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憂「かまいたちの夜」#中編 【ホラー】


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憂「かまいたちの夜」#前編
憂「かまいたちの夜」#中編
憂「かまいたちの夜」#後編




>>33より分岐





137 名前:>>33より分岐:2012/02/04(土) 17:27:02.21 ID:+BVtJ5c7O

律「さっき部屋に帰ったら、入ってすぐのとこにこんな紙が落ちてたんだ」

そう言って差し出された紙には、赤い筆ペンのようなもので、こう書かれていた。


コワイ オモイヲ サセヨウ
アイテハ ダレデモ イイ
シンデ シマッテモ イイ
ナグルモ ケルモ サスモ ジユウ
アラタナ イケニエニ カンパイ


私とお姉ちゃんは同時に読み終わると、揃って律さんを見た。

律「こんなイタズラしたのは唯か?憂ちゃんじゃなさそうだし」

唯「ふぇっ?知らないよこんなの」

もちろん私も知らない。だが、どういうことかはわかった。



139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:28:31.87 ID:+BVtJ5c7O

梓「私の感想としては、澪先輩を怖がらせるために律さんがしたものだと」

律「だったら澪の部屋に直接置くさ。
  ま、結局私がここで澪に披露してるんだから、疑いは晴れないだろうけど」

確かに一番ありえそうな展開ではある。
しかし律さんは本当に何も知らなそうなので、この紙を仕掛けた人物は一人に特定される。

和「ところで、ムギはほんとにここに来てるのよね?
  私はまだ姿を見てないのに、そんなもの見せられたら……」

憂「心配いりません。紬さんはきっと無事です」

みんなの視線が一気に集まる。数秒沈黙の後、和さんが口を開いた。

和「どういうことなの?この紙を誰が置いたかわかるの?」



143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:30:02.06 ID:+BVtJ5c7O

律「まさか、意外にも憂ちゃんが?」

憂「私はそんなことしませんよ。それより律さん」

私に言葉を返され、律さんの体が一瞬強張る。

律「な、なんだよ、私じゃないって言ってるだろ」

憂「その点は信じてますよ。ただ、携帯を見せてもらっていいですか?待受画面だけでいいので」

律「なんでそんなことしなきゃいけないのさ。携帯圏外だから部屋に置きっぱなんだけど」

この発言により、私の思考が間違っていないことが確認された。

梓「憂、さっきからどうしたの?ムギ先輩はほんとに無事なの?」



148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:31:31.77 ID:+BVtJ5c7O

私は梓ちゃんの言葉を聞かず、話を続けることにする。
この注目を浴びる感じが、なんとも気持ちいいので長引かせたいのだ。

憂「圏外なのは私の携帯だけじゃないんですね。
  でも、律さんさっき言いましたよね?――紬さんからメールで連絡がきた、って」

律「あっ……!」

律さんがしまった、といった顔を一瞬見せた。

憂「圏外なのにメールで連絡をとれるはずがありません。
  では、どうやって連絡をとったのか。そして、何故嘘をついたのか」

律「あのぉー憂しゃん。そりゃ確かに私はムギとグルになって澪を驚かそうとしたけど、あの紙は全く……」

憂「あぁもうそれも私が言いたかったのに!」

全てわかってますよ感を出したかったのに、途中で自白が入ると複雑な気分になる。

憂「そうです、律さんは紬さんと一緒に澪さんを驚かす計画を立てていたのです」



150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:33:01.92 ID:+BVtJ5c7O

澪「おい、律ぅ?」

律「ご、ごめんって」

外野の声は気にしない。

憂「その計画ではおそらく、律さんが姿をくらまし、紬さんが不安を煽るという形だったんでしょう。
  そして、姿を隠している間も連絡を取るために、トランシーバーか何かを用意していた。」

律「おっしゃるとおり」

唯「でもりっちゃんはここにいるよ?」

お姉ちゃんの合いの手はばっちりだ。

憂「そう、この計画は紬さんによって変更されたんです。
  紬さん自身が身を隠し、律さんまでをも不安がらせるというように」



151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:34:30.46 ID:+BVtJ5c7O

みんな納得したようなしてないような顔をしている。またもや和さんが口を開く。

和「確かにその可能性もあるけれど、もし違ったらムギが危ないんじゃない?」

透「そうだね、どっちにしろみんなで捜したほうが……」

憂「ですから、その必要はありません」

和「憂、あんたね……」

和さんが呆れたような目をしている。しかし私が次に発した言葉により、その目は色を変えるはずだ。

憂「紬さんの居場所は、その手紙に書いてあるんです。暗号として」

唯「あんごー?」



154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:35:51.64 ID:+BVtJ5c7O

憂「そう。みなさん、その紙の二文字目を、縦に読んでみてください」

私の言葉に、律さんが持つ紙をみんなが覗き込んだ。


コワイ
アイテハ
シンデ
ナグルモ
アラタナ


透「ワ・イ・ン・グ・ラ、――ワイン蔵か!」

憂「そうです。透さん、このペンションにあるワイン蔵へ案内してください」

透「あ、あぁ。そこの地下室に続く階段からいけるよ。けど、鍵がかかってるはずだ」



157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:37:21.24 ID:+BVtJ5c7O

憂「鍵がかかってるから入れない。それは、ここが見知らぬペンションならそうかもしれませんね」

真理「もしかして紬ちゃん……」

真理さんは気付いたようだ。他にも何人かがはっとした表情を浮かべている。

憂「ここは琴吹グループのペンションです。
  ならば、紬さんは地下室へ向かう鍵を、管理人室から、
  あるいは事前に合い鍵を、手に入れることはできるはずです」

「ご名答よ」

談話室の集まりの外から聞こえた。
声のしたほうを向くと、おそらく地下室へ続くのであろうドアから、紬さんが姿を現していた。



158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:38:54.18 ID:+BVtJ5c7O

紬「一応トランシーバーを取りに戻ろうとしたら、
  憂ちゃんが推理を展開してたもんだからドアの向こうで聞いてたの。
  さすが憂ちゃんの洞察力はすごいわね」

律「ムギ、心配させるようなことするなよー」

律さんがほっとした様子で声をかけた。

紬「あら、最初に澪ちゃんに心配させようとしたのは誰だったかしら?」

律「そりゃまぁ、その、悪かったけど」

澪「全く……ま、ムギが無事でなによりだ」

これにて一件落着、というやつだ。
ただ、せっかく考えたイタズラ計画を、勝手な判断で無駄にしてしまったのは申し訳ない気もする。
その点を一応謝ろうかと思い紬さんのほうを見ると、逆にあちらが口を開いた。



161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:40:11.57 ID:+BVtJ5c7O

紬「それにしても憂ちゃんすごいわ。まるで探偵さんみたい」

私が、探偵……?

律「確かにな。私がメール云々言ったのが嘘だって気付けるあたり、してやられた感じだ」

澪「暗号をさらっと読み取っちゃうあたりもすごいよ、私は紙を見るのも嫌だったのに」

梓「澪先輩は怖がりですからね。でも私だって多少怖かったのに、憂は落ち着いてた」

和「ムギの計画は狂ったみたいだけど、いいもの見せてもらったわ」

真理「そうね、透なんかよりよっぽど頭が冴えてるんじゃない?」

透「そこで僕を引き合いに出さないでよ。でも、そうかもしれない」



162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:41:07.01 ID:+BVtJ5c7O

みんなが口々に私を褒める。なんだか、本当に探偵としての素質がある気すらしてきてしまう。
だが、肝心のお姉ちゃんがまだ何も言ってくれてないのが気になった。

憂「あの、お、お姉ちゃんはどう思う……かな?」

お姉ちゃんははっとした様子で、目を輝かせてこう言った。

唯「すごいよ憂!憂にこんな才能があるなんて知らなかった!
  ねぇ、帰ったら私を助手として雇ってください!」

じょ、助手!?

紬「憂ちゃんが探偵事務所を開設するのなら、私も資金援助させてもらうわ」



164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:42:03.94 ID:+BVtJ5c7O

私が、お姉ちゃんを助手にして、探偵になる……。
なんとも楽しそうな話じゃないか!

憂「やってやるです!」

梓「よく言った憂、やっちまえー」


それからシュプールの中は、私の開業決心を祝う宴会場となり、朝まで飲めや歌えやの騒ぎとなった。
シュプールから帰ったら、私の新しい人生が始まる。それはまた、別のお話…………。


 完 ~大団円~




>>39より分岐





167 名前:>>39より分岐:2012/02/04(土) 17:43:18.78 ID:+BVtJ5c7O

透さんの言葉に従い、部屋の中を隅々まで調べてみたが、ムギ先輩の姿はなかった。
そもそも鍵をかけていたのだから当たり前だとも思いつつ、外に出ようとしたときだった。

ガダッガダゴダガダッゴトガタバンッ

部屋の外、階段の方向から聞こえた音に、心臓が飛び出る思いがした。私は慌ててドアを開け、外へ出た。

梓「あっ、み……」

澪先輩が部屋に入るのが一瞬見えた。
今の物音で私のように出てくるのならわかるが、逆に入っていったのが気になり、澪さんの部屋へ歩み寄る。
その途中で階段の下に目をやった瞬間、体が固まってしまった。
みんなで捜したムギ先輩が、手足を妙な方向に曲げたまま、ぴくりとも動かずそこにいたのだ。



171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:44:05.57 ID:+BVtJ5c7O

憂「ひっ……」

気付かないうちに、憂が隣で同じように階段下を覗き込んでいた。
その後、唯先輩や律先輩、和さんも部屋から現れ、
私達の異変の原因に目をやり、同じように凍り付いた。
階段下の向こうで、真理さんも同じである様子が見える。

律「み……澪っ!澪は大丈夫か!」

突然叫びだした律先輩は、後方の澪先輩の部屋のドアを叩き、ノブを握った。
ノブはあっさりと回り、勢いよく開けられたドアから、律先輩は駆け足で部屋に飛び込んだ。

律「澪、大丈夫なんだな。部屋の外に出れるか?大きな音がしてびっくりしたよな。
  ちょっと外には見るのが辛いものがあるけど、みんなと一緒にいよう。な?」

独り言のように律先輩の声ばかりが聞こえたあと、
律先輩の肩を借りるようにして、澪先輩が泣きながら部屋から出てきた。
その顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。

大きな音がしただけであんなに泣くだろうか。
音の原因が、ムギ先輩の転落する音だと知っていたんじゃないだろうか。



174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:45:02.52 ID:+BVtJ5c7O

透「なんてことだ……」

真理さんの後ろに透さんが現れていた。
透さんはそのままムギ先輩に近付くと、その手首を取り、指を当て、……首を振った。

唯「そんなの嘘だよっ!」

今度は唯先輩が叫ぶ。

唯「ムギちゃんが死んじゃうわけないじゃん!透さん早く救急車呼んでよっ!」

言いながらムギ先輩のもとへ駆け降りていく。
そして透さんが掴んでいるのと逆の手を両手で包むと、静かに泣きだした。

唯「ムギちゃんが死ぬわけないじゃんかぁ……」

憂が唯先輩のもとへと階段を降り始めると、それに続いて和さんも、律先輩と澪先輩も降りていく。
なんとなく澪先輩の前を歩きたくなかった私は、最後に降りていった。



175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:46:01.82 ID:+BVtJ5c7O

透さんは道を空けるように立ち上がり、受付カウンターのほうへ歩いていく。電話をかけるのだろう。

律「澪、あんまり見ないほうがいい、そこのソファーに座っとこう」

澪先輩は談話室のソファーに導かれ、和さんもそれに続く。
憂は唯先輩の肩を抱き、ソファーへ連れていった。
私は澪先輩と距離を保っていたくて、真理さんと一緒に階段脇に立っている。

透「もしもし、警察ですか――」

透さんが電話している声が聞こえた。救急車ではなく警察を呼んでいるらしい。

真理「シーツ、取ってくるわね。このままじゃかわいそうだから。」

そう言って奥へ消えていく真理さん。透さん共々なんだか落ち着いているようにも見える。

唯先輩と澪先輩が啜り泣く音と、外の強風が吹きすさぶ音が建物を支配した。



177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:47:02.13 ID:+BVtJ5c7O

透「だめだった」

真理さんが持ってきたシーツをムギ先輩にかけているその横に立ち、透さんが言う。

透「吹雪で電話線が切れたみたいだ。うんともすんとも言わない」

電話をかける声がぱったりと聞こえなくなったのはそういうことだったのか。
透さんは続けて妙なことを言い出す。

透「ねぇ真理、昨日泊まった男の人はほんとに帰ったんだよね?」

真理「田中さんのこと?チェックアウトの手続きしたのは透じゃない」

透「そうなんだけど、そのとき荷物を持ってなくて、手続きしてから荷物まとめて帰りますとか言ってたからさ」

真理「田中さんの部屋の清掃はちゃんとしたわよ。そりゃあ確かに、帰るところは見てないけれど」



178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:48:02.07 ID:+BVtJ5c7O

律「ちょ、ちょっと待って」

二人の会話に律先輩が割って入る。

律「その口ぶりだと透さん、その田中って人が実はまだここにいて、
  私の部屋に手紙を残したり、ムギを……殺したって言うんですか?」

透さんは冷静に返事する。

透「そんな可能性もあるなと思っただけさ。
  ちょうど律ちゃんの部屋に泊まってたのが田中さんだし」

律「嫌だ聞きたくない!勘弁してください!」

律先輩は目を力一杯つぶり、澪先輩と体を寄せ合いながらぶるぶると震えている。
あの手紙は本当に律先輩の仕業ではないようだ。強がってはいたが、相当怖かっただろう。



179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:49:01.52 ID:+BVtJ5c7O

唯「ね、ねぇ、携帯で警察に電話したらいいんじゃない?」

せっかくの唯先輩の提案だが、採用されることはない。

透「残念だけど、ここは圏外なんだ。
  だから外と連絡をとるには、吹雪がやんでから車を出すしかない」

雪はスキーをやめる頃に激しくなり始めていたが、
窓からちらりと外を見ると、風の轟音にも納得できる勢いで舞い狂っていた。



180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:50:01.80 ID:+BVtJ5c7O

透「でも、もし不審者がいたとしても、
  このままみんなで一緒にいたら手出しはできないさ。だからそんな悲観的にならずに――」

梓「悲観的になるな?無茶言わないでください!」

思わず声を荒げてしまう。

梓「人が一人死んでるんですよ!?しかも、大好きな先輩が……」

大好きな澪先輩が、ムギ先輩を突き落としたのかもしれないのだ。

梓「いいです、私は部屋に篭ります」

少し冷静になって考えてみたかった。

真理「え、ちょ、ちょっと!」

唯「あずにゃん、危ないよー」

真理さんや唯先輩の静止も聞かず、私は階段を登った。



181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:51:01.69 ID:+BVtJ5c7O

階段を登った私は、自分の部屋には戻らず、澪先輩の部屋の前にいた。
真実を確かめるべく、二人きりで話をするためだ。

だが、いつ澪先輩が部屋に戻ってくるかもわからないし、
そもそも一人で戻ってくることはないんじゃないか。
そんなことを考えていると、階下から話し声が聞こえてきた。

憂「あの、みなさん聞いてください――」

憂の声だった。

憂「階段のほうから聞こえた大きな音は死体の位置からしても、
  紬さんが階段を転げ落ちた音だと思うんです。
  だったら、紬さんはうっかり足を滑らせたか、誰かに突き落とされたことになりますよね」

まさか憂は、澪先輩がムギ先輩を突き落としたと、みんなの前で言うつもりなのだろうか。
止めに入るべきか悩んでいると、信じられない言葉が続いた。

憂「音がしてわりとすぐにドアを開けたら、梓ちゃんが階段前にいたんです。
  だから梓ちゃんが……なんて思っちゃったんですけど、ま、まさかそんなわけないですよね」

憂は、何を言っているのだろう。私が犯人……?

和「もしそうなら、犯人が一人で部屋に篭ってるわけだから安心できるわね」

和さんまでもが同意してしまった。そして同意の輪は広がっていく。



182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:52:12.47 ID:+BVtJ5c7O

唯「そんな、あずにゃんが、そんなまさか……」

律「なんで梓がムギを……」

真理「音がしてすぐにドアを開けて梓ちゃんしかいなかったなら、田中さんなんてやっぱりいないのかも……」

みんなが憂の発言に同意する中、しかし一人だけ異を唱える人がいた。

透「今ここに梓ちゃんがいないわけだけど、梓ちゃんと憂ちゃんが実は逆だったとしたらどうだろう?」

しばらくこの発言の意味を理解することができなかった。
そんな様子が下でも繰り広げられたのか、透さんが言葉が続ける。

透「本当は憂ちゃんが紬ちゃんを突き落とし、
  その音に驚いた梓ちゃんがドアを開けて、階段前の憂ちゃんを発見したのかもしれない」



183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:53:01.80 ID:+BVtJ5c7O

憂「な、なんてことを言うんですか!」

そんなわけがないことは私が一番よくわかっている。だが逆に言えば、私しかわかりえないのだ。

律「私がドアを開けたときは、既に梓と憂ちゃんが階段前に揃ってたな。
  ちなみに、唯が出てきてドアを閉めたところだった」

和「私は律よりあとに出てきたけれど……唯が憂達の次にドアを開けたのよね?」

唯「そ、そんなこと言われても、私も憂とあずにゃんが揃ってるとこしか見てないから――」

澪「もうやめてくれっ!」

澪先輩が叫ぶ。



184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:54:01.87 ID:+BVtJ5c7O

澪「みんなが疑い合うなんて、もう嫌だ!……私も部屋に帰る」

律「澪、待て!二階には梓がいるし、ここでみんな一緒にいれば――」

澪「こないでくれっ!」

澪先輩はそのまま階段を駆け上がってきた。

澪「え……梓?」

梓「澪先輩、部屋で少しお話しませんか?」

私の提案に、澪先輩はおどおどしながらもドアを開け、自分の部屋に招き入れてくれた。
私に容疑がかかってしまった以上、もし真犯人が澪先輩であれば、本人の口からそうであることを言ってほしい。



185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:55:02.92 ID:+BVtJ5c7O

澪「梓、お茶でも飲むか?」

梓「わざわざありがとうございます、いただきますね」

部屋に入るなり澪先輩が煎れてくれた(備え付けのティーバッグだが)お茶を受け取り、
ベッドに腰かけてからふーふーと冷まして飲みながら話し始める。

梓「あの、澪先輩……ムギ先輩が落ちた音がしたあと、
  普通なら部屋から飛び出すと思うんですが、どうして部屋に入っていったんですか?」

澪先輩は、手を震わせながらお茶を飲み、目線を合わせずに答えた。

澪「やっぱり見られてたんだな……。梓は、なんでだと思う?」



187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:55:59.37 ID:+BVtJ5c7O

梓「それは……澪先輩が、ムギ先輩を突き落として逃げたんだと思いました」

迷った末、正直に答えた。
澪先輩はその答えを想像していた様子で続ける。

澪「そうだよな。その考えは……合ってるんだ」

ティーカップに落としていた目線を上げ、澪先輩を見る。まさか、本当に……?

澪「ただ、信じてもらえないかもしれないけど、ムギに対する明確な殺意があったわけじゃないんだ」

私はお茶を飲んで頷き、話を促す。

澪「あの紙を見て正体不明の人物に恐怖するあまり、
  部屋の前で後ろから階段を登る人の気配を感じたとき、その姿も確認せずに突き飛ばしてしまったんだ」



189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:57:01.17 ID:+BVtJ5c7O

私はその光景を想像した。怖がりの澪先輩が、ドアの前に立ち後方の気配に身を震わす様子。
目を固く閉じたまま、振り向きざまに手を伸ばしてムギ先輩を突き飛ばす様子。
そこまではうまく想像できたのだが、部屋に入る様子がうまく想像できない。
いやそれだけではない、今目の前にいる澪先輩の顔もよく視認できず、あ……意識が……。

澪「私より睡眠薬は効きやすいみたいだな……いや、私が常用してるから耐性ついただけ、かな。」

薄れていく意識の中、澪さんの声が頭に響く。

澪「ごめんな梓、お前が疑われるようになっちゃって。
  ちゃんと自白の手紙は遺すから許してくれ。……はは、手が震えてうまく書けな――」

私は、その後の澪先輩の行動を止める術を持たなかった。



191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:58:01.88 ID:+BVtJ5c7O

――頭が重い。目を覚ました最初の感想だった。澪先輩の言葉からして、睡眠薬を飲まされたらしい。
そうだ澪先輩は、と思って顔をあげた途端、恐怖で顔が引き攣った。

キャアァーーーッ

反射的に叫ぶ。澪先輩が、部屋の中央で首を吊っているのだ。下ろしてあげようと思うが、体がすくんで動かない。
外からは、どたばたと複数人が階段を登る音が聞こえる。そしてドアが、ノックもなく開かれた。

律「澪っ!大丈……夫、か……?」

勢いよく律先輩が入ってきた、かと思うと澪先輩を見た瞬間その勢いは消え去り、
虚ろな足取りで澪先輩のもとへ近寄る。そしてそのまま、泣き崩れた。
あとから和さんと透さんも現れ、透さんは一旦部屋を出ると唯先輩や憂、そして真理さんを連れて戻ってきた。



192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 17:59:01.81 ID:+BVtJ5c7O

唯「あずにゃん……の無事を喜びたいんだけど、どういうこと?」

唯先輩の言葉に思わずびくり、と体を竦み上がらせる。

梓「わ、わわ私にも何がなんだか――」

律「とぼけるなっ!」

律先輩の怒声に、余計縮こまってしまう。

律「澪が首を吊ってる横にお前がいたんだ、
  何も知らないわけないだろうが!どうせムギを殺したのもお前なんだろ!」

梓「し……知りませんっ!」

一刻も早くこの場から逃げたかった。ベッドから飛び降りると、座り込んで反応の遅れた律先輩の横を抜け、
あっけに取られている唯先輩達の間をすり抜け、部屋の外へ飛び出し、追跡されまいとドアを叩き閉めた。



195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:00:01.75 ID:+BVtJ5c7O

その場に立ち尽くしたまま、先の行動を振り返って反省をする。あれでは完全に犯人ではないか。
さっきは頭がぼーっとしていたが、今なら澪先輩が遺書を書いていることも思い出している。
それを見つけてみんなに説明すれば解決ではないか。

律「嘘だっ!」

律先輩の怒声が響く。いったい何が嘘なんだろう。

律「……それみろ、こんな字、澪の筆跡じゃない!みんな、出ていくんならさっさと出てけ!」

唖然とした。律先輩は、澪先輩の直筆を判断することができていないのだ。
何故か。きっと澪先輩の手が震え過ぎて、普段の筆跡と掛け離れてしまったのだろう。
それに加え、律先輩が冷静な判断力を欠いているせいもある。

透「仕方ない、出ようか。律ちゃんも気をつけて、あと変な気を起こさないように」

この言葉を聞き、私は逃げるように自分の部屋へ戻った。
今、みんなの中では、私が二人ともを殺したことになっているのだ。



196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:01:03.18 ID:+BVtJ5c7O

一人部屋の中で座り込む。これからいったいどうすればいいのだろう。
正直に真相を話したところで、信じてもらえるとは思いがたい。
そんなことを考えていると、がらがら、と窓の開かれる音がした。
驚いて窓のほうを見たが、どうやらこの部屋からした音ではないらしい。
隣の澪先輩の部屋で、律先輩が窓を開けたのだろうか。
吹雪の中で何故、という思いで外を覗くと、雪の上にどさり、とスキーウェアが落とされた。

梓「あれって……」

見覚えがあるそれは、澪先輩のものだった。
澪先輩のスキーウェアはむくりと起き上がると、裏口のほうへ歩いていく。
中に入っているのは律先輩に見えた。

こんこん、ノックの音が聞こえる。しかしそれもこの部屋ではなく、隣の澪先輩の部屋のようだ。



198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:02:16.40 ID:+BVtJ5c7O

真理「――ちゃん、――いるの?――」

律先輩が部屋にいないことへの反応が気になり、壁に耳を当てて会話を聞くことにする。

透「だからもしよかったら開けてくれないかな」

しばしの沈黙。

律「……悪いんですけど、もう少しだけこのままいさせてください」

何故か律先輩の声が聞こえた。
だがおかしい、妙に声が歪んでいるのだ。まるで、トランシーバーか何かを通したように。
VOXタイプという、音声を認識してONになるトランシーバーがあると聞いたことがある。

律「……そこに和もいますか?」

和「えぇいるわ。どうしたの?」

ドアの向こうにいるみんなは、
まさか律先輩が部屋にいないとは知らないせいか、歪んだ声を気にも止めず会話する。

律「……さっきはごめん」

和「いいわよ、取り乱しても仕方なかったもの」

律先輩は、怖いほどに落ち着いている。私には、何かを決意したようにも聞こえた。



199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:03:01.96 ID:+BVtJ5c7O

律「……梓はいないのか?」

唯「あずにゃんはあれからどこ行ったかわかんないままだよ」

律「……悪いけどみんなで手分けして探してきてくれないか?あ、くれませんか?梓にも謝りたいんです」

謝ってもらえるなら嬉しい。
が、この落ち着き払った様子がどうにも不安を煽る。私はもう少し部屋に篭ることに決めた。

唯「合点だよりっちゃん隊長!……あずにゃんのことも心配だしね」

憂「手分けして、といっても一人では行動しないほうがいいですよね」

透「僕は一人でいいよ。だから、唯ちゃんと憂ちゃん、真理と和ちゃんの組み合わせで動こうか」

憂「わかりました」



201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:04:01.95 ID:+BVtJ5c7O

透「真理、マスターキーを渡してくれないか?
  犯人がいそうな二階の各部屋は僕が受け持つ。唯ちゃん達の部屋にも入るけど……いいかな?」

真理「一人で大丈夫?」

透「大丈夫、あそこの掃除用具入れからモップをとってきてから捜索開始するさ」

ぱたぱたと廊下を歩く音がする。透さんが掃除用具入れへ向かったらしい。
続いてどたばたと階段をみんなが降りる音がした。
さっき窓の外から見たのが律さんだとしたら、一階で鉢合わせるんじゃないだろうか。



202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:05:01.04 ID:+BVtJ5c7O

こんこん、私の部屋がノックされる。
返事をせずにいるとがちゃがちゃと鍵の差し込まれる音がして、ドアが開けられた。

透「梓……ちゃん……?」

透さんが無意識のうちにモップを構えたのがわかってしまう。やはり、犯人だと思われているのだ。

梓「信じてもらえるかわかりませんが、少し話を聞いてもらえますか?」

迷うそぶりを見せたあと、モップを下ろしながら透さんが答える。

透「わかった、聞くよ」

私は、澪先輩がしてくれた話を透さんにした。



203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:06:04.41 ID:+BVtJ5c7O

透「君の言うとおりだとすると、澪ちゃんの死は本当に自殺だったのか」

梓「そうです。犯人扱いされてる私の言うことを、どこまで信じてもらえてるかわかりませんが」

透「充分ありえる話だと思って聞いてるよ」

この言い方からすると、まだあくまで一つの仮説程度にしか信用されていないらしい。

梓「その程度でもいいです。あとそれから、私が澪先輩の部屋を出てここに戻ってからなんですが――」


イヤアァァァッ



204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:07:08.49 ID:+BVtJ5c7O

突如響いた悲鳴。私には唯先輩の声に聞こえた。

透「ごめん続きはあとで!見に行ってくる!」

梓「あっ、なら私も……」

透さんは私を置いて行ってしまった。
多分、私以外にも疑ってる人がいて、その人が事件を起こしたと思って焦っているのだろう。
考えてみれば、最初の妙な紙については、私も何の説明もつけれていない。
あの紙を書いたのが誰で、何が目的なのか、透さんが戻るまで考えることにした。


キャアァーーッ!


再び聞こえた悲鳴。今度は憂のような気がする。私はこのままじっとしていていいのだろうか。
この問いの答えより、先の紙についての答えを探すことに決めた。



205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:08:02.91 ID:+BVtJ5c7O

あの紙がムギ先輩のイタズラだったのだと確信したとき、部屋のドアが開けられた。透さんだ。

梓「どうでし……っ!きっ、キャアァーーーッ」

私が叫んだのは、透さんの抱える真理さんが、喉から血を流しているからだけではない。
その透さんが、不気味な笑みを携えているせいもあった。

透「どうしたんだい?真理を殺したのは君なのかい?」

そんなわけはない、私はずっとここにいたのだ。だが、今の透さんは、どう見ても話が通じるようには見えない。



206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:09:02.13 ID:+BVtJ5c7O

唯「あずにゃんっ!」

唯先輩は、部屋に入ってくるなり透さんに睨まれ、少し怖じけづく。
しかしそれは一瞬で、再び気合いを入れて言う。

唯「あずにゃんに手を出さないで!」

もしかして、唯先輩は私のことを疑っていないのだろうか。
そう思うと、こんな状況なのに少し安堵してしまう。

透「やっぱり唯ちゃんかい?なら、死んで償ってほしいんだけど」

透さんが振り下ろしたモップを、唯先輩はなんとか避ける。
真理さんを抱えているせいでふらつく透さんの隙を見て、唯先輩は洗面所のコップを投げつけた。
コップは透さんの額に命中し、破片で切れたのか、血が流れだした。



208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:10:02.42 ID:+BVtJ5c7O

律「唯っ!大丈夫かっ!」

次は律先輩が現れた。律先輩は部屋の奥に私の姿を見ると、
唯先輩と透さんをすり抜けてきて、私の手を取り走り出した。
こんなとこにいたら危ない、ということだろうか。

部屋を出ると、律先輩が呟いた。

律「疑わしきは、罰せよ」

なんのことかわからず律先輩を見ようとしたとき、私は腹部が熱くなるのを感じた。
見ると、私のお腹から、包丁の柄が生えていた。



209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:11:01.88 ID:+BVtJ5c7O

梓「律……先輩……?」

律「澪を殺した犯人は、私が必ず殺すって決めたんだ。人違いがあったとしても、な」

包丁が抜かれたと思えば、私の体は宙に浮いていた。階段のほうへ突き飛ばされていたのだ。
体のあちこちを打ち付ける。もはやどこが痛いのか、わからなかった。

律「安心しろ、唯は私が助ける」

階段下で、ムギ先輩の上に被さった。もう、動くこともできない。

数分経ったであろうとき、私の耳に、最期の言葉が届いた。

唯「大切な人への復讐が許されるなら、私もしていいよね、りっちゃん?」


 終 ~大切な人のため~



210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:12:28.72 ID:+BVtJ5c7O

以上で本編は終わりです

あとはサブシナリオをつらつらと




>>164より分岐





213 名前:>>164より:2012/02/04(土) 18:14:26.49 ID:+BVtJ5c7O

憂「だめだよ憂ぃ、こんなところでぇ」

憂「何言ってるのお姉ちゃん、奴の目を欺くためにカップルのふりしなきゃいけないんだから」

憂「そ、そりゃ尾行中は自然に振る舞わなきゃいけないけど」

憂「だからお姉ちゃん、目を閉じて……」

憂「う、うん。優しくしてね……」

憂「お姉ちゃん……」

唯「うーいー、たっだいまー!」

慌ててヘアピンを外して後ろ髪を結う。

憂「お、おかえりお姉ちゃん!」

どうやら気付かれずに済んだようだ。



214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:15:15.17 ID:+BVtJ5c7O

4ヶ月前、シュプールで紬さんの産み出した謎を解いた私は、
みんなの勧めるがままに探偵事務所を開いた。
現役美少女女子高生が探偵をやっているということでテレビで取り上げられたりもし、
依頼者はわりと来たほうだと自負している。だが――

唯「あのさー憂、自分で自分を美少女って言うのはどうなのかな。
  あ、いやもちろん憂がかわいいのは間違いじゃないんだけど」

憂「もうっ、私の心の声を読まないでよ。
  カギカッコに囲まれてないイコール発声していないなんだから、お姉ちゃんにはわからないはずなの!」

唯「あはは、ごめんごめん」

ここで少し思考を巡らす。もしお姉ちゃんが私の心を読めるなら、
冒頭の一人芝居もお姉ちゃんにはばれているのだろうか。いやそんなまさか――

唯「私は何も聞いてないし知らないから安心していいよ」

なるほど、なら安心だ。これ以上は気にしないようにしよう。



215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:15:46.47 ID:+BVtJ5c7O

唯「ところで憂、またお客さんが来てるんだけど……」

そうだ話が逸れてしまったが、依頼者はこうやって来るものの、
未だに一件も解決したことがないのだ。
……この言い方は誤解を招くので言い直すと、一件もまともに取り合ったことがないのだ。

憂「どんな依頼?おもしろそう?」

唯「んーとね、彼女が浮気してるんじゃないかってことでその調査を……」

憂「却下。つまらなさそう」

私のもとに来る依頼は、こういった浮気調査や、迷子犬探しなどばかりなのだ。
私は、もっと深い謎を、スリル満点の中で、解決したいのだ。

唯「シュプールでも特にスリルなんてなかったけどね」

もう突っ込まないよ、お姉ちゃん。



216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:16:44.24 ID:+BVtJ5c7O

唯「というか依頼を最後まで聞いてよ、まだ全然本題じゃないんだから。
  不謹慎だけど、スリリングでサスペンスなミステリアスな事件の匂いもするよ」

憂「そこまで言うなら……続きを話して」

唯「えとね、依頼者さんが浮気調査を自分でしようとしたらしいの。
  その過程であるとき彼女の家を訪れると、鍵が空いてたんだって」

それで浮気の現場に出くわした、とでも言うのだろうか。

唯「そうじゃなくて、彼女の姿がなかったんだって。
  不思議に思いながらも、また鍵開けっぱで留守にするのは悪いから帰りを待ってたら、
  いつの間にか家が火事になってたんだって!」

火事?誰もいないはずの家から?

唯「ミステリアスな雰囲気でてきた?あとは依頼者さん本人から聞いてね」



217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:17:26.86 ID:+BVtJ5c7O

憂「わかったよ、遅くなっちゃったけど通してあげて」

唯「は~い」

良い返事の手本のような返事をし、お姉ちゃんは部屋を出ていった。
お姉ちゃんが帰ってくるまで、さっき聞いた話を思い返す。
火事の原因として真っ先に思い付いたのは、浮気相手による放火だ。
浮気相手が依頼者のことを知り、彼女を恨んだというわけだ。

唯「どうぞ、こちらです」

お姉ちゃんがドアを開けた。その向こうからお姉ちゃんに案内されて入ってきたのは、
なんとも体格が良く、顎髭も雄々しい、熊のような男の人だった。

「初めまして、ミキモトです」

そう言って渡された名刺には、美樹本洋介、と書かれていた。フリーのカメラマンらしい。
そして今更だが、私の手元に返す名刺がないことを後悔した。



218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:18:15.69 ID:+BVtJ5c7O

美樹本「女子高生探偵の君を選んだのは、
    僕の彼女と歳が近いし同性だから、写真を見せることに抵抗が少ないからなんだ」

憂「写真ですか?」

美樹本「そう。助手の子から話は聞いたと思うけど、彼女の家に無断で入っちゃってね。
    そこで何か浮気の証拠はないかと写真を撮ってきたんだ。
    今は火事の原因の手がかりはないか、って目で見るようになったけど」

彼女の部屋とはいえ、無断で人の部屋を撮影するのはあまり感心できなかった。

美樹本「この火事があってから、彼女は僕が放火したと疑って聞かなくてね。
    でも当然僕はやっていない。だから、火事の原因を、
    そして放火なら放火犯を、君に突き止めてもらいたいんだ」

美樹本さんはそう言うと、机の上に写真を数枚広げた。

憂「とりあえず、それぞれの写真について、間取りや用途と合わせて教えてください」



219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:18:42.52 ID:+BVtJ5c7O

美樹本「オーケー。じゃあまず玄関から――」

美樹本さんの話を要約すると、写真の説明はそれぞれこうなる。


1、玄関

家の北側に位置する。
かわいいパンプスやブーツがいくつか並ぶ。男物の靴は美樹本さんのもの以外ない。
靴箱の上にはずらりとぬいぐるみが整列させられており、大事にされているのが伝わる。

2、寝室

家の北東側に位置する。
少し梯子を登るタイプのシングルベッドが一つ置いてあり、
その下は収納スペースとなっているが、何が入っているのかまではわからない。
ベッドサイドにはすっきりとしたテーブルと座布団が備えられ、
暗くしてからも手元だけを照らす電気スタンドが置いてある。



220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:19:24.00 ID:+BVtJ5c7O

3、客間

家の南東側に位置する。
客間と美樹本さんは紹介したが、
床に新聞紙が散らばっているなど、ただの生活スペースに見える。
窓際に無造作に鎮座する金魚鉢には金魚が一匹泳いでおり、
その目線の先、部屋の側面には引き出しのぴったり閉じたタンスがあった。

4、リビング

家の南および南西部を占める。
大きな薄型テレビの正面にソファーがあり、普段ここでくつろいでいる様が想像できる。
ソファーの後ろに据え置かれた食卓には、各種調味料や金魚の餌がきれいに揃っていた。



221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:20:01.72 ID:+BVtJ5c7O

美樹本「次は、見てわかるだろうけどキッチンの写真――」

憂「もう充分です。」

えっ、という顔でお姉ちゃんと美樹本さんが私を見る。

美樹本「もう火事の原因がわかったのかい?」

憂「えぇ。火事の原因は、これです」

そう言いながら、勿体振りつつ、私は一つの写真を指差した。



222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:21:20.80 ID:+BVtJ5c7O

唯「客間、だね」

美樹本「これがいったいなんなんだ?」

憂「その写真一枚では判断しかねました。
  ですが、他の写真と合わせて考えると、一つの答えが導き出されるのです」

美樹本「となると、君がもう充分と言ったタイミングからして、リビングか」

私は、少し迷った末に頷き、続ける。



224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:22:21.08 ID:+BVtJ5c7O

憂「リビングは特に重要です。見てください、ここに金魚の餌が置いてあります」

二人は写真を覗き込んで確認すると、私に向き直る。

憂「ですが、肝心の金魚は客間にいます。これでは不便極まりないと思いませんか?」

美樹本「それはまぁ、そうだろうけど……ならわざわざ餌か金魚を移動させたってことか?」

憂「移動させたのは金魚鉢のほうです。」

美樹本「なぜそう言える?」

憂「客間は他の写真と比べ、金魚鉢以外にも不自然な点があるからです」

この言葉に美樹本さんは改めて写真を覗き込むが、私の言う不自然な点がわからない様子で顔を上げる。



227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:23:28.56 ID:+BVtJ5c7O

憂「家の中は全体的に整理整頓されています。
  しかし、この部屋は新聞紙が散らばり、金魚鉢も無理矢理そこに置いたようです」

再度写真を見た美樹本さんが、今度は頷く。

美樹本「確かに彼女は、普段から仕事場なんかもきれいに片付けているタイプだ」

唯「でも、新聞紙を散らかした部屋に金魚鉢を置いたのはなんで?」

お姉ちゃん、助手なのに普通に疑問ぶちまけないでよ。かわいいから許すけど。
私は二人の注目を浴びるように、無言で人差し指を立て、顔の横まで上げた。この感覚が、気持ちいい。



228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:24:32.14 ID:+BVtJ5c7O

憂「放火の時限装置を作るためです」

美樹本「……なんだって?」

憂「窓は南から日光を取り込んでいて、その日光は金魚鉢に注がれます。
  すると、金魚鉢によって日光は屈折し、焦点に集光されます。
  その焦点に、燃えやすい新聞紙があったらどうなりますか?」

美樹本「発火する……そういうことか!」

唯「で、でもなんで自分の家に放火装置なんか……」

ここからは推理というより、私の推測と言っていい。



229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:26:01.52 ID:+BVtJ5c7O

憂「美樹本さんは彼女の浮気を疑ってらしたんですよね?
  おそらく浮気は事実、いや向こうが本命だったんでしょう。
  彼女は自分の二股を疑いだした美樹本さんをうっとうしく思いはじめたんです」

美樹本さんが眉間に皺を寄せる。

憂「そこで彼女は美樹本さんを泳がせ、自分の家を物色させることにしたんです。
  そしてそのとき、火事を起こすことに」

美樹本さんの顔が怖い。私を睨まれても困る。

憂「美樹本さんが火事に巻き込まれたら自分は自由になりますし、
  そうでなければ現状のように美樹本さんを放火犯に仕立て上げ、縁を切ることができます。
  それに、金品を持ち出しておけば、大した損失もなく火災保険で金銭面でも得できます」

美樹本「信じがたい話だが……ありがとう、少し話してみることにするよ。彼女と、それに、警察とね」

話が一段落し、美樹本さんは所定のお金を払って帰っていった。



230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:26:53.87 ID:+BVtJ5c7O

後日何気なく新聞を読んでいると、自宅に放火して火災保険を騙し取ったOLの話題が載っていた。
もしかして美樹本さんの一件じゃないか、と思いOLの名前を見ると、
渡瀬可奈子さん……しまった、美樹本さんの彼女の名前を聞いていなかった。
その記事を頭から全て読んだが、美樹本さんの名前はなく、当然平沢探偵事務所の名前もなかった。
せっかく私が解決した事件第一号かもしれないというのに、あんまりではないか!

憂「うぅ~お姉ちゃーん、私のことが載ってないよー」

憂「よしよしかわいそうな憂。今日はいっぱい慰めてあげるからね」

憂「えっ慰めるって、いったい何をするの」

憂「うふふっ、それはまだ内緒だよ。痛くないようにするからね」

憂「うん、お姉ちゃん……」

唯「ただいまー」

私はヘアピンを外し、後ろ髪を結った。


 終 ~憂の探偵物語~



234 名前:>>1より分岐:2012/02/04(土) 18:30:10.18 ID:+BVtJ5c7O

唯「はぁ~るばる~きたぜはあっこだてー♪」

私は今、お姉ちゃんと一緒にスキー場へきている。
目の前は一面にそびえ立つ白銀世界。その根本に、私達がお世話になるペンションが見えていた。

ここで、一つ訂正。

憂「お姉ちゃん、ここは函館じゃなければ北海道ですらない、長野県だよ」

唯「いやー雪景色を前にしたらつい言いたくなっちゃって」

お姉ちゃんの言うこととはいえ、さすがに無理がある。
それとも実は北海道に行きたかったのだろうか。
長野のスキー場しか当たらない商店街の福引きには、帰ったら苦情を入れなければ。



235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:30:35.73 ID:+BVtJ5c7O

唯「ふいーやっとペンションについたね」

憂「荷物置いたら早速スキーに繰り出しちゃおっか」

言いながらがちゃり、と戸を開けると、からんからん、と鈴が鳴る。その音をきっかけに、

「やあ、いらっしゃい。ご予約のお名前は?」

とオーナーらしき人が奥から姿を見せた。

憂「平沢です。平沢……唯で予約したんだっけお姉ちゃん?」

いきなり自分に話を振られたせいか、少し驚きを見せるお姉ちゃん。

唯「えっそうなの?商店街の福引きで当たったんだから商店街の名前で予約入ってるのかと思ってた」



236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:31:24.95 ID:+BVtJ5c7O

「あっはっは、平沢憂さんのお名前で予約をいただいてるみたいだよ」

予約の名前まで商店街は面倒見てないよ、と言おうとするのを遮るように笑い声が響く。
なんだ、自分の名前で予約してたのか。

「そっちのヘアピンを付けてるのが姉の唯ちゃん、ポニーテールが妹の憂ちゃんだね、
 ……ポニーテールが憂ちゃん。よし覚えたよ。ようこそ、ペンション『シュプール』へ!」

憂「はい、お世話になります!」
唯「よろしくお願いしまーす!」

私達はきれいに揃ってお辞儀をした。
こういう何気ないところでも息が合っちゃうのは、やはり類い稀なる姉妹愛のおかげだろう。



237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:32:13.39 ID:+BVtJ5c7O

「透ったら、かわいい女の子の名前を覚えるのだけは得意なんだから」

お辞儀をしている間に奥から新たに女の人が現れていた。
なかなか美人と言ってよさそうな顔立ちをしている。
透と呼ばれたオーナーらしき人は、女の人の急な登場で……
というよりその言葉を発した顔が不敵に微笑むのを見て、明らかに同様している。

透「いやぁっ、そのっ、ほ、ほら、
  お客さんの顔と名前を覚えるのは大事じゃないか、真理もそう思わないかい?」

真理さんはその不敵な笑みを崩さない。

真理「ええそう思うわ。じゃあ昨夜泊まって今朝帰った、
   ピンク色ポニーテールの女の子の名前は何だったかしら?」

透「三浦さん」

きりっとした顔でそう答えた直後、はっとした様子で慌てだした。

透「あ、べ、別にかわいいから覚えていたわけじゃあな、ない、よ」



239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:32:50.41 ID:+BVtJ5c7O

目が泳ぎまくりの透さんを尻目に、真理さんはこちらに向き直り、軽く礼をした。

真理「ようこそシュプールへ。私はここのオーナーの琴吹真理よ、よろしくね」

透「あっあぁ僕もオーナーでね、こほん。琴吹透です、よろしく」

そう言って透さんも頭を少し下げた。
なるほどやはり透さんはオーナーで、真理さんと二人合わせてオーナー夫妻ということらしい。
……いや、そんなことより。

憂「あの、琴吹って、あの琴吹グループの方なんですか?」

唯「てことはムギちゃんの親戚?」



241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:33:21.02 ID:+BVtJ5c7O

珍しい苗字だしほぼ間違いないだろう。
質問を投げかけられた透さん……ではなく真理さんがにこやかに回答する。

真理「もしかして、紬ちゃんのお友達かしら。
   紬ちゃんは、私の遠い親戚に当たるのもちろん琴吹グループの社長もね」

透「確か真理の、再従兄弟の叔母の従姉妹の甥の……
  いや再従兄弟の叔母の従姉妹の姪の……?いや再従兄弟の叔父の……?」

真理「私さえ覚えてないことを無理に言わなくていいの」

冷静に真理さんが突っ込む。見た目どおり透さんには天然な一面があるのかもしれない。
逆に意外性という点で気になることはあるけれど、それを指摘するのは野暮というものだろう。

唯「あれっ?真理さんが琴吹家の人ってことは、透さんは婿養子?」

あぁ、純粋過ぎるよお姉ちゃん。気になったことは聞きたいんだよね。



244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:34:14.91 ID:+BVtJ5c7O

透「そ、そういうことになるね。シュプールの所有権がブツブツ……ああそれよりっ!」

話を逸らしたげに、何か思い出した顔をして言う。

透「紬ちゃんも今夜ここに泊まるみたいだよ」

なんだって?そんな偶然がまさか、そう思いお姉ちゃんに目をやると、同じく私に顔を向けていた。

唯「偶然ってあるもんだねぇ~。ムギちゃんは一人で泊まりに来てるんですか?」

この問いに対する答えは後ろから聞こえてきた。

「いいえ、友達を三人連れてるわ」



245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:34:53.85 ID:+BVtJ5c7O

予想外の方向から聞こえた声に振り向くと、そこには見慣れたメンバーが揃っていた。

唯「ムギちゃん!それに、澪ちゃんりっちゃん!そしてあずにゃ~ん!」

梓「ちょっ、いきなり抱きつかないでくださいっ」

猫まっしぐらという勢いで、梓ちゃんの華奢な体はお姉ちゃんの腕に抱えこまれることとなった。
いや梓ちゃんのほうが猫っぽいから猫まっしぐらという表現はややこしいので
何か別の表現を――ま、そんなことはどうでもいいや。
それより、せっかくの姉妹水いらず旅行が成り立たないであろうことを残念に思う。

律「おっすー唯、憂ちゃん」
澪「こんなとこで合うなんて奇遇だな」

こうなったものは仕方ない、軽音部のみなさんと旅行に来たと思って楽しむほかないだろう。ただ。



246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:35:36.82 ID:+BVtJ5c7O

憂「みなさん、こんにちは。今日はどうしてこちらに?」

一応聞いておきたい。なぜ軽音部が揃っているのにお姉ちゃんがその輪に加わっていないのか。

律「軽音部のみんなでどっか泊まりがけの旅行でも行こうぜってなっただけさ。
  てか唯、なんで断ったのかと思ったら憂ちゃんと旅行かよー、
  言ってくれたら憂ちゃん込みでプラン立てたのに」

え、お姉ちゃんは軽音部の旅行を蹴って私との旅行に……?

唯「てへへ、なんか言いにくくって。ムギちゃんのお世話にばっかりなるわけにもいかないしね」

少し照れ気味のお姉ちゃん、もしかして二人きりの旅行を大切にしてくれたのかな。ありがとうお姉ちゃん!



247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:36:15.11 ID:+BVtJ5c7O

紬「あらあら、憂ちゃん一人増えるくらいかまわないのに」

唯「ま、私達は福引きで当たった旅行だから結局自腹は切ってないんだけど」

ふんす、と胸を張るお姉ちゃん。別に威張るところじゃないよ。

澪「福引きで旅行が当たるなんて、さすが憂ちゃんは日頃の行いがいいな」

唯「澪ちゃん私はー?」

律「いやあさすが憂ちゃん素晴らしい」
紬「いつも家事も勉強も頑張ってるものね」
梓「マイナス要素を乗り越えるほどの素晴らしさ」

唯「みんなひどいっ」

みんなひどいっ。



248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:36:40.38 ID:+BVtJ5c7O

透「あの~盛り上がってるとこ悪いんだけど」

あはは、とみんなが笑う中、申し訳なさそうに透さんが口を挟んできた。

透「とりあえずみんな、チェックイン手続き済ませてもらっていいかな?」

真理「立ち話もしんどいだろうし、荷物置いてからそこの談話室に集合するといいんじゃない?」

そう言った真理さんが指差したのは、二階へ続く階段付近の、
テーブルとソファーが置いてあるだけのスペースだった。談話室というより、談話スペースといった感じだ。

律「それもそうか。じゃあみんな、荷物置いたらスキーの準備してそこに集合な」



249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:37:07.35 ID:+BVtJ5c7O

澪「透さん、みんなの部屋割りはどうなってますか?」

透さんは待ってましたとばかりにシュプールの見取り図を取り出す。

透「紬ちゃん達四人はここからここまでの四部屋、唯ちゃんと憂ちゃんはこことここの二部屋だよ。
  まあ自由に入れ替えてくれてかまわないけどね」

差し出された見取り図はペンション二階のもので、階段を登った地点から左右に廊下が伸びている。
左手前三部屋のうち手前から二部屋が私達の、その向かい側奥から四部屋が紬さん達の部屋だそうだ。
奥から四部屋目だけは階段より右になる。

階段隣の部屋を私が引き受け、お姉ちゃんがその隣、
向かい側奥から順に紬さん、律さん、澪さん、そして梓ちゃんと決まり、それぞれ自室へ荷物を置きに向かった。



250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:37:38.63 ID:+BVtJ5c7O

スキーに明け暮れ、日も暮れ始めた頃、激しくなってきた雪から逃れるように、私達はシュプールに戻った。
からんからん、と扉を開けると、ちょうどそこには真理さんがいた。

真理「みんな揃ってのお帰りね。もうすぐ夕飯ができるから、着替えたら食堂にいらっしゃい」

はーい、と声が揃う。言われたとおりみんな自室へ戻り、一旦談話室に集合してから食堂へと向かうことにした。

唯「いやあ憂はスキー上手だったねぇ。私なんて、何回雪だるまになりかけたことか」

階段を登りながらお姉ちゃんが言う。律さんと澪さんは先々行ってもう部屋に入ったようだが、
私達がのんびり話しながら歩いているせいで、後ろの梓ちゃんと紬さんは歯痒い思いをしてるかもしれない。

憂「でもお姉ちゃんだって終わりのほうは滑れるようになってたじゃない。じゃあ、またあとでね」

唯「うんばいばーい。」

お互い自分の部屋の前に立って挨拶を交わし、同時にドアを開け、同時に閉めた。
時計は午後6時半ほどを指していた。



253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:38:35.22 ID:+BVtJ5c7O

たん、たん、たん。
着替えを終えた私が階段を降りると、そこには既に四人の姿があった。一人足りない。

澪「お、きたきた。あとはムギだけだな」

すると律さんが思い出したように口を開いた。

律「あームギならさっき話したんだけど、なんかお腹壊したみたいで、
  トイレに篭るからあとで軽い食事だけ用意してほしいってよ」

お嬢様育ちの体に雪山は冷え過ぎたのだろうか。
紬さんには悪いと思いながらも、空腹には勝てないので、ぞろぞろと食堂へ向かった。



255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:39:14.08 ID:+BVtJ5c7O

食堂は、丸いテーブルが並び、テーブルを挟んで二人ずつ座れるようになっている。
私はもちろんお姉ちゃんと同じテーブルにつき、澪さんと律さんも同様に、梓ちゃんが余る格好で着席した。
私達の他にお客さんはほぼおらず、端のほうに家族連れが一組座っているだけ……ってあれは。

憂「ねぇお姉ちゃん、あの人達もしかして」

唯「家族団欒って感じだね」

お姉ちゃんの言うとおり、そこにはいかにもスポーツマンといった体格の男性と、
女子高生のようなそれでいておばさんのような年齢不詳の女性と、小学生らしき子供が座っていた。
男女二人の横顔を見る限りでは、どちらもまあまあのレベルの顔立ちである。



257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:40:41.99 ID:+BVtJ5c7O

ただ、私が気になったのはその仲睦まじさではなく、
食事を運んできた真理さんと親密そうに話している点だ。

憂「常連さんかなあ」

唯「知り合いっぽいよね」

そんなことを言っているうちに、真理さんはまた奥へ引っ込んでしまった。
話し相手が去って周囲に注意が向くようになったのか、
男性がこちらの視線に気付き、顔をこちらに向けた。

じろじろ見ていたことが申し訳なくなり咄嗟に目線を逸らす。
が、視界の端に映る男性の顔はまだこちらを見据えている。
その視線の先を追うように、女性もこちらを向いた。
その直後だった。

パーン!



259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:41:22.20 ID:+BVtJ5c7O

何かが破裂するような音が辺りに響く。
音のしたほう、先程の家族のあたりを見ると、男性の顔は斜め後ろを向き、
女性は中腰になり片手をテーブルについて片手を横に振り切っていた。
一言で表せば、女性が男性にビンタした。

「またポニーテールの女の子に見とれてたの!?最っ低っ!」

「ご、誤解だよ、信じてくれ」

「気分悪い。私達は部屋に戻るけど、あなたはしばらく来ないでね」

女性はそう言い残し、子供を連れて立ち去っていった。
言われてみると、あの女性の髪型も私と同じポニーテールだった。
そして、残された男性の髪型もポニーテールと言えなくもない。



260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:41:59.64 ID:+BVtJ5c7O

私達の料理を運んできた真理さんが男性に話しかける。

真理「俊夫さん、相変わらずみどりさんの尻に敷かれてるんですか?」

俊夫「いや、そんなことは、まぁ、ある、かな?はは……」

俊夫さんと呼ばれた男性は、照れ笑いを浮かべながら、食事の続きを食べ始めた。
私達のテーブルにも、おそらくそれと同じ料理が並べられる。

唯「わあ美味しそう、いただきまーす!」

憂「いただきます」

お姉ちゃんと同時に料理に手をつけてから気付いたが、
澪さん達の配膳はまだ終わっていなかった。ごめんなさい。



261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:42:53.98 ID:+BVtJ5c7O

食事を終えた私達は、透さんと真理さんを交えて談話室でおしゃべりを楽しんだ。
途中で紬さんも加わり、真理さん特製のサンドイッチをつまんでいた。
ちなみに俊夫さんは部屋に戻るに戻れずまだ食堂にいる。
私の心の隅のほうでは、俊夫さんとみどりさんの二人は大丈夫なのだろうかと気になっていたが、
わざわざ口には出さなかった。が、わざわざ口に出す者もいる。

唯「そういえば、真理さんはさっきのお客さんと知り合いなの?」

相変わらずお姉ちゃんは、気になったことは聞いてしまう人間のようだ。
といっても、ビンタについてとやかく言うわけではなさそうだが。

真理「俊夫さんとみどりさん?あの二人はね、
   まだ私の叔父がこのペンションを経営していた頃に、ここでアルバイトをしていたの」



262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:43:51.02 ID:+BVtJ5c7O

透「もう何年前の話になるかな。僕らがシュプールに来て初めて会ってから三日月島で再開して、
  夏美さんの供養までが一年で、それからみどりさんの服役期間が……えぇと、何年だったかな」

服役?みどりさんは刑務所に入っていたということだろうか。

真理「余計なこと言わなくていいの。
   そんなことより、みんなバンドを組んでるのよね、どんな曲やってるの?」

律「ずばり!オリジナルでカッチョイイのをやってます」

真理さんがうまく話を逸らした。よりによってその話にされると、私は会話に入れないんだけどなあ。



263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:44:25.78 ID:+BVtJ5c7O

ぽっぽ。ぽっぽ。談話室の鳩時計が11回鳴く。気付かないうちに随分時間が経っていた。
俊夫さんが階段を通るところを見ていないが、まだ食堂にいるのだろうか。よっぽど恐妻家らしい。

真理「今日はもうお開きにしましょうか」

真理さんの一言をきっかけにみんな立ち上がり、順番に階段を登っていく。
真理さんは透さんに向けてさらに、

真理「ここは私が片付けとくから、俊夫さんの様子を見てきて」

と言っていた。気になっていたのは私だけではなかったらしい。

透さんが食堂に向かうのを尻目に、私達は階段を上り、各自部屋へ戻った。



264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:44:56.93 ID:+BVtJ5c7O

こんこん。お風呂に入ろうとパジャマを用意したところで、ドアがノックされた。お姉ちゃんだろうか。

憂「はーい」

鍵を開けると、ドアノブを回すまでもなく、外側からドアが開かれた。
そこにいたのは、お姉ちゃんではない。

憂「えと、みどりさん……でしたっけ」

みどりさんは私の問いに答えることなくずいっと部屋に入り、後ろ手にドアを閉める。
その表情からは威圧感が漂い、思わず後ずさりしてしまう。



265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:45:23.36 ID:+BVtJ5c7O

憂「あの、何かご用でしょうか……?」

みどりさんがまた一歩足を踏み出し、つられて私は一歩下がる。
それでも距離は少し縮まっていて、さらに顔を突き出され、ついのけ反ってしまう。

みどり「あんた」

ついにみどりさんの口が開かれる。

みどり「私の旦那に色目使ったでしょう」

……えっ。



266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:45:51.26 ID:+BVtJ5c7O

憂「ご、誤解です!そんなつもりはなくて、ただちょっと見てただけで、す、すみません!」

おそらく私に非はない。だが時として、自分が悪くなくても謝らねばならぬこともあるのが人生だ。

みどり「ふざけないで。私のプライドがどれだけ傷付いたかわかってるの?」

もちろんわかりません。なんて言えるはずもない。ただひたすらに頭を下げる。

憂「以後気をつけますので、申し訳ありませんでした」

みどり「いいや納得いかない」

怒りの表情を浮かべ、みどりさんは続ける。

みどり「あの人なんかより私のほうがよっぽどいいポニーテールしてるじゃない!」

……はっ?



268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:46:58.77 ID:+BVtJ5c7O

みどり「そりゃあ確かにあんたのポニーテールは完璧だし、
    ポニーテールに引かれるのもわかる。でもなんで私じゃなくあの人なのよ!」

ちょっと待ってほしい、わけがわからない。だがみどりさんはちょっとも待ってくれない。

みどり「ねぇ、私のポニーテールも素敵でしょ?触ってもいいから、あなたのも触らせて」

そう言いながら手を伸ばすみどりさん。嫌だ、怖い、誰か助けて。



269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:47:53.67 ID:+BVtJ5c7O

私の心の声に呼応するように、がちゃりとドアが開かれた。
あぁ神よ、救いの手を差し延べてくれたんですね。
入ってきたのはそう、……俊夫さんと透さんだった。なんで。

俊夫「みどり、どうしてここに……?」

みどりさんはじろりと俊夫さんを睨み返す。

みどり「あなたこそ、なんでここに来たのよ」

透「いや、その、決して憂ちゃんのポニーテールを二人で拝みにきた、なんてわけでは……」

完全にばらしちゃってるし。てかなんですかその理由は。



270 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:48:23.11 ID:+BVtJ5c7O

当然みどりさんの剣幕は余計に激しくなる。

みどり「私というものがありながら!てか透くんはなんで!」

透「ま、真理にポニーテールにしてくれなんて頼めなくて……」

そんなにポニーテールが好きならなぜポニーテールでない人を好きになったのか。

俊夫「みどりだって、俺というものがありながら
   その子に浮気しに来たんだろう?俺はそれを止めに来たんだ」

みどりさんと私は同性です。てか止めに来たとか絶対嘘ですよね。



271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:49:01.39 ID:+BVtJ5c7O

みどり「そんなあからさまな嘘言わないで。
    ねぇ憂ちゃん、こんな人達ほっといて、私と一緒にイ・イ・コ・ト、しましょ?」

女同士のイイコトなんてごめんです。

俊夫「そんなこと断じて許さん。憂ちゃん、俺とポニーテールを絡め合おう」

みどりさんとそんなことしてるんですか?

透「二人とも結婚してるし、憂ちゃんは僕に髪を触らせてよ」

あなたも結婚してるでしょう。

みどり「さあ」
俊夫「憂ちゃん」
透「僕に」

も、もう……

憂「勘弁してくださーいっ!!」



272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:49:50.06 ID:+BVtJ5c7O



澪「二人ともおはよう、唯に、……あれ?」

朝、律さんとともに起きてきた澪さんが、談話室に腰かけている私達姉妹に声をかけてきた。

律「ゆ、唯が二人!?……なわけねーか」

唯「私は一人に決まってるじゃん」

律「いやそりゃそうなんだけど……」

律さんが私を、主に頭部をしげしげと眺める。澪さんは私とお姉ちゃんを交互に見比べている。

紬「あら、みんな揃ってるのね」

続いて、紬さんが梓ちゃんとともに階段を下りてきた。
梓ちゃんは私を見るなり、少し驚いた様子で口を開く。

梓「憂、なんであんた、髪も結わずにヘアピンつけちゃったりしてるの?」

憂「はは、まあ色々と……」


 終 ~俺も私も、ポニーテール萌えなんだ~




273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:50:27.30 ID:HgzXi+tR0

ポニーテールなら仕方ないな



274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/04(土) 18:51:24.58 ID:wg1ZWIsv0

このムギは本当に下痢してたのか






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[ 2012/02/05 21:24 ] ホラー | かまいたちの夜 | CM(0)

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