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律「終末の過ごし方」#16 【非日常系】


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律「終末の過ごし方」#index



700 名前:にゃんこ:2011/10/21(金) 19:43:06.60 ID:sT9PuPCN0

睨むみたいに視線を向けてみると、
多分旦那なんだろう男の人の背中を何故か叩きながら、信代が続けた。

「冗談だよ、律!
 カチューシャしてないのも可愛いじゃん!
 欲を言えばパーカーのフードを脱いでくれると嬉しいんだけどさ!」

「りっちゃん、可愛いー!」

「結婚してーっ!」

信代の言葉に続いて、エリや春子なんかが歓声を上げる。
こいつら、本当にろくでもないクラスメイト達だな……!

「うっせ!
 フードだけは絶対脱がないからな!」

吐き捨てるみたいに言ってやってから、私は少しだけ深くフードを被り直す。
やめてくれよな……。
ただでさえ恥ずかしいのに、『可愛い』だなんて言いやがって……。
何だか顔が熱くなっちゃうじゃんか……。
そうやって縮こまってる私の姿を見てから、梓が苦笑交じりの声で言った。

「もう、律先輩は仕方ないですね……。
 それでは、メンバー紹介を続けますね。
 次にご紹介するのは、キーボード担当の琴吹紬先輩です」

「わ、私……?」

いきなり自分の話題になるとは思ってなかったんだろう。
ムギが驚いた様子で梓に視線を向ける。
そのムギの目尻は涙で濡れてはいたけど、それ以上涙が溢れ出す事も無かった。
「ムギー!」という歓声が客席のあちこちから上がる。
客席の様子を満足そうに見つめてから、梓がムギの方向に向き直す。

「琴吹紬先輩……、ムギ先輩は美人で、優しくて、大人っぽい素敵な先輩です。
 それに放課後ティータイムの曲の作曲もほとんどムギ先輩がやってるんですよ。
 作曲なんてそう簡単にできる事じゃないのに、何曲も制作してくれて本当に助かってます。
 部室に居る時はいつも私達に美味しいお菓子を用意してくれるし、お世話になってばかりです。
 あ、お世話になってるのは、私だけじゃなくて律先輩達もなんですけどね」

言ってから、梓が悪戯っぽい笑顔を私に向ける。
反論しようかとも思ったんだけど、よく考えたら全然反論できない。
考えてみれば、ムギにはお世話になりっ放しだ。
ライブが終わったら、せめてお茶の準備くらいは手伝おうかな。

そう思って何となく視線を向けてみると、軽くムギの頬が赤く染まっていた。
いつも穏やかなムギとは言え、人前で後輩に褒められるのは照れ臭いものらしい。
「実はですね……」と何処か楽しそうにさえ聞こえる声色で梓が続ける。



701 名前:にゃんこ:2011/10/21(金) 19:43:47.74 ID:sT9PuPCN0

「ムギ先輩ってそんな非の打ち所の無い先輩だから、
 私が入部した当初は近寄りがたい雰囲気があったんです。

 いいえ、そうじゃありませんね。
 ムギ先輩はいつでも優しい先輩なのに、私の方が勝手に縮こまっちゃってたんです。
 私にはムギ先輩みたいなお嬢様っぽい知り合いが居なかったので、
 何を話し掛けたらいいのかって、結構悩んだりしてたんですよね。

 でも、軽音部でお世話になってる内に、
 ムギ先輩も私達と同じ様な事を考える女の子なんだなって思うようになりました。
 楽しい事があったら笑いますし、悲しい事があったら泣きますし、
 当然の事なんですけど、ムギ先輩も私達と同じ普通の音楽好きの人なんだなって……。

 そうそう。
 意外かもしれませんけど、ムギ先輩ったら、お茶の時間におやつの摘み食いなんかもしてるんですよ」

「あーっ! 梓ちゃん、それ内緒の話なのにー!」

ムギがまた顔を赤く染めて、私達の顔色をうかがう。
内緒にしてた事が私達にばれたと思って、恥ずかしくて仕方が無いに違いない。
まあ、ムギがたまに摘み食いしてるのは、
軽音部なら皆が知ってる話なんだけど、
ムギとしては私達に内緒にしているつもりだったんだろうな。
恥ずかしそうに、ムギが視線を落として呟く。

「だって、美味しそうなんだもん……」

滅多に見せないそのムギの照れた様子はとても可愛らしかった。
客席の皆もそう思っていたみたいで、
微笑ましそうに「いいなー、私も食べてみたいなー」という感じの声があちこちから上がっていた。

「あ、そうだ」

不意に何かを思い出したみたいに、
ムギがキーボードの前に置かれていたマイクを手に取って言った。

「皆さん、今日は私達のライブにお越し頂き、ありがとうございます。
 キーボード担当の琴吹紬です。
 また皆さんにライブでお会いできて、私、嬉しいです。
 すっごく楽しくて、すっごくすっごく嬉しいです!

 皆さんの大切な時間を私達に頂けて、本当に感謝してます!
 皆さんの心に残るライブになるよう精一杯演奏するのは勿論ですけど、
 実は今日、皆さんへの感謝の気持ちを込めてたくさんのケーキを用意してるんです。
 ライブが終わっても、そのまま客席で待ってて下さい。
 皆さんにケーキをお配りしますね」

客席から嬉しそうな歓声が上がる。
その感性を尻目にムギが私達の方に視線を向けると、申し訳なさそうに軽く頭を下げた。

「ごめんね。皆の分のケーキが減っちゃうけど……」

「別にいいよ。美味しい物は皆で味わった方がいいしさ」

首を横に振って言った後、私はふと気が付いた。
私達のケーキが減るのは構わないけど、
客席の皆の分のケーキが準備できてるのかって思ったからだ。

ムギの様子を見る限りじゃ、
まさか二百人ものお客さんが集まってくれるとは思ってなかったみたいだ。
私達が考えていたのと同じく、ムギもお客さんは三十人くらいだと予測していたはずだ。
だとすると、圧倒的にケーキの数が足りないはずなんだけど……。
それを訊ねると、ムギは小さく苦笑した。



702 名前:にゃんこ:2011/10/21(金) 19:44:26.10 ID:sT9PuPCN0

「大丈夫。
 今日は一人一ホールのつもりでケーキを用意してたの。
 切り分ければ、皆の分のケーキを用意できると思うよ」

「一ホールかよ!」

思わず突っ込んだ。
いくら何でも一人一ホールは多過ぎだ。
唯なら食べ切るかもしれないけど、
少なくとも私を含めた常人の皆さんじゃ間違いなく食べ切れない。

でも、今回はムギのその天然が幸いしたかな。
皆にムギの美味しいケーキを味わってもらえるなら、それで結果オーライだ。

「流石はムギ先輩……」

梓が困ったように呟いていたが、その表情は笑顔だった。
少しずつ分かってはきたけど、
まだまだ謎の多いムギの姿を楽しくも嬉しくも思ってるんだろう。

「ケーキ、楽しみだねー」

涎でも垂らしそうな表情をしながら、唯が呟く。
こいつの頭の中はいつも甘い物と可愛い物の事ばかりだった。
それが今は心強い。
流していた涙も梓のおかげで拭い去れてるみたいだ。
それなら大丈夫。普段はともかく、唯は本番に強い女だ。
梓が少し口元を引き締め直し、唯を手の先で示す。

「それでは、次のメンバー紹介です。
 ギターの平沢唯先輩です!」

「皆、今日は来てくれてありがとーっ!」

言い様、唯がギー太を目にも留らぬ超技巧で奏で始めた。
おー、ミュージシャンっぽい。
これはふわふわのギターアレンジだな。
妙にミュージシャンっぽい姿にこだわる唯にとって、一度はライブでやってみたかった事なんだろう。
ライブなんかでよく見る光景だしな。

それにしても、高校一年生になるまでギターに触れた事も無かったとは思えない見事なテクニックだ。
こういうのを天才って言うんだろうな。
悔しくて羨ましくもあるけど、今はただただ頼もしい。
天才と出会え、その天才と組めた偶然に感謝したい。
私は天才じゃないけど、天才と組めたって点では天から愛されてるのかもな。

天才の唯。本番に強い唯。天然ボケの唯。
そんな唯なら、今からの演奏と歌声で皆を笑顔にする事ができるはずだ。
……とか思ってたら、急に間の抜けた不協和音が講堂を包んだ。

「あ、間違っちゃった」

頭を掻いて、唯が苦笑いを浮かべる。
超技巧に挑戦し過ぎて、一番難しい所で指が動き損ねてしまったらしい。
おいおい、大丈夫か……。

梓とムギが苦笑する。
澪……も、被ったフードの奥の目尻の涙を拭いながら笑ってる。
客席の皆からも大きな笑い声が上がる。
狙ってやったのかどうなのか、とにかく唯は本当に皆を笑顔にしてしまった。
ミュージシャンとしてはどうかと思うが、これが一つの唯の音楽なのかもしれないな。



703 名前:にゃんこ:2011/10/21(金) 19:44:58.37 ID:sT9PuPCN0

「えーっと……」

梓が苦笑を浮かべたままで続ける。

「今見た通りの人が唯先輩です。
 それでは、次の人の紹介に……」

「私の紹介それだけっ?
 あずにゃんのいけずぅ……。
 もっとりっちゃんやムギちゃんみたいに紹介してよー……!」

「自分で自己紹介して下さい」

「ひどいよ、あずにゃん……」

「そんな泣きそうな声を出さないで下さいよ……。
 私がいじめてるみたいじゃないですか」

「じゃあ、ちゃんと紹介してくれる……?」

「もう……、仕方ないですね……。
 では、改めてご紹介しますね。ギターの平沢唯先輩です。
 見ての通り、唯先輩はだらしないし、楽譜もろくに読めないし、
 律先輩以上に遊び回ってるし、お菓子の事しか考えてないし、
 すぐに抱き着いて来るし、変なあだ名付けてくるし、すごく困った先輩です」

また客席から笑い声が上がる。
よく見ると憂ちゃんがハラハラした様子で梓の言葉を見守っていた。
大好きなお姉ちゃんについての紹介がどうなるか心配でしょうがないんだろうな。
唯も何処まで自分の悪い印象を語られるのか、別の意味でハラハラしてるようだった。
私も少し不安を感じなくはなかったけど、当事者ほどハラハラしてはいなかった。
梓が苦笑を穏やかな笑顔に変えて、唯の傍に近寄って行っていたからだ。
そうして、唯の傍で梓が小さく口を開いた。

「でも、唯先輩の演奏はすごいんですよ。
 毎回ギターが上手くなってて、私の演奏を引っ張る技術も持ってて……。
 どんどん進化する唯先輩の姿に、いつも驚かされます。
 それに……、私、唯先輩の困った行動……、嫌いじゃないですよ」

最後には少し照れた様子になっていた。
そうだ。言葉こそ厳しいけど、梓が唯を悪く思っていない事を私はよく知ってる。
傍から見ていると、よく分かる。
唯が梓の事を大好きなように、梓だって唯の事が大好きなんだって。

感極まったんだろう。
唯が梓に抱き付こうと飛び掛かろうとして、でも、何とか自制した。
流石の唯もギー太を肩に掛けたまま、
むったんを肩に掛けている梓に抱き着くほど馬鹿じゃない。
感激した様子で、唯が梓に顔だけどうにか寄せる。

「ありがとう、あずにゃんー!」

「嫌いじゃないってだけですよ!
 それにこれからの演奏、さっきみたいに失敗したらケーキ抜きにしますからね!」

「うう……、あずにゃん厳しい」

そう言いながらも、唯の顔は笑っていた。
梓も笑顔だった。
何だか夫婦漫才を見せられた感覚だ。
いや、私と澪のやりとりもよく夫婦漫才と言われるが、それは置いとくとして。

「それでは、最後のメンバー紹介になります。
 ベース担当の秋山澪先輩です!」



704 名前:にゃんこ:2011/10/21(金) 19:46:41.65 ID:sT9PuPCN0

寄せてくる唯の顔を手で押し退けながら、梓が大きな声を出す。
大きな声を出したのは、少し緊張し始めたからだろう。

最後のメンバー紹介……。
この澪のが終わると、ついに私達のライブが本当の始まりを告げる事になる。
終わりの始まりが訪れようとしているんだ。
私も自分の鼓動が激しくなってくるのを感じていた。

もう迷いはない。
泣くつもりもない。
後はできる限りの精一杯の演奏を講堂に響かせればいいだけだ。

でも、不安はある。
皆を満足させるに足る演奏が私にできるのかって思う。
特に軽音部の中で一番皆の足を引っ張りそうなのは私だ。
もしも演奏を失敗してしまったら……、
そう思うと今更だって分かってるけど不安になってくる。

「澪先輩はですね。
 放課後ティータイムでベースを担当してるんですけど……」

澪の紹介が続く。
紹介されている澪の表情は分からない。
ドラムからは距離があったし、フードを被ってるから横顔が少し見える程度だ。
もう少し澪の表情が見てみたいな……。
私がそう考えた瞬間だった。

澪がメンバー紹介を続ける梓を手で制した。
自己紹介は自分でするって事なんだろう。
梓は素直に引き下がり、じっと澪の次の言葉を待つ。
私も固唾を飲んで、澪の次の言葉を静かに待っていた。

と。
澪が被っていたフードを脱いで、一瞬、私の方に視線を向けた。
それの澪の視線はライブで不安がってる視線じゃなくて、
病気や怪我なんかで弱ってる時の私を見守ってくれる視線だった。
それだけで私の不安は何処かに吹き飛んでいた。

そうだったな。
私のドラムはあんまり上手くないけど、
澪のベースと一緒なら、安心して土台を組めるんだったな……。

すぐに客席に視線を向ける澪。
でも、十分だ。
私には一瞬の澪の視線だけで勇気が湧いてくる。

それはきっと、澪も同じ。
客席の方を向いた澪が大きく口を開く。
大勢の客の前で緊張しているだろうに、勇気を出して、逃げずに、力強く。

「皆さん、今日はありがとうございます。
 放課後ティータイムのベースの秋山澪です。
 こんな時なのに、こんなにたくさんの人達に集まってもらえるなんて、嬉しいです。
 あの、私……、これから新曲を演奏する前に、皆さんに話しておきたい事があるんです。
 すみませんけど、少しだけ私の話を聞いて下さい。

 明日……、終末が訪れますよね。
 明日、私達の積み上げてきた物も、未来も、何もかも失われてしまうんでしょう。
 正直、恐いです。

 これまでも何度も逃げ出しそうになりました。
 ライブを投げ出そうと思った事も、一度や二度じゃありません。
 考えてみれば『終末宣言』以来、
 ずっと終末の恐怖から逃げる事ばかり考えていたように思います。



705 名前:にゃんこ:2011/10/21(金) 19:47:26.19 ID:sT9PuPCN0

 でも、私の仲間達は、私を逃げさせてくれませんでした。
 実を言うと、皆が居なければ私は終末よりも先に自殺していたかもしれません。
 それくらい恐かったんです。

 こんなに恐い思いをしてまで、生きていたくないとも思っていました。
 だから、逃げさせてくれない仲間……、律を恨んだ事もあります。
 律は死ぬ事だけじゃなくて、違う逃避も許してくれませんでした。
 誰かの温かさに甘えて、誰かと傷を舐め合って生きていく事さえも……。
 どれだけ律は私に意地悪をすれば気が済むんだろうって、
 りっちゃんはそんなに私の事が嫌いなの? って、子供の頃みたいに考えたりもするくらいに。

 今は感謝しています。
 律や放課後ティータイムの皆は勿論、多分、終末にも……。
 変な話ですけど、終末には少しだけ感謝してるんです。

 だって、突然には来なかったじゃないですか。
 幸か不幸か、『終末宣言』から終末まで一ヶ月半の猶予がありました。
 その猶予が嫌で自殺しようとしてた私が言うのもおかしいかもしれませんが、
 今考えると何の前触れもなく終末を迎えるよりはよっぽど幸せな気がします。

 この一ヵ月半……、私は律達のおかげで何度も自分を見つめ直せました。
 当然だと思ってた日常を失われる事になって、
 本当に大切な物や好きな人を見つける事ができました。
 覚悟のようなものもできたように思います。

 いえ、覚悟というほどではないかもしれないですけど、すごく当たり前の事に気付けたんです。
 結局、遅かれ早かれ私達は死ぬんだって事に。
 例え明日に終末を迎えなくても、私達はいつかは必ず死ぬ事になります。
 分かってたつもりで、分かってませんでした。
 分かっていなかったから、思い出に逃げ込んだり、約束を信じたりしてたように思います。

 勿論、思い出や約束は大切な物です。
 それらがあるから、私達は生きていけます。
 でも……、もっと大切な物があるんだって律に教えてもらいました。
 律は過去や未来にこだわらないタイプの人でした。
 『終末宣言』より前はそんな律の姿に呆れる事もありましたが、今は違います。
 律は『現在』を大切にしてる人なんだって、今の私は思います。

 明日……、いいえ、
 多分、『終末宣言』が宣言された瞬間、私達は過去も未来も失ったんだと思います。
 積み上げてきた物が消え去って、未来は永久に訪れない事を知りました。

 だけど、私達にはまだ残ってる物があります。
 『今』、私達が生きてるって事。
 『現在』、私達が感じてる事。
 それだけはまだ奪われてませんし、奪わせたくありません。
 それに気付けただけでも、私達は幸福だったんだと今は思えます。

 だから、終末には少しだけ感謝しています。
 当然、完全に感謝できてるわけじゃありませんけど。
 嬉しいけど、嬉しくない。
 ありがたくないけど、ありがとう。
 何はともあれ、私達は今を生きていく。
 そんな気持ちも込めた新曲を、これから皆さんにお送りしたいと思います」

 言って、澪が左手を身体の右側から左側に振りしきる。
 新曲演奏の合図だ。
 五人で視線を合わせ終わった後、大きく頷き合う。
 始める。
 私達が『現在』生きている証をこの世界に刻み込んでやる演奏を。
 澪がマイクに口元を寄せ、大きく口を開く。

「聴いて下さい。
 私達、放課後ティータイムの新曲……、
 『No, Thank You!』」



706 名前:にゃんこ:2011/10/21(金) 19:49:36.02 ID:sT9PuPCN0



今回はここまでです。
このssは終末クロスと見せ掛けて、2期後期EDのプロモssだったんだよ!!
な、なんだ(以下略)。

冗談ですが、何だか本当にそんな感じに。
そんなわけだか何だか、次かその次、最終投下予定です。




707 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/21(金) 21:07:41.33 ID:+3uer4BSO

最終回も期待してます乙!



708 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/21(金) 22:04:59.90 ID:CNNlPiiFo

みんなの台詞もだけど澪の台詞もいいね
最初は怯えてるだけだったけど、逃げずに終末とちゃんと向き合えるようになったんだな



709 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/10/21(金) 23:55:09.43 ID:uqC2kOsB0

終わってしまうのは寂しいが最終回も楽しみにしてるよ





710 名前:にゃんこ:2011/10/24(月) 21:29:40.68 ID:Ie10TeSW0






静かで穏やかな曲調から私達の新曲……、
『No, Thank You!』の演奏は始まる。
新曲も普段の私達の曲とあんまり変わらないと、観客の皆も一瞬感じるだろう。
だけど、すぐに転調する。
力強く、激しく、荒々しく。
私達の想いを身体中で相棒達にぶつけていく。

思う。
明日、世界は終わる。
多分……、じゃない。きっと確実に世界は終わる。
私達は終末を迎え、一人残らずこの世界から消え去ってしまう。
死んでしまうんだろう、間違いなく。

私は……、私達は、ずっとそれが恐かった。
いや、終末なんて関係なく、
いつか自分がこの世界から消え去ってしまうって現実が恐かったんだろうと思う。
何かを残せるなら死ぬ事も恐くない……、

って考えもするけど、本当に何かを残せる人は数少ない。
夢は武道館なんて話はしてたけど、それがどれだけ大変な事か私は知ってる。
武道館を夢見るミュージシャン志望の子は数多いし、
実際に武道館で演奏できるバンドなんてその中のほんの一握りなんだ。

きっと私は何も残せない。
人は二度死ぬって澪が言ってたけど、
何も残せない私の二度目の死はかなり早く来そうだなって思わなくもない。

澪の歌が始まる。
恋に憧れる女の子の甘い想いを歌っていた澪の『現在』の歌。
今を生きる私達の願いや叫びを込めた歌。
過去や未来じゃなくて、
『現在』を生きてる……、
『現在』以外生きられない私達の精一杯の想いの歌だ。

今、私達は此処に生きてるんだ。
今、私達は強く皆の事を想ってるんだ。
今、お互いに想い合ってるんだって……。

澪は歌う。
喉を震わせて、想いを叫ぶ。
作詞した澪の想いだけじゃない。
私達放課後ティータイムの想いだけでもない。
講堂中の皆の想いを代弁し、それを澪が歌として終わる世界に響かせていく。
世界が終わる事自体はどうしようもない。
過去や未来を奪い去っていくのも気にしない。

でも、私達の『今』だけは絶対に奪わせない。
過去に逃避せず、未来に絶望せず、私達は最期まで笑顔で生き抜いてみせる!

思う。
私は何も残せない。
もしも終末が来なくたって、私の二度目の死は多分早い。
世界の皆はすぐに私の事なんて忘れちゃうんだろう。
私が居なくても、世界は何事もなく廻っていくんだろう。

だけど、構わない。
私は今を生きた。生きられたんだから。
傍目には何の価値も無い人生だったとしても、
少なくとも私の仲間達は……、澪は私の事を憶えていてくれるだろう。
私だって、澪の事は私が死ぬまで心のど真ん中に居てもらい続ける。
何をしてても、何をしてなくても、あいつの事を忘れる事は絶対に無い。

忘れてやるもんか。
私にはそれで十分だ。
偶然に過ぎないんだろうけど、私は澪と出会えて、音楽にも出会えた。
放課後ティータイムを組めて、本当に楽しくて仕方が無い高校生活を送る事もできた。

今だって、終末の前日だってのに、
こんな多くの観客の前でライブをやれてるし、
明日死ぬってのに、笑顔でドラムを叩けてるんだぜ?
すっげー嬉しい……。すっげー嬉しいよ!



711 名前:にゃんこ:2011/10/24(月) 21:30:23.34 ID:Ie10TeSW0

唯が何度もミスをした難所を楽しそうに弾き終わる。
梓が何百回も練習したんだろう技巧で確実な演奏に徹する。
ムギが私好みに組あ上げてくれた曲を笑顔で弾いてくれる。
私が皆のリズムを支える。
今回ばかりは皆のために確実なリズムを叩いてみせる。
特に澪はベースと歌の両方を同時にこなさなきゃならないんだからな。

澪の腕前なら問題ないと思うけど、
少しでも澪の負担を減らしてやりたいし、一つ個人的な我儘を通したかった。
澪の歌声をもっと綺麗な音色にしたい。
澪には私のドラムのフォローに回る事を考えず、より完全な形でこの新曲を歌ってほしい。
その見事な歌声をもっと響かせてほしいから。
もっと聴いていたいから。
だから、私はできる限りの精一杯のリズムをドラムで刻むんだ。

私達の演奏は融合し、一つの大きな旋律になる。
その旋律に澪が聴き惚れるような歌声を、想いを、魂を乗せていく。
演奏中、一瞬だけ澪が私の方に視線を向けた。
いつも必死な形相で歌うくせに、その時の澪の表情は満足気な笑顔だった。
多分、私も笑顔を浮かべてると思う。
こんな最高の演奏は初めてだった。

いや、ライブでの演奏はいつも最高の演奏だけど、
今回の最高はこれまでの最高の何倍も最高の演奏だった。
観客の皆も私達の新曲に聴き入ってくれているみたいだ。
「あんまり上手くないですね」と唯に言われた私達の演奏が此処まで来れるなんてな……。
勿論、それは練習を続けてたからってのもあるんだろうけど、
それよりも私達の絆が深まったから私達は此処まで辿り着けたんだって私は思いたい。
この演奏は私達の絆の形なんだって。

そうして、演奏が終わる。
メンバーの誰もが自分に奏でられる精一杯の音楽を響かせた。
私自身も含めて、それぞれに自分達の想いを世界に刻み付けられたはずだ。
私達の絆を見せ付けてやれたはずだ。

沈黙が講堂を包み、私は少し不安になった。
この新曲は求められていた物と違ってたんだろうか?
今の演奏は私達の自己満足だったんだろうか?
観客の皆に私達の想いを届ける事まではできなかったんだろうか?

不意に。
澪が少しだけ私の方に顔を向けながら、左目を閉じて小さく舌を出した。
アッカンベーってやつだ。
それは私に向けられたものじゃない。
唯にも、ムギにも、梓にも、観客の皆にも向けられたものじゃない。
それはきっと終末に向けてのアッカンベーだ。

結局、私達は終末には勝てなかった。
だけど、きっと負けもしていない。
色んな間違いや失敗はあったけれど、
最終的に私達は絶望には囚われなかったし、恐怖から逃避する事もしなかった。
こんなに多くの観客の皆の前でライブだって開催できてる。

だから、「どうだ!」って、澪は言ってるんだ。
勝てない戦いにしても、
この勝負は引き分けだって終末に言ってやってるんだろう。

澪の予想外の行動に観客の皆は呆気に取られてたみたいだったけど、
その数秒後には、歓声を上げて、講堂を包むような大きな拍手を始めていた。
終末や絶望を吹き飛ばしそうなくらいの大きな歓声と拍手だ。
その歓声と拍手は長い間続き、私達に新しい勇気とやる気を与えてくれていた。

もう一曲、皆に曲を届けたい。
ううん、一曲と言わず、十曲でも二十曲でも演奏し続けたい。
何度だって響かせてやるんだ。
私達の旋律と。
私達の想いを。



712 名前:にゃんこ:2011/10/24(月) 21:30:50.78 ID:Ie10TeSW0






放課後ティータイムの曲を全て演奏し終わり、
大歓声と大きな拍手に包まれた頃には、午後の十時を過ぎていた。
歴史に残るようなライブにできたかどうかは分からない。
それは観客の皆がそれぞれに胸の中で感じてくれる事で、
私達が勝手に決められる事じゃないんだと思う。
開催した側が歴史に残るライブを自称するなんて変な話だ。

だけど、少なくとも私達軽音部にとっては、
自分の歴史に残る最高のライブだったのは間違いないと思う。
完璧な演奏だったわけじゃない。
観客の皆には分からなかったかもしれないけど、
いくつか細かいミスもあったし、演奏する曲の順番やMCも少し失敗があったと思う。

決して完璧にはなれない私達の最後のライブ。
でも、それが今の私達の精一杯の姿で、ありのままのライブだった。
私達が私達のままで開催できたライブなんだ。
終末が近付いても変わりたくなかった私達の姿が、
いつまでも変わらない五人で居たかった私達の姿が観客の皆の心に少しでも残れば、
それだけでこのライブを開催した意味もあるって感じられる。

最後の曲のふわふわを演奏し終わった後、
私達はムギの持って来てくれていたケーキを切り分けて、観客の皆に配る事にした。
私達のライブに参加してくれたせめてものお礼として、
最後の私達の我儘に付き合ってくれた感謝の想いを込めて、一人ずつに丁寧に配る。

五人に分かれて、ケーキを配布していく。
私が担当した箇所は信代やいちごが座ってる客席がある方だった。
ケーキを配った後、私は信代とハイタッチを交わし、
そのまま勢いで信代の旦那とも軽くハイタッチを交わす。

それを見ていた周囲の皆が次々と手を上げていく。
皆、私とハイタッチがしたいらしい。
つい嬉しくなって、私は一人ずつと手を重ねていく。

ありがとう。
皆、これまでも、これからも、ずっとありがとう……!
胸が震え、涙が出そうになったけど、
決して泣かずに笑顔でハイタッチを交わしていく。

ほとんどのケーキを配り終わった後、
私が担当する最後の席にはいちごがマラカスを手に持って無表情に待っていた。
本当に持って来てたんだよなあ、いちごの奴……。
舞台上から見つけた時には驚いたけど、
いちごの隣の席の人も迷惑には思ってないみたいだったし、
逆に私達の演奏のアクセントになるようなマラカス捌きを見せてたから、それでいいかと思った。

勿論、舞台上までいちごのマラカスの音が聞こえてたわけじゃないけど、私だってドラムの端くれだ。
いちごの身体の動きを見れば、私達の演奏と合わせたマラカス捌きだったって事くらいは分かる。
一度も合わせた事も無いのに、そんなにも私達の曲と合わせられるなんて、
よっぽど私達の曲を好きでいてくれたんだろうなって思う。

私は軽く微笑んで、いちごと視線を合わせる。
視線が合った一瞬後、いちごは足下にマラカスを置くと、私の胸の中に飛び込んできた。
予想外ないちごの行動だったけど、
私はすぐにいちごの身体を受け止めてから強く抱き締めた。
不思議だな。私も丁度いちごに抱き着きたい気分だったんだ。

いちごは私の背中に手を回す。
私はいちごの耳元で「ありがとう」と囁く。
私の胸の中でいちごも「律も」と震える声で呟いた。

抱き合っていた時間は、十秒にも満たなかった。
いちごが私から身体を離すと、
私の用意してたケーキを受け取り、席に座って食べ始めた。
それからいちごは私から目を逸らして無表情な顔をしてたけど、
その頬は少しだけ赤く染まっていて、その肩は少しだけ震えていた。

小さく息を吐いてから、私はいちごの肩に手を置いて、「またな」と言った。
多分、涙の別れは私といちごには似合わない。
ケーキを食べながら、いちごは無表情に頷いた。



713 名前:にゃんこ:2011/10/24(月) 21:31:19.31 ID:Ie10TeSW0

ケーキを客席の全員に配り終わると、軽音部の皆は舞台上に集まった。
結構切り分けたはずだったけど、
ムギの持って来たケーキは二ホール余っていた。
一ホールは私達の分にするとして、
残りの一ホールをどうしようかと考えていると、急に唯が名乗り出た。
「一ホール全部を食べてみたい」というのが唯の主張だった。

本気で食べる気なのか……。
でも、別に断る理由も無いから、
「やれるもんならやってもらおうか」と言って、
私は残ったケーキの一ホールを唯に提供してやった。
流石の唯とは言え、途中で諦めるだろうと思っていたら、
見る見る内に本当に一ホールを一人で平らげやがった。
すげーよ、こいつ……。
一種の化物みたいなもんだな……。

だけど、一ホール食べ終わった唯は、しばらく舞台上から動けなくなってしまった。
そりゃそうだ。一人で一ホールも平らげやがったんだからな。
私達は舞台上に転がる唯を憂ちゃんに任せて、
ケーキを食べた人から各自解散してくれていい事を客席の皆に伝えた。
もう予定は入ってないみたいだけど、講堂をこのまま占拠しておくわけにもいかないからな。

そのすぐ後、皆はケーキを食べ終えたみたいだったけど、誰一人として講堂から出ようとしなかった。
このライブを終えてしまったら、いよいよ日曜日。
……終末なんだ。
楽しい時間を終えて、残酷な現実に目を向けたくないのは私も一緒だった。

でも、そんなわけにもいかない。
どうにか解散してもらおうと私がマイクを持つと、
私が何を言うよりも先に、一人の観客がマラカスを鳴らしながら講堂から出ていった。
あえて目立つように「じゃあ、またね」と大きな声を出して、すぐにその場から居なくなった。
勿論、そうしたのはいちごだった。
皆が帰りやすい雰囲気を作ってくれたんだろう。

でも、このままいちごを一人で帰らせるのは危険だ。
私が走っていちごを追い掛けようとすると、
「またな、律! 私もいちごと一緒に帰るよ!」と春子がいちごを追い掛けて行った。
いちごの行動が春子の躊躇いを消してくれたんだ。
春子だけじゃない。講堂に居る観客の皆の躊躇いや苦しみまで……。

客席の皆が、一人ずつ意を決したように席から立ち始める。
「またね」、「じゃあね」、「ありがとう」、
そんな言葉が上がりながら、講堂から人が居なくなっていく。
私は……、私達はお辞儀をして、そのまま頭を下げ続ける。
いちごに……。皆に、最大限の感謝を込めて。
私に続いて澪と梓、ムギも頭を下げて観客の皆を見送る。
唯も慌てて澪達に続き、憂ちゃんと一緒に観客の皆に頭を下げた。

皆、最高のライブをありがとう。
私達はこの日の事を死ぬまで心に刻むから。
死んだって、憶え続けてやるから……。
だから、本当にありがとう……!
またな、皆……!

こうして、最後のライブは本当に終了した。



714 名前:にゃんこ:2011/10/24(月) 21:33:36.28 ID:Ie10TeSW0



今回はここまでです。
すみません、まだ終わりませんでした。
でも、次回こそ多分最終投下です。

しかし、意外にもいちごが大活躍ですね。
最初出す予定じゃなかったのに、存在感あるなあ、いちご。




715 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/25(火) 00:54:57.74 ID:fjCw5zEo0


ライブ編すごい感動したよ
いちごけっこう登場してたしいいキャラだったな



716 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/25(火) 01:49:24.47 ID:n57KvOd0o


このライブ映像で見たいな・・・感動した
最終回寂しいけど楽しみにしてます





717 名前:にゃんこ:2011/10/26(水) 20:56:40.90 ID:2qeuKkVP0






講堂の後片付けがそれなりに終わった後、
今日はもう遅いし、明日講堂が使われる予定も無いから、
講堂の後片付けはある程度で大丈夫だって和が言ってくれた。
それに残った講堂の後片付けは、
私達のライブを見に来てくれた先生達が明日やってくれるそうだ。

そんなのは先生達に悪いって私達は言ったけど、
和は微笑んで「先生達も好きでやりたい事らしいから」と返した。
申し訳ない気は勿論する。
でも、先生達の言ってる事も理解できる気はした。

私達はこの学校に三年間在籍しただけだけど、
当然ながら愛着もあるし、卒業する事に寂しさも感じてた。
だから、私達より遥かに長い間この学校に勤めてる先生達の愛着は、
私達の愛着なんか比べ物にならないくらいなんだろうな、って思う。
世界の最後の日も過ごす場所に選びたいくらいに……。
それでも私は何かを言おうと思ったけど、
和はもう一つだけ私達に先生達の言葉を代弁して贈ってくれた。

「若いんだから、思うように生きなさい。
 後片付けくらいは先生達に任せてくれていい。
 いいライブを見せてもらえたお礼だ」

そう言われちゃ、私も引き下がらないわけにはいかなかった。
そうして、私は和に今は居ない先生達へのお礼を頼んで、
澪と一緒に皆の荷物を音楽室に取りに行く事にしたわけだ。

唯達はもう少しだけ講堂を片付けるらしい。
主にムギの持って来たケーキの箱の後片付けだけどな。
先生達が明日片付けてくれるとは言っても、
流石に自分達の持って来た物くらいは片付けておかないとな。
唯達とはその後で校門で合流する事になってる。

私は澪と手を繋ぎ、無言で音楽室に向かって行く。
二人の間に言葉は必要無かった……わけじゃないけど、
多くの想いが胸の中に生まれては消えてて、上手く言葉にできそうになかった。

ライブ中、澪とセッションしながら、私は気付いていた。
今更過ぎるけど、私は澪の事が本気で好きなんだって。
傍に居たいし、抱き締めたいとも感じてる。誰よりも大切にしたいとも。
これは恋愛感情……なんだろうか?
またそこが分からない。

根本的な問題になっちゃうけど、友達と恋人の境界線は何処にあるんだろう?
傍に居る事や抱き締める事や誰よりも大切するって事は、
別に恋人じゃなくても友達って立場のままで十分にできる事だと思う。
だったら、友達と恋人の境界線って何だ?
やっぱり、アレなのかな……?
キス……とか、オカルト研の中に居た二人みたいに裸で、とか……。
そういう事をしてこその恋人なのかな……?

変な事に思い至ってしまって、私は自分でも分かるくらい顔を赤くしてしまう。
でも、これも澪と友達以上恋人未満の私としては、考えなきゃいけない事だよなあ……。
こればかりは私一人で答えを出せる事でもなさそうだ。
明日、勇気を出して、澪の家でその話をしてみようと思う。
「恥ずかしい事を聞くな!」と五回くらい殴られるかもしれないけど、覚悟を決めて話し合おう。
それこそ私が明日やらなきゃいけない事だ。

にしても、五回か……。
あいつ腕力結構あるから、五回殴られるのは辛いな……。
だけど、澪に殴られるんならあんまり嫌じゃないかな……、って私ゃМか!
……一人でボケて、一人で突っ込んでしまった。
誰が見てるわけでもないのに、何だか気恥ずかしい。
恋愛初心者の中学生みたいだな、ってつい苦笑してしまう。
もうすぐ世界の終わりなのに、こんな事で思い悩めるなんて、すごい幸せな事なのかも。



718 名前:にゃんこ:2011/10/26(水) 20:57:44.73 ID:2qeuKkVP0

しかし、関係無いけど、
火曜日にオカルト研の部室に居た女二人のカップルは結局誰だったんだ?
オカルト研の部室に居たって事は、オカルト研の子達の関係者なのか?
それとも学校に侵入した単なる不審者か?
何か不審者だと嫌だから、オカルト研の子達の関係者だって事にしておこう。

そんな事を考えてる内に、私達は音楽室の入口の前に辿り着いていた。
澪がポケットから音楽室の鍵を取り出し、鍵を開けて音楽室の扉を開く。
電気を点けると、音楽室に異変が起こってる事にすぐに気付いた。
私達がライブに向かう前とは、音楽室の中の様子がかなり変わってしまってたんだ。

席の配置が若干変わってるし、
片付けていたはずの音楽室の備品が何個か無造作に転がってる。
私達より後に出たのはさわちゃんだから、
さわちゃんがやったんだと考えられなくもなかったけど、それは違うはずだと私は感じていた。
ああ見えてさわちゃんはしっかりした音楽の先生だ。
意味も無く音楽室を散らかすような事は絶対にしない。

だとしたら、不審者……?
その考えに至った私は身構え、澪を庇うように自分の身体を前に出した。
明日死んでしまうとしても、澪に危害を与える事は絶対に赦せない。
誰が相手でも、どんな不審者が襲い掛かって来ても、
澪だけはこの身に代えても護ってやるんだ……!

息を呑んで、音楽室の中を見回す。
誰か潜んでないか?
音楽室の中に他に異変は無いか?
私達の荷物は無事なのか?
慎重に、用心深く音楽室の様子を丹念に探っていく。
瞬間……、

「あっ……!」

不意に澪が驚いた声を上げる。
口元に手を当てて、異変を見つけたらしい箇所を指し示す。
私は更に身構え、澪が指し示したホワイトボードに視線を向け……、
って、ホワイトボード……?

ホワイトボードを目にした私は一瞬にして力が抜けてしまい、その場に軽く倒れ込んでしまった。
どう反応したらいいのか分からなかったからだ。
ホワイトボードには大きな文字で、
『DEATH DEVIL参上!! by.クリスティーナ』と書いてあった。

何をやってるんだ、あの人は……。
考えてみれば、音楽室を出た後、さわちゃんは扉に鍵を掛けたはずだ。
こんな御時勢だし、鍵を掛け忘れるなんて事はないと思う。
という事は、音楽室に侵入できるのは鍵を持ってる人間だけになる。

本来なら部外者のクリスティーナ……、紀美さんだけど、あの人も元軽音部なんだ。
何となく記念でスペアキーを作ってるなんて事は……、あり得る。
超ありそう。何と言ってもあの人も『DEATH DEVIL』なんだからな……。
でも、そう考えれば、音楽室がちょっとだけ散らかってるのも納得できる。
きっと懐かしくなって、昔の軽音部の思い出の品なんかを探したりしてたんだろうな。



719 名前:にゃんこ:2011/10/26(水) 20:58:23.90 ID:2qeuKkVP0

私は小さく苦笑しながら探ってみたけど、
どうやら紀美さんも含めて、音楽室の中には私達以外に誰も居ないみたいだった。
紀美さん、もう居ないのか……。
挨拶したかったなとは思う。
でも、紀美さんが学校に来てくれてたって事は嬉しかった。

多分だけど、紀美さんはラジオが終わった後で、私達のライブを観に来てくれてたんだろう。
私達のライブがある事を、さわちゃんが紀美さんに伝えてくれてたんじゃないかな。
勿論、単に懐かしくなって音楽室に顔を出してみただけかもしれないけど、
本当に私達のライブを少しでも観てくれていたら嬉しい。

何となく、もう一度ホワイトボードに目を向けてみる。
よく見ると『DEATH DEVIL参上!!』以外にも色々細かく書いてあるみたいだ。
『ラジオもヨロシク!!』とか、『ヅラクター給料上げて!!』とか、
私達に言えた事じゃないけど、かなりフリーダムな落書きだな……。

だけど、そんな中にも紀美さんの気遣いが見て取れた。
その落書きは私達の落書きとは重ならないように書かれてたからだ。
私達の落書きにも何かの想いが込められてるかもしれないって思ってくれたんだろう。
今は単に取り留めの無い唯の落書きがあるくらいだったけど、
そんな事にも気の回る紀美さんの優しさが何だかとても温かい。

「これ……、いいな……」

ホワイトボードの上に何か気になる言葉を見つけたらしい。
すごく嬉しそうな顔で澪が呟いた。
澪の視線の先には紀美さんらしい洒落の効いた言葉が記されていた。
私も思わず笑顔になって、後ろから澪の背中に抱き着いた。
しばらくそのまま二人でくっ付いて笑顔を浮かべ合った。



720 名前:にゃんこ:2011/10/26(水) 20:58:49.31 ID:2qeuKkVP0






着替えを終わらせて校門に向かうと、
衣装の上に上着を羽織った皆が私達を待っていた。

「りっちゃん、澪ちゃん、おそーい!」

唯が腕を頭上に掲げながら頬を膨らませる。
そんなに遅くなったつもりはなかったけど、
紀美さんの事を考えたりなんかしてたから、思ったより時間が掛かってたのかもしれない。
そういう意味で唯は私達の事を遅いって言ったんだろうな。

「悪い悪い」と言いながら、私は唯達に荷物を手渡そうとする。
数秒、唯の時間が止まった。
そう見えるくらい、唯は私から自分の荷物を受け取ろうとしなかった。
受け取ってしまったら、遂に私達の別れの時間が始まる。
それを分かってるから、唯は自分の荷物を手に取りたくなかったんだろう。
私は唯に何も言わなかった。
唯の気持ちは痛いくらい分かるし、唯なら大丈夫だろうと信じてたからだ。

もう少しだけ、時間が流れる。
時間は止まらない。
何をしていても、時間を止めようとしても、別れの時間は刻一刻と迫って来るだけだ。
唯もそれは分かってたんだろう。
躊躇いがちにだけど、力強く私から自分の荷物を受け取って笑った。

「ありがと、りっちゃん。
 ……カチューシャ着けたんだね」

急に話題を変えられてちょっと焦ったけど、私も唯に合わせて軽く笑った。

「まあな。カチューシャは私のトレードマークだからさ。
 やっぱりカチューシャ無しじゃ私らしくないじゃん?
 前髪が邪魔ってのもあるけどさ」

「そうかなー?
 前髪を下ろしたりっちゃんも可愛いと思うんだけど……」

「あんがとさん。
 じゃあ、逆におまえがカチューシャ着けてみるってのはどうだ?
 予備はまだあるから、いくらでも貸してやるぞ」

「ごめんなさい!
 おでこ丸出しだけは勘弁して……!」

唯が自分のおでこを隠すみたいに両手で押さえる。
きっぱり出せ、きっぱり!
と言いたいところだったけど、
私が前髪を下ろすのを恥ずかしいと感じるように、
唯もおでこを出す事に何らかの恥ずかしさを感じてるんだろう。
切り過ぎた髪を誤魔化すためのカチューシャすら断ったくらいだからな。

よっぽど自分のおでこ丸出しに自信が無いんだろう。
だから、私はそれ以上、唯にカチューシャを強要しなかった。
困った時はお互い様ってやつだ。
……何か違う気もするが。

「でも、本当にりっちゃんの前髪下ろした姿って素敵だよ」

そう言ったのはムギだった。
しまった。
ムギはどんな髪型でも恥ずかしがらないから、今唯に使った誤魔化しが通用しない……!
私はムギから目を逸らして、全く違う話題を梓に振った。



721 名前:にゃんこ:2011/10/26(水) 20:59:25.13 ID:2qeuKkVP0

「そうそう。
 私達の髪型の事なんかより、純ちゃん達はどうしたんだ?
 もう帰っちゃったのか?」

梓は私の考えに気付いてたらしく苦笑してたけど、
「そうですね、純は……」と私の振った話題に乗ってくれた。
恩に着るぞ、後輩よ……。

「純は憂と和先輩と一緒に帰りました。
 何か今日のライブに触発されたみたいで、
 明日、私の家で『No, Thank You!』の楽譜を見せてほしい、って言ってましたよ。

 あ、そうだ。
 そんなわけなんで、純に楽譜を見せてもいいですか、ムギ先輩?
 作曲者はムギ先輩だから、一応許可を取っておきたいんですけど……」

「勿論よ、梓ちゃん。
 私達の曲を好きになってくれて、
 演奏しようと思ってくれるなんて、こんなに嬉しい事はないもの。
 作曲者冥利に尽きるって、こういう事なんだって思うな」

幸せそうにムギが笑う。
私が髪型の話題とは違う話題に変えた事は、全然気にしてないみたいだった。
それは勿論嬉しいんだけど、
純ちゃんが『No, Thank You!』を好きになってくれた事はもっと嬉しかった。
純ちゃんだけじゃなく、今日ライブに来てくれた皆の心に私達の曲が少しでも残ってるといいよな。
明日世界は終わるけど、これから一瞬でも私達の曲を思い出してくれたら嬉しい。

実は前触れがあるものなのかどうかは分からないけど、
もし明日来る終末に何らかの前触れがあったなら、
その瞬間から私は澪と一緒に『No, Thank You!』を口ずさみたいと思ってる。

結局、照れ臭いのもあって、
放課後ティータイムの曲に私がメインで歌う曲は作らなかったけど、実は全曲口ずさめるんだよな。
誰も知らないだろうし、誰にも教えてないけどさ。
だから、最期まで歌ってやろうと思う。
多分下手だろうと思うけど、隣に澪が居るなら安心だ。
澪の綺麗な歌声を見本にしながら、終末相手に歌ってやれるだろう。

「さわ子先生は?」

荷物を手渡しながら、澪がムギに訊ねる。
そう言えば、ライブ後に一番に私達に駆け寄って来そうなさわちゃんの姿を見てない。
「私の衣装の見立てはやっぱり完璧だったでしょ!」
とか嬉しそうに言って来るのが、いつものライブ後なんだけどな……。
ムギは寂しそうに笑ってから、澪の質問に応じる。

「さわ子先生は今から誰かと会う予定があるみたい。
私達が講堂を片付けてる途中に、
「いいライブだったわよ」って言って、講堂から出て行っちゃったの。
これから飲み明かすとも言ってたから、
お友達と会うんじゃないかって思うんだけど……」

相手は紀美さんかな?
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれなかった。
さわちゃんに会えなかったのは残念だったけど、そんなに悔しいわけでもない。
私達とさわちゃんのお別れは、ライブ前にもう終わらせてるんだ。
だから、ムギも寂しそうではあったけど、その表情に悲しさや後悔はないみたいだった。

それにしても、ライブ後に五人だけで集まれるなんて実は思ってなかった。
さわちゃんか憂ちゃんくらい、
私達と一緒に帰宅する事になるんじゃないかと思ってた。
多分、憂ちゃんもさわちゃんも、
純ちゃんや和も私達と一緒に帰りたいと思ってはいたはずだ。

でも、そうはしなかった。
私達を五人だけにさせてあげたいって、
五人だけで話をさせてあげたいって、そう思ってくれたんだろう。
気を遣わせちゃって申し訳ないけど、その好意を無駄にするのはもっと申し訳なかった。
私は心の中で四人にお礼を言ってから、梓に荷物を手渡して校門を後にする。
意を決した表情で、澪達も私に続いて校門を後にした。



722 名前:にゃんこ:2011/10/26(水) 20:59:52.07 ID:2qeuKkVP0

帰り道。
私達は今日のライブの反省点や梓の見事だったMC、
音楽室にあった紀美さんの落書きや、
美味しかったムギのケーキの事なんかを話しながらゆっくりと歩いていた。
残り少ない短い通学路を、少しでも長く歩けるように本当にゆっくりと歩いた。

でも、短いと思ってた通学路は、
予想以上に遥かに短くて……、
あっという間に私達がいつも解散する場所……、
いつもの横断歩道まで辿り着いてしまっていた。

胸が激しく鼓動を始める。
澪とは明日も一緒に過ごすけど、
唯、ムギ、梓とは一緒に過ごすわけじゃない。
時間があれば会いに行く事もあるかもしれないけど、
そんな時間があるかどうかも、いつ訪れるか分からない終末のせいではっきりしない。

いっそのこと、このまま五人で誰かの家に居続けるってのはどうだろう?
多分ものすごく広いんだろうムギの家で、セッションし続けるってのは……?
何度も考えてた私達の週末の……、終末の過ごし方が浮かんでは消える。
本当にそうできたら、どんなに楽になれるだろう。

でも、そうするわけにはいかなかったんだ。
一瞬は楽にはなれるだろうけど、すぐに後悔しちゃう事は分かり切ってる。
それは私達が一番したくなかった逃避に身を任せるって事だし、
終末当日にもそれぞれがやらなきゃいけない事が残ってる。

私は澪を大切にする。誰よりも大切にする。
澪は私の想いを信じて傍に居る。答えを二人で探し合うために。
梓は純ちゃんと『No, THank You!』の練習を行う。
私達の想いを少しでも広げるために。

まだ直接聞いてはいないけど、唯は一番大切な妹の傍に居るんだろうと思う。
自分と一緒に居たいのを我慢してくれた憂ちゃんの傍で、
最後の日こそは二人きりで終末を迎えようとしてるんだろう。
ムギも口にこそ出さないけど、最後の日は家族と過ごそうと思ってるはずだ。
終末まで私達と一緒に居たいって言ってくれたムギだけど、
家族をないがしろにできないのもムギって子のはずだった。
少なくとも私の中ではムギはそんな子だ。

だから、もう十分だ。
私達の中で一番自由が取れない立場なのに、ムギはずっと私達の傍に居てくれた。
ムギの家族も長い間待っててくれた。
放課後ティータイムを大切にしてくれるのは嬉しいけど、
ムギはもう自分を大切にしてくれてる家族に目を向けてもいいんだ。

横断歩道の前で動きを止める皆を、私は思い切り腕を広げて抱き寄せる。
小さな私の身体だけど、皆を強く抱き寄せるくらいの事はしてみせる。

「りっ……ちゃん……?」

泣きそうな声で唯が呟く。
怯えてるみたいに震えている。
唯だけじゃない。澪も、ムギも、梓も、多分、私も。
だけど、私は言った。
最後まで笑って終末を迎えてやるのは、私だけじゃなく、全員の決心なんだから。



723 名前:にゃんこ:2011/10/26(水) 21:00:17.80 ID:2qeuKkVP0

「唯。お菓子に釣られてかもしれないけど、軽音部に入部してくれてありがとう。
 おまえのおかげで廃部を免れたし、おまえの笑顔を見てるのは楽しかったぜ?
 私もおまえのおかげで辛い時も笑顔になれてたと思う。
 だから、笑ってくれ、唯。私はおまえの笑顔が大好きだ。
 私だけじゃない。皆、唯の事が大好きだよ」

「え……、えへへ……。
 そっ……だね。そっ……だよね。
 楽しかった……もんね。
 この三年間、ずっと楽しかったもんね。
 笑ってなきゃだよね。

 明日の事は恐いけど、でも、何か私、気付いちゃった。
 りっちゃんのおかげで気付けちゃった。
 これからの事を恐い気持ちの大きさと、
 今まで感じた嬉しい気持ちの大きさを比べたら、
 嬉しい気持ちの方がずっとずっとずーっと大きいよ! 何かすごいよね!
 それが分かっちゃったら、笑ってない方が勿体無いよ!」

「もう……。
 唯先輩も律先輩も何を言ってるんですか……」

呆れた声色で梓が呟く。
梓はもう、震えてなかった。

「そんなの当然じゃないですか。
 笑ってる方が楽しいんだって、
 幸せな気持ちでいた方が素敵なんだって、
 それを教えてくれたのは先輩達じゃないですか。
 だから、先輩達は責任を取って笑ってて下さい。
 私なんか、先輩達のせいでよく「梓、変わったよね」って言われるようになったんですからね。
 無理矢理影響を与えた責任を取って下さいよ!」

「あずにゃん、横暴だー……」

「横暴じゃありません!」

梓が言うと、唯の震えも止まり、
唯と梓は私の腕の中で顔を合わせて笑った。
釣られて、ムギも笑い始める。

「嬉しいな。
 こんなに大切なお友達ができるなんて、とっても嬉しいな……。
 私ね、皆には言ってなかったけど、本当は不安だったの。
 桜が丘に入学したのは自分の意思だったんだけど、
 知り合いなんてほとんど居ないし、お友達ができるかのかなって不安だったの。

 でもね、すぐにりっちゃんと澪ちゃんが軽音部に誘ってくれたでしょ?
 最初は単に面白そうだなって思ってただけだったんだけど、
 りっちゃん達は楽しくて優しくて……、それがすっごく嬉しかった。
 それを思い出すと、明日なんて恐くないよ。

 これからも何度も恐くなるかもしれないけど、
 皆が傍に居た、皆が傍に居るって思うと大丈夫。
 私達はずっと一緒だもんね。皆のキーホルダーみたいに。
 私にも見えるよ。今は此処に無い皆の鞄のキーホルダーが。
 勿論、梓ちゃんのキーホルダーもね」

最後に澪が力強く腕を広げ、
皆の背中に手を回すと一言だけ言った。
もう多くを語りはしない。

「私達はいつまでも仲間だよ」

当然だ、と言う代わりに私はまた皆を強く抱き寄せた。
皆の体温を皆で感じ合う。
私達は生きた。私達は生きてる。
この生きた証を……、皆の体温を最後の時間まで絶対に忘れない。
少し名残惜しかったけど、私は皆から腕を離す。
別の道を歩いても、離れていても、仲間なんだ。



724 名前:にゃんこ:2011/10/26(水) 21:02:12.06 ID:2qeuKkVP0

皆の顔を見回しながら、私は不意に思った。
私と澪は一つだけ皆に隠し事をしている。
皆、気付いてるかもしれないけど、
それを伝えないのは皆の信頼を裏切る事になるのかもしれない。

終末とは違った意味で緊張してくる。
でも、こんな緊張なら悪くない。
私は苦笑して、頭を掻きながら口を開いた。

「あの……さ……。
 私と澪の事なんだけど、実は私達は……」

瞬間、唯がわざとらしい欠伸を上げた。
疲れているのは確かなんだろうけど、その欠伸は間違いなく演技だった。
欠伸を続けながら、唯が言う。

「りっちゃんと澪ちゃんが大切な幼馴染みだって事は知ってるよ?
 今更それをまた主張するなんて妬けますな、田井中殿。
 その続きは二人の仲がもっと進んでから教えてほしいなー。
 今日の私に人の惚気話を聞く体力は残されていないのです!」

うんうん、と唯の言葉に同意するみたいにムギと梓が頷く。
何だか拍子抜けだけど、やっぱり唯達も分かってるんだろうな。
私と澪が自分達の関係を模索してて、今は友達以上恋人未満の関係なんだって事を。
抱き合ってる場面も見られたんだ。そりゃ気付くよな……。

自分の口から伝えるべきだと思ってたけど、
それをはもしかしたらお互いに野暮ってものなのかもな。
とりあえず伝えておこうと思ったのは、
隠し事を告白して安心したいっていう自己満足だったのかもしれない。
その私の気持ちを察したみたいに、珍しく唯がすごく優しい表情を浮かべた。

「確かりっちゃんは明日は澪ちゃんと一緒に過ごす予定なんだよね?
 明日、りっちゃんと澪ちゃんに何かあったら、月曜日に教えてくれると嬉しいな。
 楽しみにしてるね」

月曜日……、来週か。
そうだな……。
明日、澪と二人で何かの答えが出せて、
もしもまた月曜日を迎える事ができたなら、一番に皆に伝えよう。
どんな答えを出せたとしても、包み隠さずに全てを伝えたい。

私が澪に視線を向けると、澪も軽く頷いた。
早く澪と色んな事を話し合いたいな……。
拳骨五発を覚悟しとかなきゃいけないのは、ちょっと気が重いけどさ。

唯達が私と澪に背を向けて横断歩道を渡っていく。
私と澪は静かに皆の背中を見送る。
別れの胸の痛みも今なら耐えられそうだ。
不意に唯が私達の方に振り返って言った。



725 名前:にゃんこ:2011/10/26(水) 21:02:55.91 ID:2qeuKkVP0

「じゃあね、りっちゃん、澪ちゃん!
 また来週!」

唯に続いて、梓が大きく手を振って叫ぶ。

「明日は律先輩も澪先輩も元気に過ごして下さいね!
 また学校で会いましょう!」

「しーゆーねくすとうぃーく!」

「何故英語っ?」

ムギが何故か英語で言って、澪が突っ込んでから穏やかに笑う。
と。
私はホワイトボードに書かれていた紀美さんの言葉を思い出した。
お気楽でお間抜けで世界の最後まで笑う予定の私達が、今言うに相応しい言葉だと思えたからだ。

私は身体中で大きく手を振った。
唯に。ムギに。梓に。澪に。
明日私達は世界と自分達の終わりを迎える。
辛いんだろう。苦しいんだろう。悲しいんだろう。
その恐怖を忘れる事は決してできないだろう。
でも、笑う。笑って終わりを迎える。
それが私達が私達なんだって事だから……。

だから、私は大きく手を振って、声の限りに叫んだ。
この世界と、この世界の全ての人達に向けて。
精一杯に。

「またな、皆!
 日曜だからって気を抜いて風邪ひいたりすんなよ!
 月曜からはまた皆で遊ぼうぜ!
 だから……、だからさ……、皆――」




――よい終末を!










               おしまい



726 名前:にゃんこ:2011/10/26(水) 21:07:08.42 ID:2qeuKkVP0



今回で最終回です。
冗長な面もありましたが、自分にしては場面ごとに中々いい展開に出来たと思います。
読んで下さった皆さんのおかげです。
友達が読む予定なんで、一週間ほど置いてからHTML化の依頼をしようと思ってます。
その間、何か分からなかった点や質問などありましたら、何でも聞いてください。
出来る限り、お答えしようと思います。
それでは、半年もの間、本当にありがとうございました。




727 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/26(水) 21:37:50.33 ID:ZVqm+7+IO

乙でした!

最高?

よい、終末を。



728 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/26(水) 22:26:33.55 ID:UwRhjNKSO

終末に向けて皆が一つにまとまっていく所とかすごい良かった




729 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/26(水) 23:26:17.47 ID:/NLBuN/x0

元ネタ知らなかったけどすごい楽しめた




730 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/26(水) 23:37:47.51 ID:DhXIF6VGo

半年間お疲れさまでした。毎回更新楽しみにしてました
また最初から読み返そうと思います



731 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/10/26(水) 23:49:07.01 ID:XlW7TuSo0


面白かったよ



732 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/27(木) 08:47:46.52 ID:BAE/eu/IO

凄く良かった
終末感がほんとに伝わってきた
心がちょっと苦しい
日曜日を詳しく言及しない終わり方も切なさに拍車をかけます
一日もっと大事に生きたいて少し思いました
ありがとうホントに



733 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/27(木) 15:47:24.08 ID:kdW7YuTi0

昨日はエラー続きで書き込めなかった。
>>1さん乙でした。



734 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/10/28(金) 21:16:35.08 ID:iwMJxZ9r0

ご苦労様でした



737 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/10/31(月) 02:11:55.44 ID:AUEPPTnso

>>736




735 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/10/29(土) 02:38:16.90 ID:oHTcI8Alo

と、ここでネタばらし





736 名前:にゃんこ:2011/10/30(日) 20:40:40.62 ID:PgVtK3jr0

>>735

これにはりっちゃんも苦笑い。
って、いやいや。
その発想はちょっとありました。


友達が保存してくれたみたいなんで、
ちょっと早いですがHTML化を依頼しようと思います。
皆さん、多くのご感想をありがとうございました。
胸に刻んで、次回作に繋げたいです。



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律「終末の過ごし方」#16
[ 2012/03/31 21:17 ] 非日常系 | 終末の過ごし方 | CM(2)

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タイトル:
NO:6150 [ 2012/04/01 01:37 ] [ 編集 ]

よそで一気読みしたんだが、ホントいい作品だった。
副作用でNoThankyou聞くと変なテンションになるようになったがw

タイトル:承認待ちコメント
NO:6843 [ 2016/09/02 18:06 ] [ 編集 ]

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