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律「終末の過ごし方」#13 【非日常系】


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律「終末の過ごし方」#index


616 名前:にゃんこ:2011/09/29(木) 20:47:46.84 ID:aNxPLZtc0






夢を見た。
唯とムギと澪と私の四人で同じ大学に通う夢。
澪とムギが危なげなく、私と唯も奇跡的に大学に合格して、
四人で高校生の時と変わり映えのしない生活を送るっていう他愛の無い……、
幸福で、悲しい夢だった。

夢から覚めた時、私はしばらく呆然としていた。
幸せそうな未来の私達の姿に引きずり込まれそうだった。
夢の中の方が現実なら、どんなによかった事だろう。
もうすぐ終わる現実から目を逸らして、
いつまでもその夢の中に浸っていたかったのも、私の正直な本音だ。

でも、そういうわけにはいかないよな。
夢は、夢なんだ。
もしかしたら、辿り着けていたかもしれない未来。
もう辿り着く事のできない未来。

そんな未来に思いを馳せるのも、
決して悪い事じゃないんだろうけど……、
私はまだ生きてる。終わりを迎えようとしている現実に生きてる。
だったら、残る時間を私のしたいように生きていかなきゃな。
少なくとも、夢の事ばかり考えて世界の終わりを迎えるのは、
絶対に後悔しそうだし、どうにもつまんなさそうだからな。

小さく溜息を吐き、寝袋から身体を出してみる。
どれくらい眠ってたんだろう。
何だかすごく長い夢を見てた気がするし、
もしかしたら結構長い時間、眠っちゃってたのかもしれない。
皆はもう起きてるんだろうか?
そう思いながら周りを見渡してみて、途端、背筋が凍った。

部室の中には誰も居なかった。
私一人だけ残して、部室には人の気配が一切存在しなかった。
それどころか、皆で使ったはずの寝袋も見当たらなかった。
私達は確かに五人で寝袋の中で眠っていたはずだ。
ジャズ研のライブの話をしたり、ロミジュリの話をしたり、
皆で寝る前に色んな話をした事を、今でも鮮明に覚えてる。
当然だ。まだ何時間も経ってない過去の話なんだ。忘れててたまるか。

だけど、今の部室内には……、
音楽室の中には、私の大切な仲間達の姿が一つも無くて……。

不意に恐ろしい想像が私の頭の中に浮かんで来る。
駄目だと分かっているのに、その想像を止める事はできなかった。

もしかして……、世界の終わりがもう来てしまったのか?
生き物だけが死を迎えるらしい終末。
世界はその終末を迎え、私から私の大切な仲間……、
ムギや唯や梓、澪を奪い去っていって……、
何の因果か終末から私だけ取り残されてしまって……。
私一人だけ置いていかれて……。

いいや、そんなはずがあるもんか。
私一人だけ生き残るなんて、そんなご都合主義があるもんか。
それこそ梓が私達の卒業を悲しんだせいで、
終末が訪れる事になったって考えるくらい荒唐無稽だ。
私はそんな特別な人間じゃない。
凡人で、平凡で、特に取り柄の無い普通の女子高生なんだ。

漫画でたまに見るけど、
主人公だけが都合よく世界の終わりを免れるなんて、
そんなご都合主義な展開が私の身に起こってたまるか。
それに……、そんなの、嬉しくない。
全然嬉しくない!
私だけ運良く生き残れてたって、嬉しいはずがあるか!
そんなの自分一人が死ぬ事よりも、よっぽど恐いじゃないかよ!

立ち上がって、私は駆け出す。
音楽室の扉に手を掛けて、鍵を空ける。
何処でもいい。
生きている人の姿を目にしたかった。
唯やムギや梓、聡、父さんや母さん……、そして、澪が。
澪がまだ生きてるんだって事を、この目で確かめたかった。
終末が一足先に訪れただなんて、そんな事があってたまるか!

勢いよく扉を開く。
一歩、音楽室から足を踏み出す。
皆の顔が……、澪の顔が今すぐ見たいんだ!



617 名前:にゃんこ:2011/09/29(木) 20:48:19.41 ID:aNxPLZtc0

「うわっ!」

そうして、階段を走り降りようとした瞬間、小さな悲鳴が廊下に響いた。
聞き覚えのある……、一番聞きたかったあいつの声だ。

「どうしたんだよ、律。
 そんなに走って何処に行くつもりなんだ?」

私の目の前には、階段を登り終えようとしている澪が居た。
いつの間に着替えたのか制服姿で、胸の前にスーパーのレジ袋を抱えて。
普段と変わらない姿の澪が不思議そうに立っていた。

思わず私はその場に崩れ落ちる。
足に力が入らない。
腰が抜けちゃったみたいな感覚だ。
澪の顔を見て安心できたせいか、どうにも立っていられなかった。

「だ……、大丈夫か、律?
 そんな急に座り込んじゃって……、何かあったのか?
 お腹でも痛いのか?」

澪が心配そうに私の顔を覗き込む。
私が一番見たかった顔が間近に迫る。

「だいじょ……」

大丈夫だよ、と言おうとしたけど、言葉が続かなかった。
声を出そうとすると、泣き出しそうになってしまって、何も言えなくなる。

よかった。
澪が居てくれて。
生きていてくれて。
私一人が取り残されたわけじゃなくて、本当によかった……。

澪に肩を貸され、私達はとりあえず音楽室に戻る。
私を長椅子に座らせてくれると、レジ袋を足下に置いて澪も私の隣に座った。
二人で肩を並べる。
心配そうな表情を崩さないまま、不意に澪が私のお腹に自分の手を当ててくれた。

「本当に大丈夫か、律?
 ジャージを忘れたからって、ゴスロリをパジャマにするのは無理があったかな……。
 熱は無さそうか? 風邪っぽいなら、さわ子先生を呼んで来るよ。
 さわ子先生、多分、昨日は被服室に泊まったはずなんだけど……」

心の底から私を心配してくれてる澪の顔。
いつも私を見守ってくれてた澪の表情だ。
私は軽く首を横に振り、私のお腹に当ててくれてる澪の手に自分の手を重ねた。

「律……?」

少し照れたような声を澪が上げる。
深呼吸して、もう一度私は声を出そうとしてみる。

「あのさ、澪……」

うん。今度は大丈夫。少しは落ち着けたみたいだ。
これならどうにか澪に私の言葉を届けられる。

「大丈夫だよ。熱は無いし、腹痛があるわけでもない。
 座り込んじゃったのは……、そうだな……。
 ちょっと疲れちゃってたからだと思うよ」

誤魔化したわけじゃない。
疲れてたのは確かだ。肉体的にじゃない。精神的にだ。
楽しくて悲しい夢を見ちゃったせいで、想像以上に心を擦り減らしてたんだと思う。
じゃなきゃ、あんな無茶な想像はしなかっただろうし……。

「そうか……? だったらいいけど、無理だけはするなよな?
 今日の夕方にはライブがあるんだし、律は大事な座長なんだからな。
 座長として、役目はちゃんと果たしてもらわないとな」

澪がまだ心配そうにしながらも、軽く微笑んだ。
座長って……。
私達がやるのは別に演劇でもミュージカルでもないんだが……。

でも、言われてみると、そうかもしれないな。
言い出しっぺこそ唯だけど、
何だかんだと今回のライブを準備したのは私なんだ。
これは確かに私が座長って事になるのかもしれない。



618 名前:にゃんこ:2011/09/29(木) 20:48:47.54 ID:aNxPLZtc0

「私が座長だってんなら、粉骨砕身で頑張らないといけないザマスね。
 澪さん、あーたもしっかりと私に付いてくるザマスよ」

「何だよ、そのおまえの座長に対するイメージは……」

私がわざとおどけて言ってみせると、呆れたように澪が呟いた。
それから澪は私のお腹に置いた手をどけようとしたけど、
私はその澪の手を自分の手で包んで放さなかった。放したくなかった。
澪の体温をもう少し感じていたかったんだ。

「ちょっと、律……」

嫌がった様子じゃなかったけど、上擦った声で澪が呟く。
頬を赤く染めてるのを見ると、どうやら照れてるみたいだった。
そんな反応をされると、私の方も何だか恥ずかしくなってくる。
私も多分顔を赤くしながら、それでも澪の手を放さずに囁いた。

「心配してくれて、ありがとな」

「あ……、当たり前だろ。幼馴染みなんだから」

「違うだろ、澪?
 私達は友達以上恋人未満……だろ?」

「えっと、それは……、その……、そうなんだけど……」

顔を真っ赤にして、澪が俯く。
ちょっと恥ずかしい事を言い過ぎたかもしれない。
私は小さく微笑むと、少しだけ話題を変える事にした。

「そういや、澪は何処に行ってたんだ?
 他の皆も姿が見当たらないしさ、
 置いてけぼりにされたかと思って焦っちゃったじゃんかよ」

「私はスーパーに朝ごはんを買いに行ってたんだよ。
 いや、もうお昼ごはんになるのかな……。
 まあ、とにかく、買い出しに行ってたんだ」

「えっ、嘘っ?
 もうそんな時間なのかよ?」

私が大きめの声を上げると、
澪が苦笑しながら自分の携帯電話をポケットから取り出した。
液晶画面を私の顔の前に向ける。
画面には11:47と表示されていた。
私は小さく肩を落としてから呟く。

「マジかよ……。そんなに寝ちゃってたのか、私……。
 徹夜明けとは言え、いくら何でも寝過ぎだろ……。
 澪も起こしてくれりゃいいのに……」

「私だって起きたのは一時間くらい前なんだよ。
 それに律もよく寝てたから、起こせなかったんだ。
 疲れも溜まってるみたいだったし、ゆっくり休んでてほしかったんだよ」

「確かに疲れは溜まってたけどさ……」

「律にゆっくり休んでてほしいってのは、別に私の独断じゃないぞ。
 唯も梓もムギも、律に休んでてほしがってたからな。
 皆、最近、律が誰よりも頑張ってた事を知ってるから。
 誰よりも軽音部の事を考えて行動してくれてた事を知ってるから。
 だから、皆、今だけは律に休んでてほしかったんだよ」

頑張れた……のかな?
私は皆のために何かできたのかな?
私がそれを口に出すより先に、澪が大きく頷いた。

言葉は必要なかった。
澪の表情が皆の気持ちを代弁してくれてるみたいだった。
私は皆の手助けをできたんだって。
それはとても嬉しいけれど……、やっぱり少し照れ臭い。
私は澪から目を逸らして、窓の外を見ながら訊ねてみる。

「そういや、唯達はどうしたんだ?
 一緒じゃないのか?」

「唯達は寝袋を片付けた後で、唯の家に行ったよ。
 唯が何か忘れ物をしたみたいでさ、ムギと梓が付き添ってった。
 私も付き添ってもよかったんだけど、律を一人にするわけにもいかなかったしな。
 いや、買い出しには行ったけど、これでも急いで帰って来たんだぞ?
 鍵もちゃんと掛けてたから、安全面でも問題は無かったと思うけど……」



619 名前:にゃんこ:2011/09/29(木) 20:49:16.47 ID:aNxPLZtc0

瞬間、私は自分の迂闊さを恥ずかしく思った。
そういや音楽室には鍵が掛かってたじゃないか。
鍵が掛かってたって事は、誰かが寝袋を片付けた後で鍵を掛けたって事なんだ。
世界の終わりが私以外に一足先に訪れたなんて、
そんな荒唐無稽に支離滅裂を二乗したみたいな現象が起こるわけないじゃんか……。
何を心配してたんだよ、私は……。

でも、その間抜けな考えは同時に、
それだけ私が冷静でいられなかったって意味でもある。
目が覚めた時、私は部員の姿が見えない事に……、
特に澪の姿が見えない事に、どうしようもない不安を感じた。
冷静でいられるはずもないくらい、心の奥底から全身で動揺した。
それくらい、恐かったんだ。
澪を失う事こそが。

今なら実感できる。
一番を決めるなんて馬鹿らしい。
好きな物、好きな人を好きな順番で並べる事に意味は無いし、その価値なんてほとんど無い。
それぞれに良さがあるのに、順位付けるなんて馬鹿げてる。
でも、思った。
私の中で一番大切な人は他の誰でもなく澪なんだって。

だから、私は言葉にした。
何処まで上手く伝えられるかは分からない。
友達以上恋人未満の関係なのに、一番大切な人だなんて順序的にも変な話だ。
けど、それが私の正直な気持ちだったから……、伝えなきゃいけないと思ったんだ。

「なあ、澪……?
 私はさ、一人で音楽室に残されて恐かったんだ」

「悪かったって。
 スーパーで美味しそうなごはん買ってきたから、それで許してくれよ。
 ほら、律の好きなおにぎりを選んでくれていいからさ」

「いや、怒ってるわけじゃないんだよ、澪。
 変な話をするみたいだけど、聞いてくれないか?
 私が音楽室に残されて恐かった理由なんだけどさ……」

私は澪の手を握りながら話した。
自分の見た夢の事、音楽室に誰も居なかった事で頭に浮かんだ酷い想像の事を。
二つとも自分の弱さを象徴してるみたいで恥ずかしかったけど、
私の想いを正確に伝えるには、話しておいた方がいい事のはずだった。

「私も何度も見た事があるよ」

私の話を聞き終わった後、
顔を上げた澪が窓の外に視線を向けながら言った。

「『終末宣言』以来、律が見たみたいな夢、私も何回も見てた。
 皆で大学に合格して、一緒に通って、
 折角の大学生活だから一人暮らしを始めようとしたけど、
 いきなりは不安だから律とルームシェアしたりしてみたりとかさ。
 楽しい夢を見てて、夢の中じゃ幸せだったな。

 でも、目が覚めた後に気付くんだ。
 それは本当は悪夢だったんだって。
 悲しい夢の方がずっとマシなくらい、心を抉り取るような悪い夢だったんだって。
 こう言うのも恥ずかしい……んだけど、
 私、そんな夢を見た後はしばらく一人で泣いてたよ……」

澪も見てたんだな、と私は思う。
逆に見ない方が変なのかもしれない。
普段はもう来ない未来の事を考えないようにして、
私達に訪れない大学生活なんかを考えないようにしてる。

曖昧な未来くらいなら考えられるけど、具体的な未来を頭に描くのはどうしても気が滅入る。
未来の事を具体的に考えるとなると、否応なしに世界が終わる事を実感させられるから……。
そんな無理をしてるから、眠った後の夢の中なんかで、
どうにか抑えてた未来への想像が溢れ出しちゃったりするのかもしれない。

だけど、今は夢よりも、現実で考えてしまった想像の方が重要だった。
悪い夢とは言っても、夢は夢なんだ。
深層心理や抱えた不安なんかが夢の中で溢れるのは、ある意味当然だ。
そんなのを深く考えても意味は無い。
他人の寝言と会話しちゃいけないって話も、何処かで聞いた事があるしな。
だからこそ、目が覚めた後の現実で考えた悪い想像の事こそを、考えなきゃいけなかった。



620 名前:にゃんこ:2011/09/29(木) 20:50:17.40 ID:aNxPLZtc0

私がその話を伝えようとすると、澪がそれより先にまた口を開いた。
私の言おうとしてる事を、澪は既に分かってるんだろう。

「自分一人が取り残されちゃう……。
 私だってそんな想像をした事があるよ。何度も、何度もさ。

 文芸部に入ろうと思ってた私に言えた事じゃないけど、
 軽音部の仲間が私の前から居なくなっちゃったらって、
 私だけが一人ぼっちなっちゃったらどうしようって恐かったよ。

 実際、二年の時に律と違うクラスになって、
 知ってる子が誰も居ないと思った時に、すごく恐かったから。
 結果的に和が居たおかげで一人ぼっちにはならなかったけど、
 それでも、恐かった。本当に恐かったんだよ……」

その時の事を思い出したのか、澪の手が少し震え始める。
二年の時、澪は私と離れて、そんなに恐がってたのか……。
気付いてあげられなかった自分を責めたくなったけど、そんな事をしても意味は無かった。

今、私がするべき事は、震える澪の手を握って、
気付いてあげられなかった分まで強く安心させてあげる事だろう。
私は澪の体温を感じて、澪も私の体温を感じて、
私達はお互いに傍に居るんだって事を感じ合う。

「ごめんな、澪」

澪の手を強く握って、澪の横顔に視線を向ける。
二年の時の事だけじゃなく、悪い想像を口にしてしまった事を謝るために。
私の本当の気持ちを伝えるためとは言っても、
こんな時に不安にさせるような事を伝えるべきじゃなかったのかもしれない。

「私もやっぱり恐がってんのかな……。
 皆が、澪が居なくなる事を考えちゃうとさ、すごく不安なんだ。
 音楽室の中に一人で居たのはほんの少しの時間だったけど、
 それでも、いても立ってもいられないくらい恐かった。

 もし私の馬鹿な想像みたいが本当になって、
 私以外に世界の終わりが訪れて、私だけが取り残されるって考えるとさ……。
 恐いんだよ……。
 それこそ、死んじゃう事なんかより、よっぽど恐かったし、寂しかったんだよ……」

最後には弱音になってしまっていた。
まったく情けない……。本当に情けない私だ……。
でも、どうしてなんだろう。
私は澪以外の前では強がれるのに、弱い自分を何とか隠せられるのに、
どうして澪の前では弱い自分を曝け出しちゃうんだろう。

また私の手に体温を感じる。
気が付けば私の手が澪に握り返されていた。
今度は澪が私の手を強く握ってくれる番だった。

「律はさ……、私が居なくなる事が恐いって言ってくれたよな?」

「ああ、そうだな……。
 恐いよ。澪が死んじゃうのが、澪が居なくなっちゃうのがさ……。
 今更、こんな事を言い出すのも、澪には迷惑かもしれないけど……」

「本当、今更だよな」

長い髪を掻き上げてから、澪が言う。
言葉の内容自体とは違って、その澪の表情は優しかった。

「一つ聞いておきたいんだけど、
 律がそんな一人ぼっちになっちゃうって想像をし始めたのって、
 勿論、『終末宣言』より後だよな?」

「そりゃまあ……、そうだけど……」

「私は違うんだよ、律」

「違う……って?」

「律は『終末宣言』をきっかけに、
 私が居なくなるのを恐がるようになってくれたみたいだけど、
 私の方は『終末宣言』なんか関係なく、
 そんなのよりずっと前から、律が居なくなるのが恐かったんだよ?」

すぐには何も言えなかった。
澪が何を言おうとしてるのか、まだ分からない。
今の私には、ただ澪の言葉を聞く事しかできない。
澪が多分戸惑った表情をしてるはずの私に顔を向けて、口を開ける。
その時の澪の表情は、意外にも普段の優しい笑顔だった。



621 名前:にゃんこ:2011/09/29(木) 20:51:08.45 ID:aNxPLZtc0

「私はね?
 中学生……、ううん、多分小学生の頃から、
 律が私の傍から離れていくのが恐かったんだ。
 私って内気な方だし、律は活発で友達も多いからさ……。
 それこそ律がいつ私の傍から消えてもおかしくないって思ってたよ。

 高校に入ってからもその考えは消えなかったな。
 律は唯と波長がすごい合ってるみたいだし、
 私なしで唯と行動する事も増えてきて……、
 私の前からいつ律が居なくなるのか不安で仕方なかったんだよ」

「私は……、澪から離れようなんて思った事なんて、一度も無かったんだぜ……」

澪の言葉に、私はどうにかそれだけ口にする。
澪が私の事をそんな風に考えてたなんて知らなかった。
嫌われてはいないはずだとは思ってたけど、
そんなに不安に思われるほどに私が大きな存在だったなんて……。
澪がまた軽く笑う。照れ笑い……になるのかな。
少し重そうな会話の内容とは違って、そんな表情で澪が話を続けた。

「分かってるよ、律。
 いや、ようやく分かった……のかな?
 こんな突然に終末が来る事になったせいでもあるけど、
 まさか私が律と世界の終わりまで一緒に居る事になるなんて、思ってなかった。
 最期まで律が一緒に居てくれるなんて、何だか夢みたいだよ。

 馬鹿みたいだけど、こんな時期になって、私にはそれがようやく実感できたんだ。
 律はずっと私の傍に居てくれるんだって。
 こう言うのもおかしいけど、私はそれがすごく嬉しいんだよ。
 律が傍に居てくれるなんて、それも友達以上の関係で傍に居てくれるなんてさ」

私は澪から握っていた手を放す。
瞬間、澪が少し不安そうな顔をしたけど、
すぐ後に私は自分の手を澪の頭の上に乗せた。
ニヤリと微笑んで、おどけて言ってみせる。

「まったく……。
 重い女だな、澪は……。
 何だっけ? そういうの何て言うんだっけ? ヤンデレだっけ?
 ちょっとそんな感じだぞ、澪」

「私はヤンキーじゃないぞ」

「ヤンキーデレの略じゃねえよ!」

「分かってるよ、律。
 でも、そっ……かな……。私……、重い女かな……」

「ああ、最近ムギのお菓子を食べ過ぎなんじゃないか?
 二の腕や太腿なんかぷにぷにしてる感じに見えるぞ」

「体重の話っ?」

「いやいや、嘘だって。さっきの冗談のお返しだ。
 それにさ、私は別に澪が重い女でも全然構わないぞ?
 それくらい背負ってやるし、澪の気持ちを重いなんて考えるわけないだろ?

 今更だけど、私だって澪と同じ気持ちなんだ。
 澪と離れたくないし、ずっと傍に居たい。
 例え残り少ない時間でも、お前の傍に居られたらいいなって思うんだ。
 そうそう。日曜日は澪んちでゴロゴロするんだから、準備よろしくな」



622 名前:にゃんこ:2011/09/29(木) 20:51:39.40 ID:aNxPLZtc0

「え? そんな予定あったっけ?」

「いや、今決めた!」

「自慢げに言うな!」

言いながら澪が私の頭を叩く。
叩かれた頭を擦りながら私が笑うと、澪も優しい笑顔を浮かべて続けた。

「まあ……、仕方ないな。
 じゃあ、予定も他にないし、明日は私の部屋でゆっくりしようか、律。
 そうだな……。お茶でも飲みながら、ライブの反省会とかをするぞ」

「反省会かよー……」

「今日のライブが大成功だったら、反省会は短めにするよ。
 だから、頑張ろうよ、律。今日のライブを。
 何処までやれるかは分からないけど、最高のライブを目指そう?
 絶対、歴史に残すライブにしたいしさ」

「当たり前田のクラッカーよ!」

「古いな!
 でも、それにさ、律……。
 一人ぼっちになる心配の先輩の私から言わせてもらうけど、律は大丈夫だよ。
 終末までは私が傍に居る。終末から先は保証できないけど、終末までは絶対傍に居る。
 嫌だって言っても傍に居るから。絶対絶対、傍に居るから!」

「……私もだ、澪。
 一生、まとわりついてやるから覚悟しろよ!
 離れてやらないんだからな!」

澪の肩に手を回して、私の方に引き寄せる。
離れるもんか。
澪の肩を抱きながら、頭の中で何度も呟く。
離れるもんか。絶対、離れてやるもんか。
世界の終わりにだって、私達の想いを壊させたりなんかしない。



623 名前:にゃんこ:2011/09/29(木) 20:54:34.02 ID:aNxPLZtc0



今回はここまでです。
そろそろクライマックスなので、今の内に裏話を。
書き始めた当初は実はこんなに律澪になるとは思ってませんでした。
それが今はこんな感じに。
恐るべし百合夫婦。




624 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/29(木) 20:58:52.90 ID:mJp/10vNo

乙。自分はこの二人大好きだからどんとこいです
でもひたすらに胸が苦しい・・・切ない



625 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/29(木) 21:12:23.66 ID:lR6dwjq7o

律と澪の会話いいなあ
お互いを大切に想って心を支えあってるのが伝わってくるね




626 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/09/29(木) 23:06:28.49 ID:7JmygCrf0

乙!世界が終わらなかった未来の夢を見るってのがまた切ないなあ



627 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/29(木) 23:46:56.55 ID:JtYwU9AN0

いいね
乙です





628 名前:にゃんこ:2011/10/02(日) 18:57:31.33 ID:TKPU1wp60






二人で肩を並べ、頭を寄せ合って、もう離れない事を決心した後。
私はゴスロリから自前の制服に着替え、澪と静かに昼食を食べた。
世界の終わりの前日でもまだ開いてるスーパーで、澪が厳選したごはんは美味しかった。

これで多分、私達が昼食を食べるのは明日の残り一回。
そう思うと、スーパーの惣菜でも、食べ終わるのが何だか名残惜しい。
苦手なおかずもあったけど、残らず綺麗に平らげてから、
澪の買って来てくれた歯ブラシや洗面具で身だしなみを整えていく。

邪魔にならないよう頭の上の方で結んでた髪を解き、
少しはねた髪を自前の櫛で梳かそうとすると、澪が私の椅子を用意して手招いた。
準備をしてくれたのに、遠慮をするのも失礼だ。
私は椅子に座り、櫛を澪に手渡した。

「んじゃ、頼むよ、澪」

「……うん」

頷いて、澪が私の髪に櫛を通していく。
小さい頃は結構やってもらってた事だけど、
そういえば高校生になってから、澪に私の髪を梳かしてもらった事はほとんど無かったな。
逆に澪の髪を結ばせてもらって、色んな髪型にして遊んでた事は何度もあったが。
それを私が口にすると、澪が私の頭を掴んでから溜息交じりに言った。

「高校生にもなって、お互いの髪を梳かし合うなんて変じゃないか。
 それに……、えっと……」

「何だよ?」

「律に枝毛とか見つけられたくなかったし……。
 律に髪を弄られてる時、本当は冷や冷やしてたんだぞ。
 律に私の枝毛を見つけられたらどうしようって……」

それだけ長い髪なんだから、枝毛くらいあるだろう。
そうは思ったけど、口にはしなかった。
澪にとっては重要な事なんだろうし、そんな事を気にする澪が可愛らしく思えたからだ。
まあ、私も澪の事は言えた義理じゃないけどな。
前にムギに髪を梳かしてもらった時、
ムギは私の髪質を褒めてくれたけど、それでも何か恥ずかしかったもんな。

それに、やっぱり私に前髪を下ろした髪型は似合わない、って自分でも思う。
私が前髪を下ろすと一気に幼くなっちゃうって言うか、
無理に可愛らしさをアピールしようとしてるみたいって言うか……、
何かもう、とにかく恥ずかしいんだよな、これが。
前髪を下ろした姿を見せられるのなんて、家族か軽音部の皆くらいだよ、本当に。

はねてた髪が直ったかなって、自分でも分かり始めた頃、
机の上に置いてた私の黄色のカチューシャを澪が私の髪に当てていく。
流石は幼馴染み。
私がいつも着けてるのと全く同じ場所にカチューシャを着けてくれた。
それだけ澪が私の事を見ていてくれてたって事でもあるんだろう。
照れ臭い気分になりながら、後ろ手に澪の手を握る。

「ありがとさん、澪。
 カチューシャ着ければ、今日もそれいけりっちゃんは元気百倍だ。
 唯達が戻ったら、最後の音合わせに掛かろうぜ。
 って言っても、後はチューニングの確認くらいだけどさ」

私のその言葉に澪は答えなかった。
聞こえなかったってわけでもないだろう。
何かあったのかと思って、様子を確認しようと振り返ろうとすると、澪が急に私の手を強く握った。

「……なあ、律。
 一つ、我儘を言わせてほしいんだけど、いいかな……?」

神妙な声色だった。
それくらい澪の中では深い決心が必要な言葉だったんだろう。
私は振り返るのをやめて、正面を向いたまま頷いてから言った。

「いいよ。いつもは私が澪に我儘を聞いてもらってる立場だもんな。
 あんまり無茶な我儘だと無理だけど、できる限りの我儘は聞くよ。
 どんな我儘でも、とりあえずどんと来い!」



629 名前:にゃんこ:2011/10/02(日) 18:58:18.89 ID:TKPU1wp60

その私の言葉に、澪は少し安心したみたいだった。
ちょっと声色を柔らかくしてから、澪は澪の言う我儘を続けた。

「じゃあ……、言うね?
 正直、ほとんど無い可能性だと思う。
 万が一……、億が一……、ううん、兆どころか一京分の一くらいの確率かもしれない。
 でも……、でもね……。
 終末の後、もしも律が一人でも生き残ってたら、精一杯生きてほしいんだ」

澪は? とは聞かなかった。
澪が言いたい事は、つまりそういう事なんだって思った。
ほとんどあり得ない可能性だけど、無いとは言い切れない。
何かの間違いで、神様の悪戯かなんかで、
もしも私だけがこの世界に生き残っていたら……。
澪の居ない世界に。
私一人が。

考えただけで、身体が震えてくる。
それこそ、さっき私が澪と話した嫌な想像そのものだ。
私一人だけが取り残される、生き物全てが全滅するよりも残酷な未来だ。
それでも、澪は言ったんだ。
私に生きてほしいんだって。

「澪、それは……」

すぐには答えられない。
澪の居ない世界で私が生きていけるなんて、到底思えない。
澪が居ない世界に取り残されるくらいなら、私は澪と一緒に世界の終わりを迎えたい。

「生きてほしいんだよ……」

絞り出すみたいに澪が呟いた。
もしかしたら、泣きそうな顔をしてるのかもしれない。
そりゃ私だって生きてたいけど、それは誰かと生きてたいって意味だ。
澪と生きてたいって意味なんだ。
澪にも生きててほしいんだ。
それが無理なら、私が死ぬのはともかく、せめて澪にだけは……。

考えていて、気付いた。
私も澪と同じ事を考えてるって事に。
自分よりも生きててほしい人が居るって事に。
本当に我儘だよな、私……。
ごめん、澪。おまえを悪者にさせちゃったな……。
おまえは考えなきゃいけない最悪の未来を考えてくれてただけなのに……。

私は頷いた。
澪の決心を踏みにじらないために。
澪に謝るみたいに。

「……ああ、分かったよ、澪。
 私……、生きるよ。生きる。おまえが傍に居なくても。
 だから、おまえも……」

最後まで言う前に、澪が私の肩に手を回して顔を寄せた。
私の耳元で、若干震えた声で澪が囁く。

「……うん。私も生きる。
 恐いけど……、すっごく恐いけど……、律と離れたくないから……。
 律の傍に居たいから……、律の居ない世界でも、生きていくよ」



630 名前:にゃんこ:2011/10/02(日) 18:58:48.31 ID:TKPU1wp60

傍に居る事を誓い合った矢先に変な話だけど、
これも私達が傍に居るって事なんだろうな、とも思った。

傍に居られる時は、傍に居続ける。
でも、傍に居られなくなった時、どちらかを失ってしまった時、
せめて心の中でだけは傍に居られるように、お互いの願いを叶えられるように……。
私達は一人でも生きていく事を決心し合った。

恐いけど……、悲しいけど……、
私は私が死んでも澪に生きていてほしいから。
澪も澪が死んでも私に生きていてほしがってるから。
私達はお互いの我儘を叶え続けるんだ。

勿論、どちらかが生き残る可能性なんてほとんど無いのは、二人とも分かってるけどな。
まあ、最悪の状況を想像するのは、澪の悪い所で、いい所でもある。
澪は私の肩から身体を放すと、恥ずかしそうに長椅子に歩いて行った。
自分でも無茶な想像をし過ぎたと思ってるんだろう。
顔を俯かせて、小さく呟き始めた。

「ごめん……。変な我儘、言っちゃったよな……」

「いいよ。たまには澪にも我儘を言ってもらわなきゃな。
 それに何か嬉しいんだよ。
 澪の我儘は私の事を思ってくれての我儘だから、本当に嬉しいんだよ。
 今も自分勝手な我儘を聞いてもらってる身としてはさ」

椅子から立ち上がりながら、私は軽く微笑む。
そのまま歩いて、澪の傍まで近付いて行く。
澪は不思議そうな表情をしていたけど、
何を言われるよりも先に私は腕を回して真正面から澪に抱き着いた。

いや、抱き着いたたんじゃないな。
抱き締めたんだ、私の友達以上恋人未満の澪を。

「ちょっ……! えっ……? えーっ……?」

何が起こったのか分からないって表情で、澪が私の腕の中でじたばた暴れる。
自分から抱き着く事は多いくせに、誰かに抱き着かれる事は慣れてないらしい。
そういや、私も唯とはふざけて抱き合う事は多かったけど、
澪とは自分からこんな風に密着する事はあんまりなかった気がする。
冷静になって考えると恥ずかしくなってくるけど、もう今更だ。
私は多分顔を真っ赤にしながら、澪に囁いた。

「澪が我儘を言ってくれたお礼に、私の精一杯を見せてやる」

「せ……、精一杯……?」

「友達以上恋人未満って言っても、色々……、あるじゃん?
 もうほとんど恋人みたいな関係とか、友達よりちょっと親しいだけの関係とか、
 相手を都合よく使うために、友達以上恋人未満って事にしてるだけの関係とか……。
 友達にも色々な関係があるみたいに、友達以上恋人未満にも色々あるよな……?

 まだ私は澪の事を恋愛対象として見れてないし、
 将来的に恋人になれるかどうかも分かんないけどさ……。
 こうして抱き締めたいくらいには、澪の事が好きなんだ。
 だから……、これが今の私にできる精一杯なんだよ」



631 名前:にゃんこ:2011/10/02(日) 18:59:15.92 ID:TKPU1wp60

言ってて更に恥ずかしくなってきた。
私の我儘のせいで曖昧な関係になってしまってる私と澪。
だから、分かりやすい形で澪に私の気持ちを示したかったんだけど、
やっちゃった後で、今更これで正しかったのかって不安になってきた。

澪が愛おしくて、澪が大好きで、澪を抱き締めたかったのは確かだ。
これが今の私の澪への正直な気持ちの全てで、
今の私が澪にできる精一杯の行為なのには間違いが無いんだけど……。
何だかすごく不安になってくる。
私の想いや行動が本当に正しかったのか恐くて堪らない。
人に自分の想いを伝える事がこんなに不安になる事だなんてな……。

不意に、澪が苦笑した。
私の精一杯が一杯一杯なのがばれちゃったんだろう。
軽い感じで、澪が苦笑したまま呟く。

「精一杯って言われてもな……。
 律ってば、唯ともよく抱き合ってるから、こんな事されてもよく分かんないな」

うっ……。
やっぱり澪さんはよく見てらっしゃる……。

「いや、それは親愛の情と言いますか、友達として……」

「だったら、私もまだ単なる友達って事だよな、律?」

「いやいや、そうじゃなくてだな……。
 澪は友達と言うか、恋人に限りなく近いと言うか……」

「それに律は若王子さんともかなり仲がいいみたいだし、
 やっぱりああいうお姫様みたいな子の方が好きなんじゃないのか?」

「だから……、そうじゃなくて、あー、もう!
 そんな事言うなら、分かったよ! 変な事しちゃったよ!
 もう離れるぞ、み……」

私が澪から身体を放そうした瞬間、
澪が私の脇の下から腕を通して私の胸の中に顔を静めた。
さっきまでの表情とは打って変わって、その時の澪は顔を真っ赤にしていた。

「ごめん、律……。
 ちょっと意地悪しちゃったな……。
 律の精一杯……、本当に嬉しいし、これで十分だよ。

 簡単に私と恋人になるわけじゃなくって、
 友達以上恋人未満って関係を選んでくれたのが、今は本当に嬉しい。
 私の事を……、こんな普通じゃないお幼馴染みの私の事を、
 律が本気で考えてくれてるって分かるからさ……」

意地悪された事について言いたい事も色々あったけど、
私の胸の中に居る澪の表情を見ていると、そんな事はどうでもよくなった。
不器用なやり方しかできなかった私だけど、
そんな不器用な私の想いを澪が受け取ってくれたんだ。
こんなに嬉しい事は無いよ。
腕に力を込めて澪を更に強く抱き締めながら、私はまた澪に囁いた。

「私も嬉しいよ、澪。
 こんな時期に答えを出せない、優柔不断な私を受け入れてくれてさ……。
 だから、考える。ずっと考え続けるよ。
 澪と恋人になれるのか、澪の恋人になりたいのか、週二でデートしながら考えるよ」

「うん、楽しみにしてる」

「ただし、澪。
 おまえにもちゃんと考えてもらうぞ?
 おまえが本当に私の恋人になりたいのか?
 私の恋人になって、本当に幸せになれるのか?
 デートしながら、おまえにもそういう事を考えてもらうからな?」



632 名前:にゃんこ:2011/10/02(日) 18:59:45.47 ID:TKPU1wp60

澪の気持ちを疑ってるわけじゃない。
でも、澪にも後悔の無いように考えてほしかった。
今更だけど、澪や私の中に生まれたこの想いは、
吊り橋効果みたいなやつから生まれた物かもしれない。
それに、女同士の恋愛関係も色々と大変だろうしな。

だから、考えるべきなんだと思う。
世界が終わろうと、世界が終わるまいと、
自分の想いが本当に正しいのかを自分に問い続けるのは、必要な事のはずだ。
私のその気持ちを分かってくれてたみたいで、澪も私の胸の中で静かに頷いてくれた。
考え続けようと思う。
世界の終わりまで、澪の傍で。

……って言っても、
実を言うと私の中に澪との恋愛に対する不安はほとんど無い。
よく漫画である、世界全てを敵に回しても澪を好きでいられるか……、
って想像をしようかとも思ったんだけど、その想像自体が現実的じゃなかったんだよな。

大抵、こういう恋愛関係の場合、
周りや家族が猛反対して、世界全体から自分達の関係が拒絶される……、
みたいなのがありがちな展開なんだろうけど、
何か私達にそういう展開は当てはまらない気がするんだよな。

だって、もしも私が澪と付き合う事になったって伝えても、
うちの両親なら一言で「いいよ」とか言いそうなんだよ。いや、マジな話。
どんだけ放任主義なんだよ……。

あと軽音部のメンバーも平然と認めてくれちゃいそうだ。
唯なんか「え? まだ付き合ってなかったの?」とか言うんじゃないだろうか。
勿論、全員が全員、認めてくれるわけじゃないんだろうけど、
私の大切な人達が認めてくれるんなら、それでいいかって気になってくる。

そんなわけで、女同士の恋愛に対する不安はほとんど無いんだ。
呆れたから漏れたのか、安心できたから漏れたのか、
どっちでもあり、どっちでもないような苦笑が私の口からこぼれる。

「どうしたんだ、律?」

その苦笑に気付いた澪が、私の胸の中で小さく訊ねてくる。
「何でもないよ」と首を横に振って、澪を抱き締める腕の力をもう少しだけ強くした。
私に不安は無い。澪と傍に居る事が恐くなるなんて事は無い。

だから、後は考えるだけだ。
傍に居過ぎて空気みたいな存在になっちゃった澪を、恋愛対象として見れるかって事を。
それはとてもとても長い時間が掛かる事だと思う。
残り少ない時間で答えが出る事じゃないし、無理に答えを出していい事でもないはずだ。

こう言うのも変だけど、のんびりマイペースな放課後ティータイムとして、
私達の関係のその後をじっくりと考えていきたい。
勿論、それまで私がするべき事は、澪の傍から離れない事が最優先だけどな。



633 名前:にゃんこ:2011/10/02(日) 19:00:14.36 ID:TKPU1wp60

不意に。
音楽室の中に小さな音が立った。
何だろうと思って、澪を胸の中に抱き締めたまま周りを見回すと……。

「ギャー!!」

思わず大声を上げながら、私は澪から自分の身体を放した。
私から身体を放された澪は一瞬不安そうな顔になったけど、
私の大声の原因を音楽室の入口付近に見つけると、

「ギャーッ!!」

私と同じ様な叫び声を上げて、顔面を真っ赤に染めた。
それもそのはず。
唯とムギと梓がトーテムポールみたいに身体を重ねて、
音楽室の入口から私達の様子を嬉しそうにうかがっていたからだ。

「あー、気付かれちゃった……」

「唯先輩が物音立てるからですよ!」

「だって、二人の様子をもっと近くで見たかったんだもん……」

隠れるのをやめた唯達が肩を並べて部室に入ってくる。
本当は覗き見されてた事を怒るべきなんだろうけど、
唯達のその様子は楽しそうな上に嬉しそうで、とても怒れるような雰囲気じゃなかった。
三人で私と澪を見守っててくれたんだろうな、って私は思う。
いや、覗き見されてた事自体は相当恥ずかしいが……。

「りっちゃん、おいっす」

気に入ったのかムギの借りてくれた制服をまだ着てる唯が微笑む。

「お……、おいっす……」

声が上擦りそうになりながらも、
それをどうにか抑え、平然を装って唯に返す。
その私の様子をムギが心底嬉しそうな表情で生温かく見つめてる。

「ねえねえ、りっちゃん。澪ちゃんと何してたのー?」

無邪気な表情で唯が続ける。
こいつ……、とぼけやがって……。
私は唯から視線を逸らしながら、こっちもとぼけてやる事にした。

「ほら……、アレだ。
 そう! 『ロミオとジュリエット』の劇の復習だよ!
 澪と話してたら懐かしくなってきちゃってさ、
 それで今抱き合うシーンをやってたところだったんだよ!
 なあ、そうだよな、澪!」

私が澪に言うと、張子の虎みたいに澪がコクコクと何度も首を振った。
顔を真っ赤にしながらで説得力は全然無かったけど、何もしないよりはマシだ。
しかし、唯はまた無邪気な顔を崩さずに楽しそうに言ってくれた。

「えー……?
 ロミジュリじゃ、りっちゃんがジュリエットだったじゃん。
 ジュリエットは抱き締められる方なのに、
 今回はりっちゃんが澪ちゃんを抱き締めてるように見えたよ?
 ロミジュリなら、ロミオがジュリエットを抱き締めないと駄目だよー?」



634 名前:にゃんこ:2011/10/02(日) 19:00:40.16 ID:TKPU1wp60

……よく見てんじゃねーか。
私は溜息を吐きながら、視線を梓の方に向けてみる。
梓は顔を少し赤くさせながら、私と澪の顔を交互に見つめていた。
そういや、梓の奴、前に学園祭のライブで澪のパンチラ(パンモロ?)見て興奮してたな。
唯に何度抱き着かれても抵抗しないし、やっぱりこいつ……。
いやいや、梓の嗜好は今は関係ない。

別に唯達に私と澪の関係がばれるのが嫌なわけじゃない。
いつかは皆に伝えなきゃいけない事だとも思う。
でも、今は……、何だ……、は……恥ずかしい……。
ほとんど気付かれてはいるんだろうけど、
自分達の口から伝えるのは、二人の関係がもっとはっきりしてからにしたいし……。
少なくとも、今日のライブが終わるまではまだ内緒にしていたい。

「そ……、それよりさ、唯?
 忘れ物を取りに帰ったらしいけど、一体何を忘れたんだよ?
 今日のライブの道具でも忘れたのか?」

誤魔化すように私が話を逸らすと、
「そうだった」と言いながら唯がポンと手を叩いた。
音楽室の入口の方まで走って行って、
廊下に置いていたらしい大きめの紙袋を手に取ると、楽しそうに私の目の前に差し出した。

「じゃじゃーん!
 忘れ物はこれだったのです!
 折角用意してたのに、昨日持って来るの忘れちゃってたんだ。
 ちなみにライブの道具は大丈夫だよ。一週間前からちゃんと準備してたもん。
 憂が!」

「それは安心だな」

言いながら、私は唯の差し出した紙袋を受け取る。
お、結構重い……。
何が入ってるんだ?
紙袋の中を覗いてみる。
中に入っていたのは、写真や紙切れや金属の箱やその他色々……?
何だこれ。

「おい唯、何だよこれ」

「え? 分かんないの、りっちゃん?」

「うむ。全く」



635 名前:にゃんこ:2011/10/02(日) 19:01:09.38 ID:TKPU1wp60

首を傾げて唯に訊ねると、ムギと梓が軽く苦笑したみたいだった。
私を馬鹿にしてるわけじゃなくて、分からなくて当然、って言いたげな苦笑だった。
二人は唯から聞いて袋の中身の正体を知ってるんだろうけど、
逆に言えば聞かなきゃ絶対に分からないって事なんだろうな。

特に唯のやる事だ。
相当、奇想天外な正体なんだろう。
気が付けば、赤面がまだ治まり切ってない澪も紙袋の中身を覗きに来ていた。
やっぱり澪も紙袋の中身の意味が分からないみたいで、私と視線を合わせてから肩をすくめた。

「もー。りっちゃんも澪ちゃんも鈍いなあ……。
 長い付き合いなのにー……」

頬を膨らませて、心外そうに唯が呟く。
鈍いって、そういう問題なのか、これ?
だって、写真はともかく、この紙切れなんかサイズや内容に一貫性が無いしなあ……。

……って、よく見たらこの紙切れ、私が授業中に唯に回した手紙か?
ちょっと探ってみたら、楽譜や猫耳なんかも入ってるみたいだな。
写真も一貫性は無いけど、一応、全部私達が写ってる写真ではある。

共通点って言ったら、当然ではあるけど私達に関係ある物って事くらいか。
それに加えて、紙袋の中に不自然に入ってる金属の箱……。
という事は、ひょっとすると……。

「唯、もしかして、これ……。アレか?」

私が呟くと、今度は急に私に抱き着いて、
「流石はりっちゃん!」と嬉しそうに唯が笑う。
どうやら私の考えが当たっていたらしい事が分かり、つい微笑んでしまう。
唯らしい天然で奇想天外な発想だけど、悪くない考えだと思ったからだ。

ふと振り返ってみると、一人だけ状況を掴めていない澪が寂しそうに首を傾げていた。
まあ、澪じゃ想像も付かない事かもしれないなあ……。
流石に唯も澪がこの紙袋の正体に辿り着くのは無理だと気付いたらしい。
私が澪にその正体を説明しようとするより先に、唯が幸せそうな笑顔を崩さずに言った。

「これはね、澪ちゃん……。
 私達からの未来の人達へのプレゼント……。
 タイムカプセルなのです!」



636 名前:にゃんこ:2011/10/02(日) 19:03:41.62 ID:TKPU1wp60



今回はここまでです。
ちょっと静かな展開。

タイムカプセルって懐かしいなあ。




637 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/02(日) 23:43:11.50 ID:q28QDf0k0


未来の人達へのプレゼントってどういうことだろう



638 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/02(日) 23:57:44.55 ID:WDvw6RWSO

やっぱ律澪はいいね
乙!



639 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/03(月) 08:11:49.72 ID:oUXrI9RIo

>自分達の口から伝えるのは、二人の関係がもっとはっきりしてからにしたいし……。
>少なくとも、今日のライブが終わるまではまだ内緒にしていたい。

二人の関係がどんなふうに変化していくのかも楽しみだな






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