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唯「憂は死んだ」 【非日常系】


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/12(火) 23:12:53.73 ID:yhA/ujzRO


「ただいまー」

みなさんこんにちは。平沢唯です。今年で二十歳になる大人の女です。

「…あ…そっか。憂はもういないんだっけ」

私には一つ下の妹がいました。
過去形なのは、今はもういないからです。
憂は卒業を間近に控えた時に交通事故で死んでしまいました。

あの日は空が青かった。
私の記憶にあるのはただ、それだけです。
前後の記憶ははっきりとしません。
憂が死んだことをはっきりと理解したのは、桜が舞う出会いの季節。
出会いの季節に別れが訪れる。皮肉なものです。

呆けていた私を支えてくれたのは軽音部の仲間たち。
時折家を訪れては笑わせてくれる彼女らの存在がなければ、
今ごろ私はどうなっていたことか。

特に、憂と親しかったあずにゃんが私を支えてくれました。
あずにゃんだって辛いはずなのに。





2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/12(火) 23:22:19.85 ID:yhA/ujzRO


あれからもう一年以上の時が過ぎました。
まだ、私の心に出来た穴は埋まりそうにありません。

私が弱いから?
いいえ。
大切な人にふりかかる不幸は、己の身にふりかかるも同然。

つまり、大切な人の不幸を受け入れることは容易なことではないのです。
実際、私はまだ事実を受け入れることが出来ません。
頭で理解するのと、心で理解するのはまた別なのです。

だからでしょうか。
憂との思い出のつまったあの街から逃げるようにして飛び出したのは。
私はあの街から電車で三時間ほど離れた土地に腰を落ち着けました。
今通っている大学のレベルはさほど高くありません。
でも憂の死から成績は右肩下がりになっていた私にはそれも好都合でした。



4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/12(火) 23:26:22.01 ID:yhA/ujzRO


「晩御飯の用意でもしよう」

一年は意外と長いものです。
いつしか私は家事をそつなくこなせるまでに成長していました。
今では憂に負けないくらい料理のレパートリーも増えました。
舌が覚えているのか、味付けはどことなく憂の味付けに似ています。

それがどうしようもなく哀しくて、泣いてしまうこともあります。
一人で泣いていると、昔を思い出します。
一人じゃなく、二人でいたあの宝石のようにキラキラ光る日々です。
それがまた哀しくて、私はおいおいと声を上げて泣いてしまいます。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/12(火) 23:32:03.94 ID:yhA/ujzRO


「あ…メールだ」

差出人はあずにゃんでした。

「…」

用件は簡単なもので、要約すると冬休み会おう、それだけでした。
私は迷いました。
まず始めに脳裏に浮かんだのは憂の笑顔です。
線香の煙がその笑顔をぼやけさせています。

怖い。
次に浮かんだのは、たった二文字の言葉。
けれど、その二文字はどんな言葉よりも私の気持ちを的確に表現しています。
そして最後に浮かんだのは、みんなの笑顔。
あの温かい笑顔にもう一度会いたい、そう思う自分がいることは否定出来ません。

色々な思いが錯綜して、私はくつくつと声を殺して笑いました。
何がおかしいのかは分かりません。
ただ、腹の底から笑いが込み上げてきました。
私は一頻り笑うと、携帯の電源を落としました。



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/12(火) 23:38:14.95 ID:yhA/ujzRO


部屋の中は憂の名前で溢れ返っています。
何故でしょう?
私には分かりません。

教科書に書かれた『憂』という文字を指でなぞると、
私は言いようもない不安感を覚えるのです。
私は何かに追われるようにして消したばかりの電源を着けました。

真っ暗だった画面はややあって、明るい光を発し、待受画面を表示します。
新着メール二件。
姉妹でとった最後の写真の下にそう表示されているのを見て、
心臓がドクンと跳ねました。

あの街を離れてから、私は筆不精ならぬメール不精になり、
自分から連絡を取ることはしなくなりました。
始めはみんなの方から連絡がきたりもしたのですが、
それはみんなが新しい生活に幾分かの不安があったからで、
今となってはほとんどの人が私と疎遠になってしまいました。
一日に三件のメールが入ったのは久しぶりのことなのです。
それもこの短時間に。

私は震える指でボタンを押しました。
差出人は、りっちゃんとムギちゃん。
私は少し目頭が熱くなりました。
内容はあずにゃんと似たようなものでした。
私は一日かけて、三人にメールを返しました。
会いたい。ただ、それだけのメールを。一日かけて。



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/12(火) 23:42:12.50 ID:yhA/ujzRO


そして、冬休みがやって来ました。
私は今、帰りの電車でぼんやりと外を眺めています。
外は雪がぱらぱらと降っていて、大地を白く染め上げています。

お姉ちゃん。
どこかの誰かがそう呼びました。
私は外に固定した視線をゆっくりと室内へと移動させました。
お姉ちゃん。
そこにいたのは小さな女の子です。
どことなく、憂に似ています。

「何?」

私はそう訊きました。

「…」

女の子は何も言わずに、手に持っていた飴玉を私に差し出しました。

「くれるの?」

女の子は頷きます。

「ありがとう」

私はそれを受けとるとにっこりと微笑みました。
女の子はそんな私を見て満足したのか、
ぱたぱたと可愛らしい音をたてながら行ってしまいました。
私はもらった飴玉を手のひらに乗せると、コロコロと転がしてみました。
赤い袋に入った飴玉はうまく転がってはくれません。
私は少し哀しくなり、飴玉をポケットに入れると、目を瞑りました。



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/12(火) 23:45:21.06 ID:yhA/ujzRO


街にたどり着くと、懐かしい景色がそこには広がっていました。
私はマフラーを一撫ですると、家に向かって歩き始めました。
私はゆっくりと、噛み締めるように大地を歩きます。
帰路の途中、何ヵ所かの工事現場が目に入りました。
私は少し、いや、とても哀しくなりました
二人の思い出の山がこうして崩されていく様を見るのは、やはり心苦しいものなのです。

ぷらぷらと歩き始めて一時間。
私はようやく、家の前にたどり着きました。
手には沢山のアイスが抱えられています。

私は唾を呑み込むと、インターホンを押しました。
電子音が扉の向こうに吸い込まれ、
代わりにドタドタとした慌ただしい音が扉の向こうからやってきました。
扉を開けたのはお母さんです。
お母さんは私の顔を見ると、にっこりと微笑んで、家の中へと促しました。
私は同じようににっこりと微笑んで、家の敷居をまたぎました。

線香の匂いが鼻につんときます。
私は遺影の前に正座すると、写真の中で笑う憂の顔を見ました。
憂の笑顔はやはり、線香の煙によって弱々しく揺れています。
私は唇を咬むと、部屋へと向かいました。
扉を開けると、何も変わらない風景が私を迎えてくれました。

「ただいま」

私はそう言うとベッドに横たわりました。
みんなと会うのは明日です。
私は長旅の疲れを癒すように目を瞑り、そして深い眠りにつきました。



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/12(火) 23:48:31.74 ID:yhA/ujzRO


部屋の隅に飾られたギー太がぐわんと音を立てました。
私はびっくりして目を覚ましました。
空耳、だったのでしょうか。
私はギー太を手に取ると、

「憂?」

そう、声を掛けました。
ギー太は光を反射して、その大きな顔に私の顔を映しています。

「光?」

私は窓の外を見ました。
空は澄んだ青色をしていて、積もった雪が光を反射しています。

「…綺麗だな」

私はそうこぼすと、ギー太を壁に立て掛け、携帯を開きました。
新着メール一件。

「…あずにゃん」

今日の午後にどうやら私の家に軽音部のみんなで遊びに来るらしいです。
私は部屋を出るとキッチンへと向かいました。
キッチンには誰もいません。

私は誰もいないキッチンに立つと、お茶を淹れました。
お盆の上に淹れたてのお茶とお茶請けを用意し、リビングの中央に置きます。
それから私は大きな欠伸をしました。
やはり、一人は寂しいのです。
お姉ちゃんが居ないと私は…。

その時、インターホンが鳴りました。
私は急いで玄関へと走り、扉を開けました。



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/12(火) 23:52:29.42 ID:yhA/ujzRO


「…久しぶり」

黒髪のツインテール。
私は梓ちゃんに抱き着きました。
お姉ちゃんがいつもやっていたように。
私はお姉ちゃんだから。

「あずにゃん」

「…」

梓ちゃんは私の言葉を受けると哀しそうに顔を歪めました。
分かっています。
間違っているのは、他の誰でもない、私なのです。

「もう少ししたら、みんな来るって」

梓ちゃんはそう言ってぎこちなく笑いました。
私もそれにつられるようにして、歪んだ笑みを浮かべました。
頬を一筋の涙が伝い、地面に可愛らしい染みを作ります。

私の名前は平沢唯。
私には一つ下の妹がいました。
過去形なのは、今はもういないからです。
憂は卒業を間近に控えた時に交通事故で死んでしまいました。
あの日は空が青かった。
私の記憶にあるのはただ、それだけです。
それだけなのです。



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/12(火) 23:55:04.47 ID:yhA/ujzRO


おしまい




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唯「憂は死んだ」
[ 2012/01/13 18:54 ] 非日常系 | | CM(4)

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タイトル:
NO:5184 [ 2012/01/13 19:24 ] [ 編集 ]

あれ?

タイトル:
NO:5185 [ 2012/01/13 19:26 ] [ 編集 ]

唯が死んだショックで憂がおかしくなったってこと?

タイトル:
NO:5211 [ 2012/01/14 05:19 ] [ 編集 ]

どことなく「異物感」に似てる気がする

タイトル:
NO:5239 [ 2012/01/15 09:08 ] [ 編集 ]

そういうことだな
この手の話は面白い
部屋に憂の名前があふれかえっていた理由がわかった

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