それは、俺も同じだった。
まさか、こいつの口からあんなセリフが飛び出してくるとは思わなかった。

春原「は…その場のノリって奴だよ。勘違いす…」

春原「おわっ」

つまずく。

律「おい、しっかりし…」



519 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:48:53.54 ID:1qYNd8dxO

春原「ん? なんか今、右手が一瞬柔らかかったけど…」

どごぉっ!

春原「うぐぇっ」

春原のレバーに部長の鉤突きが突き刺さる。

律「どさくさにまぎれて、どこ揉んでんだ、こらぁっ!」

春原「い、いや…違う、そんなつもりじゃ…」

律「くそぉ、こんな変態、見直したあたしが馬鹿だった…」

春原「って、なに髪つかんでんだよっ、っつつ…」

律「あんなたなんかこれで十分だっつの! さっさと歩けっ、ボケっ」

春原「うわ、やめろっ、スピード落とせっ!」

どんどん坂を下っていく…いや、引きずられて、か。

唯「ぷ…あははっ」

あのふたりに感化されたのか、平沢がぷっと吹き出し、笑みを浮かべていた。

唯「もう…ほんと楽しそうだなぁ…」

朋也「じゃあ、おまえが今日サッカーに誘ったこと、無駄じゃなかったな」



520 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:49:16.57 ID:cUBlBpOS0

唯「そうかな…」

朋也「ああ。結果よければ、全てよしってやつだ」

唯「あは…うん、ありがと」

―――――――――――――――――――――

春原の部屋。
ここに、全員が集まっていた。
トンボ班と、医療班には、メールで部屋の番号を伝えていた。
寮の場所は、坂下から一直線なので、それだけでよかったのだ。

春原「いつつ…」

紬「あ、ごめんなさい。しみた?」

残りの連中が部屋に駆けつけてくれた時。
先に帰りついていた俺たちは、何事もなかったかのようにくつろいでいた。
その様子に、最初はポカンとしていたが、それも少しの間のこと。
何も言わず、顔をほころばせ、すぐに馴染んでくれていた。

春原「いや、大丈夫。ムギちゃんの愛で癒してくれれば」

紬「え? それは、どういう…」

春原「傷口を舐めて消毒して欲しいなっ」

紬「えっと…ごめんなさい、手刀でいい?」



521 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:50:27.14 ID:1qYNd8dxO

春原「患部ごと切り落とすつもりっすか!?」

律「わははは!」

これも、いつも通りだった。
少し前、凄惨な暴力を目の当たりにして、泣いていたのに。
今では、穏やかな空気さえ漂っていた。

朋也「と、つつ…」

澪「あ、ごめんなさい」

朋也「ああ、大丈夫。気にすんな」

俺も春原同様、治療を受けていた。

律「澪、おまえ、血苦手なのに、よくやんなぁ」

澪「消去法で、私しか残らなかったんだから、しょうがないだろ」

そうなのだ。
最初、平沢と憂ちゃんがやりたがってくれていたのだが、中野によって却下された。
その中野自身はやってもいいと言っていたが、悪意を感じたので遠慮しておいた。
部長と真鍋は不器用だと自己申告していたし…
それで、最後に残ったのが秋山だったのだ。

朋也「苦手なら、自分でやるけど」

澪「で、でも、背中とか、わからないでしょうし…私がやりますよ」



522 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:50:44.20 ID:cUBlBpOS0

朋也「そっか…じゃあ、よろしく」

言って、上着を脱ぐ。

澪「って、ええ!?」

朋也「ん? なんだよ」

澪「なな、なんで脱いで…」

朋也「だから、背中やってくれるんだろ」

澪「そそ、そうですけど…」

朋也「じゃ、よろしく。おわったら、自分でやるから」

背を向ける。

澪「うう…」

律「きゃぁ、澪がたくましい男の背中に見ほれてるぅ」

澪「ううう、うるさいっ!」

朋也「ぐぁ…」

部長の煽りで力が入ったのか、傷口に痛みが走った。

澪「あ、ご、ごめんなさい…」



523 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:51:52.48 ID:1qYNd8dxO

律「澪~、ダーリンを傷つけちゃダメだぞぉ」

澪「だだだ、ダーリンって…」

朋也「うぐぁ…」

澪「あ、また…ご、ごめんなさい」

朋也「部長…マジでしばらく黙っててくれ…」

律「きゃはっ! ごめんねっ、てへっ!」

こつん、と頭にセルフツッコミを入れた。

朋也(ったく…)

―――――――――――――――――――――

紬「はい、これでよし」

春原に最後の絆創膏を貼り終える。

春原「ありがと、ムギちゃん」

律「おまえ、それくらいは自分でやれよな…」

春原「せっかくムギちゃんが全部やってくれるっていうんだからね」

春原「のっかっておかなきゃ、未練なく成仏できねぇよ」



524 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:52:08.55 ID:cUBlBpOS0

律「地縛霊みたいな奴だな…」

春原「それくらい僕の愛は深いってことさ。ね、ムギちゃん?」

紬「あら? この異様に盛り上がってる部分の床はなにかしら」

春原「って、余計な詮索しちゃだめだよっ!」

律「ああ…エロ本か」

澪「……うぅ」

春原「ちがわいっ!」

朋也「そのエリアはかなりディープなのが隠されてるぞ」

春原「エリアとか、妙にリアリティのある嘘つくなっ!」

春原「ムギちゃんも、剥がそうとしないでね…」

紬「あ、ごめんなさい。好奇心が抑えられなくて…」

春原「はは…まぁ、ただの欠陥住宅だったんだよ、ここ」

朋也「住んでる奴の気が知れねぇよな」

春原「住人の目の前で言うなっ!」

律「わははは!」



526 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:53:28.33 ID:1qYNd8dxO

部長が笑う。
平沢も、憂ちゃんも、琴吹も、真鍋も、秋山も、中野も…みんな笑っていた。
俺も、つられてちょっとだけ笑ってしまう。
ツッコミを入れた春原自身も、苦笑していた。

春原「ああ…そうだ」

春原「ところでさ、平沢」

唯「ん? なに?」

春原「僕がサッカー辞めた理由、知ってたみたいだけどさ…」

春原「こいつから聞いたの?」

唯「えっと…うん…」

唯「私が、しつこく軽音部にきてくれるように言ってたら…教えてくれたんだ」

唯「ごめんね…知ってて、サッカーしようって、誘ったんだ、私…」

春原「いや…いいよ。それなりに楽しかったしね」

春原「………」

春原「まぁ、これから言うことは、適当に聞き流してくれていいんだけどさ…」

みんなが春原に注目する。

春原「あのさ…」



527 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:54:01.13 ID:cUBlBpOS0

窓の外、暗くなった外を見上げながら、春原はぽつりと語りだす。

春原「僕、とんでもねぇ学校に入っちまったと思ってた」

春原「ガリ勉強野郎ばっかりでよ…」

春原「部活でも、みんな先のことしか考えてねぇんだ」

春原「絶対、友達なんか作らねぇって思ってた」

春原「意地張ってたのかな、やっぱり」

春原「でもさ…そうすると…」

春原「僕の心が保たなくなってたような気がする…」

朋也「………」

それは、俺も同じだった。
同じように考えて…同じように苦しんでいた。

春原「中学の頃の連れは、みんな中卒で働いてたしさ…」

春原「そいつらの元にいきたいって思うようになったんだ」

春原「サッカー部の連中に苛立ってたのが、半分で…そんな思いが半分で…」

春原「それで、やらかしちゃったんだ」

春原「他校の生徒相手に大暴れしてさ…」



528 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:55:06.69 ID:1qYNd8dxO

春原「退部になれば、自主退学に追い込まれて、実家に帰れるって思ってた」

春原「おまえ、覚えてるか?」

春原「初めてあったときのこと」

朋也「…ああ」

脳裏にふと思い浮かぶ。
鮮明で、鮮烈に記憶されている光景だった。

春原「おまえに会ったのは、その時だよ」

春原「あん時、おまえは幸村のジジィと一緒だった」

春原「生活指導を受けて、ジジィが担任だったから、引き取りに来てたんだよな」

朋也「だったな…」

春原「それでさ…」

春原「おまえさ、ボコボコに顔を腫らした僕を見てさ…どうしたか、憶えてるか?」

朋也「…ああ」

―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

春原「…大笑いしたんだよな、おまえ」



529 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:55:26.53 ID:cUBlBpOS0

春原「涙流しながら、笑ってたよ」

春原「すげぇ不思議だった」

春原「なんでこいつ、こんなにおかしそうな顔して笑ってるんだろうってな…」

春原「そう考えてたら、僕までおかしくなってきた」

春原「我慢しようとしたけど、ダメだった」

春原「僕も、笑っちゃったよ」

春原「この学校に来てから、あんなに笑ったのは、初めてだった」

春原「すげー気持ちよかった」

朋也「そう…だったな」

あの時の情景。
思い出してみると、自然と笑みがこぼれた。

春原「あの後、ジジィに連れられて、宿直室いったら、さわちゃんいてさ…」

春原「そこで用意してくれてた茶飲んで…おまえと話したんだよな」

春原「今なら、なんとなくわかるよ」

春原「全部、あのジジィとさわちゃんが仕組んでたんだぜ」

春原「僕とおまえを引き合わせてさ…」



530 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:56:44.13 ID:1qYNd8dxO

春原「ふたりを卒業させるって」

春原「きっと、一人じゃ辞めてしまうって、気づいてたんだよ」

春原「いつか、訊いてみないとな」

春原「どうして、僕たちをこの学校に残したのかって」

朋也「だな…」

―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

春原「ま、後はもう一年だけどさ」

春原「またよろしくってことで」

朋也「ああ」

平沢たちは、しんみりとした表情で、じっと春原の話に聞き入っていた。
こんなに人がいるにも関わらず、静かな室内。
俺たちだけの言葉だけが響いていて、それがどこか心地よかった。

春原「つーか、腹減ったなぁ…どっか食い行くか、岡崎」

朋也「そうだな、いくか」

春原「おまえら、どうする。ついてくる?」

律「ん…なんか、今日は外食って気分だし…私はいいけど」



531 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:57:03.42 ID:cUBlBpOS0

唯「私もいく! 憂も、くるよね?」

憂「うん、もちろんっ」

澪「私も、行きたいな…」

紬「私も。みんなで晩御飯なんて、楽しそう」

梓「じゃあ…私も」

和「ここまで付き合ったんだし、私も最後までいくわ」

春原「よぅし、全員か。じゃ、僕について来い」

律「どこいくんだよ」

春原「全皿100円の回転寿司だよ。知らねぇのか、スシロゥ」

律「知ってるけどさぁ…貧乏臭ぇなぁ…回転しない高級店でも連れてけよなぁ」

春原「なにいってんだ、ボケ。その場で自転するシャリでも食ってろ」

律「なんだと、こらっ!」

軽口を叩きあいながら、部屋を出ていく。
俺たちも、その様子を目にしながら、あとに続いた。

―――――――――――――――――――――

…二年前。



532 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:58:18.94 ID:1qYNd8dxO

俺は、廊下である奴とすれ違った。
金髪のヘンな奴だった。
その顔はもっとヘンで、見ただけで大笑いした。
この学校に来て、初めてだった。
ああ、まだまだ笑えたんだって思った。
それが無性にうれしかった。

小さな楽しみを見つけた。
こいつと一緒に馬鹿をやってみよう。
やってみたら、やっぱりすごく楽しかった。
また、大笑いできた。
それが楽しくて、嬉しくて…
なんども、俺たちは笑ったんだ。
そして今も俺たちは…

―――――――――――――――――――――

春原「おーい、いい加減ネタ回してくれよ」

律「しょうがねぇだろぉ、九人も横に並んでんだぜ」

春原「だから、ちょっとは気を遣えって言ってんだけど」

朋也「わかったよ、ほら、今リリースしてやる」

回転棚に皿を載せる。

朋也「みんな、手つけないでくれ」

春原「おおっ、さすが岡崎、いい親友っぷりだねっ」



533 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:58:37.92 ID:cUBlBpOS0

春原の元に無事到着する、俺の放った皿。

春原「って、これ、ワサビしか乗ってないんですけどっ!」

朋也「頼んだぞ、リアクション芸人。いまいちな感じだと、業界干されちゃうぞ」

春原「素人だよっ!」

律「わははは!」

大将「お客さん、食べ物で遊ばれたら、困るんですけどねぇ…」

春原「ひぃっ」

強面の寿司職人に凄まれる春原。

朋也「完食して詫びろっ」



535 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 19:59:18.77 ID:cUBlBpOS0

律「いーっき、いーっき!」

春原「無理だよっ」

大将「お客さぁん…」

春原「う…食べます、食べます…」

ぱく

ぎゃああああああああああぁぁぁぁ…

―――――――――――――――――――――

     春原と初めて出会った日。

 あの日から、小さな楽しみを積み重ねて…

     そして、今も俺たちは…



       笑っている。

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