SS保存場所(けいおん!) TOP  >  ホラー >  憂「かまいたちの夜」#前編

お知らせ

SS保存場所は移転しました。
現在けいおん!関連の更新はしていません。
今後更新するかは未定です。
SS保存場所






憂「かまいたちの夜」#前編 【ホラー】


http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1328334506/l50

憂「かまいたちの夜」#前編
憂「かまいたちの夜」#中編
憂「かまいたちの夜」#後編




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 14:48:26.75 ID:+BVtJ5c7O

唯「はぁ~るばる~きたぜはあっこだてー♪」

私は今、お姉ちゃんと一緒にスキー場へきている。
目の前は一面にそびえ立つ白銀世界。
その根本に、私達がお世話になるペンションが見えていた。

ここで、一つ訂正。

憂「お姉ちゃん、ここは函館じゃなければ北海道ですらない、長野県だよ」

唯「いやー雪景色を前にしたらつい言いたくなっちゃって」

なるほどさすがお姉ちゃんの言うことには説得力がある。
たった今より、雪原は全て函館市に帰属することになるだろう。





2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 14:51:29.51 ID:+BVtJ5c7O

唯「ふいーやっとペンションについたね」

憂「荷物置いたら早速スキーに繰り出しちゃおっか」

言いながらがちゃり、と戸を開けると、からんからん、と鈴が鳴る。その音をきっかけに、

「やあ、いらっしゃい。ご予約のお名前は?」

とオーナーらしき人が奥から姿を見せた。

憂「平沢です。平沢……唯で予約したんだっけお姉ちゃん?」

いきなり自分に話を振られたせいか、少し驚きを見せるお姉ちゃん。

唯「えっそうなの?商店街の福引きで当たったんだから商店街の名前で予約入ってるのかと思ってた」



3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 14:54:18.04 ID:+BVtJ5c7O

「あっはっは、平沢憂さんのお名前で予約をいただいてるみたいだよ」

予約の名前まで商店街は面倒見てないよ、
と言おうとするのを遮るように笑い声が響く。なんだ、自分の名前で予約してたのか。

「そっちのヘアピンを付けてるのが姉の唯ちゃん、ポニーテールが妹の憂ちゃんだね、
 ……よし覚えたよ。ようこそ、ペンション『シュプール』へ!」

憂「はい、お世話になります!」
唯「よろしくお願いしまーす!」

私達はきれいに揃ってお辞儀をした。
こういう何気ないところでも息が合っちゃうのは、やはり類い稀なる姉妹愛のおかげだろう。



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 14:57:13.07 ID:+BVtJ5c7O

「透ったら、かわいい女の子の名前を覚えるのだけは得意なんだから」

お辞儀をしている間に奥から新たに女の人が現れていた。
なかなか美人と言ってよさそうな顔立ちをしている。
透と呼ばれたオーナーらしき人は、女の人の急な登場で……
というよりその言葉を発した顔が不敵に微笑むのを見て、明らかに動揺している。

透「いやぁっ、そのっ、ほ、ほら、
  お客さんの顔と名前を覚えるのは大事じゃないか、真理もそう思わないかい?」

真理さんはその不敵な笑みを崩さない。

真理「ええそう思うわ。じゃあ昨夜泊まって今朝帰った、ロングコートの男性の名前は何だったかしら?」

透「えぇと……あ、あんまり社交的じゃない人だったからな、はは……」



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:00:04.72 ID:+BVtJ5c7O

目が泳ぎまくりの透さんを尻目に、真理さんはこちらに向き直り、軽く礼をした。

真理「ようこそシュプールへ。私はここのオーナーの琴吹真理よ、よろしくね」

透「あっあぁ僕もオーナーでね、こほん。琴吹透です、よろしく」

そう言って透さんも頭を少し下げた。
なるほどやはり透さんはオーナーで、真理さんと二人合わせてオーナー夫妻ということらしい。
……いや、そんなことより。

憂「あの、琴吹って、あの琴吹グループの方なんですか?」

唯「てことはムギちゃんの親戚?」



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:03:13.83 ID:+BVtJ5c7O

珍しい苗字だしほぼ間違いないだろう。
質問を投げかけられた透さん……ではなく真理さんがにこやかに回答する。

真理「もしかして、紬ちゃんのお友達かしら。
   紬ちゃんはね、私の再従兄弟の叔母の従姉妹の甥の……
   いや再従兄弟の叔母の従姉妹の姪の……?いや再従兄弟の叔父の……?」

透「真理、とりあえず親戚が琴吹グループの社長って情報が伝わればいいと思うよ」

冷静に透さんが突っ込む。見た目に似合わず真理さんには天然な一面もあるのかもしれない。
意外性という点ではもう一つあるけれど、それを指摘するのは野暮というものだろう。

唯「あれっ?真理さんが琴吹家の人ってことは、透さんは婿養子?」

あぁ、純粋過ぎるよお姉ちゃん。気になったことは聞きたいんだよね。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:06:16.29 ID:+BVtJ5c7O

透「そ、そういうことになるね。シュプールの所有権がブツブツ……ああそれよりっ!」

話を逸らしたげに、何か思い出した顔をして言う。

透「紬ちゃんも今夜ここに泊まるみたいだよ」

なんだって?そんな偶然がまさか、そう思いお姉ちゃんに目をやると、同じく私に顔を向けていた。

唯「偶然ってあるもんだねぇ~。ムギちゃんは一人で泊まりに来てるんですか?」

この問いに対する答えは後ろから聞こえてきた。

「いいえ、友達を三人連れてるわ」



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:09:14.28 ID:+BVtJ5c7O

予想外の方向から聞こえた声に振り向くと、そこには見慣れたメンバーが揃っていた。

唯「ムギちゃん!それに、澪ちゃんりっちゃん!そしてあずにゃ~ん!」

梓「ちょっ、いきなり抱きつかないでくださいっ」

猫まっしぐらという勢いで、梓ちゃんの華奢な体はお姉ちゃんの腕に抱えこまれることとなった。
いや梓ちゃんのほうが猫っぽいから猫まっしぐらという表現はややこしいので
何か別の表現を――ま、そんなことはどうでもいいや。
それより、せっかくの姉妹水いらず旅行が成り立たないであろうことを残念に思う。

律「おっすー唯、憂ちゃん」
澪「こんなとこで合うなんて奇遇だな」

こうなったものは仕方ない、
軽音部のみなさんと旅行に来たと思って楽しむほかないだろう。ただ。

憂「みなさん、こんにちは。今日はどうしてこちらに?」

一応聞いておきたい。なぜ軽音部が揃っているのにお姉ちゃんがその輪に加わっていないのか。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:12:04.11 ID:+BVtJ5c7O

律「軽音部のみんなでどっか泊まりがけの旅行でも行こうぜってなっただけさ。
  てか唯、なんで断ったのかと思ったら憂ちゃんと旅行かよー、
  言ってくれたら憂ちゃん込みでプラン立てたのに」

え、お姉ちゃんは軽音部の旅行を蹴って私との旅行に……?

唯「てへへ、なんか言いにくくって。ムギちゃんのお世話にばっかりなるわけにもいかないしね」

少し照れ気味のお姉ちゃん、
もしかして二人きりの旅行を大切にしてくれたのかな。ありがとうお姉ちゃん!



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:15:29.35 ID:+BVtJ5c7O

紬「あらあら、憂ちゃん一人増えるくらいかまわないのに」

唯「ま、私達は福引きで当たった旅行だから結局自腹は切ってないんだけど」

ふんす、と胸を張るお姉ちゃん。別に威張るところじゃないよ。

澪「福引きで旅行が当たるなんて、さすが憂ちゃんは日頃の行いがいいな」

唯「澪ちゃん私はー?」

律「いやあさすが憂ちゃん素晴らしい」
紬「いつも家事も勉強も頑張ってるものね」
梓「マイナス要素を乗り越えるほどの素晴らしさ」

唯「みんなひどいっ」

みんなひどいっ。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:18:09.45 ID:+BVtJ5c7O

透「あの~盛り上がってるとこ悪いんだけど」

あはは、とみんなが笑う中、申し訳なさそうに透さんが口を挟んできた。

透「とりあえずみんな、チェックイン手続き済ませてもらっていいかな?」

真理「立ち話もしんどいだろうし、荷物置いてからそこの談話室に集合するといいんじゃない?」

そう言った真理さんが指差したのは、二階へ続く階段付近の、
テーブルとソファーが置いてあるだけのスペースだった。
談話室というより、談話スペースといった感じだ。

律「それもそうか。じゃあみんな、荷物置いたらスキーの準備してそこに集合な」



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:20:22.06 ID:+BVtJ5c7O

澪「透さん、みんなの部屋割りはどうなってますか?」

透さんは待ってましたとばかりにシュプールの見取り図を取り出す。

透「紬ちゃん達四人はここからここまでの四部屋、
  唯ちゃんと憂ちゃんはこことここの二部屋だよ。
  まあ自由に入れ替えてくれてかまわないけどね」

差し出された見取り図はペンション二階のもので、階段を登った地点から左右に廊下が伸びている。
左手前三部屋のうち手前から二部屋が私達の、その向かい側奥から四部屋が紬さん達の部屋だそうだ。
奥から四部屋目だけは階段より右になる。

階段隣の部屋を私が引き受け、お姉ちゃんがその隣、
向かい側奥から順に紬さん、律さん、澪さん、そして梓ちゃんと決まり、
それぞれ自室へ荷物を置きに向かった。



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:22:27.40 ID:+BVtJ5c7O

スキーに明け暮れ、日も暮れ始めた頃、激しくなってきた雪から逃れるように、私達はシュプールに戻った。
からんからん、と扉を開けると、ちょうどそこには真理さんがいた。

真理「みんな揃ってのお帰りね。もうすぐ夕飯ができるから、着替えたら食堂にいらっしゃい」

はーい、と声が揃う。言われたとおりみんな自室へ戻り、一旦談話室に集合してから食堂へと向かうことにした。

唯「いやあ憂はスキー上手だったねぇ。私なんて、何回雪だるまになりかけたことか」

階段を登りながらお姉ちゃんが言う。
律さんと澪さんは先々行ってもう部屋に入ったようだが、
私達がのんびり話しながら歩いているせいで、
後ろの梓ちゃんと紬さんは歯痒い思いをしてるかもしれない。

憂「でもお姉ちゃんだって終わりのほうは滑れるようになってたじゃない。じゃあ、またあとでね」

唯「うんばいばーい。」

お互い自分の部屋の前に立って挨拶を交わし、同時にドアを開け、同時に閉めた。
時計は午後6時半ほどを指していた。



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:24:20.15 ID:+BVtJ5c7O

たん、たん、たん。
着替えを終えた私が階段を降りると、そこには既に四人の姿があった。一人足りない。

澪「お、きたきた。あとはムギだけだな」

すると律さんが思い出したように口を開いた。

律「あームギならさっきメールが来てさ、
  なんかお腹壊したみたいで、トイレに篭るからあとで軽い食事だけ用意してほしいってよ」

お嬢様育ちの体に雪山は冷え過ぎたのだろうか。
紬さんには悪いと思いながらも、空腹には勝てないので、ぞろぞろと食堂へ向かった。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:26:41.13 ID:+BVtJ5c7O

食堂は、丸いテーブルが並び、テーブルを挟んで二人ずつ座れるようになっている。
私はもちろんお姉ちゃんと同じテーブルにつき、澪さんと律さんも同様に、梓ちゃんが余る格好で着席した。
私達の他にお客さんはほぼおらず、端のほうに眼鏡の女性が一人座っているだけ……ってあれは。

憂「ねぇお姉ちゃん、あの人もしかして」

唯「あっ和ちゃんだー!やっほー!」

お姉ちゃんの呼び掛けで初めてこちらに気付いた様子で和さんが振り向く。
軽音部のみなさんも驚いたように和さんのほうに顔を向けた。

和「あら唯に憂じゃない。それに軽音部の面々も。また合宿?」

だとしたら私がいることの説明がつきませんよ。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:28:16.97 ID:+BVtJ5c7O

唯「私と憂は福引きで当たった二人旅の最中だよ、みんなとは偶然一緒になったの」

和「そういえば福引きが当たったとか言ってたわね。他のみんなは?」

律「軽音部旅行として唯も誘ったんだけど、
  日程が合わないって残念ながら四人で来たら、この展開さ。
  ああムギは体調悪くて自分の部屋にいるけど」

澪「それより、和はどうしてここに?一人なのか?」

律「まさか彼氏と一緒なのか~?」

おぉもしそうだとしたらそれは初耳だ。が、和さんのことだからそんなことはないのだろう。

和「一人よ。ここの料理が美味しいから食べに来たの。一昨年に家族で来て以来毎年来てるわ」

梓「じゃあ今から出てくる料理にも期待できますね」



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:30:13.49 ID:+BVtJ5c7O

この会話を聞いていたかのようなタイミングで、真理さんが台車に料理を乗せて運んできた。

真理「あら、みんなは和ちゃんとも知り合いだったの?」

澪「はい、同じ高校に通ってるんです」

透「お客さんが女子高生ばかりになるのも珍しいけれど、さらに知り合い同士だなんて特別珍しいね」

いつの間に現れたのか、真理さんの後ろからエプロン姿の透さん。

律「あれ、透さんがエプロンしてるってことは、この料理、透さんが作ったの?」

透「そうだよ、意外かい?」

確かに意外。しかもついさっき和さんが美味しいと褒めたのだから余計にだ。

真理「料理の腕だけは一流シェフに鍛えられてるから期待していいわよ。さぁ、冷めないうちに召し上がれ」

和さんに加え真理さんのお墨まで付いたとあれば、さぞ美味しいのだろう。

いただきまーす。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:32:28.35 ID:+BVtJ5c7O

そこらの料理屋より美味しい食事を平らげた私達は、
ひとまず自室でお風呂などを済ませてから、談話室に集まることにした。
透さんと真理さんもその間に片付けを済ませて、おしゃべりに加わってくれるようだ。

憂「お風呂済ませたらまずお姉ちゃんの部屋に行くね。」

唯「うん。私が先だったら憂の部屋に行くよ」

そう言って、私達は同時にドアを閉めた。
他の五人も各自部屋に戻る音が聞こえる。ちなみに和さんの部屋はお姉ちゃんの隣らしい。
ふと時計に目をやると、時刻は8時を過ぎた頃となっていた。



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:34:32.50 ID:+BVtJ5c7O

こんこん。濡れた髪にパジャマ姿でお姉ちゃんの部屋をノックする。
ドアは間髪いれずにがちゃり、と開いた。

唯「やっほー、ちょうど憂の部屋に行こうと思ってたとこだよ。じゃあ下行こっか」

こうして私達は階段を下った。

談話室には既に律さん、澪さん、梓ちゃん和さん、そして透さんに真理さんが揃っていた。
が、会話が盛り上がっている様子はなく、むしろ嫌な雰囲気が漂っていた。

憂「あの、みなさん……何かあったんですか?」

私の問い掛けに澪さんがびくっと一瞬体を震わせる。
よく見るとさっきからずっと、俯いて小刻みに震えているようにも見える。
短い静寂を打ち破ったのは、律さんだった。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:36:10.99 ID:+BVtJ5c7O

律「さっき部屋に帰ったら、入ってすぐのとこにこんな紙が落ちてたんだ」

そう言って差し出された紙には、赤い筆ペンのようなもので、こう書かれていた。


コワイ オモイヲ サセヨウ
アイテハ ダレデモ イイ
シンデ シマッテモ イイ
ナグルモ ケルモ サスモ ジユウ
アラタナ イケニエニ カンパイ


私とお姉ちゃんは同時に読み終わると、揃って律さんを見た。

律「こんなイタズラしたのは唯か?憂ちゃんじゃなさそうだし」

唯「ふぇっ?知らないよこんなの」

もちろん私も知らない。



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:38:24.58 ID:+BVtJ5c7O

梓「私の感想としては、澪先輩を怖がらせるために律さんがしたものだと」

律「だったら澪の部屋に直接置くさ。
  ま、結局私がここで澪に披露してるんだから、疑いは晴れないだろうけど」

確かに一番ありえそうな展開ではある。
じゃあそういうことで、と納得したいこの空気は、和さんによって乱される。

和「ところで、ムギはほんとにここに来てるのよね?
  私はまだ姿を見てないのに、そんなもの見せられたら……」

あえて言葉を濁した様子で、中空を目が泳いでいた。
その濁した言葉を拾い上げるように、透さんが口を開く。

透「ちょっと心配だね、探してみよう。
  みんなは自分の部屋を見てきて、僕と真理は食堂とか一階を探すから」



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:40:23.31 ID:+BVtJ5c7O

唯「えっ、えっ、あれ?」

お姉ちゃんは、何が何だかわからないといった様子。

唯「ムギちゃん自分の部屋にいるんじゃないの?」

これに答えたのは真理さんだった。

真理「じゃあ透は一人で一階を見回ってきて。
   私はマスターキーを取ってから、紬ちゃんの部屋をノックしてみるわ」

透「わかった。それじゃあみんな、行動開始だ。」

透さんが食堂へ向かって歩いていく。
和さんと梓ちゃんが階段を登るのを追うように、私とお姉ちゃんも談話室を離れる。

律「澪ー、いつまでも俯いてても仕方ないだろ、追いてくぞー」

そう言うと、律さんは私達を追い抜くように階段を一段飛ばしで駆け上がっていった。
残された澪さんが心配になったが、一応腰を上げようとしていたので、そのまま階段を登りきることにした。
二階に上がった先では、既に他の三人が自室に入っていた。
私達二人も、お互いの安全を確かめるように目を合わせてから、それぞれのドアを開けた。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:42:14.71 ID:+BVtJ5c7O

部屋の中、ベッドの下、クローゼットの中。次々と部屋の中を調べてみたが、紬さんの姿はなかった。
そもそも鍵をかけていたのだから当たり前だとも思いつつ、最後に浴槽を確認しようとしたときだった。

ガダッガダゴダガダッゴトガタバンッ

部屋の外、階段の方向から聞こえた音に、心臓が飛び出る思いがした。
何があったのか、ドアを開けて外を確認していいのか。
迷った末、私はドアを開け外へ出た。

憂「梓ちゃん……?」

階段手前に梓ちゃんの姿があった。
しかし私の声が聞こえなかったのか、梓ちゃんは階段下を見据えたまま固まっている。

憂「どうしたの?何を見――」

梓ちゃんの目線の先を確認した瞬間、今度は心臓が止まる思いがした。
そこには、手足があらぬ方向に曲がり、血まみれになった紬さんが横たわっていたのだ。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:44:13.86 ID:+BVtJ5c7O

その後、お姉ちゃんや律さん、和さんも部屋から現れ、
私達の異変の原因に目をやり、同じように凍り付いた。
階段下の向こうで、真理さんも同じである様子が見える。

律「み……澪っ!澪は大丈夫か!」

突然叫びだした律さんは、後方の澪さんの部屋のドアを叩き、ノブを握った。
ノブはあっさりと回り、勢いよく開けられたドアから、律さんは駆け足で部屋に飛び込んだ。

律「澪、大丈夫なんだな。部屋の外に出れるか?大きな音がしてびっくりしたよな。
  ちょっと外には見るのが辛いものがあるけど、みんなと一緒にいよう。な?」

独り言のように律さんの声ばかりが聞こえたあと、
律さんの肩を借りるようにして、澪さんが泣きながら部屋から出てきた。
その顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。




42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:45:41.10 ID:F7Y0uiK00

犯人どころかろくなセリフもなしに死んでた





43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:46:10.29 ID:+BVtJ5c7O

透「なんてことだ……」

真理さんの後ろに透さんが現れていた。
透さんはそのまま紬さんに近付くと、その手首を取り、指を当て、……首を振った。

唯「そんなの嘘だよっ!」

今度はお姉ちゃんが叫ぶ。

唯「ムギちゃんが死んじゃうわけないじゃん!透さん早く救急車呼んでよっ!」

言いながら紬さんのもとへ駆け降りていく。
そして透さんが掴んでいるのと逆の手を両手で包むと、静かに泣きだした。

唯「ムギちゃんが死ぬわけないじゃんかぁ……」

お姉ちゃんの側にいたくて階段を降り始めると、
それに続いて和さんも、律さんと澪さんも、そして梓ちゃんも降りてきた。
透さんは道を空けるように立ち上がり、受付カウンターのほうへ歩いていく。電話をかけるのだろう。



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:48:16.59 ID:+BVtJ5c7O

律「澪、あんまり見ないほうがいい、そこのソファーに座っとこう」

澪さんは談話室のソファーに導かれ、和さんもそれに続く。
私もお姉ちゃんの肩を抱くと、ソファーへ連れていった。
梓ちゃんは真理さんと一緒に階段脇に立っている。

透「もしもし、警察ですか――」

透さんが電話している声が聞こえた。救急車ではなく警察を呼んでいるらしい。

真理「シーツ、取ってくるわね。このままじゃかわいそうだから。」

そう言って奥へ消えていく真理さん。一人で行かせてよかったのだろうか。

お姉ちゃんと澪さんが啜り泣く音と、外の強風が吹きすさぶ音が建物を支配した。



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:50:09.71 ID:+BVtJ5c7O

透「だめだった」

真理さんが持ってきたシーツを紬さんにかけているその横に立ち、透さんが言う。

透「吹雪で電話線が切れたみたいだ。うんともすんとも言わない」

電話をかける声がぱったりと聞こえなくなったのはそういうことだったのか。
透さんは続けて妙なことを言い出す。

透「ねぇ真理、昨日泊まった男の人はほんとに帰ったんだよね?」

真理「田中さんのこと?チェックアウトの手続きしたのは透じゃない」

透「そうなんだけど、そのとき荷物を持ってなくて、手続きしてから荷物まとめて帰りますとか言ってたからさ」

真理「田中さんの部屋の清掃はちゃんとしたわよ。そりゃあ確かに、帰るところは見てないけれど」



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:52:11.40 ID:+BVtJ5c7O

律「ちょ、ちょっと待って」

二人の会話に律さんが割って入る。

律「その口ぶりだと透さん、その田中って人が実はまだここにいて、
  私の部屋に手紙を残したり、ムギを……殺したって言うんですか?」

透さんは冷静に返事する。

透「そんな可能性もあるなと思っただけさ。ちょうど律ちゃんの部屋に泊まってたのが田中さんだし」

律「嫌だ聞きたくない!勘弁してください!」

律さんは目を力一杯つぶり、澪さんと体を寄せ合いながらぶるぶると震えている。
あの手紙は本当に律さんの仕業ではないようだ。強がってはいたが、相当怖かっただろう。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:54:24.34 ID:+BVtJ5c7O

唯「ね、ねぇ、携帯で警察に電話したらいいんじゃない?」

せっかくのお姉ちゃんの提案だが、採用されることはない。

透「残念だけど、ここは圏外なんだ。だから外と連絡をとるには、吹雪がやんでから車を出すしかない」

雪はスキーをやめる頃に激しくなり始めていたが、
窓からちらりと外を見ると、風の轟音にも納得できる勢いで舞い狂っていた。



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:56:22.33 ID:+BVtJ5c7O

透「でも、もし不審者がいたとしても、
  このままみんなで一緒にいたら手出しはできないさ。だからそんな悲観的にならずに――」

梓「悲観的になるな?無茶言わないでください!」

突然梓ちゃんが声を荒げる。

梓「人が一人死んでるんですよ!?しかも、大好きな先輩が……いいです、私は部屋に篭ります」

真理「え、ちょ、ちょっと!」

唯「あずにゃん、危ないよー」

真理さんやお姉ちゃんの静止も聞かず、梓ちゃんは階段を登る。

透「でもまあ、ちゃんと鍵さえかけていれば大丈夫、かな」

あまり安心感を得られないフォローが入り、建物は再び泣き声と風の音で満たされた。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 15:58:18.61 ID:+BVtJ5c7O

泣き声が落ち着いてきた頃、私は思考を巡らせる。紬さんが殺された状況について、だ。
階段のほうから聞こえた大きな音。
死体の位置を考えると、あれは紬さんが階段を転げ落ちる音に間違いないだろう。

であれば、紬さんはうっかり足を滑らせたか、誰かに突き落とされたことになる。
そして、音がしてドアを開けたら、梓ちゃんが階段前にいた。まさか梓ちゃんが犯人なのだろうか。
いやそんなまさか、私はなんてことを考えてるんだ。

憂「あの、みなさん聞いてください――」

誰かに否定してもらいたい一心で、私は先の思考を話した。だが。

和「もしそうなら、犯人が一人で部屋に篭ってるわけだから安心できるわね」

和さんは梓ちゃんとの関係が一番薄いせいか、私が口にできないことをはっきり口にした。



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:00:06.05 ID:+BVtJ5c7O

唯「そんな、あずにゃんが、そんなまさか……」

律「なんで梓がムギを……」

真理「音がしてすぐにドアを開けて梓ちゃんしかいなかったなら、
   田中さんなんてやっぱりいないのかも……」

みんなが私の発言に同意する中、しかし一人だけ異を唱える人がいた。

透「今ここに梓ちゃんがいないわけだけど、梓ちゃんと憂ちゃんが実は逆だったとしたらどうだろう?」

しばらくこの発言の意味を理解することができなかった。
そんな様子を察してか、思いもよらない言葉が続けられる。

透「本当は憂ちゃんが紬ちゃんを突き落とし、
  その音に驚いた梓ちゃんがドアを開けて、階段前の憂ちゃんを発見したのかもしれない」



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:02:08.25 ID:+BVtJ5c7O

憂「な、なんてことを言うんですか!」

そんなわけがないことは私が一番よくわかっている。だが逆に言えば、私しかわかりえないのだ。

律「私がドアを開けたときは、既に梓と憂ちゃんが階段前に揃ってたな。
  ちなみに、唯が出てきてドアを閉めたところだった」

和「私は律よりあとに出てきたけれど……唯が憂達の次にドアを開けたのよね?」

私は救いを求める目でお姉ちゃんを見た。

唯「そ、そんなこと言われても、私も憂とあずにゃんが揃ってるとこしか見てないから――」

澪「もうやめてくれっ!」

澪さんは立ち上がっていた。その目からは涙が流れ続けている。



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:04:06.56 ID:+BVtJ5c7O

澪「みんなが疑い合うなんて、もう嫌だ!……私も部屋に帰る」

律さんも立ち上がり、階段に向かって歩いていく澪さんを呼びとめる。

律「澪、待て!二階には梓がいるし、ここでみんな一緒にいれば――」

澪「こないでくれっ!」

澪さんはそのまま階段を駆け上がっていってしまった。

律「くそっ、なんでだよ……。」

力なく腰を落とした律さんはそれ以上何も言わなかった。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:06:06.75 ID:+BVtJ5c7O

澪さんが去ってから、律さんは階段の上をじっと眺めていた。
おそらく、梓ちゃんが澪さんの部屋へ行く瞬間を逃すまいとしているのだろう。
他のみんなはといえば、真理さんが入れてくれた紅茶を飲みながら、俯いているばかりだった。

いや、時折私に対し視線が送られているのも感じる。
犯人だと疑われているのはやはり気分が悪く、透さんに嫌悪感を抱かずにはいられない。
だが、私は同じことを梓ちゃんにしてしまったのだ。それも、本人がいないときに――

唯「和ちゃん、どうしたの?」

お姉ちゃんが驚いたのは、和さんが立ち上がり、階段へ向かったからだ。

和「お手洗いに行くだけよ。それと、眼鏡拭きをとってこようと思って」

律「でも二階には梓が……」

その言葉を聞くと、和さんは律さんの前に立ち、ぱしっ、と平手打ちをした。



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:08:02.08 ID:+BVtJ5c7O

この場にいる全員が面をくらったように和さんを見る。

和「あんた部長でしょ?信じてあげなさいよ。私はあの子を信じてる」

憂「で、でも私がさっき梓ちゃんを疑い始めたとき、和さんが最初に賛同したのに……」

和「透さんが言ったことを私も言おうと思ったのよ。
  そんなこと言ったら憂、あんたも疑われるのよってね」

和さんは続ける。

和「でも憂のことは信じてる。憂だけじゃない、私はみんなを信じてる。
  じゃないと朝までどう過ごすつもり?それじゃ、行ってくるから」

異議を認めない雰囲気で信じ合うことの大切さを説き、和さんは自室へ行ってしまった。
どうして私は梓ちゃんを疑い、みんなが梓ちゃんを疑うようなことを言ってしまったのだろう。



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:10:04.83 ID:+BVtJ5c7O

そんな反省をする私の横で、律さんが舌打ちをする。

律「和のやつ、私達を信じてるだって?よく言うぜ」

唯「りっちゃん、どういうこと?信じてもらえてるならいいことなのに」

私と同じ疑問をお姉ちゃんが言う。

律「私達の中に犯人がいないとしたら、犯人は田中ってやつだろ?
  なら一人でうろつくなんて、怖くてできないはずだ」

それは、確かにそうかもしれない。

律「和の考えは、重複ありで次の三通りだろう。
  一つ、憂ちゃんが犯人でここにいるから自分は安全。
  一つ、梓が犯人だが私が階段上を監視してるから安心。
  そしてあと一つ」

透「和ちゃんが犯人だから当然自分は安全、ってことか」

律「そゆことです」



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:12:13.72 ID:+BVtJ5c7O

透さんだけならまだしも、律さんまでもがついに和さんのことまで疑いだしたのか。
和さんが犯人だとしたら、いったいどうやって紬さんを突き落とし、
直後自分の部屋から出てきたというのだろう。
もう理屈ではない。ただ、疑心暗鬼に陥っているだけだ。

真理「紅茶、煎れ直してくるわね」

嫌な空気を壊すような提案を、みんな受け入れた。

透「一人で大丈夫かい?」

真理「大丈夫よ、今までだってそうだったでしょ?」

真理さんは意味深な一言を残して奥へ消えていった。

憂「透さん、さっき真理さんが言った『今まで』って、何かあったんですか?」



66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:14:06.54 ID:+BVtJ5c7O

ちょうど和さんが戻ってきて席についたところで、透さんが答える。

透「いや別に何ってわけじゃないよ、
  ……前にも殺人事件に遭遇したことがあるだけさ。それも、連続殺人――」


キャアァーーーッ


唯「あずにゃん!」

律「澪っ!」

突如二階から響いた誰のものとも知れない悲鳴に、お姉ちゃんと律さんが飛び出した。
私も慌ててお姉ちゃんを追い、和さんと透さんもそれに続く。
階段を登ると、お姉ちゃんは右の梓ちゃんの部屋、律さんは左の澪さんの部屋のドアを叩く。
私はお姉ちゃんと一緒に、梓ちゃんの部屋のドアを開け、中へ入る。
その直前、律さんが和さんとともに澪さんの部屋へ入るのが見えた。
透さんは階段を登ったところで足を止めている。



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:16:04.92 ID:+BVtJ5c7O

唯「あずにゃんどこにいるの!?」

憂「梓ちゃん、いるなら出てきてー」

先程の悲鳴は、どちらかと言えば澪さんより梓ちゃんのものに聞こえた。
だから心配ではあるものの、もし紬さんを突き落としたのが梓ちゃんだとしたら、
悲鳴を聞いた人を手にかけるための罠かもしれない。
……結局私は梓ちゃんを疑っていることに気付き、少し胸が苦しい。

透「二人とも、こっちに来てくれないか」

梓ちゃんの部屋の中を漁る私達に、ドアのところから透さんが呼びかけてきた。

透「澪ちゃんが、死んでるんだ」

聞きたくない報告とともに。



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:18:05.52 ID:+BVtJ5c7O

私達は、遅れて到着した真理さんと合流して、澪さんの部屋に入った。
そこにいたのは、入口で立ち尽くす和さんと、ベッドの上に座った梓ちゃん、
部屋の中央で泣きじゃくる律さん、そして、部屋の中央から吊り下がった澪さんだった。

唯「あずにゃん……の無事を喜びたいんだけど、どういうこと?」

お姉ちゃんの言葉に梓ちゃんはびくり、と体を竦み上がらせる。

梓「わ、わわ私にも何がなんだか――」

律「とぼけるなっ!」

律さんの怒声に、梓ちゃんの小さな体がさらに小さくなる。

律「澪が首を吊ってる横にお前がいたんだ、
  何も知らないわけないだろうが!どうせムギを殺したのもお前なんだろ!」

梓「し……知りませんっ!」

梓ちゃんはベッドから飛び降りると、座り込んで反応の遅れた律さんの横を抜け、
あっけに取られた私達の間をすり抜け、部屋の外へ飛び出し、追跡されまいとドアを叩き閉めた。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:20:08.94 ID:+BVtJ5c7O

律「逃げるのかっ!……うぅ、澪ぉ」

和「二人きりにしてあげましょう。一旦談話室へ」

和さんの言葉に促され、みんな部屋を出ようとする。が。

律「お前か?」

この発言の真意が汲み取れず、全員の足が止まった。

律「和、お前がトイレに行った直後に梓が悲鳴をあげたんだ。ただの偶然か?」

和「偶然に決まってるじゃない。人を疑うのもいい加減にして」

真理「律ちゃんも和ちゃんも落ち着いて。……あら、これは?」

二人の間に入った真理さんが、机の上の紙を手にとった。
何か書かれているらしく、その文面を読み上げる。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:22:06.39 ID:+BVtJ5c7O

真理「私がムギを殺しました、
   死んで償いきれるものではありませんが、これしか思いつきませんでした。
   家族、友達のみんな、さようなら。秋山澪」

律「嘘だっ!」

律さんが真理さんの手から紙を引ったくる。
しかしその紙は、しばし律さんに読まれたあと、二つに破られた。

律「……それみろ、こんな字、澪の筆跡じゃない!みんな、出ていくんならさっさと出てけ!」

透「仕方ない、出ようか。律ちゃんも気をつけて、あと変な気を起こさないように」

私達は澪さんの部屋のドアを閉めると、階段を降りて再び談話室に移動した。



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:24:07.71 ID:+BVtJ5c7O

唯「澪ちゃんとりっちゃんは幼なじみなんです」

談話室に来てから場を支配していた静寂を破り、お姉ちゃんが唐突に語り始めた。
二人の間柄を知らない透さんと真理さんに説明しているのだろう。

唯「だから軽音部の中でも特別仲が良くて、
  私と和ちゃんも幼なじみで、和ちゃんが死んじゃったことを想像したら、うぅ~」

泣きだしてしまったお姉ちゃんを抱き寄せる。
透さん達は、いきなりこんな話をされてうまく反応できずにいる。

真理「これ以上悲しい思いをしないために、これ以上被害者を増やさないために、
   みんな離れ離れにならないようにしましょう」

透「ちょっと待って真理、じゃああの遺書は偽物だってことかい?」



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:26:07.69 ID:+BVtJ5c7O

遺書。人生の中で無縁だと思っていた単語が、澪さんの死を意識させる。

真理「なんだかわざと筆跡を崩して書いてるみたいだったわ。
   澪ちゃんの筆跡は知らないけど、普段からあんな字を書いてる人はいないと思う。」

和「澪の字はわりと綺麗なほうだから、律の言ってたように、澪が書いたものじゃないかもしれない――」

そこまで言って何かに気づいたように言葉に詰まる。私と同じことを思っているのだろう。

透「澪ちゃんは誰かに殺されたんだ。多分、紬ちゃんを殺したのと同じ奴に」

唯「じゃ、じゃあ、あずにゃんとりっちゃんが危ないってこと?」

憂「梓ちゃんはどこに行ったかわかんないけど、とりあえず律さんのとこに行きましょう!」

私が立ち上がると、次いで立ち上がったのはお姉ちゃんだけだった。

透「そう、だね。うん行こう」

言いながら透さんが立ち、真理さん、和さんと続く。
私への疑いが晴れていないため、私の言葉で動くのを避けているようだ。
信じてくれるのはお姉ちゃんだけ、私が信じれるのもお姉ちゃんだけだ。



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:28:03.46 ID:+BVtJ5c7O

こんこん、と真理さんが澪さんの部屋をノックする。そのままノブに手をかけたが、開きはしないようだ。

真理「律ちゃん、中にいるの?やっぱり律ちゃんも含めてみんな一緒にいたほうがいいと思うの」

透「だからもしよかったら開けてくれないかな」

しばし沈黙があった後、ドアの向こうから声が聞こえてきた。泣きはらしたせいか、少し声が歪んで聞こえる。

律「……悪いんですけど、もう少しだけこのままいさせてください。……そこに和もいますか?」

和「えぇいるわ。どうしたの?」

和さん本人が応える。

律「……さっきはごめん」

和「いいわよ、取り乱しても仕方なかったもの」

どうやら律さんは、澪さんの部屋にいる間にだいぶ落ち着いたようだ。



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:30:09.18 ID:+BVtJ5c7O

律「……梓はいないのか?」

唯「あずにゃんはあれからどこ行ったかわかんないままだよ」

律「……悪いけどみんなで手分けして探してきてくれないか?あ、くれませんか?梓にも謝りたいんです」

唯「合点だよりっちゃん隊長!……あずにゃんのことも心配だしね」

確かに梓ちゃんのことは心配だ。だが、梓ちゃんが人二人を殺した犯人の可能性は色濃く残っているのだ。

憂「手分けして、といっても一人では行動しないほうがいいですよね」

透「僕は一人でいいよ。だから、あとの4人で二人組を作ってくれないか」

憂「じゃあ私はお姉ちゃんと組みます」

この提案に、特に異論は出なかった。
どうせ私と組みたがるのはお姉ちゃんだけだろうから、あとの三人がどう組もうが関係なかった。



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:32:03.13 ID:+BVtJ5c7O

透「真理、マスターキーを渡してくれないか?
  犯人がいそうな二階の各部屋は僕が受け持つ。唯ちゃん達の部屋にも入るけど……いいかな?」

こんな事態になってまで、部屋の散らかり具合を恥ずかしがるはずもなかった。

真理「一人で大丈夫?」

透「大丈夫、あそこの掃除用具入れからモップをとってきてから捜索開始するさ」

そう言ってマスターキーを受け取ると、
透さんは私達の部屋があるのとは逆方向へ廊下を進む。空き部屋からチェックするらしい。
私達女四人もそれぞれの捜索範囲を決め、階段を降り、梓ちゃん捜しを始めた。



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:34:07.34 ID:+BVtJ5c7O

私とお姉ちゃんに割り当てられたのは、受付や食堂、それに隣接する厨房など、
ある程度勝手がわかるところだった。あとの二人が管理人室などを担当している。

唯「あずにゃ~ん、かくれんぼはもう終わりにしようよ~」

受付カウンターの下や書類棚の脇など、小さな体が入れそうなスペースは全て確認し、食堂へ移動する。
お姉ちゃんは何も気にしていないだろうが、二人合わせて死角ができないように気を配り、咄嗟の事態に備えている。

唯「食いしん坊のあずにゃんは食堂にいるの?それとも厨房?」

どちらにもいないほうがいいのでは、
などという思考が浮かび、すぐさま掻き消すように首を振る。
私はまだ友達を疑っている、それが心苦しかった。
そして同時に頭に浮かんだのは、梓ちゃんも既に殺されているのでは、という不吉なものだった。

結局食堂にも厨房にも梓ちゃんの姿はなかった。



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:36:03.55 ID:+BVtJ5c7O

憂「どうしよっか、とりあえず真理さん達と合流する?」

唯「そだねー。確か和ちゃん達、ここから奥に行ったよね?」

そうだよ、と返事をしてその廊下を進む。
廊下沿いには管理人室を含む経営陣用の部屋が並び、
突き当たって右が外へと続く裏口、左が紅茶を煎れたりする簡単なキッチンになっている。
途中の部屋は全て鍵がかかっていたので、私達はキッチンに入ることにした。

唯「和ちゃん達い――いやああぁぁぁっ!」

ドアを開けたお姉ちゃんが私に飛び付く。
その拍子に一旦閉まってしまったドアを、もう一度開けなければならないだろうか。
お姉ちゃんを恐怖させた根源を、見なくてはいけないだろうか。
私達は固まったまま、しばらく動けずにいた。



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:38:04.34 ID:+BVtJ5c7O

透「唯ちゃん!憂ちゃん!」

突然の呼び掛けに心臓が跳ね上がる。
透さんが廊下の向こうから走ってやってきていた。お姉ちゃんの悲鳴が聞こえたのだろう。

透「いったい何があったんだい?二人とも無事なようだけど」

唯「あ……あ……ま……」

お姉ちゃんは指をぶるぶると震わせながらキッチンのドアを指差す。
そんなお姉ちゃんを一歩下がらせ、モップを強く握り締めた透さんがドアを開けた。

透「――真理?真理っ!」

ドアはそのまま開け放たれ、透さんをキッチンへ招き入れるとともに、私の視界におぞましい光景を見せつけた。

そこには、喉から血を噴き出して倒れる真理さんの姿があった。



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:40:06.90 ID:+BVtJ5c7O

きゃああっ――さすがに私も悲鳴をあげてしまった。
紬さんのときは事故のようにも見えたし、澪さんは自殺に見えた。
だが、今回は違う。明らかな殺意のもとに、人が殺されているのだ。

律「唯っ、憂ちゃんっ、大丈夫か!?」

後方から律さんが走り寄ってきた。私達の悲鳴を聞いて、部屋から出てきたらしい。
律さんはキッチンの中の様子――透さんが血濡れの真理さんを抱きかかえている――を確認すると、
私達二人の手を取り、逃げるように走りだした。

唯「り、りっちゃん、どう、したの?」

息を切らしながらお姉ちゃんが聞く。私達は既に談話室まで戻ってきた。

律「どうしたって、透さんが真理さんを殺した現場だろ!?あんなとこいたら……」

どうやらあの光景を見て思い過ごしをしているようだ。



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:42:07.08 ID:+BVtJ5c7O

憂「違うんです、私とお姉ちゃんがキッチンのドアを開けたら真理さんが倒れてて、
  透さんはお姉ちゃんの声を聞いてあとから来たんです」

律「そ、そうだったのか……悪いことしちゃったな。
  あ、そういえば梓は?あと和もだ。真理さんと一緒だったんだろ?」

私とお姉ちゃんは顔を見合わせ、律さんのほうに向き直ってから首を振った。

憂「梓ちゃんは見つかってなくて、和さんの姿も見てな――」

ずる……ずる……ずる……。
何かを引きずるような音が、キッチンへ続く廊下から聞こえてくる。
お姉ちゃんは涙目で私の左腕ににしがみつき、
律さんもその左隣で恐怖を感じた顔をしながら、廊下から現れたその姿を見た。



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:44:07.87 ID:+BVtJ5c7O

透「やあ、三人ともお揃いで。ところで、ちょっと聞きたいんだけれど」

言葉と同時に、引きずられていたものが前に差し出される。腕も首もだらりと下がった真理さんだった。
お姉ちゃんが私の腕を掴む力が強くなる。

透「真理を殺したのは君達のうちの誰かかい?
  和ちゃんかとも思ったけど、キッチン奥の浴室で同じように死んでいたからさ」

左腕に上半身を抱えられて引きずられた真理さんは、
足に擦り傷のようなものを負っていたが、今となってはどうでもいいことだった。
真理さんを引きずるのとは逆の、透さんの右腕は、握り締めたモップを振り上げ、私の眼前で、振り下ろした。



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:46:07.14 ID:+BVtJ5c7O

ドガァっ、と響いた音は、私の右を掠めたモップがテーブルを砕く音だった。
私の左腕がお姉ちゃんに引っ張られ、お姉ちゃんの体は律さんに引っ張られていた。

律「逃げるぞっ!」

律さんに導かれるまま私達は階段を駆け上がり、
階段から最も近い私の部屋に入った。恐怖のせいか足元が冷え切ってしまっている。
鍵をかちゃり、とかけ一息つきかけたが、相手はマスターキーを持っていることを思い出した。

憂「バリケード、つくらなきゃ」

私の一言で、三人の力を合わせてテーブルを動かし始めた。
早くしないと、気持ちばかりが焦る。そんなときだった。


キャアァーーーッ



95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:48:19.69 ID:+BVtJ5c7O

部屋の外からの悲鳴。

唯「あずにゃんっ!」

テーブル運びの作業を放り出し、お姉ちゃんがドアを開け、外へ出る。
私と律さんはテーブルの負荷が急に強まったことに反射的対応がとれず、
走りだしたお姉ちゃんを止めることができなかった。

律「あの野郎っ!憂ちゃんはこのままここで待っとけ、いいな!」

危険を省みないお姉ちゃんの行動に腹を立てつつ、自らも同じことをしようとしている。止めなくては。

憂「律さん危ないですよ!」

律「うるさいほっとけるかっ!」

かくして、私は自分の部屋に一人取り残されることになった。



96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:50:08.46 ID:+BVtJ5c7O

ドアの向こうからがたごとと物音が聞こえる。私は部屋の隅で震えるしかできなかった。
これは言うなれば、お姉ちゃんや、梓ちゃん、律さんを見捨てた行為だ。
正体不明の殺人鬼に恐怖しつつ、こんな私のことも殺してくれたら、などと考えてしまう。

ふと気付くと、物音が止んでいた。お姉ちゃんは、みんなは、いったいどうなってしまったのだろう。
震える足をなだめすかし、私はドアのところまで移動し、それを開いた。



97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:52:05.20 ID:+BVtJ5c7O

外を覗くと真っ先に見える梓ちゃんの部屋のドア。
それよりこちら側、階段の正面で、律さんに馬乗りになるお姉ちゃん。
その手には、血がべっとりついた包丁が握られていた。

唯「憂……ごめんね。お姉ちゃん、人殺しになっちゃった」

それだけ言うと、お姉ちゃんは包丁の刃先を自分の胸に向け――

憂「お姉ちゃんっ!」

――突き刺した。



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:54:09.37 ID:+BVtJ5c7O

なぜ。
なぜだ。
なぜなのか。
なぜお姉ちゃんが死ななければならないのか。
律さんを、みんなを、殺してしまったからなのか。
ならば、なぜみんなを殺してしまったのか。
そもそも、みんなを殺したのは、お姉ちゃんなのだろうか。
私はずっとお姉ちゃんと一緒にいたはずだった。
これからもずっと、一緒にいるはずだった。
お姉ちゃんがみんなを殺したはずがない。
誰かが生き残っていて、そいつこそが犯人だ。

そこまで考え、お姉ちゃんの胸から包丁を受け取ると、生き残りを捜しに歩きだした。



101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:56:53.31 ID:+BVtJ5c7O

梓ちゃんの部屋を開ける。透さんと、彼に連れてこられた真理さんが、仲良く倒れている。
透さんは前頭部と特に背中から大量に出血しており、もはや息はしていなかった。
だが念のため、二人とも心臓のあたりを狙って、包丁を刺しておいた。
透さんからマスターキーを預かり、次の部屋へと向かう。

澪さんの部屋へやってきた。ドアを開けると、身を切り裂くような冷気が流れ出る。
見ると、窓が開け放たれ、カーテンがばたばたと暴れていた。律さんが開けて出てきたのだろうか。
律さんの仕業らしきことがもう一つ。吊り下がっていたはずの澪さんの体が、ベッドに横たえられていた。
こちらも息はしていなかったが、心臓を包丁で突いておく。

部屋を出ると、お姉ちゃんの下になった律さんの生死を確認する。
やはり死んでいたが、一応とどめを刺してから階段を降りる。
階段を降りたところには、シーツのかかった紬さんに折り重なるように、梓ちゃんが妙なポーズで倒れていた。
どちらも息がないのを確認し、さらにそれを確実にしてからキッチンへ向かう。

キッチンには誰もいなかったが、用があるのはその奥にあるらしい浴室だった。
がちゃり、とその戸を開くと、透さんが言っていたとおり、首から多量に出血した和さんの姿があった。
生き残っている犯人候補の最後までもが死んでいたため、その苛立ちから出血箇所を十も二十も増やした。



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 16:58:27.58 ID:+BVtJ5c7O

私はお姉ちゃんのもとへ戻っていた。
お姉ちゃんが犯人であるはずがない、
つまりお姉ちゃん以外の生き残りが犯人である。しかし他に生き残りは一人もいなかった。
この矛盾した問いに、私は唯一の答えを見出だした。

憂「お姉ちゃん、すぐ行くからね」

包丁を逆手に持ち、最後の生き残りを突き刺した。


 終 ~そして誰もいなくなった~




>>82より分岐





105 名前:>>82より分岐:2012/02/04(土) 17:00:02.37 ID:+BVtJ5c7O

律「……梓はいないのか?」

唯「あずにゃんはあれからどこ行ったかわかんないままだよ」

律「……悪いけどみんなで手分けして探してきてくれないか?あ、くれませんか?梓にも謝りたいんです」

唯「合点だよりっちゃん隊長!……あずにゃんのことも心配だしね」

確かに梓ちゃんのことは心配だ。だが、梓ちゃんが人二人を殺した犯人の可能性は色濃く残っているのだ。

憂「手分けして、といっても一人では行動しないほうがいいですよね」

透「僕は一人でいいよ。だから、あとの4人で二人組を作ってくれないか」

憂「じゃあ私は真理さんと組みます」

この提案に、特に異論は出なかった。
真理さんならシュプールの勝手をよく知っていて、捜索活動も捗るだろう。



107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:01:31.71 ID:+BVtJ5c7O

透「真理、マスターキーを渡してくれないか?
  犯人がいそうな二階の各部屋は僕が受け持つ。唯ちゃん達の部屋にも入るけど……いいかな?」

こんな事態になってまで、部屋の散らかり具合を恥ずかしがるはずもなかった。

真理「一人で大丈夫?」

透「大丈夫、あそこの掃除用具入れからモップをとってきてから捜索開始するさ」

そう言ってマスターキーを受け取ると、
透さんは私達の部屋があるのとは逆方向へ廊下を進む。空き部屋からチェックするらしい。
私達女四人もそれぞれの捜索範囲を決め、階段を降り、梓ちゃん捜しを始めた。



108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:03:02.56 ID:+BVtJ5c7O

私と真理さんに割り当てられたのは、案の定管理人室など、客だけでは勝手がわからない範囲になった。
あとの二人が受付や食堂、それに隣接する厨房などを担当している。

真理「私、あっちのキッチンとかバスルームを見てくるから、そこのベッドルームや物置を調べてもらっていい?」

そう言って鍵を渡してくる真理さん。言いなりになってよいものか一瞬悩んだが、結局すんなり受け入れた。

部屋が並ぶ廊下を進む真理さんを尻目に、私は一つ目の部屋に鍵を挿し、ドアを開けた。

憂「梓ちゃーん、いるのー……?」

返事はない。電気をつけ、部屋の中を一通り見る。やはりいない。
私はその部屋を後にし、次の部屋に取り掛かった。



112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:04:31.75 ID:+BVtJ5c7O

どさっ

二番目の部屋から出てきたとき、キッチンのほうから妙な音が聞こえた。
真理さんが何かを落としただけかもしれないとも思ったが、なんだか胸騒ぎがした。
私はキッチンへと足を向けた。

憂「真理さーん、どうかしまし――」

キッチンのドアを開けた私の目に飛び込んできたには、喉から血を噴き出して倒れる真理さんの姿だった。

悲鳴をあげそうになった。紬さんのときは事故のようにも見えたし、澪さんは自殺に見えた。
だが、今回は違う。明らかな殺意のもとに、人が殺されているのだ。

それでも悲鳴をあげなかったのは、キッチンに隣接するバスルームで、水を使っているらしき音を聞いたからだ。
誰かが――おそらく真理さんを殺した人物が――そこにいる。



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:06:02.31 ID:+BVtJ5c7O

幸か不幸か、ここはキッチンだ。私は自らの身を守るべく、包丁を探した。
だが、見つかったのは果物ナイフくらいなもので、包丁はなかなか見つからない。
――不意に気配を感じ、恐る恐る振り向いた。

「探し物はなんですか?」

そこには、澪さんのスキーウェアを着込んだ人物がいた。
スキーウェアには、真理さんのものであろう鮮血がところどころに散っていた。

「見つけにくいものですか?」

憂「あ……あ……」

さらには、私の探していた包丁、それを右手に握り締めていた。
考えてみれば、真理さんは首を切られていたのだ、包丁は犯人が持っていて当然だった。



115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:07:32.06 ID:+BVtJ5c7O

「見られたからには、仕方ないかな」

その人物がこちらに近寄る。
せめてさっき見つけた果物ナイフを確保していれば、少しは応戦できたかも……
いや、腰が抜けてろくに動けないんじゃあ結果は同じだっただろう。
それほど、その人の普段からは想像もつかない威圧感を受けていた。

「じゃあ、ばいばい」

右手に握られた包丁は、私の顔へ急速に接近し、顔より少し下、喉へと深く突き刺さった。

お姉ちゃんには手を出さないで――言葉にならず、喉から血がごぼごぼと溢れるだけだった。

それから少しだけ、私の意識はあった。犯人が顔についた血をバスルームで洗い流す様子、そして……。


 終 血まみれのスキーウェア




>>82より分岐





117 名前:>>82より分岐:2012/02/04(土) 17:09:02.28 ID:+BVtJ5c7O

律「……梓はいないのか?」

唯「あずにゃんはあれからどこ行ったかわかんないままだよ」

律「……悪いけどみんなで手分けして探してきてくれないか?あ、くれませんか?梓にも謝りたいんです」

唯「合点だよりっちゃん隊長!……あずにゃんのことも心配だしね」

確かに梓ちゃんのことは心配だ。だが、梓ちゃんが人二人を殺した犯人の可能性は色濃く残っているのだ。

憂「手分けして、といっても一人では行動しないほうがいいですよね」

透「僕は一人でいいよ。だから、あとの4人で二人組を作ってくれないか」

憂「じゃあ私は和さんと組みます」

この提案に、特に異論は出なかった。私のことを信じてくれると言った和さんを、私も信じることにしよう。



120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:10:32.29 ID:+BVtJ5c7O

透「真理、マスターキーを渡してくれないか?
  犯人がいそうな二階の各部屋は僕が受け持つ。唯ちゃん達の部屋にも入るけど……いいかな?」

こんな事態になってまで、部屋の散らかり具合を恥ずかしがるはずもなかった。

真理「一人で大丈夫?」

透「大丈夫、あそこの掃除用具入れからモップをとってきてから捜索開始するさ」

そう言ってマスターキーを受け取ると、
透さんは私達の部屋があるのとは逆方向へ廊下を進む。空き部屋からチェックするらしい。
私達女四人もそれぞれの捜索範囲を決め、階段を降り、梓ちゃん捜しを始めた。



121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:12:02.25 ID:+BVtJ5c7O

私と和さんに割り当てられたのは、受付や食堂、それに隣接する厨房など、
ある程度勝手がわかるところだった。あとの二人が管理人室などを担当している。

憂「梓ちゃ~ん、かくれんぼはもう終わりにしようよ~」

受付カウンターの下や書類棚の脇など、小さな体が入れそうなスペースは全て確認し、食堂へ移動する。
和さんも周りに注意しているらしく、二人合わせて死角ができないように気を配り、咄嗟の事態に備えている。

和「もしかして食堂にいるのかしら?それとも厨房?どちらにしろ随分食いしん坊ね」

どちらにもいないほうがいいのでは、
などという思考が浮かび、すぐさま掻き消すように首を振る。
私はまだ友達を疑っている、それが心苦しかった。
そして同時に頭に浮かんだのは、梓ちゃんも既に殺されているのでは、という不吉なものだった。

結局食堂にも厨房にも梓ちゃんの姿はなかった。



122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:13:31.92 ID:+BVtJ5c7O

和「ねぇ、憂」

食堂を出ようとしたところで、突然話しかけられた。

和「あなたはこの事件、どう思う?私達が探す彼女こそが犯人だと思ってるのかしら」

憂「それは……」

思っていないと言えば嘘になる。だが、梓ちゃん犯人説を肯定するほどでもない。
正直に今の気持ちを言うことにしよう。

憂「全く疑ってないわけじゃないですけど、
  でも梓ちゃんがそんなことするはずがないし、どちらとも言えません」

和「……そう」

和さんはなんとも言いがたい表情で、目線を逸らした。



123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:15:01.77 ID:+BVtJ5c7O

逆に和さんは、今回の事件についてどう思ってるんだろう。聞いてみることにした。

和「そうね……あの二人を殺すほどの動機を持った人がいるとは思えない」

憂「それってどういう――」

イヤアアァァァッ!

突如響き渡る悲鳴。私にはその声の主がわかった。お姉ちゃんだ。

憂「お姉ちゃんっ!」
和「唯っ!」

私達は食堂を飛び出し、
お姉ちゃん達が捜索活動をしているはずの廊下に面した部屋のドアを、片っ端から調べていった。
そのどれもに鍵がかかっており、行き着いた従業員用キッチンの入口で、へたり込むお姉ちゃんを見つけた。



124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:16:32.14 ID:+BVtJ5c7O

透「唯ちゃん!憂ちゃん!和ちゃん!」

突然の呼び掛けに心臓が跳ね上がる。
透さんが廊下の向こうから走ってやってきていた。お姉ちゃんの悲鳴が聞こえたのだろう。

透「いったい何があったんだい?三人とも無事なようだけど」

唯「あ……あ……ま……」

お姉ちゃんは指をぶるぶると震わせながらキッチンのドアを指差す。
そんなお姉ちゃんを一歩下がらせ、モップを強く握り締めた透さんがドアを開けた。

透「――真理?真理っ!」

ドアはそのまま開け放たれ、透さんをキッチンへ招き入れるとともに、私の視界におぞましい光景を見せつけた。

そこには、喉から血を噴き出して倒れる真理さんの姿があった。



126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:18:02.32 ID:+BVtJ5c7O

きゃああっ――さすがに私も悲鳴をあげてしまった。
紬さんのときは事故のようにも見えたし、澪さんは自殺に見えた。
だが、今回は違う。明らかな殺意のもとに、人が殺されているのだ。


律「唯っ、和っ、憂ちゃんっ、大丈夫か!?」

後方から律さんが走り寄ってきた。私達の悲鳴を聞いて、部屋から出てきたらしい。
律さんはキッチンの中の様子――透さんが血濡れの真理さんを抱きかかえている――
を確認すると、私達に向かって声をかけた。

律「まだ犯人が近くに潜んでるかもしれない。
  唯と憂ちゃんはあっちを探してきてくれ、私と和でこっちを探す」

和「ちょ、ちょっと!」

言うが早いか、律さんは和さんの手を引いてキッチンに入って行った。
私達にはさっき調べたばかりの食堂や厨房を探せということらしい。
まあ、死体から離れられるのは精神衛生上ありがたい。



128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:19:31.97 ID:+BVtJ5c7O

お姉ちゃんと二人で食堂をざっくり探したが、人の気配はやはりない。
続いて厨房に入ったところで、先ほどは気にも留めなかった包丁が目についた。
切る食材ごとに包丁を変えているのか、一本だけではない。

憂「護身用に、一応持っとこっか」

包丁を二本手にとり、一本をお姉ちゃんに渡す。
お互い包丁を持ったままうろうろする経験など当然ないので、いやに緊張する。

唯「りっちゃん達大丈夫かな……」

憂「キッチンのほうに戻ってみよっか」

結局武器を入手しに来ただけのような形になったが、私達は厨房、食堂をあとにした。



130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:21:02.51 ID:+BVtJ5c7O

キッチンに向かう廊下に差し掛かったとき、異変に気付いた。
ドアの向こうから、血濡れの手が伸びていたのだ。

唯「りっちゃん!和ちゃん!」

お姉ちゃんが駆け出す。慌てて私もついて行く。
お姉ちゃんがドアを全開にすると、倒れていたのは律さんだった。
頭から血を流しているが、まだ動いている、生きているのだ。
そしてその向こうで、透さんがモップを振り上げていた。

唯「危ないっ!」

透さんが律さん目掛けてモップを振り下ろす。
だがそれより早くお姉ちゃんが透さんへ突進し、透さんともども倒れ込む。

唯「あ……あ……」

お姉ちゃんが起き上がり、呆然とした顔で一点を見つめる。
その目線を追うと、透さんの胸から包丁の柄が生えていた。



132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:22:31.80 ID:+BVtJ5c7O

唯「わ、私……人をこ、殺しちゃった……。っ!」

お姉ちゃんは急に険しく表情を変え、透さんの胸から包丁を引き抜く。
傷口からはごぼっという音とともに血が溢れ出た。

唯「憂……ごめんね。お姉ちゃん、人殺しになっちゃった」

それだけ言うと、お姉ちゃんは包丁の刃先を自分の胸に向け――

憂「お姉ちゃんっ!」
律「や……め……」

――突き刺した。



134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:24:01.62 ID:+BVtJ5c7O

嘘だ。
お姉ちゃんが、死んでしまった。
嘘だ。嘘だ。嘘だ嘘だうそだウソダ――

律「あの……馬鹿……」

律さんの声で正気に戻る。
そうだ和さんは――そう思って部屋の中を眺めると、部屋の隅で、血にまみれて横たわっていた。

憂「律さん、何があったんですか」

律「透さんが……真理さんを殺したのはお前かって……襲ってきて……」

憂「和さんは透さんに殺されたってことですか」

律「和は……私の盾に……いや、私、が…」

憂「……律さん?」

それ以上、律さんが言葉を発することはなかった。



135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:25:33.96 ID:+BVtJ5c7O

後ろで微かに物音がした。
とっさに振り向くと、そこにいたのはスキーのストックを持った梓ちゃんだった。

憂「大変だよ……みんな、みんな死んじゃって……うぅ」

涙がこぼれた。律さんまでもが死んだとき、
私はこの建物に一人になったのではと思ったが、まだ梓ちゃんが生きていてくれたのだ。

梓「この……」

梓ちゃんが口を開く。反射的に顔を上げる。

梓「人殺し!」

ストックが私の喉に突き刺さる。

梓「どうして!こんな凄惨な事件になるはずじゃなかったはずなのに!」

梓ちゃんは泣いていた。その涙と発言の意図を掴むには、私には時間がなさ過ぎた。


 終 ~梓にストックで~




関連記事

ランダム記事(試用版)




憂「かまいたちの夜」#前編
[ 2012/02/05 21:22 ] ホラー | かまいたちの夜 | CM(0)

コメント(アンカー機能)
●>>1と半角で書き込むと>>1と記事へのアンカーが生成される。
●*1と半角で書き込むと1とコメントへのアンカーが生成される。
上記の2つのアンカーが有効なのは該当記事のみ。

コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

サイト関連
メール ツイッター 最新記事一覧(30件)
ユーザータグ 検索

U:
P:
色々変更
好みのカラーコードをどうぞ

記事の背景色変更


本体の背景色変更


名前の色変更
IE8:重
火狐4.01:軽
chrome:軽


広告4
広告5
広告6