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律「終末の過ごし方」#2 【非日常系】


SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPServiseより

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1304790351/


律「終末の過ごし方」#index


146 名前:にゃんこ:2011/06/02(木) 01:18:53.66 ID:fzyJMlSn0









148 名前:にゃんこ:2011/06/02(木) 01:25:51.59 ID:fzyJMlSn0

校門でムギと合流して部室に戻ると、澪と梓もいつの間にか部室に来ていた。
久しぶりに会うムギは少し疲れて見えたけれど、それでもとても楽しそうに振る舞ってくれた。

かなり久しぶりの軽音部の全員集合。
ムギはその事が嬉しかったんだと思う。
いつもよりも落ち着かず、はしゃいで見えた。
ムギが疲れている理由について、私は何も聞かなかった。
多分、それはムギが話したい時に話してもらえればいい事だと思う。



149 名前:にゃんこ:2011/06/02(木) 01:31:17.61 ID:fzyJMlSn0

そうしてさわちゃんを含めた六人でお茶をして、
さわちゃんが吹奏楽部の活動を見に行った後で

(私は知らなかったけど、
 午前中はさわちゃんの授業を受けたい有志の生徒達相手に授業をしていたらしい)、
 
私達軽音部の間に少し気まずい空気が流れた。



150 名前:にゃんこ:2011/06/02(木) 01:40:19.26 ID:fzyJMlSn0

原因は練習でやった私達のセッションが妙に噛み合わなかった事だ。
勿論、その妙に噛み合わないセッションの原因は私……、
と言いたいところだけど今回はそうじゃなかった。

よくドラムが走り気味でリズムキープもバラバラと、
結構厳しい評価を受けがちな私だけど、今日の私のドラミングは悪くなかったと思う。
リズム隊の澪も何も言って来なかったし、唯とはアイコンタクトで難しいリフも何とかこなせた。
いや、普段の練習から考えると、出来過ぎなくらいに私の演奏は悪くなかったはずだ。



151 名前:にゃんこ:2011/06/02(木) 01:46:56.26 ID:fzyJMlSn0

今回の噛み合わないセッションの原因は、
こう言うのも人のせいにするみたいで嫌なんだけど、
梓のミスによるものが大きかったと思う。

これは本当に意外な事だった。
私のミスのせいならともかく(って自分で言うのも悲しいんだけど)、
普段真面目で、子供の頃から演奏を続けている努力家の梓が
今日に限って凡ミスを繰り返していた。

しかも、普段なら本当にありえないミスばかりを。
いや、今日に限って……、じゃないか。
考えてみると、最近の梓は何だかどうもおかしかった。



152 名前:にゃんこ:2011/06/02(木) 01:58:42.15 ID:fzyJMlSn0

最近とは言っても、『終末宣言』の日からじゃなかった。
あれはあれでとても衝撃的な宣言で、
あれ以来、恐怖とか諦めとかで学校に来れなくなった同級生も多かったけど、
少なくとも梓はそういう子じゃなかった。

あの日、純ちゃんの電話と校内放送で世界の終わりを知った梓だったけど、
その後の行動は私達三年生が見てもびっくりしてしまうくらい落ち着いていた。
静かに家族に連絡を取ったり、事の真偽をニュースとかで調べたり、
私達の横で呆然とする澪を気遣ったりするくらい、すごく落ち着いた行動だった。

本当のところは分からないけど、
きっと純ちゃんが梓が慌てないように、電話で何か言ってくれたんだろうって思う。
純ちゃんの事をよく知ってるわけじゃないけど、あの子は多分そういう子だった。
自由に見えて、いつも誰かの事を気遣ってる子なんだ。
だから、ちょっと固めで融通の利かない所もある梓が、あんなに心を開いているんだ。
私もそういう先輩になれたらよかったんだけど……、実際は梓にどう思われているんだろう?



153 名前:にゃんこ:2011/06/02(木) 02:07:21.39 ID:fzyJMlSn0

いやいや、今は梓の私の評価はどうでもいい。
とにかく、そんな落ち着いた様子の梓なのに、ここ三日くらいどうにも様子がおかしかった。
一昨日なんてかなり挙動不審で、
私が指摘するまで自分の髪を結んでない事、鞄を持って来てない事にも気付いてないくらいだった。

それは最後の日まで一週間を切ったから、というわけでもないとは思う。
これは単なる私の勝手な考えなんだけど、
梓は世界が終わるとか、自分が死ぬとか、そんな事よりも恐い何かに怯えているように見えるんだ。
それが何なのかは分からないけど、部長としてそんな梓の力になりたいと思う。



154 名前:にゃんこ:2011/06/02(木) 02:12:01.98 ID:fzyJMlSn0

だけど、梓はそんな私に何も言ってくれなかった。
悩み事があるのか、心配な何かがあるのか、
そんな感じで何度も聞いてみたんだけど、
梓は「何でもないです」の一点張りで私の質問に答えてくれなかった。
私じゃ駄目なのかと思って、唯やムギに頼んで聞いてもらった事もあったけど、
やっぱり梓は何も答えずに無理な笑顔で笑っただけみたいだった。



157 名前:にゃんこ:2011/06/03(金) 23:24:30.58 ID:zgVV8sPg0

その何も言わない梓に一番苛立っていたのは澪だった。
セッション中、梓が凡ミスを繰り返す度に目に見えて不機嫌になっていく。
いや、苛立っていると言うより、焦っているんだろうな。
人一倍練習しているくせに、学園祭の時も自分の腕に自信が持てずに眠れてなかった澪だ。
最後になるかもしれない私達のライブを何としても成功させたいんだろう。
だからこそ気負ってしまって、普段ミスする事がない梓の今の様子に焦りを募らせているんだ。



158 名前:にゃんこ:2011/06/03(金) 23:28:46.84 ID:zgVV8sPg0

いつもの澪なら梓を気遣って相談にも乗れていたはずだけど、
もうすぐ死ぬと言われて誰かの事を気遣えるほどの余裕はないんだ、あいつは。
あいつはそういう繊細な奴だった。

もし『終末宣言』より前に梓が悩んでいたのなら、きっと澪が梓を支えてやれていたんだろうな。
梓は澪に憧れているみたいだし、澪なら解決してやれたはずだった。
上手くいかないよな、色々と……。



159 名前:にゃんこ:2011/06/03(金) 23:35:33.32 ID:zgVV8sPg0

勿論、焦ってしまうのは私も同じだった。
ただ澪には悪いけど、私が焦るのはライブの成功を願うからじゃなくて、
私達には話せない梓の中の問題が解決出来るかって事が気になるからだ。
もうすぐ終わるかもしれない世界。
そんな世界でも……、いや、そんな世界だからこそ、
せめて梓の問題だけは解決して、また五人で笑いたいんだ。



160 名前:にゃんこ:2011/06/03(金) 23:38:40.88 ID:zgVV8sPg0

そうじゃないと……。
そうじゃないと、悲し過ぎるじゃないか……。



161 名前:にゃんこ:2011/06/03(金) 23:41:38.17 ID:zgVV8sPg0

結局、今日どうにか練習出来たのは、
『五月雨20ラブ』とムギの作曲してくれた新曲を少しだけ。

『五月雨』の方はもう完成してる曲だから大体完璧だったけど、
ムギの新曲はまだ二割も演奏出来なかった。
そもそも新曲の方は曲名も歌詞も決まってない。
新曲の内容については澪に任せてるけど、
今の状況じゃ完成したのかどうかあいつに聞く事も出来なかった。



162 名前:にゃんこ:2011/06/03(金) 23:52:39.73 ID:zgVV8sPg0

梓の様子に澪が焦ってるからって事もあるけど、
それよりも澪も澪で何かを抱えてるみたいだったから。

『終末宣言』後、軽音部の中で誰よりも取り乱したのはやっぱり澪だった。
最初の一週間はそれこそひどかった。
自宅に閉じ籠ってかなり情緒不安定で、怯えていたかと思えば突然泣き出したり、
かと思えば妙な現実逃避で周りを混乱させたり、
一時期は手に負えないかと思ってしまったくらいに。



163 名前:にゃんこ:2011/06/03(金) 23:57:07.32 ID:zgVV8sPg0

でも、本当はそれが人間の正しい反応なのかもしれなかった。
私達みたいに平然としてる方がおかしいのかもしれないって、
自分でもそう思わなくはないけどさ。

それでも、自分勝手だけど、私は澪に怯え続けて欲しくなかった。
だから、私は何度も澪の家に行って、澪の部屋で何度も話し合った。
もうすぐ世界が終わるかもしれないからって、
それで何もしない方が勿体ないって何度も話した。



164 名前:にゃんこ:2011/06/04(土) 00:03:11.37 ID:9/KJvxcC0

勝手な言い分だと思う。
ずっと自分の家で家族と過ごすのも悪くなかったのに、私はそれを止めてしまった。
結局、それは多分、私が澪と一緒に居たかったから。
日常を無くしたくなかったから……。



165 名前:にゃんこ:2011/06/04(土) 00:06:30.16 ID:9/KJvxcC0

私の説得に根負けしたのか、私の我儘に付き合ってくれる気になったのか、
澪は自宅に籠るのをやめて、二日に一回くらいは学校に来てくれるようになった。
それ以来、澪は『終末宣言』前みたいな様子を見せるようになったけど……。

でも、分かる。
普段の澪みたいに見えて、人には言わない何かを抱えているんだって。
たまに見せる澪の寂しそうな笑顔に、そう感じさせられてしまう。



166 名前:にゃんこ:2011/06/04(土) 00:10:30.11 ID:9/KJvxcC0

最後のライブを目前に、私も含めて
そんな風に沢山の問題を抱えてしまっている我が放課後ティータイム。
最後に悔いのないライブが出来るのか、それは私にも分からなかった。
こうして、最後の月曜日が終わる。



167 名前:にゃんこ:2011/06/04(土) 00:15:53.60 ID:9/KJvxcC0








168 名前:にゃんこ:2011/06/04(土) 00:23:48.14 ID:9/KJvxcC0




――火曜日




169 名前:にゃんこ:2011/06/04(土) 00:25:05.15 ID:9/KJvxcC0

少し寝入っていた私はセットしていた携帯電話のアラームに起こされた。
急いでラジカセの電源を入れる。
軽快な音楽が流れる。



170 名前:にゃんこ:2011/06/04(土) 00:25:39.88 ID:9/KJvxcC0

「胸に残る音楽をお前らに。
 本当の意味でも、ある意味でも、とにかく名曲をお前らに。
 今日もラジオ『DEATH DEVIL』の時間がやって来た。

 まあ、時間がやって来たって言っても、
 休憩時間以外は適当に喋ってんのはお前らも知っての通り。
 その辺は気にせずノータッチで今日もお付き合いヨロシク。オーケー?



173 名前:にゃんこ:2011/06/06(月) 02:10:27.85 ID:9bU9HsRO0

 パーソナリティーは勿論、昨日と同じくクリスティーナ。
 つまり、アタシ。
 って、ここまで付き合ってくれたリスナーなら、言わなくても分かってるか。

 さて、最後の月曜がさっき終わったんで、今日はとうとう最後の火曜日。
 ノンストップで世界が終末に向かってるってわけね。
 今週の週末には終末って、ホントに出来の悪い冗談だけど、
 そんな冗談にこの放送は止められない。
 何度も言うけど、最後までヨロシク。



174 名前:にゃんこ:2011/06/06(月) 02:18:44.28 ID:9bU9HsRO0

 にしても、『終末宣言』で放送中止になっちゃった
 アニメのラジオ番組の枠を貰って、もう一ヶ月も経つんだね。
 ラジオなんて聞いた事しかなかったアタシがいきなりパーソナリティーになっちゃって、

 それでもここまでやって来れたのは
 リスナーのお前等と隠されてたアタシの潜在能力のおかげだね。
 なんて冗談。

 ほとんどリスナーのお前等のおかげだよ。本当に感謝してる。ありがとね。
 大体さあ、番組の枠が空いたからって、
 顔見知り程度でしかも未経験のアタシにパーソナリティーやらせるとか、
 うちのディレクターってどうかしてると思わない?
 
 しかも、いつの間にかどんどん放送時間が延びて、
 最近は一日中喋りっぱなしになっちゃってるし。
 あの人本当にどうかしてるって。



175 名前:にゃんこ:2011/06/06(月) 02:24:55.47 ID:9bU9HsRO0

 それにさ、あの人ってここだけの話、ヅラなんよ。
 これはアタシとお前等だけの秘密。
 誰にも言っちゃダメだぞ。
 ……って、これラジオだった。失敬失敬。
 あはっ、ディレクター睨んでる。
 こりゃ、後が恐いねー。
 
 ……でもさ。
 これでもディレクターには感謝してるんだ。
 音楽関係の仕事で、これだけ大きな仕事をやれるなんて思ってなかった。
 世界が終わる非常事態だからこそ、
 暇なアタシがパーソナリティーやれてるって事は分かってるけど、それでも嬉しいもんよね。



176 名前:にゃんこ:2011/06/06(月) 02:29:56.83 ID:9bU9HsRO0

 音楽は好きだし、出来るだけ最後まで音楽と関わってたかったからさ。
 そこんところはヅラのディレクターに感謝。
 あ、また睨んでる。
 いいじゃん、ディレクター。
 アタシはカツラなんか被ってないありのままのディレクターが好きよ。
 ……被ってない姿は見た事ないけど、多分好きだから。
 だーかーら、そんなに睨まないでよ。



177 名前:にゃんこ:2011/06/06(月) 02:37:12.00 ID:9bU9HsRO0

 さてさて、ディレクターの事はさておいて、
 思い返せば最初の一週間はそりゃすごいもんだったのよ。
 当時を知らない新参のお前らに説明しとくと、
 この時間枠って当初は放送中止になったアニメのラジオの枠だったからさ、
 そのアニメ好きの皆さんから心温まるお便りを沢山頂いたわけよ。
 「ちゃんと前番組を完結させろ」とか、
 「せめて引き続き声優に放送させろ」とか、
 「貴方の子を身篭りました」とか、
 「クリスティーナ、逝ってよし」とかね。
 ごめん、最後のは嘘。「逝ってよし」は古かったね。



178 名前:にゃんこ:2011/06/06(月) 02:46:50.10 ID:9bU9HsRO0

 でも、その時はさ、アタシも若かったからさ、
 本気でその心温まるお便りと口論したもんだったのよ。
 お電話をくれた今は常連の島根の『ラジオネームなど無い』略して『ラジな』とも、
 番組中にそりゃ大喧嘩しちゃったのよね、これが。

 いや、新参のお前らは驚くかもしれないけど。
 ディレクターも止めてくれりゃいいのに、
 面白そうにニヤニヤ見守ってくれちゃって。

 今考えると、こんな状況だからこそ、
 普通は放送出来そうにない物を放送したかったみたいね。
 ……チッ、あのヅラめ。
 ははっ、睨んでる睨んでる。



179 名前:にゃんこ:2011/06/06(月) 02:56:51.68 ID:9bU9HsRO0

 ま、確かにラジなの言う事も分からないでもないんだけどさ。
 楽しみにしてたラジオ番組が
 アタシみたいな無名の新人に乗っ取られちゃ、そりゃ気に入らないよね。
 アタシだって抗議の電話をしたくなるわ。

 一応自己弁護させてもらうと、
 ラジなの好きなアニメは会社に残ったスタッフ有志が超特急で製作してるらしい。
 完全版は無理かもしれないけど、せめて台本だけは完璧な物を仕上げるって意気込んでた。
 何作品かは無理みたいだけど、それでも出来る限りは頑張ってくれるってさ。
 声優の皆さんも何人かはそっちの仕事に集中してるらしいし。
 だから、新参者のアタシがその人達にアニメ製作に集中して貰えるように、
 お前らにせめてもの暇潰しを提供してるってわけ。



180 名前:にゃんこ:2011/06/06(月) 03:03:40.51 ID:9bU9HsRO0

 それにしても、あれだけ大喧嘩したラジながうちの常連になるとは思わなかったね。
 何か言いたい事を言い合ったら友情が芽生えてた感じ。
 夕焼けの河原での殴り合いの決闘後、みたいな。
 発想が古いって?
 ほっといて。
 あとはこう言うのも気障っぽいんだけど、音楽のおかげかもね。
 正直言うと、アタシ実はアニメソングってなめてた。
 アニメの付属品の安っぽい劇中曲だろ、なんて聴きもせずに馬鹿にしてた。
 でも、喧嘩中にラジなが「この曲を聴いてみろ」って挙げてたアニソンを、
 聴かないのも悔しいから何曲か聴いてみたら、悔しいけどいい曲もあるじゃない。



183 名前:にゃんこ:2011/06/06(月) 03:12:31.46 ID:9bU9HsRO0

 それにラジなの奴もアタシが勧めたロックを律儀に聴いてくれたみたいでさ。
 あいつもアニソン以外は聴かない奴だったみたいだけど、アタシの好きなロックを悪くないと思ってくれたみたい。
 まさかあの喧嘩の後にまた電話掛けてくるなんて、本当に律儀な奴だよ。
 それが受けてこのラジオが今まで続いてるってんだから、世の中分かんないね。
 まさに音楽は世界を救うってやつ?
 いや、世界は救ってない……か。
 もうすぐ終わっちゃうしなあ……。
 だけど、少なくともアタシとラジなはそんな感じに音楽で分かり合えた。
 少しだけかもしれないけど、確かに音楽はこれまでそんな風に世界を救ってたって、アタシはそう思う。



184 名前:にゃんこ:2011/06/06(月) 03:18:19.09 ID:9bU9HsRO0

 ……さて、そろそろ一曲目のリクエストにいってみよう。
 一曲目は今話題のラジオネームなど無いことラジなからのリクエスト。
 って、終末が近いからって、いちいち世界の終わりっぽい曲を選ばないでよ……。
 ま、いいや。
 じゃあ今日の一曲目、島根県のラジオネームなど無いからのリクエストで、
 FLOWの『WORLD END』――」



189 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 20:39:53.73 ID:6lNkwtuG0








190 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 20:40:54.84 ID:6lNkwtuG0

朝。
人通りの少なくなった通学路をゆっくりと歩く。
車の通りも少なくて、どこか別の街に来てしまったような気もする。
今となっては、遅刻を気にして、急いで学校に向かう必要もなくなった。
それはそれで大助かりではあるけど、
そういういつもの光景が無くなってしまったのは少し寂しいな。
ちょっと立ち止まって、周りを見渡してみる。



191 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 20:43:02.62 ID:6lNkwtuG0

見慣れた建物、橋、線路、店、道路、公園……。
ずっと一緒にいてくれて、ずっと私達と育ってきた街並み。
話によると、世界が終わった後もこの街並みだけは残るらしい。
人が居なくなって、動物達も居なくなって、それでもずっと人の街は残り続けるそうだ。
どういう世界の終わりだよって思わなくもないけど、終末ってのはそういうものらしかった。



192 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 20:44:19.13 ID:6lNkwtuG0

街だけ残る……か。
それはせめてもの救いなんだろうか。
それとも、この地球上には生物なんて必要なかったっていう皮肉なんだろうか。



193 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 20:51:05.33 ID:6lNkwtuG0

「律? どうしたんだ? 行くぞ」

立ち止まっていた私に向けて、私の長い黒髪の幼馴染みが言った。
私が街並みを見渡しているうちに、澪はかなり先の方まで行ってしまっていた。



194 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 20:53:43.54 ID:6lNkwtuG0

「何してんだよ、律。急に隣から居なくなったらびっくりするじゃないか」

「いやー、久しぶりに我が街を眺めてたら、ロマンティックが止まらなくなっちゃって」

「何だよ、それ……」

呆れた感じで澪が呟いて、私が悪戯っぽく微笑んでやる。



195 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:04:21.78 ID:6lNkwtuG0

それがずっと続いてきた私と澪の関係。
もうすぐ終わりを迎えるのかもしれないけど、私の我儘で続けてもらっている私達の関係だ。
『終末宣言』から大体一ヶ月、
やっと澪の様子も落ち着いてきたけど、本当の澪の本心は分からない。
気弱で怖がりなくせに強がりがちな澪。
世界の終わりまで一週間も残ってなくて、そんな中でこいつは何を考えているんだろう。



196 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:07:14.24 ID:6lNkwtuG0

いつもならそれをそれとなく聞けてたんだろう。
だけど、我ながら情けなくなるけど、今はそれを聞くのが恐い。
もしこいつの本心の中に、部活やライブ、私達よりも大切な何かがあって、
それを優先したいとこいつが考えていたら、私はそれを止める事が出来ない。止めていいわけない。
それが恐くて、私は澪の隣でわざとらしくても笑ってるしかない。

だけど、澪とは長い付き合いだ。
澪もそんな私の様子に気付いてるかもしれない。
それでも、私は笑って澪に話し掛けるだけだ。
このままでは駄目なんだと分かっていても。



197 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:08:15.99 ID:6lNkwtuG0

「ところでさ、澪」

「ん」

「今日はどうするんだ? ずっと部室に居る? それか他に何かするのか?」

「そうだな……。とりあえず今日はさわ子先生の授業に出ようと思ってる。
 一時間目から希望者に授業してくれるみたいだし、私も出てみようかなって」

「なんと。さわちゃんもいい先生だなー。
 昨日だけじゃなくて、今日まで授業してくれるなんて」

「いやいや、昨日部室で言ってただろ。この一週間はずっと授業する予定だって」

「あれ? そうだっけ?」

「おいおい……」



198 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:13:16.63 ID:6lNkwtuG0

そうだっけ? とは言ってみたけど、本当は私も知っていた。
昨日、さわちゃんが部室で、

今週は音楽室でずっと授業してる予定だから、暇なら来てもいいわよ」

って、そう言ったさわちゃんの笑顔が眩しくて、忘れられるわけがない。
誤魔化したのはそのさわちゃんの笑顔が眩し過ぎて、照れ臭かったからだ。

私達の顧問の先生の山中さわ子先生。
半ば無理矢理に顧問になってもらったけど、私はさわちゃんが顧問で本当によかったと思う。
たまにエロ親父的な発言に困らせられる事もあるけど、それも御愛嬌って事で。



199 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:16:36.58 ID:6lNkwtuG0

「こんな状況で、自分の事より生徒の事を考えられるなんて、いい先生だよ」

「普段は変な衣装製作してくるけどなー」

「それもさわ子先生の魅力だろ? 変過ぎて困る事もあるけどさ」

「じゃあ、今度さわちゃんの作ったサンバカーニバルみたいな衣装着てあげたらいいじゃん?
 さわちゃん喜ぶぞー」

「うっ……、それはちょっと……」

「冗談だよ。でも、確かにさわちゃんっていい先生だよな。
 折角だし、今日は私も澪と一緒に、さわちゃんのいい先生ぶりを見物に行こうかな」

「うん。じゃあ、今日はとりあえず一緒にさわ子先生の授業を受けよう。
 それから先の事は後で部室で考えればいいんじゃないかな」



200 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:22:21.97 ID:6lNkwtuG0

「えっと……さ」

また急に澪が立ち止まって喋り始める。
私も足を止めて、澪の言葉に耳を傾けた。
目を少し伏せながらも、力のこもった言葉で澪は続けた。



201 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:25:09.22 ID:6lNkwtuG0

「昨日の事……なんだけどさ」

「……梓の事か?」

「うん……。ごめん。私、先輩らしくなかったと思う」

「そうかもな……」

「頭では分かっててもさ、焦っちゃって自分じゃどうにもならなくて、
 苛立って……。それで……」



202 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:29:53.84 ID:6lNkwtuG0

澪が少し口ごもる。
私は黙って澪の次の言葉を待つ。
黙ってはいたけど、私は嬉しかった。
澪も澪で梓の事を考えてないわけじゃないって分かったから。
いや、むしろ梓の事を考えていたから、澪も苛立ってしまってたんだろう。
それを澪自身も分かっているんだ。
だから、口ごもりながらも言葉を続けてくれた。



203 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:31:11.75 ID:6lNkwtuG0

「梓が何か悩んでるのは分かる。何とかしてあげたいと思う。
 思う……んだけど、梓は何も言ってくれなくて、それ以上私には何も出来なくなって……。
 梓に苛立っちゃってる私に一番苛立っちゃって……。
 昨日……、ううん、ここ最近、先輩として最低だったと思う……」

「自分で分かってるんなら大丈夫だよ、澪。
 後はそれを梓に伝えてあげればいいんだよ。
 分かってても、難しい事だけどさ……」

「そうだよな……。そうなんだよな……」

「そうだよ」



204 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:33:30.70 ID:6lNkwtuG0

そう言いながらも、私は次の言葉を言い出す事が出来なくなった。
自分の言っている事は正論だと思うし、間違ってないと思う。
澪も私の言葉に納得してくれてるだろうし、
難しい事だけどそれを実行しようと思ってくれてるはずだ。

だけど。
私は考えてしまう。
自分で言っておいて、それを自分で実行出来ているのか、って考えてしまう。
既に澪に我儘を押し付けてしまってる私にそんな事を言えるのか。
言ってしまっていいんだろうか……。



205 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:40:04.86 ID:6lNkwtuG0

と。
その沈黙は急に破られた。
耳を澄ませば聞こえるくらいの微かな声が校舎の廊下に響いたからだ。
普通に話してたら気付かなかっただろうけど、
黙っていたおかげと言うべきか、その呻くような声は妙に私達の耳に響いた。
しかもその呻き声は長く続いて、一度気にしてしまうともう耳から離れなくなってしまった。



206 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:40:46.29 ID:6lNkwtuG0

「な……、何?」

さっきまでの様子とは一転、別の意味で不安そうな表情を浮かべて澪が呟く。
こんな時でも性格の本質的なところは変わらないらしい。
私はちょっと嬉しくなって、からかうように言ってやる。



207 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:42:08.94 ID:6lNkwtuG0

「さあなー。お化けかもなー」

「お、お化けって……、そんな非科学的な……」

「世界の終わりの方が十分に非科学的じゃんか。
 呻き声の正体、確かめに行ってみようぜ」

「いやいや、もしかしたら誰かが腹痛で苦しんでるだけかも……」

「そっちの方が大変じゃんか。
 もしそうだったら、保健室に連れて行ってあげないといけないだろ」

「あっ……、しまった……」



208 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 21:42:55.89 ID:6lNkwtuG0

自分の言葉が墓穴を掘ってしまった事に気付いた澪が、
不安一杯という感じの表情を見せる。
私はそれに苦笑して、多分、澪の言葉が当たりだろ、
とフォローしながら、呻き声の発生源を探してみる事にした。



209 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 23:22:13.93 ID:6lNkwtuG0

周囲を見渡しただけで、発生源は案外に簡単に見つかった。
見つかった……んだけど、その発生源の場所が普通過ぎたから、
つい私はガッカリして呟いてしまっていた。

「何だ、オカルト研かよ……」

いや、別にオカルト研が悪いわけじゃないんだけど、
もっと意外な展開を期待してた私的には拍子抜けだった。
オカルト研の部室からなら呻き声が聞こえてもおかしくないからなあ……。
うん、おかしくない……か?
まあ、いいや。



210 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 23:34:28.84 ID:6lNkwtuG0

「ほら澪、何か大丈夫そうだぞ。
 呻き声が聞こえるの、オカルト研の中からだし」

「何が大丈夫なんだよ!」

「いや、病人や怪我人が居なさそうって意味で。
 一大事じゃなくて何よりじゃないか」

「その代わり、呻き声の正体がお化けの可能性がぐっと高くなったじゃないか…」

「私としてはそれでも全然オッケーだぜ?」

「私は嫌だ!」

「でもほら、もしかしたらお化けじゃなくて宇宙人の方かも……」

「どっちにしろ嫌だ!」



211 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 23:41:53.45 ID:6lNkwtuG0

相変わらず我儘な幼馴染みである。
だけど、やっぱり安心した。
そういえば澪をこんな感じに弄るのは、すごく久しぶりな気がする。
何か落ち着くな。
こういうのが好きなんだよなあ、私って……。



212 名前:にゃんこ:2011/06/09(木) 23:48:47.06 ID:6lNkwtuG0

私はその落ち着いた表情を澪に見せないよう、わざとらしく笑いながら言った。

「まあまあ。とりあえずオカルト研の様子だけ見てみようぜ?
 チラッと見るだけにしとくから、澪も来いよ。
 呻き声は何かの魔術っぽい儀式の声だよ、きっと。
 ベントラーベントラーみたいな」

「儀式……ね……。それなら、まあ、ちょっと見るだけなら……。
 もしかしたら腹痛とかの可能性も少しは残ってるわけだし……。
 でも、儀式だったら邪魔しちゃ駄目だからな。ちょっと見て終わりだぞ。
 あとベントラーは魔術の儀式じゃないけどな」

「わーってるって。……って、恐がるくせに詳しいな、おまえ」



213 名前:にゃんこ:2011/06/10(金) 00:11:29.50 ID:Tp39Qv0Y0

突っ込んだ後、あれだけ騒いでおいて今更だけど、
オカルト研の子達に気配を悟られないように、
私達は静かにオカルト研の部室に近付いていく。

勿論、その動機の半分はオカルト研の身を心配しての事だ。
学園祭をきっかけに折角仲良くなれたんだ。
あの子達にも何かあったら心配じゃないか。
いや、純粋な好奇心からって動機も半分あるけどさ。



214 名前:にゃんこ:2011/06/10(金) 00:32:24.82 ID:Tp39Qv0Y0

だけど、お化けとか宇宙人とか、そんな贅沢は言わないから何か面白い儀式が見れればいいなあ。
その程度のほんの少しの不純な期待を持って、私はオカルト研の部室の扉をそっと開いた。
おはようございまーす、ってね。と、そんな本当に軽い気持ちで。

でも、そんな不純な思いを持っていたのが悪かったのかもしれない。
オカルト研の中では、私には思いも寄らなかった衝撃的な光景が広がってた。
死体が転がっていたとか、宇宙人が居たとか、チュパカブラが背びれを振動させて飛び回っていたとか、
そういう非常事態は幸いにと言うべきか起こってはいなかった。

それでも。
その時、私が目にした光景はそういうのを目撃するのと同じくらい、衝撃的なものだった。



215 名前:にゃんこ:2011/06/10(金) 00:40:33.79 ID:Tp39Qv0Y0

「ぶふぉっ!」

オカルト研の部室の扉の間からその光景を目にした瞬間、私は思わずむせてしまっていた。
自分でも不細工だと思う酷い声が漏れてしまう。
それも仕方が無かった。
と言うか、これでむせない人間なんているか!
誰だって驚くよ! 私だけじゃなくて、絶対誰だって驚くって!
こんなの想像もしてなかったし!
普通なら自分の目を疑うし!
はっきり言って、おかしーし!



216 名前:にゃんこ:2011/06/10(金) 00:50:13.85 ID:Tp39Qv0Y0

……とにかく。
オカルト研の部室の中には二人の女子が倒れていた。
一瞬、病気か怪我で倒れてるのかと思ったけど、そうじゃなかった。
勿論、事件に巻き込まれているようでもなくて、二人は元気そうに動いていた。

そうなんだよ。動いてるのが問題だったんだ。
何をしてるんだろうって少し不審に思ったけど、その疑問もすぐに解決した。
解決してしまった。
何でかって、その答えは簡単だ。
何故なら二人とも半裸だったからだ。

いやいや、半裸っていう表現は大人しかった。
正確に言うと、申し訳程度に下着を着けているっていうほぼ全裸の姿で、
二人の女子生徒が抱き合うような距離でお互いに動いてたんだ。



217 名前:にゃんこ:2011/06/10(金) 00:54:55.29 ID:Tp39Qv0Y0

つまり……、その……、あれだ。
お互いに動くって言うのは……、
えっと、お互いにお互いを触り合ったり、お互いの唇を重ね合ったり、
何か舌とか出してお互いの舌に触れ合ってたり、つまりそういう事をしてたんだよ!

何だよ、もう!
しかも、よく見たらその女子ってオカルト研の子達じゃないし!
他人の部室で鍵も閉めずに誰だよ、ちくしょう!



218 名前:にゃんこ:2011/06/10(金) 01:06:49.66 ID:Tp39Qv0Y0

ああ、もう……。
いいや、もう。
何か疲れた……。
こんな他人の、しかも女子同士のなんて見てられないよ。

そりゃ私だって女子高に通ってる身だし、そういう関係の女子がいるって噂を聞いた事もあった。
誰と誰がそれっぽいかって話題で盛り上がった事もある。
別に女同士でそういう関係になっても、いいんじゃないかなとは思う。
ほら、私ってロックな女のつもりだし。
だけど、聞くと見るとじゃ大違いだ。
何だか見ちゃいけないものを見てしまったって気になってしまう。



219 名前:にゃんこ:2011/06/10(金) 01:17:48.66 ID:Tp39Qv0Y0

私は大きく溜息を吐いて、その場から去ろうとして……、その動きが止まった。
それは私の意思で止めたわけじゃなかった。
私の動きを止める誰かが居たからだ。
私の服を掴んで離さない誰かが居たからだ。
当然、その誰かが誰なのかは分かり切っていた。

澪だ。
澪は私の服を掴んで、食い入るみたいにオカルト研の中の女子二人を見つめていた。
その表情はとても……、その二人の姿をとても羨ましそうに見ているみたいだった。



220 名前:にゃんこ:2011/06/10(金) 01:20:12.14 ID:Tp39Qv0Y0



今回はここまでです。
澪編もまだまだ終わる気配を見せませんが、今後とも宜しくお願い致します。
まさかの百合展開。
……ですが、実は『終末の過ごし方』にもある展開だったり。




221 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2011/06/10(金) 01:48:00.76 ID:s0ZRfC1Eo

まあ、終末だしね
そういうのも……



222 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県):2011/06/10(金) 04:08:49.27 ID:0W5BSs1Co

ちきしょーホント覚えてないや原作
もったいねぇ





224 名前:にゃんこ:2011/06/11(土) 21:47:33.17 ID:+7DPB8Sg0

「ちよっと……、離せよ、澪……!」

オカルト研の部室の中の二人に気付かれないよう私は囁いたけど、
その言葉を聞いていないのか、聞いていて拒否しているのか、
とにかく澪は私の制服を掴んだまま離さなかった。

何処までも澪は裸で絡み合う二人をずっと見つめていて、
その表情は前に一度、澪以外の人間が浮かべた事のある表情によく似ている気がした。
それは一年の頃のムギの表情だ。
さわちゃんと唯が接近して、その二人の様子にうっとりしていたムギの表情。
多分、それは憧れだ。自分では手の届かない場所に居る人達への届かない想いだ。



225 名前:にゃんこ:2011/06/11(土) 21:48:16.00 ID:+7DPB8Sg0

詳しく話した事はないんだけど、ムギはそういう女の子同士の関係が好きらしかった。
ムギ自身が女の子同士の関係を誰かと築き上げたいのかどうかは分からない。
単にそういう関係の女の子同士を見ているのが好きなだけなのかもしれないし、
それはどっちでもいい事だ。
ムギが何を好きだろうと、何を望んでいようと、ムギは私の大切な親友なんだから。

だけど。
そう思っている私でも、今の自分の胸の鼓動は止められそうになかった。



226 名前:にゃんこ:2011/06/11(土) 21:51:00.32 ID:+7DPB8Sg0

誰かの濡れ場を初めて目撃したからじゃない。
女同士の関係が現実にある事を知ってしまったからでもない。
勿論、それらが原因でもあるけど、それだけじゃなかった。
それ以上に胸が痛いほどに騒ぐ理由があった。
私は躊躇いながら、オカルト研の部室の中の二人に視線を戻す。



227 名前:にゃんこ:2011/06/11(土) 22:02:52.64 ID:+7DPB8Sg0

「お姉さま……」

「ほら、タイが曲がっていてよ」

裸の二人(よく見ると一人は長い黒髪で、もう一人はショートヘアで眼鏡を掛けていた)は抱き締め合い、
お互いに愛おしそうな表情で囁き合って、お互いの肉体を弄り合っていた。
そんな格好でタイとかそういう問題じゃないだろ!

しかも、何だよ、その演技掛かった口調は……。『お姉さま』だし……。
まあ、部室に鍵が掛かってなかった事から考えても、
例え誰かに見つかっても見せつけてやろうというくらいの感覚なんだろうな。
それで多少演技臭くても、そういう自分達に酔ってるんだろう。



228 名前:にゃんこ:2011/06/11(土) 22:07:04.33 ID:+7DPB8Sg0

……いやいや、そんな事は関係ない。
そんな事よりも重要なのは、その二人を澪がずっとムギに似た表情で見つめ続けている事だ。
幼馴染みだからって、澪の全てを知ってるわけじゃない。
私の知らない澪の姿だって、沢山あるんだろう。

だけど、こんな状況で澪がこんな行動を取るなんて、私の知らない澪にも程があった。
あんな甘々な歌詞を書くだけあって、澪は恋愛に対して人一倍敏感だ。
自分だけじゃなく、他人の恋愛にも敏感で、誰かの恋の話題が出るだけで赤面するくらいだった。
なのに、そんな澪が今、他人の、しかも女同士の濡れ場を目撃して、憧れる様にじっと見つめている。

違うだろ、澪。
そこは部室の中の二人の見物を続けようとする私を、
「失礼だろ!」ってお前が赤くなりながら殴るところだろ。
何だよ……。そんな私の知らないお前を見せないでくれよ……。



229 名前:にゃんこ:2011/06/11(土) 22:11:21.38 ID:+7DPB8Sg0

でも、それだけならまだよかった。
それだけなら幼馴染みの知らない一面を見てしまって、
私が少し寂しくなってしまうだけの事だった。
気付かれないように、もう一度私は澪の表情をうかがってみる。
ムギに似た表情。だけど、ムギとも少し違う澪の表情。

もしかして……、と思う。
胸の奥に秘めていた私の考えが浮かび上がってくる。
だから、私の胸は痛んでるんだ。



230 名前:にゃんこ:2011/06/11(土) 22:14:31.13 ID:+7DPB8Sg0

「あっ……」

気付かれないようにしていたつもりが上手くいかなかったらしい。
視線に気付いた澪と私の目が合って、その一瞬後に澪は赤くなって視線を逸らした。
気が付けば私も視線を伏せていた。何だか顔が熱い。私も赤くなっちゃってるんだろうか。
正直に言うと、今までそれを考えてなかったわけじゃない。
でも、そんな事、誰にも言えるもんか。
澪が私の事を好きなんじゃないかって。
そんなの自意識過剰過ぎる。
こんな私が同性の幼馴染みに好かれてるって考えるなんて、それ自体恥ずかしくて口に出せるか。



231 名前:にゃんこ:2011/06/11(土) 22:15:12.79 ID:+7DPB8Sg0

ただ、噂になった事は何度かあった。
いつも傍に居て、皆にコンビとして認められている私と澪。
悪気は無いんだろうけど、そんな関係を見て、
私達二人の恋愛関係を想像する子は少なくなかった。
特に下級生かな。

曽我部さんから聞いた話によると、
澪ファンクラブの中には澪の恋人が誰なのかという派閥があって、
それには唯やムギ、梓に果てはさわちゃんや和まで候補が居て、
誰が澪の恋人なのかで争ってるんだそうだ。

いや、勿論、極一部の話なんだろうけれども。
と言うか、女同士なんだが……。
そして、その派閥の中で一番大きいのが澪の恋人は田井中律派……、つまり私の勢力らしかった。
ちなみに曽我部さんも私の派閥なんだそうだ。
それは何と言うか……、ありがとうございます……?



233 名前:にゃんこ:2011/06/11(土) 22:25:25.48 ID:+7DPB8Sg0

当然だけど、本来ならそれは笑い話の一つだ。
少し不謹慎だけど、何事もない生活の中で自分達で想像するだけなら何の問題も無い事だ。普段なら。

だけど、今は世界の終わりの直前っていう非常事態だった。
前にクリスティーナこと紀美さんがラジオで話してたけど、
『終末宣言』以来、自分の特殊な趣味や性格、性癖を告白する有名人は増える一方だ。
勿論、それは有名人だけの話じゃなくて、私の周りの人達でもそうだった。

私の友達の中ではボーイズラブってのが好きだって告白した子が居たし(皆、知ってたけど)、
父さんも友達(男)が急に好きだって告白してきたから驚いたって言っていた
(妻を愛しているからって断ったらしい)。

皆、最後くらいはありのままの自分で居たいんだ。
ひょっとすると、オカルト研の中の二人も『終末宣言』後にこういう関係になったのかもしれない。



234 名前:にゃんこ:2011/06/11(土) 22:26:51.07 ID:+7DPB8Sg0

私にもその気持ちは分かる。
私には特に隠している性癖とかはないけど、
あればきっと誰かに言っておきたいと考えてたと思う。
澪はどうなんだろう……って、私は思う。

澪は追い込まれないと本当の実力を出せないタイプだし、
追い込まれないと本音もあまり口にしない。
でも今は……、人類全体が追い込まれてる状況だ。
まさか、だよな。

澪は別に私の事を好きとかじゃないよな?
澪はただ初めての女同士の濡れ場に驚いて、目を離せなくなってるだけだよな?
あの『冬の日』の歌詞も私の事を書いてたわけじゃないよな……?



235 名前:にゃんこ:2011/06/11(土) 22:28:10.14 ID:+7DPB8Sg0

そう考えてしまうから、私の胸は痛いほど鼓動しまっている。
澪に好かれるのが嫌なんじゃない。
澪の事は好きだ。
当然、恋愛対象としてじゃない。親友として、幼馴染みとして、大好きだ。
女同士の関係に抵抗があるわけでもない。
ムギの台詞じゃないけど、本人同士がよければいいと思う。

それが自分自身の事になると分からないけど、
もし誰かに告白されたりしたら本気で考えてみてもいいとも思う。
だけど、その誰かがもしも澪だったら……。
そう考えると、どうしても私の胸は痛くなる。
痛いんだ、とても。



237 名前:にゃんこ:2011/06/14(火) 00:38:05.23 ID:toNYD3r30






オカルト研の部室の中の二人を十分くらい見てたと思う。
急に澪が私の手を引いて、「行こう」と小さく囁いた。
何処に行くのか私は少し不安になったけど、
澪に手を引かれて辿り着いた場所は軽音部でない方の音楽室だった。

そうだった。
そういえば私達はさわちゃんの授業を受けるんだった。
そんな事、すっかり頭の中から消え去っていた。
最初は部室に寄る予定だったけど、
オカルト研を覗いてたせいでそんな時間も無くなってしまっていた。
それで澪は直に私を音楽室に連れて来たんだろう。
さっきまで私の言葉も聞かずにオカルト研を覗いてたくせに、
急に妙に冷静になっている澪に私は何も言えなかった。
何を考えてるんだよ、澪は……。



238 名前:にゃんこ:2011/06/14(火) 00:38:45.39 ID:toNYD3r30

さわちゃんの授業は面白かった……と思う。
授業にはムギと唯も参加していて、
久し振りに四人で受ける授業はとても嬉しかった。
だけど、そんな折角の授業なのに、どうしても私は授業に身を入れる事が出来なかった。
身を入れられるわけがない。
授業中、ずっと澪の視線を感じていたからだ。
実際に見られてるわけじゃないかもしれない。
単に私の自意識過剰な所が大きいんだろう。
でも、意識し始めるとどうしようもなかった。
澪に見られてると思うと、どうやっても授業に集中出来なかった。

授業の後、皆で部室に向かおうとした時、
そういや予定があったんだ、ってわざとらしい言い訳をして、私は皆の中から抜け出した。
居心地が悪くて、澪の傍には居られなかった。
本当はずっと傍に居たかった。
世界が終わるらしいって聞いてから、私は最後まで澪の傍に居たいと思ってた。
無理に家の中から連れ出してまで、澪には傍に居てほしかった。
澪に私が必要なんじゃなくて、私に澪が必要なんだ。
だけど、それはこんな意味でじゃない。
こんな居心地の悪さを求めてたわけじゃない。
だから、私は逃げ出したんだ。



239 名前:にゃんこ:2011/06/14(火) 00:41:05.33 ID:toNYD3r30

「あー……。何やってんだ、私は……」

皆から抜け出した先、
軽音部から少し離れた廊下の窓から校庭を見下ろしながら、私はつい口にしていた。
どうしようもない自己嫌悪。
こんなんじゃ駄目だ。
このままじゃ駄目だ。
『終末宣言』以来、何度そう思ったんだろう。
何度そう思いながら、何も変えられなかったんだろう。

「ちくしょー……」

自分の情けなさが悔しくて、拳を握りながら吐き捨ててみる。
勿論、そんな事で何も変わるわけがなかった。
ただ悔しさが増しただけだった。
悔しさをずっと感じながら、それでもどうしようもない私は校庭を見回してみる。
校庭を見回したところで、何も解決するはずがないのに。
それでも、私は他に何も出来なかった。



240 名前:にゃんこ:2011/06/14(火) 00:42:18.75 ID:toNYD3r30

見下ろしてみた校庭は『終末宣言』前と何も変わってないように見えた。
生徒の数こそ減ってるけど、それ以外はほとんど何も変わってない。
その何も変わってない校庭に、私はよく知っている長い黒髪を見つけた。
澪じゃない。
梓だ。
最近、様子のおかしい梓。
どうにか手助けをしてあげたい私の大切な後輩。
その梓は何かを探してるみたいに足下を見下ろしながら歩いていた。

「おーい、あず……」

反射的に手を上げて声を掛けようとして、その途中で私の言葉は止まった。
声を掛けて、どうする?
声を掛けて、どうなる?
こんな今の私が、何も言おうとしない梓の力になってやれるのか?
それとも、代わりにどうしようもない私の愚痴を聞かせるつもりか?
答えは出ない。



241 名前:にゃんこ:2011/06/14(火) 00:43:24.66 ID:toNYD3r30

でも、途中までしか出なかった私の言葉は、梓の耳に届いていたらしい。
梓は顔を上げて、私の方に視線を向けた。
梓と私の目が合って、視線がぶつかる。
その一瞬、気付いた。
梓が泣きそうな顔をしている事に。
多分、今の私と同じような顔をしている事に。

梓の表情を見た私は、何とかしなきゃと思った。
小さくて弱々しい後輩の力にならなきゃと思った。
何も出来ない私だけど、何とかしてあげたかった。
今度こそ、私は梓の悩みを聞きだすべきだった。
だから、私はなけなしの勇気を振り絞って、喉の奥から言葉を絞り出そうとした。



242 名前:にゃんこ:2011/06/14(火) 00:45:12.73 ID:toNYD3r30

「あず……」

だけど、その言葉はまた途中で止まる事になった。
私と目の合った梓が私から目を逸らして、すぐに校庭から走り去ってしまったから。
まるで私から逃げ出すみたいに。
それでも追い掛けるべきだったのかもしれない。
でも、なけなしの私の勇気は、逃げ出していく梓の姿に急に萎んでしまって……。
身体から力が抜けていくのを感じる。
脚に力が入らない。
私はその場に座り込んで、頭を抱えてとても大きな溜息を吐いた。

ひょっとして……、と思った。
私はずっと梓は何かに悩んでいるんだと思ってた。
私達に言えない何かを抱えて、ずっと無理に笑ってるんだと思ってた。
でも、ひょっとして……、それは違ったのか?
梓は私と関わりたくなくなっただけなのか?
私の近くに居たくなくて、それでするはずのないミスを連発していたのか?
そんなにまで、私の事が嫌いになったのか……?



243 名前:にゃんこ:2011/06/14(火) 00:46:44.78 ID:toNYD3r30

ひどい被害妄想だ。
梓がそんな事を考える子だと思う事自体、梓に対して失礼だ。
でも、駄目だった。
澪の視線を感じると気になって仕方がなくなったのと同じに、
梓に嫌われてるんじゃないかと思い始めると、その考えが私の頭から離れなくなった。

それにそれは、ずっと思ってなくもなかった事でもあったんだ。
梓はずっと真面目な部活を望んでた。
練習をせずにお茶ばかりしている私に呆れてた。
その不満と呆れが今になって爆発したんじゃないか。
世界の終わりを間近にして、その嫌悪感を隠す事が出来なくなったんじゃないか。

「あいつの近くで何をやってたんだ、私は……」

また呟いた。
ほとほと自分が嫌になって来る。
被害妄想が頭から離れない自分が嫌だったし、
それ以上にその考えを被害妄想と言い切れない自分がとても嫌だった。



244 名前:にゃんこ:2011/06/14(火) 00:47:25.01 ID:toNYD3r30

世界は終わる。もうすぐ終わる……らしい。
多分、それまでに皆、本当の自分を嫌でも見せ付けられる事になる。
私が今、見たくなかった自分の弱さを見せ付けられているみたいに。

こうして世界の終わりを目前にして、
隠していた本当の自分を曝け出して、ありのままで死んでいく事になるんだろう。
そこまで考えて、私はやっと気付いたんだ。
私達はもうすぐ死ぬんだって事に。

死ぬ……んだ。
来週を迎える事も出来ないんだ。
それまでの時間は、当然だけど止められない。
ずっと考えないようにしてきた事だった。
考えないようにして、普段通りの生活をしないと耐えられなかった。
世界の終末……。
その現実を分かっているつもりで、私は何も分かってなかったんだろう。

急に。
考えないようにしてた想いとか感情とか、
そんな色々な物が私の中で目眩がするくらいごちゃごちゃになって……。
それが吐き気になった。
私は近くにあった女子トイレに駆け込んで、思わず吐いた。
初めて心の底から感じる死の恐怖に、私は何度も吐く事になった。
死にたくない……。
死にたくないなあ……。



245 名前:にゃんこ:2011/06/14(火) 00:49:13.95 ID:toNYD3r30






しばらく吐いた後。
酸素が行き渡らなくてふらふらする頭で女子トイレから出ると、
何の気配もなく後ろから近づいて来た誰かに優しく背中を撫でられた。
見られた……?
自分の情けない姿を見られたかもしれない事が恥ずかしくて、
私の心臓が少しだけ早く動いてしまっていた。
特に軽音部の部員の誰かに、こんな弱い自分なんて見られたくなかった。

緊張しながら振り返ってみて、私は驚いた。
本当に驚いて、しばらく声が出せなかった。
多分、そこに軽音部の誰かが居たとしても、そこまで驚かなかったかもしれない。
それくらいに意外な人が私の背中を撫でてくれていた。



246 名前:にゃんこ:2011/06/14(火) 00:50:38.43 ID:toNYD3r30


「平気?」

その誰かは特徴的なクルクルした巻き毛を揺らして、私の表情を覗き込んでいた。
その顔は普段の無表情だったけど、
反対に背中を撫でる手付きはとても優しくて、それがまた意外で私は言葉を失っていた。
いや、普段のその人を知ってたら、そりゃ誰だって声が出せないよ。
だって、私の背中を撫でてくれていたのは、
私のクラスメイトの中でもクールで無表情な奴の代名詞こと、
いちごだったんだから。

あの若王子いちごだぞ?
無表情なままではあったけど、
いちごがこんな事をしてくれるなんて誰も想像もしないよ……。

ずっと黙ったままの私を変に思ったんだろう。
無表情に首を傾げながら、いちごがまたぼそりと私に訊ねる。



247 名前:にゃんこ:2011/06/14(火) 00:52:23.89 ID:toNYD3r30

「平気?
 私じゃ不満?
 軽音部の方がよかった?」

ぶつ切りの言葉で分かりにくかったけど、
つまり私の背中を撫でてるのが軽音部の部員じゃなくて、
いちごだったのを不満に思ってるのかって事なんだろう。

いやいや、もし本当にそうだったら、何様なんだよ、私……。
私は誤解を解くために首を振った。
いちごとは特別に仲が良いわけじゃなかったけど、そんな誤解はされたくなかった。

「そんな事ないよ、いちご。
 ……ごめん、心配掛けたな」

「別に心配はしてない。
 急に女子トイレに駆け込むから、何事かと思っただけ」

「さいですか……。
 でも、ありがとうな」

「別に。お礼なんて要らない」



248 名前:にゃんこ:2011/06/14(火) 00:54:04.33 ID:toNYD3r30

相変わらず無表情でぶっきら棒な奴だった。
普段なら取り付く島も無いと引き下がるところだったけど、
今日のところはそういうわけにもいかなかった。
私は背中を撫でてくれていたいちごの手を取って、軽く右手で握った。
バトンをやっているせいか少し豆があったけど、それでも小さくて柔らかい手だった。

「ありがと、いちご」

「だから……、そういうのはいいよ」

そう言っていちごは私から目を逸らしたけど、嫌がってるわけじゃないみたいだった。
無表情だから分かりにくいけど、もしかしたら照れているのかもしれない。
いつもクールないちごの意外な一面を見れた気がして、少し嬉しかった。
それで私の顔が少しにやけてしまっていたのかもしれない。
いちごが急に私と目を合わせると、無表情だけど神妙な声色になった。

「急に吐くなんてどうしたの?
 妊娠?」

「そんなわけがあるか!」

「そう……」

「もしかしてからかってる……?」

「さあ……」



249 名前:にゃんこ:2011/06/14(火) 00:54:36.72 ID:toNYD3r30

やっぱり分かりにくいなあ……。
でも、それは別に嫌じゃなかった。
長い付き合いじゃないけど、いちごはそういう分かりにくい奴なんだ。
分かりにくいけど、多分、それがいちごで、それでいいんだよな。
私はそうして一人で納得してから、いちごの手を取ったまま訊ねてみた。

「いちごの方こそどうしたんだよ。
 最近、いつも学校で見るけど」

「そっちもね」

「私は高校生の鑑だから、どんな状況でも学校に来るのだよ、いちごくん」

「じゃあ、私もそれで」

「じゃあ、ってなんだよ。じゃあ、って……」



254 名前:にゃんこ:2011/06/16(木) 22:44:51.05 ID:GDoU5EKg0

私は苦笑したけど、いちごは無表情のままだった。
だけど、その顔は単なる無表情とも違っていた。
本当に分かりにくいけど、
よく観察すると何となくいちごの心の動きが見える気がした。

もしかしたら、単にいちごは感情を顔に出さないタイプなだけなのかもしれない。
これまでも何となくそう思ってはいたけど、はっきりとは確信してなかった。
大体、こんなに長い間二人きりでいちごと話したのも、
考えてみれば初めてかもしれないな……。

不思議な感じだった。
さっき吐いたせいで身体はふらふらなのに、
思いも寄らなかったいちごとの会話のおかげで、自分の心がとても落ち着いてる気がする。
死ぬ事に対する恐怖が完全になくなったわけじゃないけど、それでも。



255 名前:にゃんこ:2011/06/16(木) 22:47:51.02 ID:GDoU5EKg0

結局、それ以上、いちごは私が吐いた理由について訊ねなかった。
だから、私もそれ以上、いちごが学校に来ている理由を訊ねなかった。
どちらの理由も、お互いが言いたくなった時に言えばいいだけの事だった。

それに多分、深く詮索し合わないのが、
いちごが人と付き合う時に重視してる事なんだと思ったから。
いちごは決して冷たいわけじゃない。
またいちごに背中を撫でられながら、私はいちごに深く頭を下げた。

「落ち着いたよ、いちご。
 ごめん、本当にありがとう」

すると、いちごは私の言葉に対して、またもやとても意外な事を言った。

「関係ない……」

「え?」

「関係ないわけ、ないから」

「ん……あ?」



256 名前:にゃんこ:2011/06/16(木) 22:48:33.01 ID:GDoU5EKg0

また驚かされて、変な言葉が出てしまった。
口癖と言うわけじゃないけど、
いちごはこれまで何事に対しても「関係ないけど」とよく言っていた。

そんないちごが「関係ないわけない」って言ったんだ。
これは驚かされるよなあ……。
勿論、その言葉が私だけに向けられた物だと考えるのは、かなりの自意識過剰だった。
「関係ないわけない」ってのは、
自分と繋がる全てに対して……、って意味合いが強いんだと思う。
今までいちごは色んな事を「関係ない」と言っていた。

それは無関心が理由でもあったんだろうけど、
主にはそれ以上に他人の意思を尊重するって意味で使ってたんだろう。
自分の中の世界を大切にする代わりに、他人の中の世界も尊重する。
だから、お互いに必要以上干渉し合わないようにしよう。
そういう意味で、いちごは「関係ない」って言ってたんだと思う。
その考えは正しいと私も思う。
誰が何をしていても、それは個人の自由で、自分勝手に干渉する事でもない。
だから、他人のする事は自分には関係ない事なんだ。



257 名前:にゃんこ:2011/06/16(木) 22:51:36.57 ID:GDoU5EKg0

でも、「関係ないわけない」というのも、正しい考えだと思った。
他人が何をしていても、自分自身にはほとんど影響がない。
その意味じゃ、他人のする事は自分には何も「関係ない」。

だけど、ほとんどないってだけで、完全に影響がないわけでもないんだ。
他人の、自分の何気ない行動が色んな事に影響を与えて、
何かが大きく変わっちゃう事もあるんだ。
何かと無関係でいられなく事もあるんだ。
私はちょうど今それを強く実感してるところなんだ。
世界が終わるって現状もそうだけど、それ以上に考えてしまうのは……。

「うん……。そうだな……。
 関係ないわけ、ないよな……」

私は自分に言い聞かせるみたいに言った。
いちごはその私の言葉については何も言わなかった。
優しく背中を撫でてくれるだけだった。
ただ少し優しさを増したその手付きが、
私の言葉に頷いてくれているみたいには思えた。



258 名前:にゃんこ:2011/06/16(木) 22:53:16.84 ID:GDoU5EKg0

何事にも無関係ではいられない。
いちごと私の関係にしてもそうだし、軽音部の皆と私の関係にしてもそうだ。
取り分け、梓と……澪だ。
特に澪と私はお互いに深過ぎるところにまで関わり合ってる。

小さい頃、私の好奇心から始まった私と澪の関係。
あの時、私がもし澪に声を掛けていなかったら、
澪の人生も、勿論、私の人生も今とは全く別の物になっていたんだろう。
澪がいなければ私はこの桜高には来てなかっただろうし、
私がいなければ澪は澪でそのメルヘンな性格を生かして、
文学部か何処かで名を馳せていたのかもしれない。
当然それは仮定の話で、今現在の私が考えても仕方がない事だった。

だから、私は別の事を考えないといけない。
世界の終わりを目前にして、
私は澪との関係をどうするのか、どうしたいのかを考えなきゃいけない。
澪が私の事を好きかどうかは別としても、
少なくとも世界の終わりの日には何をしていたいのかを二人で話さないといけない。
それだけはこの残り少ない時間で私が解決しなきゃいけない事だ。

それで……。
それでもし、解決出来たのなら、その時は……。
まだ何も決まっていない状態で、こんな事を伝えるのは失礼かもしれない。
それでも伝えられるのは今しかなかったし、私達の結末をいちごにも知ってほしかった。
少し躊躇いながら、それでも私はゆっくりとそれを口にした。

「なあ、いちご。もしよかったらなんだけど……」




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律「終末の過ごし方」#2
[ 2012/01/31 20:55 ] 非日常系 | 終末の過ごし方 | CM(0)

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