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朋也「軽音部? うんたん?」#20 【クロス】


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朋也「軽音部? うんたん?」#index




131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:10:45.00 ID:+UZ/pLeq0

唯『ごはんはおかずでした。改めまして、放課後ティータイムです』

わっと歓声が上がる。その迫力に圧倒されたのか、少し後ずさる唯。
でもすぐにマイクへ戻った。

唯『私たち3年生のメンバーはみんな同じクラスなんですけど…』

唯『さっきまで演劇をやってて大変だったんですよぉ』

唯『りっちゃんの演技見てくれました? すごかったですよね』

声「田井中ー、おまえ格闘技やれよーっ」

声「才能あるぞーっ」

律『はは、テェンキュー』

唯『りっちゃん、なんかやってよ』

律『あん? なにをだよ』

唯『なんかジュリエッ斗のセリフ』

律『あー、ま、いいけど』

気だるげにドラムスティックを置き、マイクをスタンドからはずす。

律『ん、あー…どんな道をたどろうと、必ずお前は始めるさ――』

律『喧 嘩 商 売を』



133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:11:58.74 ID:jpDSDOMkO

声「おおおおおお!! かっけぇっ!!」

声「熱すぎるだろっ!!」

声「きゃあー抱いてぇ、りっちゃーーんっ!」

声「俺もりっちゃんみたいに強くなれるかなぁーっ?」

律『なれるよあたしの弟子だからな。お前才能あるよ』

声「うおぉおおおおおおおっ!!」

観客と掛け合いを繰り広げ、異様な盛り上がりを見せていた(主に男)。

唯『あ、それで、春原くんがロミ男だったんですよ』

声「しってるー」

声「ていうかへたれー」

春原「うっらぁーっ! なんだその温度差は、くらぁっ!」

声「怒ってる気がするー」

声「どっかにいるんじゃねー」

完全になめられていた。

春原「後でぶっ殺す…」



134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:12:22.10 ID:+UZ/pLeq0

唯『あはは…ん、ちなみに私は女子高生G役で、しまぶーに…』

紬『それ以上はまずいわよ、唯ちゃん』

琴吹が颯爽と割ってはいる。

唯『あ、そうだった…ふぅ、危なかった。ありがと、ムギちゃん』

紬『ううん、ちょっと保身も入ってたから』

声「やばそうだな、なんか」

声「自主規制ー、はははっ」

おそらく意味はわかっていなかっただろうが、黒さが垣間見えたことでウケていた。

唯『では、次の曲いきましょー…
  あ、ロミ男vsジュリエッ斗は、ムギちゃ…琴吹さんがシナリオを書きましたぁ』

紬『ふふ』

手を振る。

声「紬さーん、今度のトーナメント絶対勝ち抜いてくださーいっ!」

声「工藤をヤれますよ、紬さんならっ!」

紬『ありがとーっ。大丈夫、二度と心が折れないようにやってきたからーっ』

声「うおぉおおおおおっ!!」



136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:13:39.06 ID:jpDSDOMkO

…いったい何の話をしているんだろうか。

唯『あれ…次ってどの曲だっけ』

小声でメンバーに問いかけているんだろうが、ばっちりマイクに拾われていた。

律『だからどっかにメモを貼っとけって言っただろぉ?』

同じく部長も声が響く。

唯『どこかになくしちゃったみたいで…』

澪『落としたのか?』

秋山も。

唯『ポケットに入れたと思ったんだけどぉ…』

紬『あ、さっきTシャツに着替えたから…』

琴吹もだった。

唯『はっ! そうかっ!』

唯『うう…ああう…』

わたわたと慌てふためく。
その様子が可笑しくて、周りの連中に混じり、俺も思わず笑ってしまった。

―――――――――――――――――――――



137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:14:34.97 ID:+UZ/pLeq0

唯『…ふわふわたぁ~いむ』

後奏が鳴って、それが止むと、曲も終わった。
そして起こる大喝采。

唯『ありがとうございまぁーす。じゃあ、この辺でメンバー紹介いってみたいと思いますっ』

唯『まずは、顧問のさわちゃんですっ』

さわ子「んな…なんで私?」

いきなりのことで面食らったのか、体勢が前のめりに崩れていた。

澪「………!」

秋山が唯に寄っていき、何かつぶやいていた。

唯『あ、山中先生です! 山中さわちゃん先生』

澪「………っ!」

今度は強めに言っているようだった。

唯「……!」

唯もはっとしている。
おそらくは、公の場で愛称を使ったことを咎められているんだろう。

さわ子「ん…?」



138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:15:51.81 ID:jpDSDOMkO

スポットライトがさわ子さんに当たる。

さわ子「あはは…」

笑うしかないようだった。

唯『山中先生はいつも優しくしてくれて、私たちの部活を応援してくれていますっ』

さわ子「みんな輝いてるわよぉっ!」

口に手を添え、ステージに向かって檄を飛ばした。
やはりこの人は、やる時はやる人だった。

唯『ありがとーございまーす』

壇上から手を振る部員たち。
さわ子さんも満足そうな面持ちだった。

唯『続いて、ベースは澪ちゃんです!』

「澪せんぱーいっ!」

「きゃー、澪先輩っ!」

澪「………」

一礼する。

澪『こんにちは。今日は私たちのライブを聴いて下さいまして、ありがとうございます』



140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:16:54.48 ID:+UZ/pLeq0

澪ちゃーんっ」

一気にフラッシュが上がる。
ファンクラブが創設されるだけあって、秋山人気は相当高い。
それも、同性からの支持が多いようだ。性格のよさがその結果に繋がっているんだろう。

澪『私、ここにいるみんなと一緒にバンドをやってこれて…』

澪『最高ですっ!!』

少し溜めて、そこを強調して言った。

澪『最高ですっ!!』

同じセリフ。それでも飽きることなく歓声は上がり続けていた。

唯『あ、澪ちゃんにはファンクラブもあるんです。
  入りたい人は、公式ホームページを参照してください』

澪『って、そんながあるのか!?』

唯『うん、あるよ。
  図書館のパソコンが、立ち上げた瞬間そこにアクセスするよう悪戯されてたの、知らない?』

澪『し、知らないっ! は、早くその設定を直してくれっ』

唯『あはは、大丈夫だよ。和ちゃんが全部なんとかしてくれたみたいだから』

澪『そ、そうか…よかった』

唯『あ、みなさん和ちゃんは知ってますよね? この学校の生徒会長です』



141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:18:47.24 ID:jpDSDOMkO

唯『それで、和ちゃんは、私の幼馴染なんですけど、物知りで、頭がよくて、いつも勉強を…』

和「……!」

真鍋が袖から出て、何事か訴えている。
と、そこにスポットが当たった。

和「!」

逆光に目を細めながらそそくさと捌けていった。

唯『和ちゃんも一言どうぞ』

そう声をかけると、袖から手だけ出して次へいくよう指示を送っていた。

唯『えー…ん、じゃあ次は、キーボードのムギちゃんです』

かちゃっと音がする。琴吹がスタンドからマイクを取ったのだ。

紬『みなさん、こんにちは。
  私たちの演奏を聴いてくださいまして、ありがとうございますっ』

「せーのっ…ムギーーーーっ!」

「琴・吹! 琴・吹! 琴・吹!」

黄色い声援と荒々しい男の声が半々ずつ聞こえてきた。

春原「ヒューーゥ! ムギちゃん最高ゥ!」

春原もこの場から声援を送る。



142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:19:39.38 ID:+UZ/pLeq0

紬『ありがとーっ!』

大きく両手を振る。

紬『バンドって、すごく楽しいです!
  今も、すっごく楽しいです! もう、ヴァーリトゥードです!』

言って、虚空にむかって突きを放った。
その衝撃波をマイクが拾い、ビュオっという音がしていた。

唯『ムギちゃん、落ち着いて』

紬『あ、つい興奮しちゃって…フー、暑いな…』

型を取り、息吹で呼吸を整えていた。

唯『ムギちゃんの淹れてくれるお茶は、とってもおいしくて、いつも楽しみなんですよぉ』

「あたしも飲みたーい」

「俺も飲みてぇーっ」

紬『いつでも部室にお越しください! 大歓迎ですからっ』

唯『部室にはトンちゃんもいるので会いに来てください』

「トンちゃんてー?」

「トーン! マジトン!」

唯『ああ、トンちゃんはねぇ、
  スッポンモドキって亀なんですけど、鼻がブタみたいで可愛いんですよぉ』



143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:21:48.52 ID:jpDSDOMkO

唯『ね? あずにゃんっ』

梓『え…あ、はい』

唯『ギターのあずにゃんです』

梓「……」

ガタッ キィーン…

急に振られて動揺したのか、マイクスタンドにギターをぶつけていた。

梓『ああ…すいません…』

唯『大丈夫?』

梓『大丈夫です。あ、すいません』

こちらに軽く頭を下げる。

梓『えっと…中野梓です。よろしくお願い、します…』

緊張しているのか、少し萎縮して見えた。

「梓ちゃーん!」

「あーずさーっ」

拍手が響く中、憂ちゃんと連れの子の声が微かに聞こえた。



144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:22:11.28 ID:+UZ/pLeq0

唯『あずにゃんは二年生なんだけど、
  ギターがすっごく上手くて、私もあずにゃんに教えてもらってます』

唯『あずにゃん、ありがとね』

拍手が起こる。

梓「………」

照れているのか、ギターを抱きかかえて小さくなっていた。

唯『次に、ドラムのりっちゃんです! 我が軽音部の部長です!』

律「………」

立ってマイクに近づく。

律『えー、みなさん、今日は軽音部のライブを聴いてくれまして、ありがとうございます』

「緊張してるー?」

「リラックスー、りっちゃーん」

律『…それではまだ未消化の曲がありますので楽しんでいってくださーい』

唯『え?』

梓『短っ』

唯「………?」



145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:23:45.93 ID:jpDSDOMkO

唯が部長に何か尋ねているようだった。
大方、本当にこれで終わっていいのか確認をとっているんだろう。

律「………」

部長が手を振って、巻いてくれ、と示していた。

唯『う~ん、まぁいいや…それじゃあ、次のメンバー紹介にいきます』

唯『といっても、正式な部員じゃないんですけど…
  でも、もはや正部員と比べても遜色がないこの二人組…』

唯『まずは、春原くん!』

春原「え? 僕?」

声を上げるやいなや、スポットライトで抜かれる。

春原「うおっ、まぶし」

唯『春原くんは、いつもいつも私たちを楽しく笑わせてくれます』

唯『もう、春原くんのツッコミがなかったら、
  私たちのボケが成立しないくらいのキーマンぶりです』

律『ただの道化だろー。ツッコミつついじられてるしなー』

春原「うっせー、デコっ」

律『あんだってぇ!?』

唯『このように、りっちゃんとは頻繁に口げんかするんですが、
  次の日になればふたりともケロっとしてるんです』



146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:24:46.24 ID:+UZ/pLeq0

唯『ほんとは、とっても仲良しなんだよね』

  律『んなわけあるかーっ!』
春原「んなわけあるかーっ!」

唯『ほら、息もぴったり』

「フラグたってんじゃねー?」

「うらやましいぞー、春原ーっ」

律『変なこと言うなーっ』

春原「だれがんなデコなんか攻略するかってのっ!」

「ダブルツンデレーっ」

「デレてみろよー」

  律『ざけんなーっ!』
春原「ざけんなーっ!」

唯『はい、コンビ芸ごちそうさまでした』

館内が笑いでどっと沸く。

律『………』

春原「………」



147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:26:13.72 ID:jpDSDOMkO

部長も春原も苦い顔をしていた。
本心ではどうかわからなかったが…いつだって表面上はこうなのだ。

唯『そして、次は、春原くんの親友でもある、朋也!』

春原を照らしていた光が俺に移る。
やっぱりというか…二人組と告げていた時点で来るとは思っていたが…
注目を浴びるのは、なかなかに恥ずかしいものがあった。
こんな大勢の注目を浴びる中で演奏できるあいつらはすごいと、肌で感じる。

唯『朋也は、春原くんと一緒になって私たちのティータイムを盛り上げてくれます』

唯『見た目はすごくクールだけど、ほんとはすごくおもしろくて優しいんですよ』

「マジかよ…岡崎がか」

「信じらんねー。俺あいつに絡まれたことあるぜ」

「こえぇよなー、基本」

「でも最近変わった感じするぞー」

「確かになー」

意見は二つに割れていたが、悪評の方が優勢だった。
今までの行動を振り返ってみれば、それも仕方のないことだったが。
甘んじて受け入れよう。

唯『そして…私は、そんな朋也を好きになって…朋也も私のことを好きだって言ってくれて…』



148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:26:38.77 ID:+UZ/pLeq0

唯『今、絶賛ラブラブカップルを満喫しています!』

朋也(ぐぁ…)

なんて恥ずかしいことをこんな公衆の面前で…
みろ、あんなにざわめいていた会場が水を打ったように静まってるじゃないか…

「てめぇーーっ、岡崎ぃっ!」

「ざっけんなよっ! 下の名前で呼んでもらってたのはそういうことか、こらっ!」

「岡崎くーん、マジ話なの? ちょっといいと思ってたのにぃ」

「ぶっ殺す!! 俺の唯ちゃんをよくも!!」

「小僧! 調子に乗るんじゃねぇぞーっ!

ああ…俺はここから生きて帰れるんだろうか…
敵を大勢作ってしまったような気がする…。

梓『唯先輩、ノロケをMCに乗せないでくださいっ』

唯『えへへ、ごめんごめん…というわけで、次の曲ですっ』

澪『おい、自分の紹介してないぞ』

唯『うわぁ、そうだった、えへへ…』

紬『最後にギターの唯ちゃんです』



149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:28:52.46 ID:jpDSDOMkO

再び拍手と歓声に包まれる館内。

律『唯は見た目のまんまで、のんびりしててすっとぼけてるけど…』

紬『いつも全力で、一生懸命で…』

一言ずつ回していく。

澪『周りのみんなにもエネルギーをくれて…』

梓『とっても頼れる先輩です』

「唯ーっ」

「唯ちゃーんっ」

「岡崎の彼女ーっ」

野次が飛ぶ。

唯『おおっ…どうした、なにがあった?』

壇上では、唯が一人ずつメンバー全員に向き直っていた。

律『ほれ、早く次いけよ』

憂「おねえちゃーんっ!」

席を立ち、ぶんぶんと手を振る憂ちゃんの姿が客席の中に見えた。



150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:29:30.60 ID:+UZ/pLeq0

唯『おお、憂~っ』

唯も同じように返す。

秋生「唯ー、俺はここだっ!」

早苗「唯ちゃんっ、ずっと見てましたよっ」

渚「唯ちゃん、私もいますっ」

最前列で古河家の人々が総スタンディングしていた。

唯『ありがとー、でも、すごく近いところにいるから、いるのはわかってたよぅ』

秋生「足元ばっかりみてると足すくわれるぞ、てめぇーっ!」

唯『それは逆にありえないんじゃないかな…』

「唯ーっ」

「放課後ティータイムーっ」

「放課後ーっ」

「ティータイムも言ってあげてよー」

唯『あはは…みんなありがとう。それでは次の曲にいってみたいと思います』

唯『U&I!』



151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:30:55.82 ID:jpDSDOMkO

ドラムが叩かれ、演奏が走り出す。

唯『キミがいないと 何も できないよ キミのごはんが 食べたいよ…』

そこに唯の歌声が乗った。

唯『もし キミが 帰ってきたら とびきりの笑顔で 抱きつくよ…』

みんな静かに聴いている。
今までのアップテンポな曲と比べ、わりとおとなしめなメロディだったからだろう。

唯『晴れの日にも 雨の日も キミはそばに いてくれた…』

サビの部分に差し掛かると、観客席からライトが振られだした。
が、よくみるとそれは携帯のディスプレイが放つ光だった。
よく考えついたものだと、感心してしまう。

唯『目を閉じれば キミの笑顔 輝いてる…』

―――――――――――――――――――――

唯『…ふぅ』

曲が終わる。

「放課後ティータイムーっ」

「よかったよーっ」

「CD出してくれーっ」



152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:31:26.37 ID:+UZ/pLeq0

賞賛の声が途切れることなく上がり続ける。

唯『ありがとうー。それでは、次が最後の曲です』

「えーやだー」

「もっとやってー」

「延長ーっ!」

唯『もっと演奏していたいんだけど、時間が来ちゃいました』

「放課後ーっ」

「放課後ぉーーっ!」

「放課後に時間制限はなーいっ」

「おまえの持論はいいんだよっ」

唯『あははっ』

唯をはじめとして、軽音部メンバーの中に笑いが起こる。

唯『今日は、ありがとうございました』

唯『山中先生ー、Tシャツありがとーっ』

さわ子「ふふ」



154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:32:50.54 ID:jpDSDOMkO

ステージに手を振る。

唯『和ちゃん、いつもありがとうー』

ステージの袖を見て言う。
きっとそこには真鍋がいて、微笑んでいることだろう。

唯『憂、純ちゃん、ありがとうっ』

唯『朋也も、春原くんも、いろいろと手伝ってくれてありがとうっ』

春原「はは、ま、悪くないね、こういうのも」

朋也「だな」

唯『アッキー、早苗さん、渚ちゃん、昔からいつもありがとうっ』

秋生「これからも世話してやるぞっ! なんかあった時はすぐに駆けつけてやるっ!」

秋生「俺たちは家族だ、助けあっていくぞっ」

唯『ありがとう。そうだよね、もう、町も人も、みんな家族だよね。だんご大家族だよっ』

秋生「この町と、住人に幸あれっ」

オッサンが珍しくまともなセリフを吐いていた。
大げさな物言いだったが、あの人の口から聞くとなぜだかすんなり頷けた。

唯『クラスのみんなもありがとうっ』



155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:33:48.49 ID:+UZ/pLeq0

「平沢ーっ!」

「唯ーっ!」

「最高ーっ!」

唯『トンちゃんありがとーっ、部室ありがとーっ、ギー太ありがとーっ』

唯『みんなみんな本当にありがとーっ!!』

唯『放課後ティータイムは…いつまでも…いつまでも…』

唯『放課後ですっ!!』

ずるぅ!

律『は?』

梓『え?』

最後の最後で意味不明なオチが待っていた。さすが唯だ。

朋也(俺はその彼氏だぜ、すげぇだろ)

俺は迷わず拍手する。
すると、つられてか、静まり返った館内にパチパチとまばらな拍手が起きていた。

唯『それでは最後の曲、聴いてください。時を刻む唄!』

演奏が始まり、キーボードの高い音が奏でられる。綺麗な旋律だった。




YouTube:CLANNAD 時を刻む唄





162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:40:02.76 ID:+UZ/pLeq0

澪『きみだけが過ぎ去った坂の途中は 暖かな日だまりがいくつもできてた…』

メインボーカルは秋山だった。今まではサブだったが、最後はメインで歌っている。

澪『僕ひとりがここで優しい 温かさを思い返してる…』

館内すべての人間がその曲に聴き入っていた。
茶化すような奴もいなければ、大げさに騒ぐような奴もいない。
そう、余計に動くことがためらわれるほどに集中していたのだ。

澪『きみだけを きみだけを 好きでいたよ 風で目が滲んで 遠くなるよ…』

唯『いつまでも 覚えてる
  なにもかも変わっても ひとつだけ ひとつだけ ありふれたものだけど…』

唯『見せてやる 輝きに満ちたそのひとつだけ いつまでもいつまでも守っていく』

音が鳴り止む。
それは同時にライブの終了を意味していた。
すると、堰を切ったかのようにそこかしこで溢れ出す、咆哮に近い大歓声。

放課後ティータイム最後のステージは、
多くの人間に讃えられながら、ゆっくりとその幕を閉じていった。

―――――――――――――――――――――

唯「大成功…だよね」

西日差し込む部室の壁際に、背を預けて座り込む部員一同。
ずっと放心状態にあったと思ったら、おもむろに唯が口を開いた。

澪「なんか…あっという間だったけどな」



163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:41:43.47 ID:jpDSDOMkO

紬「ちゃんと演奏できてたかぜんぜん覚えてないわ」

律「ていうか、Tシャツのサプライズでいきななり吹っ飛んだ」

梓「私もです。もうなにがなんだか…」

唯「…でも、すっごく楽しかったよねっ」

澪「今までで最高のライブだったな」

そう言ってのける秋山の声は、少し枯れていた。
それだけ出し尽くしたということなんだろう。

律「みんなの演奏もばっちり合ってたし」

唯「合ってた合ってたぁっ…」

律「ギー太も喜んでるんじゃないか?」

唯「うんっ! エリザベスもねっ」

澪「エリザベスぅ~」

ベースに頬をすりよせる。今だけは飾らずに、心の赴くままだった。

梓「私のムッタンだってっ」

中野も同じく壁をとっぱらっていた。

律「おお、梓のギターはムッタンっていうのか」



164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:42:26.31 ID:+UZ/pLeq0

梓「ムスタングだから、ムッタンです」

紬「ふふふ、可愛い」

唯「ねぇねぇ、この後なにする?」

梓「とりあえずケーキが食べたいですっ」

律「おー、部費ならあるぞぉ」

紬「だめよぉ、私持ってきてるもんっ。まだストックがあるものっ」

唯「やったぁ、じゃあそれ食べてから次のこと考えようっ」

澪「次は…クリスマスパーティーだよな」

紬「その次はお正月ねっ」

梓「初詣に行きましょうっ」

澪「それから、次の新勧ライブかぁ」

朋也「………」

春原「………」

俺も、そしてきっと春原も、その会話のおかしさに気づいていた。

律「まぁた学校に泊り込んじゃおっかぁ?」



165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:43:50.60 ID:jpDSDOMkO

唯「今度はさわちゃんも誘おうよっ」

梓「いいですね、それっ」

律「夏になってもクーラーあるしぃ」

紬「合宿もあるしっ」

唯「楽しみだねぇ。その次はぁ…」

梓「えーっと、その次はですねー…」

律「って、次はないない」

そう…ないのだ。
このメンバーでいた軽音部の活動は、今日この日を以って終わってしまった。
そんなこと、当の本人たちが一番よくわかっているはずだった。
だから、少しでも引き伸ばそうとしたかったのだろう。その時が来てしまう瞬間を。

けど、そんな言葉だけのその場しのぎでは、何も変わらない。
だからこそ、部長が代表して、つかの間の夢を終わらせたのだ。
それは心苦しい役回りだったろう。その目には、はっきりと涙を浮かべていたのだから。

唯「来年の文化祭は、もっともっと上手くなってるよ…」

唯も大粒の涙をこぼしながら、震える声で言った。

律「おまえ留年する気か? 高校でやる文化祭はもうないのっ」

唯「そっかぁ…それは残念だねぇ…」



167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:44:47.51 ID:+UZ/pLeq0

澪「ぅ…ひぅ…ぅう…」

秋山は膝を抱えてひたすら泣いていた。

紬「やだやだぁっ!」

子供のように足をばたつかせ、駄々をこねる琴吹。
こんな琴吹の姿は見たことがなかった。

梓「ムギ先輩、わがまま言わないで…」

梓「唯先輩も、子供みたいに泣かないでください」

唯「これは汗だよ…」

ぼろぼろとこぼれる涙。頬を伝い、しずくとなって下に落ちていた。

唯「ぐす…っうぅう…っぇん…」

律「みーおー。リコピ~ン」

澪「うっ…ふふっ…」

顔を上げる。

澪「律だって泣いてるくせに」

律「私のも汗だっ」

澪「ふふっ…あははっ」



168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:46:00.29 ID:jpDSDOMkO

律「はははっ」

梓「ほら、ムギ先輩も」

ハンカチを持って、泣き濡れた顔の琴吹に言う。

紬「梓ちゃん…ぐす…」

梓「はい」

紬「梓ちゃん…ぅぅ…あいがとぅ…」

梓「はい」

その顔をハンカチで丁寧に拭う。

梓「ムギ先輩、大丈夫ですから、落ち着いて」

紬「うう…ぐす…」

澪「よかったよなっ…本当によかったよなっ」

秋山がメンバーを正面から見据え、そう声をかけた。

紬「うんっ、とってもよかったっ」

中野に綺麗にしてもらった顔を、また涙で湿らせて、大きく答えていた。

澪「岡崎くんも、春原くんも、そう思ってくれるよねっ」



169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:46:21.04 ID:+UZ/pLeq0

朋也「ああ、もちろん」

春原「マジですげぇよかったよ。ボンバヘッよりも上回ってるかもしれないね」

それはこいつの中では最大級の評価だったろう。

梓「みなさんと演奏できて、幸せです」

唯「うう、ぐす…みんなぁーっ!」

ばっと手を広げる。その胸に部長と琴吹が飛び込んだ。
愛しそうに頬を寄せ合っている。
そして、中野と秋山もその輪に加わった。

律「あ、ちょ、待てよ唯、鼻水が…」

唯「ムギちゃーんっ」

澪「あはは、鼻水…」

梓「汚いですよ…」

いつまでもいつまでも、誰も離れることはなかった。

―――――――――――――――――――――

がちゃり

さわ子「みんな、お疲れ様ーっ!」



170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:47:31.20 ID:jpDSDOMkO

勢いよく扉が開け放たれ、さわ子さんが入室してきた。

和「お疲れ様」

その後ろには、真鍋。

朋也「あ、さわ子さん。静かに頼むよ」

さわ子「なんでよ?」

朋也「ほら、そこ」

さわ子「あら…」

軽音部の部員たち。今は泣き疲れて眠ってしまっていた。
壁に背を預けたまま、すやすやと寝息を立てている。

春原「そいつら、号泣してたんだよ、さっきまでね。いや、青春だね、ははっ」



171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:47:49.81 ID:+UZ/pLeq0

さわ子「なによ…そういうあんたも、ちょっと目の周り赤くなってない?」

春原「な、なってないよっ、僕がもらい泣きなんてあるわけなじゃん」

とはいうものの、俺は見ていた。こいつがひそかに目を拭っていたところを。
まぁ、言及したところで、素直に認めるわけもないが。

和「…幸せそうな顔」

真鍋が部員たちの寝顔を見て、感想を漏らす。

朋也「だよな」

本当に、その表情は幸福の中にあって…温もりを感じさせる輪を形成していた。
ずっと、みんなで手をつないだまま。

―――――――――――――――――――――



172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:48:22.74 ID:+UZ/pLeq0

文化祭が終わると、しばらくはまた部室に集まって、だらだらとした日々を送っていた。
あのライブですっきり引退したにも関わらず、だ。
中野は、受験勉強はいいのかと、口をすっぱくして言っていたのだが…
どこか俺たちの訪問を喜んでいる節があった。
楽しかった日常が、まだ続いていくことが嬉しかったのだろう。

それに、唯たちがいなくなれば、残された部員は中野のみになってしまう。
その寂しさもあったんじゃないかと思う。
そんな中野の心情を汲み取ってか、唯たちは足しげく部室に通い続けていた。

―――――――――――――――――――――

10月の末、俺は18歳の誕生日を迎えた。
その日は唯と二人で久しぶりにデートに出かけた。
そして、その最後には、平沢家で憂ちゃんが用意してくれた料理を三人で囲み、祝福してもらった。
プレゼントには、手作りのだんご大家族のぬいぐるみをもらった。
単純な作りだったので量産できたらしく、ふくろいっぱいに詰めて持ち帰った。
唯の誕生日には、俺も何か用意しておこう。

11月の27日らしいので、すぐにその日はやってくる。
金はなかったから、なにか俺も手作りの品を渡すしかなさそうだ。
なにがいいだろう…。
俺はそんなことばかり考えていた。
もうすぐ訪れるであろう別れの予感を胸の奥底に押し込めて。

―――――――――――――――――――――

そして…唯の誕生日も過ぎていき、本格的な冬が来た。
誰もが緊張した面持ちで自分の将来を占っている。
当然、軽音部の面々も、そうなるかと思っていたのだが…
相も変わらず部室に顔を出し続け、いつも通りティータイムに興じていた。
といっても、ただだらけているわけじゃない。受験勉強の場を部室に移したのだ



173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:48:56.26 ID:+UZ/pLeq0

それは、中野のためだったのか、それともティータイムのためなのか…そのどちらもなのか。
この際、なんでもいい。この期に及んで、らしくいられるこいつらが、俺には頼もしく見えていた。

それは、俺自身の進路が不安定なまま、ひとつ場所に定まっていなかったからかもしれない。
目標もなく、目的もなく…ただ惰性で生きてきたような奴の末路なんていうのは、こんなものだ。
だからこそ、いつだって変わらない、普遍的な存在が、心のより所となりえるのだろう。

―――――――――――――――――――――

朋也「わははははっ!」

春原「笑うなっ」

朋也「誰だよ、おまえはよっ」

春原「自分で鏡を見たって違和感バリバリだよ」

春原「でも仕方ないだろ…就職難だって言うしさ」

朋也「おまえの田舎じゃ、関係ないんじゃないの?」

春原「どんな田舎を想像してくれてるんだよ…」

朋也「孤島」

春原「本州だよっ!」

春原「…というわけで、しばらくいなくなるな」

コートに身を包んだ春原が立ち上がる。



174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:50:12.47 ID:jpDSDOMkO

春原「ま、勝手に部屋を使うな、と言っても、使うんだろうから、何も言わないけどさ…」

春原「悪戯だけはすんなよ」

春原は今日から、田舎に帰る。
就職活動だった。そのために髪を黒く染め直していたのだ。
進学しないのであれば地元に帰って就職する…それは親との約束だったらしい。

そんなことを言い出された日、
俺は現実を突きつけられた気がして、ショックだったのを覚えている。

そう…もう、馬鹿をしていられる時間は終わったのだ。
俺よか、春原はよっぽど切り替えが早くて…
俺は置いてきぼりだった。
今も、そう。
残り火に当たるようにして、じっとコタツに張りついていた。

春原「決まり次第戻ってくるけどさ…」

春原「そん時はもう、卒業間際かな」

春原「まぁ、おまえも就職活動で忙しくなるのは一緒だからな…」

春原「きっと、あっという間だぞ」

春原「じゃあな、健闘を祈る」

春原が部屋を出ていく。
俺はぼーっとその背中を見送った。
何かしなければならないんだろうな…。
そんなことを考えながら。



175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:51:49.99 ID:jpDSDOMkO

―――――――――――――――――――――

翌日から俺は、就職部に通い始めた。
こんなところに世話になる生徒は他にいないのか、担当の教師以外に人はいなかった。

―――――――――――――――――――――

教師「進学校であることのほうがネックになることがあるよ」

その老いた教師は言った。

教師「進学校の落ちこぼれよりも、レベルが低い学校で頑張っている人間の方が好まれる」

教師「単純にそれは内申で判断される。人間性の問題だからね」

教師「君はそこんところは自覚しておいた方がいいよ」

教師「ショックを受けないように」

教師「でも、ま、諦めることはない」

教師「そのうち、納得のいく仕事も見つかるよ」

朋也(春原も同じ苦労してんのかな…)

朋也(でも、あいつのことだからな…)

朋也(俺なんかより自分の立場を把握してんだろうな…)

朋也(よっぽど俺のほうが子供だ…)



176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:52:23.62 ID:+UZ/pLeq0

―――――――――――――――――――――

冬休みに入り、俺は本当にひとりだった。
唯は勉強で忙しく、ふたりで居たいなんて、
とてもじゃないが言い出せなかった。
クリスマスさえ、一緒に出かけることはなかったのだ。
俺は無意味に春原の部屋で過ごしていた。
自宅よりか、落ち着く場所だった。

朋也(ずっと、ここに居たな、俺…)

無駄にだらだらと過ごした三年間。
今はまだ、三年前と同じ場所に居る。
けど、もう俺たちは…
ブレーキが壊れた自転車のように、走り続けていくんだろう。
そんな気がしていた。

上を目指すわけでもなく、現状維持が精一杯でも…
それでも、がむしゃらにやらないと、負けてしまいそうな日々。
何かに追われるようにして、走っていくのだろう。
この小さな町で。

そんな時間の中で、俺は何を見つけられるのだろう。
もう、それは見つけておかなくてはならなかったのではないか。
少しだけ、恐くなる。

これからの人生の中には、それはもう、見つけることができないのではないか…。
大切なものは、過去の時間に埋まったままで…二度と掘り出せないのではないか…。

もう、俺は…
このままなんじゃないのか。

焦燥感だけを覚える日々で…
あくせくと働く日々で…

…もう、俺は…
………。



178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:54:41.12 ID:jpDSDOMkO

―――――――――――――――――――――

就職活動を始めてはや幾日。
自分の力で探し当てた企業は、どれもこれも駄目だった。
どんなささやかな希望も叶わなかったのだ。
これからの人生を暗示しているようで、気が重くなる。

朋也「はぁ…」

そんなある日のこと。
失意に暮れながら、いつものように春原の部屋に足を運んでいると…

朋也「ん…」

視線を上げた先…高い位置に人が居るのを見つけた。
高い位置、というのは空中のことで、一瞬驚く。
が、よくみるとなんてことはなく、梯子に登った作業員だった。
そんなことさえ、時間差でしか気づけないほど俺は消耗しているのだろうか…。

ともかくも、どうやらその作業員は街灯を取り付けているようだった。
見覚えのある光景。
前に俺もその仕事を一日だけ手伝ったことがあった。

そして、あの日、俺は思い知ったはずだ。
いかに自分が、ぬくぬくと暮らしてきたかを。
そして、厳しい社会が待っていることを。

なのに俺は、その教訓を生かすことなく、延々と怠惰な日常を過ごしていた。
あの時…芳野祐介だって、自分とさほど歳の差が無い人で…
そのことでもショックを受けたはずだ。

朋也(なのに、俺は…今まで何をやっていたんだ…)

歯がゆさとともに、いろんなことを思い出していた。



179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:55:18.19 ID:+UZ/pLeq0

そして、その厳しさに見合う対価が得られることも。
あの額ならば、自分の力で食っていける。
もう、誰にも頼ることなく、自立できる。
俺は目を凝らし、作業員の顔を判別しようとした。
遠くてよくわからない。けど、背格好が似ている気がする。
別に違ったっていい。俺は焦燥に駆られて走り出していた。

―――――――――――――――――――――

作業員「…ふぅ」

作業員は地面に降り立ち、煙草をふかしていた。
納得がいくしごとができたのか、街頭を見上げて、何度か頷いている。

朋也「芳野…さんっ」

その名を呼んだ。

芳野「あん?」

顔がこちらに向く。芳野祐介…いや、芳野さんだった。

朋也「どうも」

芳野「………」

芳野「…ああ。よぅ」

少し考えた後、思い出したように、挨拶を返してくれた。

芳野「ええと…確かキャサリン…いや、山中の教え子だったよな」



180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:56:37.72 ID:jpDSDOMkO

朋也「岡崎です。岡崎朋也。自己紹介はまだでしたよね」

芳野「ああ、そうだったな」

芳野「で、どうした。また暇なのか」

朋也「俺を雇ってくださいっ」

そう頭を下げていた。

芳野「え、マジか…」

朋也「ええ、本気です」

芳野「それは助かるがな…。こっちはいつだって人手不足だからな」

芳野「けど、おまえまだ学生だろ。歳はいくつだ」

朋也「18です」

芳野「なら、三年じゃないか。
   おまえ、坂の上の進学校に通ってるんだろ? 受験はいいのか」

朋也「いえ、俺、完全に落ちこぼれちゃってて、進学とかは無理なんです」

朋也「だから、今は就職活動中なんですよ」

芳野「そうなのか…。まぁ、それならそれで構わないが…」

芳野「おまえも知ってるように、きつい仕事だ」



181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:57:07.73 ID:+UZ/pLeq0

朋也「覚悟の上です」

芳野「春頃のおまえは、一本立てるだけでへたれてたよな」

朋也「それは…慣れれば大丈夫だと思います」

食い下がる。ここで引くわけにはいかない。

芳野「………」

朋也「頑張ります」

芳野「そうか…」

芳野「OK。雇おう」

よかった…やっと先の見通しが立った…。

芳野「ただし、卒業してからだ。中退したりせずに、ちゃんと卒業だけはしろ」

朋也「あ、はい、それはもちろんです」

芳野「それと、おまえのとこの学校、今冬休み中だろ?」

朋也「はい、そうです」

芳野「だったら、休み一杯はまずバイトとしてフルで働いてもらうが、いいか」

朋也「はい、任せてください」



182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:59:05.64 ID:jpDSDOMkO

芳野「よし。じゃあ、おまえ、携帯持ってるか」

朋也「いえ、すみません、持ってないです」

芳野「そうか。なら、自宅の番号を教えてくれ。追って詳細を連絡する」

言って、メモ帳とペンを取り出した。

朋也「わかりました。えっと…」

電話番号を伝え、一礼してその場は無事取りまとまった。

―――――――――――――――――――――

そして、バイトとして働き始めた初日のこと。
俺は疲れ果て、ぼろぼろの状態で凱旋していた。

朋也(ふぅ…)

部屋に戻り、ベッドに身を沈める。

朋也「…あー…疲れた」

思わず独り言が出てしまう。

朋也「痛…」

ちょっと動くと筋肉痛が襲ってきた。

朋也(風呂でよく揉んだのにな…)



183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 10:59:34.55 ID:+UZ/pLeq0

朋也(つーか、きつい…続くかな、俺…)

少し心が折れそうになる。

朋也(いや…やらなきゃだな…これは全部、今までのツケだ)

そう思い、心を奮い立たせる。

朋也(あー、にしても…唯に会いたい)

弱った時には、あいつの笑顔で支えてほしかった。

朋也(そうだ、明日は午前だけだって言うし…午後から会いに行こう)

朋也(よし…決めた)

多少心に豊かさが戻り、眠りにも割とすんなりつけた。

―――――――――――――――――――――

最初の内はキツかったが、一週間もすれば体が慣れていった。
まだまだバイトの仕事量だったので、なんともいえないかもしれないが…
それでも、この調子なら、なんとかこなしていけそうな気がしていた。

―――――――――――――――――――――

教師「そうか、よかったな」

老教師は、そう俺を労った。
俺よりも嬉しそうだった。



184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:01:18.63 ID:jpDSDOMkO

報告しに来たのは、三学期の始業式を終えた午後だった。

教師「見ていた生徒の進路が決まると安心するんだ」

教師「特にこんな学校だ。私が見る生徒は少ない」

教師「わが子のように、うれしく思うよ」

教師「………」

朋也「先生」

教師「うん?」

朋也「お世話になりました。本当に…俺なんかをみてくれて、ありがとうございました」

態度も出来も悪い俺を、根気よく励まし続けてくれたこの老教師。
俺はこの人に、幸村のジィさんやさわ子さんに近いものを感じていた。
だから、儀礼的なものでなく、腹のそこから礼の言葉を出すことができた。

教師「ああ、頑張りなさい」

朋也「はい。それでは」

深く礼をして、ストーブの匂いが篭った部屋を後にした。

―――――――――――――――――――――

さわ子「そ…あいつのとこで働くことになったのね」



185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:02:00.44 ID:+UZ/pLeq0

さわ子さんにも報告するべく、職員室まで足を運んでいた。

朋也「ああ」

さわ子「じゃあ、一度挨拶に行っておかないとね。
    馬鹿なところもある子だけど、よろしくってね」

さわ子「それとも、あんたの武勇伝を語ってネガキャンしておこうかしら、おほほ」

朋也「さわ子さん」

さわ子「なに?」

朋也「ありがとな。三年間、いろいろ面倒見てくれて。感謝してるよ」

それは、軽音部と関わることになったきっかけを作ってくれたことも、もちろん含めてのことだった。
この人がいなければ、俺は今頃どうなっていたかわからない。
きっと、ロクでもない道を辿っていただろうと思う。

さわ子「………」

さわ子「馬鹿…教師なんだから、教え子が可愛いのは当然じゃない」

さわ子「とくに、馬鹿な子ほどかわいいっていうしね…」

さわ子「はぁ、まったく…」

メガネをはずし、天井を仰ぐ。そして、片手で両目を押さえた。

さわ子「こんなとこで泣かさないでよ…お化粧落ちちゃうじゃない…」



186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:03:19.70 ID:jpDSDOMkO

朋也「そっか。そりゃ、かなりな事態だな。すっぴんはヤバイもんな」

さわ子「そこまでひどくないわよ…ほんと馬鹿ね。いいから、とっとと行きなさい」

さわ子「あの子たちにも、報告しにいくんでしょ」

朋也「ああ、そうだな。そうさせてもらうよ」

朋也「それじゃあ、失礼します」

丁寧に告げて、職員室を出た。

―――――――――――――――――――――

澪「え…芳野さんのところで?」

朋也「ああ」

次に訪れたのは、軽音部部室。
中野以外は、全員過去問を開き、その解説を見ていた。
時間を計り、一度本番形式で解いたのだという。
今は茶を飲みながら、答え合わせと、誤答した箇所のチェックをしていたらしい。

澪「へぇ…すごいなぁ、芳野さんと一緒に働けるなんて」

朋也「いや、確かに芳野さんはすごい人だろうけど、俺は別に大したことしてないぞ」

梓「そんなことわかってるに決まってるじゃないですか。社交辞令ですよ、社交辞令」

朋也「俺だってわかってるよ。ただ謙遜して合わせただけだ」



187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:07:12.58 ID:+UZ/pLeq0

澪「そ、そんな、私は本音で言ったからね?」

梓「澪先輩、この人に建前トークはしちゃだめですよ。すぐ真に受けるんですから」

澪「だから、私は本心を言ったまでだってっ」

律「ま、なんにせよ、おめでとさん」

紬「おめでとう、岡崎くん」

朋也「ああ、サンキュ」

唯「………」

律「どした、唯。なんか朝から元気ないけど…彼氏が内定出たんだぞ? 祝ってやれよ」

唯には前から知らせてあったので、今さらな話だったのだが…
確かに、朝からどこか浮かない顔をしていた。
受験を目前にしてナーバスになっているのかと思ったので、そっとしておいたのだが…
励ましてあげた方がよかったんだろうか。

けど、受験もしない俺がどんな言葉をかけたとしても、
すべて嘘臭くなってしまいそうでもある。
難しいところだ…

唯「うん…なんかね、卒業したらみんなバラバラになっちゃうんだなーって思ったら、ちょっとね…」

と、思いきや、予想外の答えが返ってきた。
唯は別に、自分の身を案じていたわけではなかったのだ。
ただ、離れ離れになっていくことを寂しく思っていただけで。
それも、こんな、受験生なら誰もが自らの前途に不安を抱く時期に、俺たちのことを想って。
唯の繊細な部分に気づいてあげられなかった…反省。



188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:08:16.35 ID:+UZ/pLeq0

と同時、少し恥ずかしくもある。
この前まで俺は、遠く不確かな未来に怯えて立ちすくんでいたので、
てっきり唯もそうだと思い込んでしまっていたのだ。
彼氏として…というか、人としてまだまだ未熟なんだろう、俺は。

律「ああ…そういうこと。ま、そうだな…」

律「岡崎はこの町で就職、春原は地元に帰るし、
  梓は現役女子高生続行で、さわちゃんはここで教師続けるってな」

朋也「でも、おまえらは同じ大学受けるじゃないか」

それも、東京の有名私立大学だ。
そこは、昔の偉人が創設した名門校で、俺でさえ前からその名を知っていた。
さすがに学部学科まで同じところを受けるというわけではなかったが…
キャンパスは共有しているのだから、今と変わらない関係が続けられるはずだ。

律「受かるかどうかわかんねーじゃん」

朋也「腐っても進学校だろ。おまえらは一般入試組だし、十分圏内じゃないのか」

澪「岡崎くん、それはね、普段まじめにやってる人たちの話だよ」

澪「だから、律と唯はけっこう…アレなんだ」

律「アレってなんだよ、はっきり言えーっ!」

澪「アホ」

唯「えぇーっ!?」

律「んな直球で言うなぁ! もっと婉曲表現とか擬人法とか使えっ!」



189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:09:45.62 ID:jpDSDOMkO

澪「擬人法って…木が『律と唯は落ちます』と喋った、とでも言えばいいのか?」

唯「澪ちゃん、木に『落ちる』とか『滑る』とか、タブーを喋らせちゃだめぇっ」

澪「だって、律がそう言えって…」

律「言ってなーいっ!」

紬「くすくす…」

一転して、明るくなる空気。
やっぱりこいつらはこうでなければ。

律「澪、おまえ、なんか最近毒吐くけど、ストレス溜まってんのかぁ?」

澪「それなりにな」

紬「じゃあ、リラックスできるように、お線香を持ってこようかしら」

律「せ、線香?」

唯「あ、いいねっ、線香! 落ち着くよねっ」

紬「でしょ?」

律「い、いや、でも、それはちょっとな…」

澪「う、うん、遠慮しておきたいな…」

紬「そう? 残念…」



190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:11:14.33 ID:jpDSDOMkO

律「でもさ、悪戯用にストックしておくのもいいかもな」

律「春原の馬鹿にブービートラップ仕掛けてさ、ケツに引火! とかやったりな、くひひ」

朋也「でもあいつ、帰ってくるのは卒業間際だって言ってたぞ」

朋也「だから、自由登校になった後だし、学校出てくるかもわかんないけどな」

律「マジかよ…くそぉ、つまんねーの…
  せっかくまた、頭まっキンキンに染め直してやろうと思ってたのに…」

律「早く帰ってこいっつーの、馬鹿原…」

唯「あれあれ? 春原くんが恋しいの?」

律「ばっ、んなわけねーってっ!」

紬「うふふ、1/3の純情な感情ね、りっちゃん」

律「む、ムギまで…うぅ…べ、勉強するぞ、勉強! おまえら、しっかりしろーっ!」

澪「あ、無理やり話題変えた」

律「ちがーうっ! 勉強に目覚めたんだよ、今っ! 覚醒したのっ!」

梓「危ない粉でも隠し持ってたんですか?」

律「中野ーっ!」

―――――――――――――――――――――



191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:11:45.76 ID:+UZ/pLeq0

朋也「…よし」

生活必需品と衣類、学校関連の教材などをまとめ、スポーツバッグに詰め終わる。
長年暮らしてきた、この家…実家を出るための荷造りだった。
俺は芳野さん経由で、個人家主の物件を紹介してもらっていたのだ。

普通なら、現高校生の段階で審査が通るはずもないのだが…
そこは個人家主のメリットで、大家さんに融通してもらえていた。
敷金、礼金は、冬休み中の貯えがあったので、楽に払えた。
当面の生活費は、今も放課後になるとたびたび仕事に呼び出されていたため、
その給与で卒業までは賄える見込みがあった。
抜け目のない布陣に見えるが…ひとつ問題があった。

アパートに移ってしまうと、朝、平沢姉妹と一緒に登校できなくなってしまうのだ。
といっても、2月になれば自由登校になり、学校に行く必要もなくなるのだが。
授業日数も残り僅かだったので、いい頃合だと思い、転居が決まる前、唯には話をしておいた。
すると、卒業まではこの家にいて欲しいと請われた。けど、俺が首を縦に振ることはなかった。
確かに、ここにいれば唯と一緒に居られる時間が増える。とくに一月中は。

でも、2月、授業がなくなって自習するだけの状態になると、話が変わってくる。
唯が登校するのは、部室で勉強するためだ。俺には唯と一緒に居たいという動機しかない。
だが俺が部室に居ても、なんの役にも立てないどころか、気を散らせてしまうばかりだ。
それに、ただ黙って勉強を眺めているだけというのも、かなり味気ない。ナンセンスだ。

そういう事情もあり、距離というどうしようもない理由を作って茶を濁すつもりだった。
いや…それも綺麗ごとか。一番の理由は…やっぱり、親父と離れたかったからに他ならないのだから。

朋也(いくか…)

パンパンに膨らんだバッグを三つ肩に掛け、下の階に降りた。

―――――――――――――――――――――

いつものように親父は居間で転がっていた。



193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:13:13.31 ID:jpDSDOMkO

朋也「なぁ、親父」

小さく上下する肩に触れる。

親父「ん…」

寝言か何かよくわからなかったが、親父が小さくうめいた。

朋也「俺、家を出るから…」

それを一方的に目覚めたと判断して、俺は話を始めた。

朋也「ひとりで元気にやってくれよ…」

それだけを伝えて、俺は親父のそばから離れる。
そして、玄関へ…
ぎっと背後で床がきしむ音がした。
振り返らざるをえない俺。

朋也「おはよう」

平成を装う。

親父「朋也くん…どこかへいくのかい」

朋也「アパートだよ。就職の見込みがあるから、
   保護者印なしで貸してくれるとこがあったんだ」

親父「就職、決まったのかい?」

朋也「ああ」



194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:13:52.21 ID:+UZ/pLeq0

親父「それは、おめでとう。でも…寂しくなるね」

親父「朋也くんは… いい話し相手だったからね」

走って逃げ出したかった。

朋也「こっちにも都合があるんだよ。わかってくれ…」

押し殺した声でそう言う。
最後は…最後まで平静でいよう…。

親父「そうだね…」

朋也「じゃあ、いくから」

俺は背中を向ける。

―――――――――――――――――――――

いつも帰る場所だった家。
今だけは、違う。
どれだけ時間がかかるかわからなかったけど…
いつかは戻ってこれる日がくるのだろうか。

朋也(こんなにも、後ろ向きな俺が…)

朋也(逃げ出しただけじゃないかっ…)

だから最後にこう告げた。



195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:14:25.61 ID:+UZ/pLeq0

朋也「さよなら、 父さん」

俺は歩き出した。

―――――――――――――――――――――

一月も終わろうかというその日。
放課後になると、俺はいつものようにすぐ下校していた。
最後に部室へ顔を出したのは、就職報告へ行った時だ。
あれ以来俺は直帰するようになっていた。

―――――――――――――――――――――

朋也「あ…」

外に出ると、雪が降っていた。
珍しいものだと思った。
こらから本降りになるのだろうか。
明日の朝には積もっているだろうか。

これからはどうしようか。
今日は仕事が入っていない。
春原もまだ戻ってきていない。
早く帰って来てくれればいいのに…。
最後の時間はどう過ごそうか…。
就職が決まってしまったふたりでも…馬鹿できるだろうか…。
できるだろう…俺たちは本当に馬鹿だったから。

―――――――――――――――――――――

いろんなことを考えながら、俺は門を抜け、坂を下る。



196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:15:41.40 ID:jpDSDOMkO

その先に…彼女はいた。

朋也「よう…なにやってるんだ、坂上」

桜の木をまっすぐに見つめるその横から声をかけた。

智代「ん…おまえは、あの時の」

朋也「覚えててくれたのか」

智代「それはそうだろう。おまえの助言で私は副会長に鞍替えしたんだぞ」

朋也「そうだったな。で、こんな寒い日に棒立ちして、なにをしてたんだ」

朋也「なにか面白いことでもあるのか」

智代「ただ桜の木を見て感慨にふけっていただけだ。
  私と、真鍋会長で守ったここの木たちをな」

朋也「そっか。じゃあ、達成できたんだな、おまえの目的」

智代「ああ。とても長くかかった。けど、なんとかここまで漕ぎ着けた」

智代「これも、真鍋会長の力添えがあったからだ」

智代「私一人の力じゃ絶対に成し得なかったと思う」

智代「それだけこの学校は広く、深い構造の中で動いていたことがわかったんだ」

智代「真鍋会長からノウハウを教わっていなかったら、
   きっと誰も私についてきてくれなかっただろうな」



197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:16:03.67 ID:+UZ/pLeq0

朋也「そっか」

ということは…こいつも、あの特殊な生徒会に染まってしまったのだろうか。
でも、そんな風には見えない。初めて会った時の純粋な瞳を、今も持ち続けていたから。

智代「だから、おまえには感謝している」

智代「あの時、事を急くあまり状況が見えていなかった私を
   客観的に諭してくれたおかげで、冷静になれたんだ」

智代「ずいぶんと遅れたが、今礼を言っておく。ありがとう」

なんのけれんみもない透明な言葉。
生徒会内にいて、ドロドロした裏を見てきた人間が、
こうも穢れなくいられるものだろうか。
普通ならスレてしまうだろう。
そうならないのは、こいつの持って生まれた器の大きさが成せるわざかもしれない。
まさに将来への展望が期待される大器だった。

朋也「まぁ、助力できたんなら、俺も後味がいいよ」

朋也「俺はもともと、真鍋に肩入れする腹積もりでおまえに副会長を勧めただけだったからな」

智代「そうなのか。おまえは、結構ドライな奴だったんだな」

智代「あの時、熱心に説得してくれたから、もっと熱い男かと思っていたんだぞ」

朋也「まぁ、そういう利害が絡んだ話には決まって裏表があるもんだ」

智代「そういうものか…」

朋也「ああ。だけど、おまえはこれからもまっすぐでい続けてくれよ」



198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:17:52.76 ID:jpDSDOMkO

朋也「俺、そういう奴好きだし…それに、結局はそれが一番正しくて一番強いだろうからな」

智代「まっすぐか…それは、単純そうでいて、その実難しそうだな」

朋也「おまえなら簡単だよ。そのままのおまえでいればいいだけだからな」

智代「私はまっすぐなのか?」

朋也「ああ、すげぇ直線だ」

智代「そうか…じゃあ、おまえにも好かれているというわけだな?」

朋也「ん、まぁ、そうだな」

智代「なら、私は私でいられ続けるよう精進していこう。
   おまえに好かれるというのも、悪くない気分だからな」

朋也「そりゃ、光栄だな。そんじゃ…もう話すこともないし、俺、行くな」

智代「うん、それじゃあ」

別れ、その場を去った。
帰り道…不思議と胸がすっとしている自分がいた。

―――――――――――――――――――――

2月になり、自由登校期間に入った。
俺はもちろん学校に用なんかあるわけもなく、アパートの自室で時を過ごしていた。
仕事がある時以外は基本暇だった。
春原さえいれば、最後になにか大きな馬鹿をやってもよかったのだが…。
就職活動が難航しているのか、それとももう決まって実家でゆっくりしているのか…



200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:21:13.38 ID:jpDSDOMkO

とにかく、あいつはまだ帰ってきていなかった。

朋也(いい加減帰ってこいよな…何様のつもりだ、あの野郎…)

朋也(部屋に家庭ゴミ分別せずに捨てちまうぞ…)

………。

朋也(はぁ…)

―――――――――――――――――――――

唯「やっほー、朋也っ」

朋也「唯…」

数日経った頃、唯がアパートを訪れてきた。

唯「朋也~会いたかったよぉ」

よろよろとこちらに近づいてくると、ぎゅっと強く抱きしめられた。

唯「5日ぶりくらいだよねぇ」

朋也「そうだな」

言いながら、頭を撫でる。

唯「私、今しすわせぇ~」



201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:21:38.46 ID:+UZ/pLeq0

朋也「ああ、俺もだけど…」

勉強はいいのだろうか…もう試験までちょっとしかないはずだ。

唯「ほんとに?」

顔を上げる。

朋也「ああ」

唯「えへへ、じゃあね、いいものあげる」

朋也「いいもの?」

唯「うん。あ、上がっていい?」

朋也「ああ、いいけど」

―――――――――――――――――――――

唯「わぁ、一人暮らしって感じだね」

部屋に上がると、周りをキョロキョロと見回しながら見たまんまなことを言う。

朋也「まぁ、一人で暮らしてるけどさ…あ、そこ適当に座ってくれ」

座布団を放って渡す。

唯「うん」



202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:22:51.05 ID:jpDSDOMkO

そして、小さめのテーブルを囲んで、対面に座った。

朋也「で、いいものってなんだ」

唯「それはねぇ…」

鞄を漁る。

唯「これだよぉ」

中からハート型の箱を取り出していた。

唯「ちょっと早いけど、バレンタインでーのチョコレートだよ」

朋也「お…サンキュ」

受け取る。
そういえば…バレンタインデー当日には既に町を出て、
現地のホテルに宿泊してるんだったか…。
思い出しながら、開封する。

そして、一口かじってみた。
甘さは極力抑えてあって、食べやすかった。

朋也「うん、うまい」

唯「よかったぁ。朋也、甘いの苦手でしょ?
  だから、ちょっと工夫してみたんだよね」

唯「それが勝因かなっ」

朋也「工夫って?」



203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:23:22.45 ID:+UZ/pLeq0

訊きながら、もう一口かじる。
すると、ピリッとした痛みが舌に走った。

朋也「痛っ…」

唯「えーとね、超タバスコをところどころ混ぜて、
  気づかないようにそっと舌を麻痺させて、甘さを感じないようにしたのです」

朋也「いや、無理やりすぎるだろ…んなことしなくても普通にうまいのに、台無しだぞ」

唯「えぇ? そっかぁ…やっぱり、早苗さんの領域には届かないなぁ、私…」

頼むからあの人をリスペクトするのはやめてくれ。

朋也「まぁ、いいけどさ…。それで、勉強の方は、順調なのか?」

唯「ん? んー、ぼちぼちかな」

朋也「そっか。ま、体壊さないように頑張れよ…っても、おまえは風邪とかとは無縁そうだよな」

唯「そんなことないよ。去年の創立者祭ライブの時なんか、直前で風邪引いちゃったし」

朋也「そうなのか?」

唯「うん。だからさ、今度熱が出たら、朋也が看病してね?」

朋也「じゃあ、キスして風邪移してくれよ。人に移せば直るっていうしな」

唯「そしたら、今度は朋也が風邪引いちゃうよね。
  そうなったら、また私がちゅーして風邪もらってあげるね」

朋也「じゃあ、また俺がキスして風邪もらうよ」



204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:26:42.63 ID:jpDSDOMkO

唯「そしたら、また私がちゅーしてあげる」

朋也「ラチがあかないな…俺たちの間でいったりきたりしてるだけじゃん」

唯「あはは、そうだね。永久機関の完成だよ」

朋也「こうなったら、なにかを媒介にして、そこに移ってる間にループから抜け出すしかないな」

朋也「例えば、春原の奴に咳を浴びせ続けて、空気感染させるとかしてさ」

唯「それ、媒介っていうか単純に春原くんに移っただけだよね」

朋也「まぁ、ループから脱出するって大義名分があるんだから、大事の前の小事ってやつだ」

唯「あはは、もう、相変わらず春原くんの扱いがひどいね」

朋也「よしみってやつだよ。もうずっとそういうやり取りを繰り返してきたからな、俺たちは」

唯「そっか…なんかいいね、親友と作り上げてきた関係って」

朋也「おまえも、軽音部の奴らとそうしてきただろ」

唯「うん、そうだね。みんな大好きだよ」

朋也「おまえたちは綺麗な感じがしていいよな。俺たちなんか、ただの腐れ縁だぜ」

唯「いいじゃん。切ろうとしても、切れないんだから、すっごく強いよっ」

唯「だからさ、私と朋也も腐ろうよっ。っていうか、みんないっしょに腐って、いつまでも一緒だよっ」



205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:28:56.97 ID:jpDSDOMkO

朋也「ただのゾンビだろ、それ。すげぇ嫌な景色が浮かんだんだけど」

朋也「おまえが腐乱死体になって『み゛ん゛な゛ぁ゛~腐ろ゛う゛よ゛』って手招きしてる感じでさ」

唯「えぇ!? そんなの嫌だよっ! やっぱり腐りたくないっ」

朋也「だよな。つーか、腐るなんて俺が許さねぇよ。
   おまえはめちゃ可愛いから、ゾンビ化はもったいなすぎる」

唯「えへへ、ありがとう」

屈託のない笑顔をくれる。俺も同じように表情を緩めた。

朋也「ま、それでさ、学校行く途中だったんだろ?」

唯は制服で、その上からコートを着込んでいた。

朋也「そろそろ、勉強しにいった方がいいんじゃないか」

これ以上一緒にいれば、いつまでもぐだぐだと会話していそうだったので、そう切り出した。

唯「えー、もうちょっとお話してたいよっ」

朋也「それは、試験が全部終わったらゆっくりしよう。今は勉強頑張れよ。あとちょっとだろ」

唯「うー…じゃあ、終わったら、遊ぼうね?」

朋也「ああ、いいよ」

唯「この部屋にも、泊まりに来ていい?」



206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:29:18.15 ID:+UZ/pLeq0

朋也「え…おまえ、それは…」

唯「だめなの?」

朋也「いや、だってさ…俺、一人暮らしだぞ?
   それに、俺たちは付き合ってて…そこに泊まるってことは…」

唯「えっちなこと?」

朋也「あ、ああ…俺、手出さない自信がない」

唯「朋也になら…いいけどな…」

朋也(う…)

マフラーに少し顔を埋め、上目遣いでそう言った。
これは…もしかして、今まさに手を出してもいいのだろうか…
この部屋には、俺と唯だけしかいなくて…唯は、乱暴にいってしまえば俺のもので…
ごくり…

朋也(って、なに考えてんだよ、俺は…)

こんな大事な時期に変なことはできない。
それに、俺はまだ、ただの高校生であって、責任なんて取れやしないのだから。

朋也「いや…やっぱ、だめだ。泊まるのはナシだ」

唯「え~、なんでぇ? ケチぃ…」

朋也「おまえが満足するまで遊びに付き合うから、それで納得してくれ」



207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:30:13.78 ID:jpDSDOMkO

唯「う~…わかったよ…」

朋也「ほら、立て」

唯「うん」

お互い立ち上がる。
そして、玄関に向かった。

唯「うんしょ…」

靴を履き終え、こちらに向き直る。

唯「じゃあ、またね、朋也」

朋也「ああ。チョコレートもらっといて、
   なんのもてなしもできなくて悪かったな」

唯「じゃ、今もてなして?」

言って、目を瞑り、顎を上げる。

朋也「え…キス?」

唯「それしかないでしょ~?」

朋也「ま、そうだよな…じゃ…」

身をかがめ、唇を合わせた。

唯「えへへ」



208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:30:42.46 ID:+UZ/pLeq0

目を開けて、満足そうに微笑む。

唯「じゃあ、私行くよ」

朋也「ああ」

ドアを開け、外へ出て行く。
俺はその背を見えなくなるまで見送っていた。

―――――――――――――――――――――

2月の中旬。すべての試験を終え、唯たちは受験勉強から解放されていた。
後は合格発表を待つばかりだった。
その間、約束通り俺と唯は町に出てデートを重ねた。
学校に行き、また部室で茶会を開いたりもした。
刻々と近づいてくる終わりをすぐそばに感じながらも、
俺は夢中になって最後の時を楽しんでいた。

―――――――――――――――――――――

春原「はぁ、にしても、疲れたよ…」

2月も下旬に入り、ようやく春原が凱旋してきた。

春原「ったく、圧迫面接なんかしてきやがってよぉ、
   あの面接官、プライベートであったらぶっ飛ばしてやる」

土産話を語るというより、愚痴をこぼしてばかりで、しきりに悪態をついていた。
やっぱり、こいつも俺と同じで苦労していたのだ。

朋也「ま、いいじゃん、決まったんだからさ。
   俺はおまえがプーのまま帰ってくるんじゃないかと思ってたからな」



209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:32:29.93 ID:+UZ/pLeq0

春原「僕だっておまえが就職きっちり決めてるとは思ってなかったよ」

春原「それも、芳野さんと同じ職場なんて、なおさらね」

朋也「あの人とはなんか縁があるみたいだな」

春原「おまえがうらやましいよ。芳野さんが上司なんてさ」

朋也「かなり厳しいぞ、あの人。それに、おまえも知ってると思うけど、きつい仕事だしな」

春原「そういや、そうだったね。おまえ、よく続いてんね」

朋也「今はバイトだからな。仕事内容も単純だし、それほど時間もこなしてないしな」

春原「それでも、あん時と同じくらいのことやってんだろ?」

朋也「まぁな」

春原「じゃ、十分すごいじゃん」

朋也「そっかよ」

春原「ああ。僕はやりたいとすら思わないからね」

春原「ま、それはいいんだけどさ、明日からなにする?
   なんか、記録より記憶に残ることしようぜっ」

朋也「そうだな、じゃあ、学校にでも行くか」

春原「あん? なんでだよ? せっかく自由なんだから、んなとこ行ってもしょうがないだろ」



210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:34:01.91 ID:jpDSDOMkO

朋也「いや、つっても、部室だよ。今、あいつら全員試験終わって、毎日だらだらしてんだぜ」

春原「ああ、そういうこと。いいかもね、久しぶりにムギちゃんに会いたいし」

朋也「部長もおまえに会いたがってたぞ。おまえの帰りはまだかまだかってうるさかったからな」

春原「マジで? ははっ、けっこう可愛いところあるじゃん」

春原「よぅし、明日は久々にかわいがってやるかぁ」

朋也「おいおい、せっかく内定出たのに、取り消されちまうぞ、んな性犯罪起こしたら」

春原「誰も犯そうとなんかしてねぇよっ!」

―――――――――――――――――――――

律「なぁ、岡崎。あのバカってまだ地元にいんの?」

あくる日の午後。
昼休みにあたる時間、部室で茶をすすっていると、部長がそう尋ねてきた。
これを訊かれるのは何度目だろうか。

朋也「きのうやっと帰ってきたよ」

律「え、マジで?」

朋也「ああ。今日ここに顔出すって言ってたから、そろそろ来るんじゃないか」

律「そ、そっか…」



211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:36:46.48 ID:jpDSDOMkO

言って、カチューシャを一度はずし、またかけ直すと、髪を整え始めた。

澪「なんだ、律。ずいぶんと乙女じゃないか」

律「な、なにがだよ…」

紬「ふふ、久しぶりだもんね。一番可愛い自分で迎えてあげたいんだよね?」

律「は、はぁ? 意味がわからん…」

唯「まぁたまた~、りっちゃんはぁ」

律「な、なんだよ…そんなじゃないってのっ」

がちゃり

春原「よーう、久しぶり」

噂をすればなんとやら。陽気な声を伴って春原が現れた。

唯「春原くん、お帰りっ」

紬「お帰り、春原くん」

澪「お帰り」

梓「お久しぶりです、春原先輩」

春原「おう、この僕が帰ってきてあげたよ」



212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:37:17.08 ID:+UZ/pLeq0

律「なぁにを偉そうに。誰も頼んでねーっての」

春原「あん? なんだよ、おまえが一番寂しがってたって聞いたぞ、僕は」

律「岡崎、おまえか?」

朋也「ああ、そうだけど。間違ってないだろ」

律「大間違いだっつーのっ! こんなヘタレ野郎いなくて結構だっ!」

春原「あんだとこら、デコてめぇっ!」

律「デコ言うなぁーっ!」

部長が席を立ち、毎度おなじみ、ふたりの言い争いが始まる。
ブランクを感じさせないほど勢いよく罵声が飛び交っていた。

澪「はぁ…やっぱりこうなるんだな、あのふたりは…」

梓「もう、名物ですよね、軽音部の」

唯「あずにゃん、この伝統を受け継いでいくんだよ?」

梓「遠慮しておきます。それは、この代だけで終わりにした方がいい負の遺産ですから」

春原「おまえ、しばらく見ない間にまた額が広がったよね」

律「ああ!?」

春原「今度からちょっと広がるごとに逐一報告して来いよ、ははっ」



215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:44:38.90 ID:jpDSDOMkO

律「ざけんな、ボケ原! おまえなんか、髪の色がどす黒く変色しててキモイくせにっ」

春原「これが普通の色だろっ!」

律「次は何色になるんだ? う○こ色か? ついにうん○と一体化して本来の姿に戻るのか?」

春原「てめぇっ!」

やむ気配のない罵倒の応酬。
確かに、負の遺産と言われても仕方ないくらいにあさましい。

律「死ね!」

春原「生きるなっ!」

でも、このふたりだけは、その渦中にあって、常に生き生きとしていた。
こいつらにしかわからないなにかがあるんだろう、多分。

―――――――――――――――――――――

また少し時間が流れ、2月も残すところ数日だけとなった頃。
ついに全員の合格発表が終わった。

梓「うう…みな゛さん、おめ゛でとうございま゛す゛…ぐす…」

律「おまえが泣くなよ、梓…」

唯「あずにゃん、いいこいいこ」

中野の頭を撫でる。



216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 11:45:39.08 ID:+UZ/pLeq0

梓「よかったです…本当によかったでう…全員第一志望に受かって…うう…」

澪「奇跡的だったよな、ほんとに」

紬「みんな頑張ってたからね。神様がみててくれたのかしら」

春原「いや、違うよ。神様っていうか…ムギちゃん自体が天使なんだよ」

紬「ふふ、ありがとう」

律「ばーか、いくらムギをよいしょしても振り向いてもらえねーって」

春原「うっせぇ、勝負はまだこれからだ」

律「アホか。もう卒業するし、終わるだろ。タイムオ~バ~、残念でしたぁ」

そう…もう、あとは卒業するだけだった。
残された時間は、ごく僅かだ。
俺と唯の関係も…そのエアポケットのような、刹那的な間でしかいられない。

春原「最終日に校門をくぐるまであきらめねぇよっ!」

律「んとにしつけーな、おまえは…」

―――――――――――――――――――――

3月。その日はやってきた。

春原「桜だったら、もっとそれらしいのにね」



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朋也「軽音部? うんたん?」#20
[ 2011/12/31 04:37 ] クロス | CLANNAD | CM(0)

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