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澪「律、お弁当つくってきたぞ」#前編 【恋愛】


SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPServiseより

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1328992520/

澪「律、お弁当つくってきたぞ」#前編
澪「律、お弁当つくってきたぞ」#後編




1 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:35:21.86 ID:JL05U58SO


律「え? ……ありがと」

 澪が私にお弁当を作ってきてくれた。

 今までにもあったことだ。

 それ自体は別に珍しいことじゃないし、私だって澪にお弁当を作ってきたことも何度かある。

 だけど、今日はお弁当関連で過去に例のない違和感があった。

律「でも私、今日ふつうにお弁当あるんだけど」

澪「知ってるよ」

 穏やかな笑顔で私のカバンに弁当の包みを押し込む澪。

 知ってるか。なら私が少食ということも知っているはずだ。

 だというのに、なんだろうこの澪は。

律「作っちゃったものはしょうがないから、食べるけど……」

澪「うん」

 私の気も知らずに、なんでちょっと嬉しそうなんだ、この澪は。





2 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:36:49.00 ID:JL05U58SO


律「……今度からは作ってくれるときは、前の日に言っておいてくれよ」

 これまでだって、そうしていただろう。

 どうして今日、いきなりこんな奇行をはたらいたんだ。

澪「いや、その必要はないよ」

律「……」

 何も言わずにお弁当を作ってきたのは、まだいい。

 うっかり伝え忘れたか、衝動というものもある。

 だけど、全く悪びれた様子のない澪のこの態度は、まさに奇行と言っていい。

 こんな我が幼馴染みは初めてだ。

 素直で可愛いやつ……とは言いすぎだけど、悪いことをしたときはすぐさま謝ってくる。

 けんか嫌いの性分というか、大人に好かれる良い子なんだ。

 まあ、こっちに非があるときはいくらでも暴言と暴力を飛ばしてくるわけだが。

 とにかく。その素直な澪が、なんてざまだろうか。



3 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:38:23.08 ID:JL05U58SO


律「あのな……」

 そもそも必要を求めているのは私のほうだ。

 前夜までに言ってくれなければ、私は母さんの作ってくれる分と澪の作ってくれる分、

 ほぼ倍のお弁当を食べ、過剰な満腹感とカロリー摂取に苦しむことになるのだ。

 それに対し、言う必要などない、とは何たる無礼か。幼馴染みといえど許せん。

 いいだろう、ひさびさにケンカといくか。

律「そもそも、」

澪「なぜなら」

律「ぇ」

 ……気圧された。

澪「律は今日から毎日、私の作ったお弁当を受け取るのだから」

律「……毎日?」

澪「そう、毎日」



4 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:39:27.30 ID:JL05U58SO


 OK、わかった。みなまで言わずとも大丈夫。

 そういうことだったのか。

律「そうか……一流の料理人を目指してるって言ってたもんな。ついに本格的に修行を始めるのか」

澪「そうじゃない」

律「ぁぃ……」

 冗談だからそんなに睨まないで。

 と、内心が通じたのか、澪は目をそらした。

澪「……間違ってもいないな」

律「え、マジで料理人になるの?」

 そんな目標、聞いたことがない。

 それに、音楽の道は。

澪「もしかしたら律は将来の私を……
  夢を叶えた私を、誰かに紹介するとき、料理人って言うかもしれない」

律「……ようわからんぞ」



5 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:40:23.62 ID:JL05U58SO


 不可解な澪だ。

 料理人は料理人だろう。

 なんだってそんな面倒な言い回しをする必要がある。

 ゆうべ、詩でも考えてたのだろうか。

 ていうか、そうだ。

 澪は作詞担当。料理ならばむしろ、というか、むろん……。

律「料理だったら、憂ちゃんのほうが上手じゃんか。澪は、いい歌詞を書いてくれよ。軽音部のためにさ」

 澪は表情を変えないで、蒼い瞳で私を見ていたままだったから、

 私はしばらく、自分が失言をしたのに気付かなかった。

澪「……じゃあ律は、梓のほうがギター上手いから、唯にギターやめて歌だけ歌え、だなんて言うか?」

 指先に力が込もった。

律「それは……言わないけど……思ってもないし」



6 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:41:22.25 ID:JL05U58SO


澪「おかしいよな。今の」

律「悪かった」

 澪は私の肩を掴んで、腰を屈めると、正面から顔を覗きこんできた。

 近い。突然ですがキスされるかと思った。

澪「……明日、律のお弁当も作るから。あさっても、しあさっても。学校のある日は毎日だ」

律「……」

澪「いいな?」

律「……ああ」

 この流れでそこを丸め込むか、と思うが、断れる空気でもない。

 いや、断る理由もないのだけれど。

 澪のお弁当はあまりにも可愛いことを除けば普通においしい。

 我が家の家計も助かる。

 うちは4人家族、秋山家は3人なんだから、私の平日の昼ご飯くらい負担してくれるのが当然だ。

 ……冗談ですとも。



7 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:42:18.84 ID:JL05U58SO


律「ありがと、澪」

澪「頼んでるのは私だよ。……それより、お弁当の味については、率直に言ってほしいんだ」

律「……ああ、そうする」

 本気で料理人を目指すつもりなのか。

 別段止める気もないが、何が澪の闘志を燃やしたのか、全くわからない。

 趣味といえばベースと物書き。それだけだった澪に……好きな男でもできたのか。

律「……」

 寂しくはなかった。

 ただ、誰かも知らない奴のために私の舌を利用されるかと思うと、少し胸糞が悪い。

澪「そういえば、この前みせた詞だけど……」

律「ああ、あれなら良かったよ。でも少しだけ……」

 通学路を歩きながら、唯が後ろから飛びついてくるのを期待したが、

 唯にもムギにも梓にも会うことはなく、学校に到着した。



8 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:43:44.81 ID:JL05U58SO


 澪は2年1組であるがゆえに、1年生と同じ1階の教室で授業を受ける。

 私とクラスが別になるのは今回が初めてじゃないし、特に心配はしていない。

 どっちかというと今朝の澪のほうが心配だ。

 階段で別れて、教室に向かう。

 ドアを開けると、教室内が騒がしいのに気付いた。

 唯の席のあたりに人だかりができている。

 鞄を机の横に掛けて、私はそちらに向かってみた。

 集団の中に、ムギの金髪も見える。

 主にかしましさの原因は、カワイーという黄色い声である。

 唯が仔犬でも拾ってきたかと思ったが、違った。

唯「ぎゅーっ♪」

憂「お、お姉ちゃん……恥ずかしいよぉ」

 唯が膝の上で憂ちゃんを抱きかかえていた。

 抽象的にいえばイチャイチャしていた。



9 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:44:48.12 ID:JL05U58SO


律「……おはよう」

 私はムギの横に並んで見物に加わった。

紬「あら、りっちゃん。おはよう」

唯「むちゅ~っ」

憂「待っ……おねえちゃんっ。ちょっと、だめだよぉ」

 憂ちゃんの頬を引き寄せて、突き出すようにした唇を近づける唯。

 憂ちゃんは顔を真っ赤にして慌てているが、
 
 唯および見物人たちはその反応を楽しんでいるだけのようだ。

律「ムギ、これは一体なんのショーなんだい?」

紬「私が来たときから始まってたから、よくわからないけれど……」

唯「んーっ……」

憂「あ、あっ」

紬「最初は憂ちゃんが教室にきてイチャイチャしてたんだけど、次第にギャラリーが集まったみたいね」

 ムギは早口で言い終え、また唯たちに目を戻した。



10 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:45:52.51 ID:JL05U58SO


律「なるほど……」

 唯は恐らく、見せ物と化していることに気づいていないのだろう。

 姉妹の仲を存分に見せつけるチャンスだと考えているのではなかろうか。

 唯は、憂ちゃんとの仲の良さについて触れるとすごく嬉しそうな顔をする。

 そのあたりに姉として、誇りか矜持かがあるのだろう。

  「どうするのー憂ちゃん! ちゅーされちゃうよー!」

憂「そ、そんなこと言われましても……」

 それはさておき、憂ちゃんのほうはいい気分ではないのではなかろうか。

 なぜならば……憂ちゃんは控えめな性格だからだ。

 唯との仲を見せびらかしたいなどとは思うまい。

 しかしながら、ノリノリの唯の手前、逃げ出せずにいるとしたら。

 憂ちゃんのほっぺたまで、唯のくちびるが約2センチといったところ。

 私は唐突に振り向き、集団の端まで聞こえるよう大声を出した。

律「うわッ、堀込先生!?」



11 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:47:59.22 ID:JL05U58SO


 この状況で厳しい生活指導が現れれば、怒られずに済むはずがない。

 総員が身構えて振り向いた音に紛れて、私は聞いた。

 私だけが聞いた。

憂「……ちゅっ」

 ナイスアシスト、私。

  「ちょっと律、びびらせないでよー」

律「あれぇ? 見間違いだったか」

 とぼけてデコを掻く。

紬「大事なところだったのにぃ!」

律「……ところで、そろそろHR始まると思うんだけど」

憂「あっ……わ、私もう行きますから! お姉ちゃん、またね!」

唯「えへへ……またね、憂!」

 憂ちゃんは赤い顔をしたまま、皆が引き止めるのも聞かずに教室から駆け出でた。

 ういやつじゃのう。憂ちゃんだけに。



12 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:48:55.92 ID:JL05U58SO


 その後ほどなくして先生が来て、ホームルームが行われた。

 1限までの短い休み時間のうちに、憂ちゃんからお礼のメールが届いてほっこりした。

 私は、あの後の音も含め、なにも知らないふりをしておいた。

 しかし、この件については唯にも少しヤキを入れたほうがいいのではないだろうか。

 こうして礼を言われたということは、憂ちゃんはあの状況を少なからず嫌がっていたことになる。

 でなければ私の行動は、単に見間違いをして勝手にビビったアホにしか見えないはずだ。

 そういうわけだから唯は、憂ちゃんの気持ちに気付かないで、

 ただ仲良しと見られたいがために憂ちゃんにキスを迫った、ちょっとひどい姉なのだ。

 別にそのくらいで憂ちゃんは唯に失望しないだろうし、私が割って入る必要なんてないとは思う。

 しかし、唯にも知っておいてほしい。

 憂ちゃんは本当に恥ずかしい思いをしていたのだから、あまりああいうことは繰り返すべきでない。

 だからといって急ぐような話でもないし、夜にでも唯にメールで言えばいいだろう。

 1限に向け、私は腰をぐっと伸ばし、ほぼ落書き帳なノートと教科書を出した。



13 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:49:53.85 ID:JL05U58SO


――――

 それからは何事もなく授業が進行された。

 そもそも朝のアレ自体、事件というにも物足りないが。

 朝のアレといえば、むしろ澪のことが事件性がある。

 唐突にお弁当を突きつけたかと思えば、
 
 料理人を目指すなどと言い、毎日私にお弁当を寄越すと宣言する。

 どうして急に、あんなことを言い出したのか。

 やはり、好きな男でもできたのか。

 しかし冷静に考えてみて、それで料理の修行を始めるというのは不自然だ。

 男に手料理を振る舞う機会なんて、そうそう訪れるものではないだろう。

 交際していないならなおさらだ。

 もし好きな人が出来たら、ふつうは外面から磨こうとするものだ。

 澪にはそんな努力をする必要はない、ということを考慮してもそうだ。

 なぜ、一番に料理なのか。



14 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:50:40.60 ID:JL05U58SO


 考えたくない話だが、澪にはすでに付き合っている相手がいるのだろう。

 そして料理を振る舞ったところ、あまりご満足いただけなかった。

 ……私に言ってくれたらぶん殴ってやるのに。

 で、料理の腕を上げるために、私にお弁当を作っているというわけか。

 普通ならそんなところだろう。

 しかし、澪にそういう相手ができるというのも、
 
 彼氏ができて私に内緒にしているというのも考えにくい話だ。

 というわけで、その線はない。

 では澪はどうして料理に目覚めたのか。

 朝の会話を思い出すと、ひとつ妙な点があった。

 私の、憂ちゃんのほうが料理が上手いという発言に対する澪の反応は、いつもらしくなかった。

 澪は怒ったときにあまり感情を隠さない。

 あんな風に静かに怒り、諭してくるのはいつもの澪ではなかなか見られない。



15 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:51:29.16 ID:JL05U58SO


 自分より年下なのに、圧倒的にいい料理を作る憂ちゃんが現れて、焦るようになったのだろうか。

 ゆえに憂ちゃんと比較されて、はらわたの煮えくり返るような怒りを感じてしまった。

 そういえば最近、憂ちゃんについて澪と話した覚えがある。

 あれが澪に焦燥をうんだのかもしれない。

 そうだとすれば、「憂ちゃんってすごいよなー」と褒め称えて満足した私というやつは。

 私も澪に毎日お弁当を作ったほうがいいのだろうか。

 無理だ、めんどくさい。

 そうだ、これで澪が憂ちゃんのように家事万能になり、
 
 その上で私に尽くしてくれる存在になればいいのだ。

 私はうまく澪をけしかけてやったというわけだ。

 始めからこれが狙いだったのだ。

 澪に一生パラサイトしてくらすぞー。

 なんて言ったら間違いなくぶたれるな。

 それに、澪だっていつかは結婚するんだろう。



16 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:52:12.99 ID:JL05U58SO


――――

 突然ですがお昼の時間だ。

 考えごとをすれば授業は時空の歪みに飲み込まれる。

律「さてと……」

 2つのお弁当を持って、いつものように唯の席へ。

 1年のとき、唯は別のクラスだった。

 和がいるからか、唯が私たちの教室に来ることは無かった。

 かわりに、ときどき私たちが唯の教室に行って昼食にしていた。

 それが2年になってもなんとなく続いているような形だと思う。

 なに、唯が特別というわけではない、という話だ。

 澪も和を連れて食べに来ることがときどきあるわけだが、今日はどうか。

 澪の作ったおかずを食べているところを澪に間近で見られるのは少し照れくさくて困る。



17 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:53:01.53 ID:JL05U58SO


律「ムギ、いこーぜ」

紬「ちょっと待っててね」

 ムギに声をかけて、一緒に唯の席へ。

 ムギが椅子を持って、唯の机の横につけた。

紬「よいしょっと」

律「なあ唯」

唯「あ、ごめん、二人とも」

 机にお弁当を置き、他愛ない話を振ろうとしたとたん、唯に遮られる。

唯「今日は憂と一緒に食べる約束してるんだ。部室使うね?」

律「あ、おぉ」

 申し訳なさそうに手を合わせるが、顔が満面の笑みなせいで許しを乞われている気がしない。

唯「いってきまーす」

 ともかく、唯はお弁当を持って、曰く部室へと駆けていった。



18 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:53:58.27 ID:JL05U58SO


律「まったく……シスコンめ」

紬「良いことじゃない。……あれ? 唯ちゃんお弁当忘れてる」

 ムギがお弁当を机に置き、3つ並んだ包みを見て目を丸くした。

律「あ、違う、それ私の」

紬「じゃあこっちが唯ちゃんの?」

律「でなくて……」

 私は今朝あったことを、かいつまんで早口で説明した。

紬「愛妻弁当ね」

律「言うと思った。……そうだ、ムギも食べるの手伝ってくれ」

紬「いいけど、澪ちゃんが作ったぶんは全部りっちゃんが食べるのよ」

律「わかってるとも」

 感想を求められているわけだし、そのくらいわきまえている。

 私はお弁当の包みをといた。



19 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:54:55.88 ID:JL05U58SO


律「しかしなぁ……なんでまた急にお弁当なんて。それも毎日」

紬「だから澪ちゃんはりっちゃんに、おいしいって言ってもらいたいのよ」

律「感想は正直に言ってほしいって話だぞ」

紬「だからこそじゃない! 澪ちゃんはりっちゃんに嘘なんてついてほしくないの」

律「そりゃあ、見え見えのお世辞なんて言われたくないだろうが……」

 ムギと喋りながら、私のと澪が作ったのと、続けざまにお弁当の蓋を開ける。

律「ほう」

 なかなかの出来映えだ。

 前より腕を上げたか。食べてみなければわからないが。

律「いただきます、と」

紬「いただきまーす」

 美食家は卵焼きさえ食べれば、その料理人の腕前がわかるという。

 そんなわけで私も卵焼きから手をつけてみた。



20 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:55:48.57 ID:JL05U58SO


律「うん……」

 なんというか……。

律「……」

 これは……。

律「澪……なにがあった……」

紬「どうしたの?」

律「……なまらうんめぇ」

紬「なまらうめぇっすか」

律「ああ……わ、私の舌も肥えたのかな?」

 1年以上、ほぼ毎日ムギが持ってくる紅茶やお菓子を食べ続けてれば、
 
 違いのわかる女にもなるというものか。

 だからと言って、前から澪の料理がここまでおいしかったというわけでもないだろう。

 ムギだって時々、澪がつくったお弁当とおかずを交換していたことがあるのだ。

 澪は、いつからなのか明確にはわからないが、格段に料理が上達している。



21 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:56:48.51 ID:JL05U58SO


 まぐれかもしれないと思って他のおかずにも手をつけるが、

 私がはじめに感じた水準を下回るものは、この弁当箱の中にはなかった。

 ムギの舌でも確かめて欲しいのだけど、

紬「りっちゃんが同じことされたら嬉しくないでしょ?」

 とて、かたくなに断られる。

 自分の作った料理を、おいしいからみんなも食べて、って言われたら私なら嬉しいと思うけども。

 しかし澪ならこう言いそうだ、というのも分かる。

澪「律にあげたんだから律だけが食べてくれ!」

 ……その昔、澪の家で遊んでいたときに、机の角に引っ掛けて服を大きく破いてしまったことがあった。

 夏場だったために上に着るものもなく、そのままでは帰れなかった。

 そこで澪が、いくぶんかサイズの小さい、着古した服を奥から取ってきてくれた。

 澪が1年前に着ていて、もう着れなくなった服らしく、サイズは当時の私にぴったりだった。

 お言葉に甘え、私は遠慮なくその服をもらうことにした。



22 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:57:49.25 ID:JL05U58SO


 なにせ、澪は私の憧れるものをたくさん持っていた。

 それからしばらくは、その澪のお下がりを1日おきに着ては洗濯し、

 美人になった気分をぞんぶんに楽しんでいた。

 しかし子供は体ばかりすぐ成長する。

 いやらしい意味じゃねえよ。

 コホン。たいそうなお気に入りだったが、1年もすれば小さくなって着れなくなってしまい、

 澪のお下がりは両親の手によって弟、聡の手へと渡された。

 その後のある日、澪が私の家に来て、聡が例の服を着ているのを見つけたとき、

 澪は人が変わったように激怒した。

 振り回されるようにして服を脱がされた聡はいまだにその事件がトラウマだし、

 私だってあの時の澪の表情を思い出すのは怖い。

 なんでも澪は、お下がりの服を私が大切にしてくれていると思っていただけに、

 弟に渡されたのがひどくショックだったのだという。



23 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:58:50.12 ID:JL05U58SO


 私がいかに澪の服を気に入っていたかを再度説きなおし、

 親が勝手にお下がりにしてしまったのだと説明して、どうにかその場で仲直りができた。

 長くなったが、ようするに澪は精神的にも成長した今でも、

 お弁当を誰かにやったら不機嫌にはなるだろうということだ。

 とにかく、私はやたら美味い澪のお弁当を食べ、ムギとともに母のお弁当を片付けた。

律「やー、腹いっぱい」

紬「太っちゃうかもね」

律「ははは……1日くらい大丈夫だろ」

 何点か、気がかりなことはある。

 だけど普通なら私が首を突っ込んだり、殴り込んだりすることではない。

 私はただ、上達した澪の腕前をほめたらいいのだ。

 部室で会ったら一番にその話だ、と決めおいた。

 しばらくムギやクラスメートと談笑していると、唯が戻ってきて、程なく午後の授業が始まった。



24 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 05:59:36.40 ID:JL05U58SO


――――

律「ほうかーご!」

唯「イエスほうかーご!」

 授業が終わった。

 鞄を肩に、部室を目指して教室を出る。

唯「ちょっと憂のとこ寄るから、りっちゃんムギちゃんは先いってて」

律「またか、シスコン」

唯「すまんね、ラブラブなもんでして」

 グフフ、と唯は気持ち悪く笑って階段を降りていった。

律「行くか、ムギ」

 私も上り階段に足をかけたが、ムギは唯の去ったほうを見つめていた。

律「ムギ?」

紬「……今朝といい、昼といい、ちょっとね」

律「what?」



25 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:00:24.38 ID:JL05U58SO


 ムギの碧眼が私を見る。

紬「りっちゃん、おトイレ行きたい」

律「ひとりで……」

紬「ねっ?」

 両手で私の手をとり、ニコッと微笑むムギ。

 唾をのんだ私を、誰が最低とそしれようか。

 そのしぐさにその笑顔はずるいぞムギ。

 などと思う間に、トイレの個室まで連れ込まれた。

律「な、なんだ……?」

紬「あまり大きな声は出さないでね? 外に聞こえたら、ことだから」

 あれ、もしかしてこれ私、やばいのでは。

 いや、違うよな。さっき切れ切れに聞こえたことをちゃんと話してくれるんだろう。

 分かってはいても、きっと私の顔は赤い。



26 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:01:05.82 ID:JL05U58SO


律「その、ムギ、私は……」

紬「りっちゃん。これはあくまで私の考えなんだけどね」

律「ひゃい……」

 近い、近い近い。

 トイレなのに良い匂いする。おかしい。

 真面目に話を聞け、田井中律。

紬「唯ちゃんと憂ちゃんは付き合ってると思うの」

律「えっ」

 なんだそのどうでもいい話は。

 ムギいい匂い。

紬「いくら仲良しだって、冗談でキスを見せつけたりするかしら。
  それに、憂ちゃんは乗り気じゃなかった」

律「あー」

紬「りっちゃんがみんなの気をそらさなかったら、
  唯ちゃんはあれにどうオチをつけるつもりだったのかしらね」

律「さぁ……」



27 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:01:49.54 ID:JL05U58SO


紬「お昼のときも、わざわざ部室を借りて二人きりになりたがった……どうして?」

律「私たちを二人きりにさせようとしたんじゃないか」

紬「……えっ? りっちゃん?」

律「あ、いや、冗談……」

紬「……み、みんなと一緒でもよかったじゃない。お昼くらい、二人きりにならないでも」

律「そのくらいで付き合ってると決めつけられるかあ?」

 ムギの体を押し返す。

 まだ少し暑い。

紬「だから、私の想像でしかないけど……」

律「……確かめるなんて真似はよせよ?」

紬「……ううん、確かめるわ」

 ムギは首を振った。

律「……」

 まずい。うってかわって居心地が悪くなってきた。



28 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:02:40.86 ID:JL05U58SO


律「……なんで、そこまでこだわるんだよ」

紬「それは、」

 ムギの弁明を聞くつもりはなかった。

 そんなことより教えてほしいのは、なんで私がこんなに苛立っているかだ。

律「誰が誰と付き合ってようが勝手だろ……どうだっていいだろ!」

紬「り、りっちゃん静かに……!」

律「……やめろよ、そうやって面白がるの。趣味じゃ済まねーよ」

紬「お、面白がってなんかないわ! 私は唯ちゃんと憂ちゃんの力になりたいだけ!」

律「なにが力になるだよ、バカにすんな!」

 ……そうだった。

 澪関連でトラウマは、お下がり事件と同時期に、もうひとつある。

律「唯と憂ちゃんは付き合ってるんだろ!?
  だったらそれでいいじゃんか、ムギが力になる必要がどこにある!」

律「私がいなきゃダメってか?
  唯だって憂ちゃんだって、自分らで幸せになる方法くらい探せるんだよ!」



29 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:03:28.10 ID:JL05U58SO


紬「……」

 ムギは首筋から青ざめていった。

律「ムギは同性愛を差別してる。……もう一度言う。邪魔をするな」

 捨て台詞を吐き、私は肩を怒らせて個室を出た。

 早足で部室に向かう。

 もう澪も梓も来ているだろう。

律「色々……マズったな」

 取り返しのつかないことをしてしまった。

 私の言ったことが聞こえた生徒もたくさんいるだろう。

 唯と憂ちゃんは関係ないのに。ムギだって何も悪くないのに。

 私の昔話に勝手に関連づけて、逆ギレして、唯と憂ちゃんを同じ目に遭わすのか。

 今から火消しに走れ。暴論を撤回してムギに謝れ。自分に決着をつけろ。

律「おっまたせー!」



30 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:04:07.83 ID:JL05U58SO


 部室には梓がいた。

梓「あぁ、律先輩。……どうしました?」

律「どうしたってお前……私は部員のみならず部長だぞ? 軽音部の」

 ひどい後輩だ。

梓「いや、そうではなく……」

律「なまいきなやっちゃのー! このぉ!」

 ヘッドロックかけちゃる。

梓「えっと、あの……?」

律「なに?」

梓「ですから、何かあったんですか?」

律「……なにも」

梓「律先輩って分かりやすい人ですね……」

律「……」



31 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:05:19.90 ID:JL05U58SO


梓「……言い出せないことなら、あえて訊きませんが」

 ヘッドロックを下へ、下へ、梓を抱きしめる。

律「……あずさぁ」

梓「はい」

律「梓ってさ、……女の子に恋したことってある?」

梓「まあ、あります」

 ……。

律「どんな子?」

梓「中学のときにいた、親友です。わけあって、友達じゃなくなっちゃったんですけど」

律「そっか。……私も好きな女の子がいたんだ」

梓「……そうなんですか」

律「小学校からの……あれ、幼稚園からだっけ。まあ、大親友だったんだが……」

梓「それって、み……むぐっ」

 だまらっしゃい。



32 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:06:00.86 ID:JL05U58SO


律「ただ、その子に振られちゃってからは、その子のことはおろか」

律「女の子を恋愛対象にすることもできなくなっちゃったわけ。いわゆるノンケになったんだ」

梓「ぶぁ。……そんなに好きだったんですか。それなのに、想いが通じなかったんですか?」

 ……。

律「……通じ合ってたはずだと思うんだが」
梓「たいそうな自信で」

律「……」

梓「……ごめんなさい、聞いてみたいです」

律「……小5のころのことだ」

梓「早い思春期ですね」

律「その3年は前から好きだった」

梓「はい……」



33 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:06:43.48 ID:JL05U58SO


――――

 その子……まあ、仮にM子としよう。

 M子と私は、毎日どっちかがどっちかの家に行くぐらい仲がよかった。

 学校でもずーっと一緒にいたから、
 
 まあ、お察しの通り、私たちの仲の良さをからかうやつがでてくる。

 M子は学校のマドンナだったし、私はオトコ女とか呼ばれてたから、嫉妬されてたんだろうな。

 でも、そんなことは全然気にならなかった。

 M子だって大して気にも留めてなかった。

 誰にそしられたって、好きって気持ちは揺るがないと思ってた。

 ……あいつが現れるまでは、な。

 あいつってのは、M子にふられる半年くらい前に転校してきたメガネの男だ。

 名前を仮に……そうだな、G太としよう。

 いつも遠巻きに私たちのこと見てて、そいつもM子に一目惚れしたんだろうな、と思ってた。



34 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:07:33.67 ID:JL05U58SO


 ある日のことだ。

 毎度のごとく、M子と話してた私に男子が突っかかってきた。

 私は応戦しなきゃならないから、席を立ったんだ。

 さっきM子は気にしてないって言ったけど、私との時間がとられるのは嫌みたいで、むっとしてたな。

 だから、G太にもわかったのかもしれないが。

 私が怒鳴り付けようとしたところで、G太がいきなり立ち上がって、声を張り上げたんだ。

  「M子ちゃんと律ちゃんは、たぶんレズっていうので、付き合ってるんだと思う。
   だから、邪魔をしちゃだめだ」

 震える声でさ、そんなことをわざわざ言いやがった。

 いや、言いたかったことはわかるさ。

 面白がってたんじゃなく、正義心で私たちを助けたかったんだというのもわかる。

 でも悲しいかな、偽善だった。

 休み時間だったんだが、
 
 教室にいた奴らみんな「レズってなんだ?」と興味をもってザワザワしだした。

 私たちも、「レズってなんだろう」「わかんない……」って言い合ってたんだけどな。

 おい、笑うな梓。



35 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:09:05.20 ID:JL05U58SO


 まあ、そんな状況になればG太も、レズの意味を説明する。

  「レズっていうのは、女の子なのに女の子のことが好きなんだ。だから、邪魔しちゃダメなんだ」

 私は真っ赤になったよ。

 お互い好きとも言ってないし、付き合ってなんていなかったけど、

 M子のことが好きだっていうのははっきり自覚してたからさ。

 私は真っ先にG太をぶとうと思ったんだけど、体が動かなかった。

 「女の子なのに女の子が好き」ってフレーズが引っかかってさ。

 といってもバカだったから、差別を受けたって思ったんじゃないぞ。

 私がレズというやつなら、

 「男子なのに女の子が好き」なやつや、
 
 「女の子なのに男子が好き」なやつは、何て言うのか気になってな。

 私はG太に訊こうとしたんだが、ちと遅かった。

 その途端に、私たちをからかってる奴らから
 
 一斉に、レズ、レズと野次が飛び出して、声が通らなくなった。

 普段は積極的に参加してこない奴らまで野次りだして、地鳴りみたいにレズの声で教室が震えてさ。

 M子は泣いちゃうし、最終的には私らが親を呼ばれたよ。



36 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:09:53.30 ID:JL05U58SO


 親と先生が話して、先生が誤解を解かせるように指導するって言ってたな。

 そんときゃ、気にしなかったけど。

 帰ってから私はお母さんに、G太に訊きたかったことを代わりにたずねた。

律「女の子が好きな女の子はレズっていうらしいけど、男子が好きな女の子は何て言うの?」

 お母さんはこう答えた。

母「そういうのには、名前がないのよ」

 もう少しだけ頭が足りなければ、
 
 「名前なしに対して私はレズ! 私って特別!」っていけたんだがな。

 私みたいな小学生が、シンショーって言葉は知ってて、
 
 健常者って言葉がないと思ってるのと一緒でさ、

 貼りやすいレッテルが存在するってことは、それは蔑まれてる存在ってことになるんだよな。

 かくして、M子ちゃんを好きなりっちゃんは、
 
 ようやく自分が異常な人間であることを知ったのでした。

 それから何度か、パソコンの授業の合間にこっそりと、

 レズについて調べようとしたんだが、エロサイトしか出てこなかった。

 ……梓、ここは笑うところ。



37 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:10:37.18 ID:JL05U58SO


 まあ、異常だってわかってたから誰にも相談できなかったし、

 レズビアンって言葉を知ったのさえ、かなり後になる。

 で、それからどうなったかって言うと、意外と早く話は動くんだ。

 数ヵ月後にバレンタインデーがあってさ。

 澪のやつ、学校じゃチョコよこさないで、放課後うちにでかいチョコケーキ持ってきたんだよ。

 あ、M子な。

 そんでチョコケーキを食べてるときに、澪はこう言ったんだ。

澪「あの……私、G太くんが言ってたレズだと思う。だって、りっちゃんのことが好きだもん」

 と、まあ……告白だな。

 でも私、ガキでバカでね。

 いや、それは言い訳か。

律「……澪ちゃん、レズっておかしいことなんだよ?」

 付き合ったら、ほんとにシンショー扱いだと思ったから。私はビビったんだよ。



38 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:11:21.84 ID:JL05U58SO


律「澪ちゃんは、頭がおかしいって皆からいじめられても、私のこと好きって言える?」

 ……澪は泣きながら首を横に振った。

 私はふられたのさ。

 手作りらしくて、にっげぇチョコケーキを一人で食べながら、

 もうこれからは、ちゃんと男を好きになろうって決めたんだ。

――――

律「……っていうわけさ」

梓「えー……まあ、色々言いたいことはあるんですけど、特にひとつ、いいですか」

律「ん、なんだ?」

梓「その話と、律先輩が今日やたらしょげてるのと、なんの関係が……」

律「えっ?」

 言われてみれば、梓は何も知らないのだ。

 私がムギに逆ギレしたことと、その内容。および、唯と憂ちゃんに関する疑惑を喧伝したこと。

 それらを知らなければ、ただのセンチメンタルな昔話だ。



39 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:12:02.59 ID:JL05U58SO


律「……」

梓「りつ……先輩?」

律「……こんなことしてる場合じゃない!」

梓「うひゃあ!」

 梓を放り出して、私はムギと入ったトイレに駆け戻った。

 終業からそれなりに時間も経つのに部室に来ない澪と唯も気になるが、とにかく今の最優先はムギだ。

 人の少なくなった廊下を走る。

 気休めにもならないが、走りながら耳をそばだてた限り、唯や憂ちゃんの話はでていない。

 トイレに駆け込み、私はさきの個室の前に立った。

律「む……ムギ?」

 鍵のマークが赤くなっていることから、中に誰かいるのは確かだ。

律「いるなら……返事してくれ」

 中で息を殺しているのかもしれないが、走ってきたために私の息が荒くて聴こえない。



40 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:12:47.64 ID:JL05U58SO


律「……おい?」

紬「……りっちゃん?」

 ちょっと怖くなったが、ようやく返事があった。

律「うん。……さっきはごめん。ほんとに酷いこと言った」

紬「ううん……りっちゃんの言ったことは、正しいわ」

律「あんなの屁理屈だよ。
  ちょっと古傷に障って、腹立っちゃって……応援したいって思うのは、素敵だぞ」

紬「ありがとう……」

 がちゃん、とドアの閂が外れる音がした。

 目の下を泣き腫らしたムギが、肩をすくめて立っていた。

紬「申し訳ないけど、今日は部活休んでもいいかしら……戸棚の一番下に、クッキーがあるから」

律「……クッキーは明日までもたないのか?」

紬「そうね……早く食べちゃったほうがいいわ」

律「わかった。また明日な」

 階段までムギを送り、私は少し迷ったがまた部室に行くことにした。



41 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:13:49.04 ID:JL05U58SO


 部室に入ると、まだ梓が一人だった。

梓「先輩たち遅いですね」

律「掃除当番にしたって遅すぎるな……」

梓「唯先輩は、憂とじゃれに行くって言ってましたが」

律「ああ、すれ違ったのか? それは聞いてるんだけど……澪は? まだ来てないよな」

梓「さすがに想い人のことは気にしますね」

 精神的に甘えていたとはいえ、梓に話したのは失敗だったようだ。

律「……私はもうノンケなんだよ、このガチレズ」

梓「じゃあムギ先輩のことも気にしてくださいよ」

律「え、ああ……ムギは今日帰るってさっき聞いたんだ。ええと、クッキー食うか?」

梓「カントリーマアムなら欲しいです」

律「庶民的だな……たぶんそんな安いものじゃないぞ」

 聞いた通りに戸棚を開けると、カントリーマアムファミリーパックが鎮座していた。

 まず間違いなく明日までもつだろう。



42 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:15:17.37 ID:JL05U58SO


律「……」

 戸棚を閉めた。

梓「くっきっきは……」

律「贅沢言うな」

梓「はい」

律「……おっせーな、あいつら」

梓「そろそろ30分たちますね……あ、澪先輩」

律「ん? ……誰も来てないじゃん」

梓「あれ、もっと飛び起きて抱きつきにいくかと思ったんですが」

律「私は唯かよ。それに、もうノンケだっていってるだろ」

梓「そんなの自分に言い聞かせたところで、本性は変わりませんよ」

律「どうしても私をレズにしたいのか、お前……」

梓「じゃあ律先輩はなんでそんなにノンケになりたいんですか」

律「そうしたら澪は安全だからだよ」



43 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:16:23.78 ID:JL05U58SO


梓「はぁー……」

 梓はため息をついて、私をじろじろ眺めた。

律「なんだよ」

梓「律先輩、子供のときから何も成長してないんですね」

律「うぐっ……!」

 後輩のくせに何て重たい一言を。

 ていうか、生意気だとは思っていたがここまで歯に衣着せないやつだったとは。

梓「逆に律先輩、男性とだったらそんな態度でもうまくやってけると思ってるんですか?」

律「……知らんけど」

梓「まず無理ですよ。律先輩みたいな甘えた姿勢で、まともな結婚とか100パーできないです」

律「うるせえよ」

梓「恋愛ナメないでください。人に好意を向ける責任から逃げてる人なんて、異性からも愛されませんよ」



44 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:17:26.42 ID:JL05U58SO


律「……」

 なんなのコイツ。

 ちょっとレズだからって知ったような気になりやがって。

梓「……お子ちゃまのりっちゃんには、恋愛は100年早いんじゃないですかね」

律「ちょ、調子に乗るなっ! 誰がお子ちゃまだ!」

梓「律先輩がです」

律「むっ……かー! なんなのマジで!?」

梓「なんなのはこっちが言いたいですよ!
  そういう理由で異性に逃げる人が私は一番ムカつくんです!」

律「っ……ぐうっ!」

 言い返したいのはやまやまだが、こうもボディブローばかり叩き込まれると言葉がでない。

律「け、けどな……私自身、もう澪のことは親友として見てるんだ。恋愛対象にはなってない」

梓「そんなことは追求してません。……やっぱり気になるんじゃないですか?」

律「なって……ねーよ! もう5年も、そんな目で見ちゃいない!」

梓「その感覚を覚えてるだけで十分あやしいですね!
  はっきり言います、律先輩は澪先輩のことが好きです!」



45 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/12(日) 06:18:24.21 ID:JL05U58SO


律「っんな、こと……」

 その時、歴史が動いた。

 まあ歴史じゃなくて部室のドアなんだけど。

 さらに言えば、「その時、部室のドアはすでに動いていた」が正しい。

 原型をとどめて、ない……。

唯「……ご、ごめぇーん、遅れちゃったー」

憂「あ、の……えっと、おじゃまします……」

澪「……」

 今までどこで何してたやら知らないが、なんでよりによってこのタイミングで来るのか。

 私、今朝から誰かに呪われてないか。

律「……お、おまえらおそいぞー。って、あれー。憂ちゃんじゃーん」

 憂ちゃんが来ていることには多少驚いているんだけど、何故か全部棒読みになった。

梓「……こうなった以上、はっきりさせたほうがウグゥッ!」

律「まあみんな座れよ! 遅刻のわけを問いただしてやる!」




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