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梓「私、結婚しますから」#4 【恋愛】


SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPServiseより

http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1330186585/l50
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1330273140/

梓「私、結婚しますから」#index


194 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 03:53:22.67 ID:1FD7vy2wo

帰り道

すっかり陽が落ちるのも早くなって、私達は四人、ぶらぶらと歩いています

あれから少し練習して、あずにゃんが帰っちゃいました

何でも憂とお買い物に行くのだとか

私も何だか変な調子で、「付いていく」と言えるわけもなく見送っちゃいました

唯「ねーねー、むぎちゃん」

紬「んー?どうしたの、唯ちゃん」

唯「あの二人、今日はなんだかずっといちゃいちゃしてるね」

前方を歩く二人の背中を見ながら、言ってみます

唯「私がおトイレ行く前は普通だったと思うんだけど」

紬「あー。……色々あるんじゃない?二人とも、仲良いもの」

そう言って笑うむぎちゃん

なんだか上手くはぐらかされた気もするのですが

でも、二人とも付き合ってるからだよね

私がそれを知っちゃったから、普段よりもいちゃいちゃしてるように見えるのかも知れない

……羨ましいな。私も、あずにゃんとあんな風に歩きたいな



195 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 03:53:51.80 ID:1FD7vy2wo

唯「……あ」

そんな風に考えたところで、思いつきました

あずにゃんが一昨日、一緒に寝た時に言っていた台詞

あずにゃんの好きな人って、三人とも知ってる人なんだよね

……聞いてみようかな

あずにゃんだって、聞くのは反則だなんて言ってないし

今ちょうどあずにゃん居ないし

誰かがわかれば

私もその人の真似をすれば振り向いてもらえるかも

唯「あの……みんな、ちょっといいかな」

律「んー?」

前方を歩いていたりっちゃんと澪ちゃんが、揃って振り返ります

澪「どうしたんだ?」

唯「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」

首を傾げて、むぎちゃんが言います

紬「何?聞きたいことって」

唯「あのね」



196 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 03:54:21.87 ID:1FD7vy2wo

えっと、どう言えばいいのかな

って、考えるまでもないか

唯「その……あずにゃんの好きな人って誰かわかる?」

私がそう言った瞬間、三人は顔を見合わせました

澪「梓の好きな人って……」

紬「そりゃまあ、ねぇ」

律「まあな」

唯「し、知ってるの?」

律「まあ落ち着けって」

りっちゃんが私の肩をぽんっと叩きます

律「いきなりどうしたんだ?そんなこと聞くなんて」

唯「えっと。……一昨日のお泊まりの時に、あずにゃんに好きな人が居るって教えてもらって。
  それで、ちょっと気になっちゃって」

律「ふーん」

……なんでニヤニヤしてるんだろ、りっちゃん達

律「それでー、唯ちゃんはー、なんであずにゃんの好きな人が気になるのー?」

唯「そ、それは!」



197 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 03:54:49.29 ID:1FD7vy2wo

い、言っちゃおうか、あずにゃんが好きだからって

そしたら、これからも相談出来たりするかも……

いやでも、そうしたらあずにゃんに迷惑なんじゃないかな

なんかこう、部内で私があからさまに猛プッシュされたりしたら

あずにゃんには好きな人が居るんだから、それは迷惑になるかも……

唯「……あずにゃんからその人の印象を教えてもらったんだ。
  それで、その人がすごく完璧超人だったからさ」

どんな人かなーって、思っちゃって

律「ほほう」

澪「なあ、唯。梓は何て言ってたんだ?梓の好きな人をさ」

唯「え?んーとね」

心の中で繰り返して、言葉にします

唯「『かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。
  温かくて、優しくて。目が離せない人』だって」

私がそう言った瞬間、三人は笑い出しました

律「ま、マジかよ梓の奴……あはは!」

紬「本当に大好きなのねー、梓ちゃん」

澪「お、お前ら笑っちゃ失礼だろ!……あはは」

唯「えー?私なんか可笑しいこと言った-?」



198 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 03:55:15.77 ID:1FD7vy2wo

可笑しくはねーけど、とりっちゃんが笑いすぎて涙を拭いながら言いました

律「ご、ごめんな……梓、その人のことどれくらい好きだって?」

唯「ずっと一緒に居たいくらい大好きだって言ってたよ」

律「お前に?」

唯「え?うん。そりゃ、私とお話してた時だから」

律「梓も大胆だな、おい!」

澪「けっこう勇気あるんだな」

紬「いいわ……いいわよ……」

何だか三人の反応を見る限り、みんな誰だかはわかっているようです

でも、なんで笑うんだろう?

唯「その人知ってるの?みんな」

律「ああ、私達全員知ってるよ」

唯「じゃ、じゃあ」

澪「いや、教えることは出来ないな」

唯「えー!?」

な、なんでそんなイジワルするの?



200 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 03:55:46.20 ID:1FD7vy2wo

唯「む、むぎちゃんは……」

紬「ごめんなさいね、私もちょっと教えられないかなー」

そ、そんな……

澪「……そんな顔するなよ。まあ聞けって」

唯「うぅ……」

コホン、と澪ちゃんが咳払いして、

澪「確認だけど、梓はその事を他の人に聞いてもいいって言ってた?」

唯「……ううん。でも、ダメとも言われなかったよ。
  『他の皆さんに聞いても、きっとわかるはずです』って言ってたし」

澪「……信用されてるんだな、私達」

紬「唯ちゃんが私達に聞いてくるのも予想済みでしょうね、きっと」

澪「なあ、唯」

唯「ん?」

澪「やっぱり、梓の好きな人は自分で考えなきゃダメだよ。きっと梓もそれを期待してる」

唯「……うん」

澪「梓の言う通りだよ。その人の特徴を聞いただけで、私達は誰だかわかった。梓は良く見てると思うよ」

唯「本当にそんな人居るの?」

澪「ああ。私も時々、かっこいいなって思う瞬間があるし」



201 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 03:56:55.70 ID:1FD7vy2wo

律「確かにな。いつもはぼーっとしてるくせに、決める時はビシッと決めるし」

澪「あ、律もかっこいいよ?」

律「ばっ……い、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ、まったく……」

真顔で言うな、とりっちゃんが小さく呟いてます

紬「優しいし、安心出来るし。梓ちゃんもきっと、そういうところが好きなのよね」

むぎちゃんも笑顔でそう言いました

澪「だから、まあ。頑張れ。焦らずゆっくりとでいいから。私達も応援してる」

律「出来れば文化祭までに気づいてくれたら嬉しいなー」

唯「文化祭?なんで?」

紬「気にしなくていいわよ、唯ちゃん。自分のペースで」

唯「うん……わかった」

澪ちゃんが頭を撫でてくれます

その時にあずにゃんの膝枕を思い出しちゃって、

今日抱きついておけば良かったなって、ちょっと後悔したり

澪「好きなんだろ、梓のこと」

唯「うん、大好き。……って、え!?」

ちょ、気づかれた!?



202 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 03:57:34.91 ID:1FD7vy2wo

律「私達が気づいてないとでも思ってたのかよ」

りっちゃんがため息をつきます

紬「応援してるって言ったでしょ」

そう言って、りっちゃんとむぎちゃんも頭をなでなでしてくれます

三人同時に頭を撫でられて、ちょっと恥ずかしい

でも、確かに暖かい気持ちになって、勇気が出てきたような気がします

唯「うん。頑張るよ……あずにゃんに振り向いてもらえるように!」

律「おう。今の数百倍頑張れこの鈍感」



203 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 03:58:21.99 ID:1FD7vy2wo

唯「ただいまー」

玄関を開けて、靴を脱いでいると

梓「あ、唯先輩。お帰りなさい」

唯「え……?」

私服にエプロン姿のあずにゃんが出迎えてくれました

唯「ど、どうして」

梓「憂にクッキー作りを習ってたんです。
  今ちょうど出来上がったんで、良かったら味見してもらえますか?」

そう言って、微笑むあずにゃん

その笑顔で、なんだか心の真ん中ら辺が、泣くのをこらえるみたいに痛くなって

梓「……どうしたんですか唯先輩。休肝日だって意味わからないこと言ってたじゃないですか」

唯「んー。もういいや。帰る時もずっと、抱きしめておけば良かったなって後悔してたし」

梓「何ですかそれ」

笑われてもいいもん

それでも、今度は後悔しないように

ぎゅっとあずにゃんを抱きしめました



205 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 03:59:07.56 ID:1FD7vy2wo

みんなに私の気持ちがバレちゃっても、みんなは普段通りに接してくれました

殊更あずにゃんとくっつける場面を増やすわけでもなく、ごく自然に、いつも通りに

それがとても嬉しかったです

あずにゃんも迷惑することもなく、私だって気を使うこともなく

そのおかげかも知れませんが、バレちゃった月曜日からこっち、あずにゃんとの関係も変わってきて

気のせいかも知れませんが、なんだか前よりも仲良くなれた気がします

心の距離が近くなったというか、そんな居心地の良さをあずにゃんのそばで感じます

桜高祭も間近で、人生初ライブだと言ってたあずにゃんも張り切っています

そんなあずにゃんはとても可愛くて、そんな彼女の隣でギターを弾けるのはとても嬉しくて

だからつい、今の状況で満足してしまう自分も居ました

これだけ仲良くなれればいいんじゃないか、とか

これ以上を求めるのは、とても欲張りなことじゃないかとか

そんな事を考えてしまうわけですけど、同じくらい、それじゃいけないってこともわかってます

あずにゃんには好きな人が居て、その人とは相思相愛で

あとはその人があずにゃんの気持ちに気づけば、それで私は終わりです

その人が幸運にも気づかなかったところで、私が卒業してしまえばそれで終わり

あずにゃんは私ではなく、その好きな人を追いかけるでしょう



207 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 03:59:48.58 ID:1FD7vy2wo

……追いかけるって、あずにゃんお風呂で言ってたし

だからって私が告白するかというと、それもなんだか早い気がして

だったらいつ告白するのかってことも、全然考えられなくて

このまま、ぬるま湯のような居心地のいい状況に甘えてるわけにもいかないってこと、わかってるし

あずにゃんとの雰囲気が良くなればなるほど、それを壊すのが怖くなってるのも正直ありました

本当、面倒くさい人間です

あれが満たされればこれが欲しくなって

それを手に入れたら、今度はそれを失うのが怖くて

それで結局、一番大事なものは最後まで手が届かないのかも知れません

その時、私にはどうすればいいかわかりませんでした

だから、この出来事は

そういう意味では、私の足を無理矢理動かすスイッチにはなったんだと思います



208 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:00:45.83 ID:1FD7vy2wo

和「ちょっと失礼するわよ」

ガチャっと部室の扉が開いて、和ちゃんが顔を出しました

澪ちゃんが手を上げて、その合図で私達は演奏を止めます

和「あ、練習中だったんだ。ごめんね、止めちゃって」

澪「いいよ。これが終わったら休憩しようとしてたんだ。どうしたんだ?」

和「ちょっと律に用事があってね」

そう言って、和ちゃんはドラムセットの後ろのりっちゃんに目を向けます

律「私?どうしたの?」

和「あなた、講堂の使用届また出してないでしょう」

律「……あ」

全員がりっちゃんを見ます

一瞬の沈黙の後、

律「……えへ」

澪「またかお前は!」

可愛くウインクしたりっちゃんの頭を、澪ちゃんは拳骨しました

律「澪しゃんごめんなさいー!」

澪「まったくお前は!去年もそうだったし、新歓の時だってそうだったろ!」

律「おっしゃる通りです!」



209 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:01:25.33 ID:1FD7vy2wo

平謝りのりっちゃん

私を励ましてくれたあの帰り道のイケメンりっちゃんだとはとても思えません

やっぱり澪ちゃんには頭が上がらないんだなぁ

澪「い、今からでも間に合う?和」

和「大丈夫よ。ギリギリだけどね。用紙が生徒会室にあるから、律を連れてっていいかしら?」

澪「もちろんだ。……律」

律「はい!行ってきます!」

キビキビした動作でりっちゃんが部室から出て行きました

唯「りっちゃん、澪ちゃんしか見てなかったよね。和ちゃんに言われてから」

梓「怒られるってわかってたんでしょうね」

紬「そういう関係も素敵ね!」

りっちゃんに続いて部室を出て行く和ちゃんが、私を振り返りました

和「練習頑張ってるみたいね、唯」

唯「えへへ、あずにゃんの初めてのライブだからね!」

梓「わ、私に関係なく、いつも真面目にやってくださいよ……」

和ちゃんが微笑みます

和「まあ、お互い頑張りましょうね。文化祭も、他のことも」



210 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:01:53.22 ID:1FD7vy2wo

唯「うん!和ちゃんも頑張ってね」

それじゃあね、と言って和ちゃんは行ってしまいました

憂から聞いた話だと、ここ最近和ちゃんは忙しいみたいです

忙しくてあまり構ってもらえないと、憂が残念そうにぼやいていました

まあ、桜高祭まであと一週間なのです

生徒会も、今が一番忙しい追い込み時でしょう

澪「まったく律のやつは……危うくステージに立てないところだったじゃないか……」

紬「まあまあ澪ちゃん。和ちゃんも助けてくれたことだし」

ぶつぶつ言ってる澪ちゃんを、むぎちゃんがなだめます

こんなこと言っても、澪ちゃんも本気で怒ってるわけじゃないって知ってます

なんだかんだでりっちゃんのこと大好きだもんね、澪ちゃん

梓「さて、ドラムの律先輩が抜けちゃいましたけど」

紬「先に休憩しちゃましょうか」

澪「そうだな。唯も頑張ってたし」

唯「えへへ、もっと褒めて!」

休憩することになりました

ギターを軽くクロスで拭いて、壁に立てかけておきます



211 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:02:29.26 ID:1FD7vy2wo

澪「ちょっとトイレ行ってくるよ。先にお茶してて」

澪ちゃんが小走りで部室を出て行きます

唯「じゃあ、私達三人だけでお茶の準備を」

紬「ご、ごめんさい、私も行ってくるね。すぐに戻るから」

続いてむぎちゃんも行っちゃいました

図らずもあずにゃんと二人きりです

梓「……なんか最近多いですね。私達が残されるの」

唯「え、そう!?」

そうなの!?

普段通りだと思ってたんだけど

唯「ま、まあ気のせいじゃないかな?えへへ」

しまった、何気にりっちゃん達は気を使ってくれてたのか

全然気づかなかったよ

あずにゃん迷惑じゃないかな?

梓「……ま、いいですけど」

唯「え、いいの?」

梓「悪いことじゃないんじゃないですか?」



213 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:02:57.76 ID:1FD7vy2wo

唯「――そ、そうだよね!あっずにゃーん!」

思わず抱きしめちゃいます

悪いことじゃないんだって!

迷惑じゃ無いって!

梓「ちょ!――もう、唯先輩は」

唯「いいじゃん。誰も居ないんだからさー」

梓「そうですけど、それがむしろ問題というか……まあ、わかりませんよね」

ため息をつくあずにゃん

唯「悩み事?」

梓「そうですねー。悩みですねー」

唯「私で良ければ相談してよ!これでも先輩なんだから!」

梓「唯先輩が原因なんですけどねー」

唯「わ、私!?なんかしたっけ?」

梓「何もしないことが原因じゃないですかねー」

唯「わけがわからないよ!」

梓「別にいいんですけどねー」



214 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:04:19.28 ID:1FD7vy2wo

お茶の準備をしておきましょうか、と言われて、私はあずにゃんを解放しました

梓「流石に紅茶は入れられないので、カップとお菓子だけでも」

唯「だねー。むぎちゃんのいれる紅茶ってやっぱ格別っていうか」

梓「……憂に習おうかな、紅茶の入れ方」

唯「ん?何か言った?」

梓「べ、別に何も!」

小走りで食器棚に向かうあずにゃん

その揺れるツインテールが可愛いな、と思っていた

その時です

梓「きゃ!」

唯「あ!」

あずにゃんが転びました

咄嗟に身体が動きましたが、漫画のように間に合うわけもなく、あずにゃんは床に倒れます

梓「痛い……」

唯「あ、あずにゃん!大丈……夫……」

梓「は、はい。大丈夫で……」

私の視線の先をあずにゃんが辿ります



215 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:05:03.75 ID:1FD7vy2wo

起き上がりかかって、四つん這いの状態になってるあずにゃん

私の位置だと、あずにゃんの白いショーツが丸見えでした

あずにゃんを助け起こすのも忘れて、凝視しちゃっていたようで

梓「……っ!」

バッとスカートを手で押さえて、私を向いて床にへたり込むあずにゃん

唯「あ!いや、その……」

梓「……」

普通の女の子同士なら、こんなことは笑って流して、冗談の一つでも言って終わりでしょう

長く時間を一緒に過ごしていれば、こんなことだってありますから

でも、私達は違います

私達は女の子で、それぞれ女の子を恋愛対象としてみていて

その……そういう目でも、見ているわけで

だから

梓「み……見ました……?」

あずにゃんは顔を真っ赤にして、消え入りそうな声でそう言います



216 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:05:31.48 ID:1FD7vy2wo

見ましたも何も、凝視してる私に気づいて隠したんじゃん

見てないよと嘘をついても、この後の時間が気まずくなりそうで

唯「う、うん……」

頷いてしまいます

梓「……っ!」

顔を伏せちゃうあずにゃん

ど、どうしよう

怒られたりしたら、私も笑って謝ってそれで終わりなんですが、こういう反応をされると

っていうか、これってあずにゃんに気があるのバレバレじゃん、私!

唯「あ、あずにゃんごめんね!私女の子が好きだから、その、こういう時は目が反応しちゃってさ!」

笑って言ってみます

何としてでも隠し通さなければ

バレたら、本当気まずいってレベルの話じゃありません

最悪、放課後ティータイムとしての活動自体にも影響が出るかも

梓「い、いや、その」

唯「事故だよね!私、その、誰にでもそうだから!」

梓「……え?」



217 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:06:10.48 ID:1FD7vy2wo

唯「あずにゃんだけじゃなくてさ。
  ほら、一年の時の文化祭でも澪ちゃんのパンツとか凝視しちゃったり……」

だからそんな気は全くないよと、言おうとしたところで

あずにゃんの様子に気づきます

梓「……なんですかそれ」

顔を伏せたままなので表情はわかりませんが、肩が震えています

両手も、スカートの上できつく握りしめていて

梓「誰でもいいんですか」

唯「あ、あずにゃん、ちょっと」

梓「私じゃない人にもああいうことするんですね」

唯「あ、ああいうことって?」

キッとあずにゃんが顔を上げます

私をまっすぐに睨んで、唇を噛みしめて

梓「あの夜私にしたことも、私だからってわけじゃ……!」

唯「あ、あずにゃん!」

あずにゃんが走って部室を出ようとします

咄嗟に腕を掴んで引き留めますが

梓「……っ!離してくださいっ!」

乱暴に振りほどかれて

部室を出て行くあずにゃんの背中を、ただ呆然と見送るしか出来ませんでした



218 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:06:42.73 ID:1FD7vy2wo

紬『え、ちょ……』

澪『あ、梓!?どこ行くんだよ!』

そんな声が、階段の方から聞こえてきて

紬「ゆ、唯ちゃん……」

澪「唯……?」

むぎちゃんと澪ちゃんが戻ってきました

困惑の表情を浮かべて、部室の外を見ます

澪「さっき、泣きながら梓が走っていったんだけど……」

紬「……何かあったの?」

唯「何かっていうか……その……」

あずにゃん、泣いてたんだ

唯「よく……わから……ない……だけどっ」

私、あずにゃん泣かせちゃったんだ

澪「ゆ、唯!」

澪ちゃんが駆け寄って、私を抱きしめて頭を撫でてくれて

なんでこういうことしてくれるんだろう、と思ったら声が出なくて

唯「ひっ……ひうぅっ……」

ああ、私が泣いてるからなんだと思いました



219 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:07:17.00 ID:1FD7vy2wo

紬「唯ちゃん、大丈夫?」

むぎちゃんも頭を撫でてくれます

澪「……むぎ、紅茶入れてくれないか?まずは落ち着かせよう。でなきゃ話が出来ない」

紬「ええ」

むぎちゃんの手が離れていって、しばらくして紅茶のカップを出す音がします

その間、澪ちゃんが頭を撫でてくれました

澪「ゆっくりでいいから、な?」

澪ちゃんがそう言ってくれますが

自分でも、どうして私が泣いているのかわかりませんでした

わからないけれど、何か

あずにゃんを泣かせてしまったことと、何かを決定的に間違えてしまったこと

それだけが、形の無い霧のように私の中を漂っていました

律「たっだいまー……って、あ!」

扉が開く音がして、りっちゃんの声が聞こえました

急いで生徒会室から帰ってきたのでしょう、少し息が荒い気がします



220 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:07:45.67 ID:1FD7vy2wo

律「なーにー澪ちゃーん。浮気ー?唯を抱きしめちゃ……」

私のそばに寄るりっちゃんの気配を感じました

律「……唯?大丈夫か?」

澪「その……私にもよくわからなくて」

梓か、とりっちゃんが呟きます

紬「紅茶入ったわ。とりあえず、唯ちゃんを席に……」

澪「ああ、わかった」

律「唯?とりあえず、席についてお茶飲もう。な?」

その声に、澪ちゃんの胸から顔を上げます

唯「そ、そのっ前に……あずにゃん探しに行かないと」

律「唯」

コツン、とりっちゃんがおでこを私のおでこにくっつけました

律「私が探しにいくから、お前はここで待ってろ。そんな顔で好きな人の前に出る気かよ」

唯「で、でも私のせいでっ!」

律「いいから。私に任せとけ。しっかり梓の話も聞いてくるし。たまには部長を頼りにしろ」

じゃあな、と言ってりっちゃんは再び部室を後にしました



221 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:08:26.67 ID:1FD7vy2wo

本当に申し訳なくて、私のせいで

澪「梓のことは律に任せて。まずはほら、落ち着こう?」

澪ちゃんに言われて、席につきます

紬「熱いから気をつけてね」

紅茶を飲んで、そして

私は少しづつ、二人に話し始めました



222 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:09:12.03 ID:1FD7vy2wo

紬「そう……」

澪「それは……唯が悪いな」

大体の事情を話し終えた時、涙は止まっていました

むぎちゃんと澪ちゃんのおかげです

唯「うん……」

紬「でも、どこが悪かったのか、わからないんでしょ?」

唯「……うん」

責めてるわけじゃないの、とむぎちゃんが優しく背中をさすってくれます

澪「唯が悪いけど……それでも、仕方ないって点もあるよ」

澪ちゃんがため息をついて言いました

澪「好きな人に気持ちを知られるのって怖いよな。その人に好きな人が居たんなら、尚更」

紬「タイミングというか、ね。それを逃すと全部がダメになっちゃう気がして」

唯「うん……」

でも

でも私は、自分を守るためにあずにゃんを泣かせてしまったわけで



223 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:09:50.90 ID:1FD7vy2wo

澪「……なんで梓が泣いてたか、わからないんだろ」

黙って頷きます

紬「その理由、私達にはわかるけど。でも言えないの。
  今までの梓ちゃんの頑張りが無駄になっちゃうから」

澪「ごめんな、唯。お前の気持ちもわかるけど、梓の気持ちも痛いほどわかるんだ」

唯「ううん」

首を振って、澪ちゃんに言います

唯「わかってるよ。私も大事にしてくれてるけど、あずにゃんだって大事だもん」

ありがとね、と言うと、澪ちゃんが微笑みました

ただ、その笑みはちょっと困った風というか

何かを飲み込んだような微笑み方でした

紬「唯ちゃん、これからどうする?たぶんりっちゃんが梓ちゃんを連れて帰ると思うんだけど」

唯「……謝ろうと思う。
  泣かせちゃった理由がわからないままだから、そんなこと聞いてくれないかもしれないけど」

紬「……うん」

むぎちゃんが微笑んで、私も釣られて微笑んじゃいます

こんな柔らかく包んでくれるから、むぎちゃんは好きです

紬「頑張ってね。応援してるから」

澪「……まあ、あれだよな」



224 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:10:25.79 ID:1FD7vy2wo

両手を組んでぐーっと天井に伸ばしてから、澪ちゃんは言いました

澪「わかるよ唯、その気持ち。怖いもん、やっぱり。今までの関係が全部壊れちゃうじゃないかとかさ」

唯「うん。私が臆病なだけかもしれないけど」

澪「私だって怖かったよ。本当に。あの時律が言ってくれなかったら今でも」

紬「み、澪ちゃん!ちょっとそれは」

唯「あ、私知ってるから大丈夫だよ。澪ちゃんとりっちゃんが付き合ってるの」

澪「え!?」

紬「嘘!?」

え、なんだろう、その反応

唯「こ、こないだのお泊まりの時にあずにゃんから教えてもらって……その、聞いちゃダメだった?」

澪「梓も知ってるのか……」

うなだれる澪ちゃん

紬「ま、まあここまで来たら仕方ないわよ澪ちゃん」

うう、と澪ちゃんが呻きます

澪「律が悪いんだ……所構わず触ってくるから……」

唯「で、でもね、澪ちゃん」

澪「ん?」



225 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:11:00.28 ID:1FD7vy2wo

唯「私、その話聞いて勇気貰ったよ。女の子同士でも、恋が成就するんだって」

紬「唯ちゃん……」

唯「それまで、私あずにゃんへの気持ちは隠し通すつもりだったんだけど。
  でも、あずにゃんも女の子が好きで、澪ちゃんもりっちゃんと付き合ってて」

唯「だから、気持ちを伝えたいなって思えるようになったんだよ。
  ……伝えるタイミングが来るかどうかもわからないんだけどね」

澪「唯……。うん、そうだな。じゃあ、私も唯を元気づけられてるみたいだからさ」

一個だけアドバイス、と澪ちゃんが指を立てました

唯「え、なに?」

澪「自分に自信を持て」

自分に自信、って

唯「そ、そんなの持てるわけないじゃ」

澪「それもわかってる」

澪ちゃんが言います

澪「わかるよ唯の気持ちは。だけどな、根拠が無くても信じろ」

澪「唯の思ってる自分と、私達の知ってる唯は違うと思うよ。それは梓だってそうだ」

唯「で、でも……」

紬「大丈夫だから。今は信じられなくてもいい。けど、いつかこの言葉が背中を押す時が来るから」

だから、信じてろ、と澪ちゃんとむぎちゃんが微笑みます

唯「うん……わかった」



226 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:11:51.15 ID:1FD7vy2wo

わかってないけど

あずにゃんを泣かせて、しかもその理由までわからない自分に自信なんて持てないけれど

でも、この二人がそう言ってるから

きっと間違いでは無いんでしょう

律「たっだいまー」

バタン、と景気のいい音を立てて、りっちゃんが入ってきました

澪「り、律。……梓は」

少し遅れて、あずにゃんが部室に入ってきました

俯き加減ですが、少しだけ目が腫れぼったいのがわかりました

唯「あ、あずにゃん!」

駆け寄って、あずにゃんの顔をのぞき込みます

唯「ご、ごめんねあずにゃん。私、あずにゃんを泣かせるつもりは本当に無くて、それで」

肩に手を置こうとしたら、あずにゃんにふいっと避けられました

梓「唯先輩、何で私が泣いちゃったのかわからないんですよね?」

唯「……うん」

梓「……わかってましたけど」

ため息をつくあずにゃん



227 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:12:29.54 ID:1FD7vy2wo

唯「で、でも本当に、泣かせるつもりじゃ!」

梓「それもわかってます」

あずにゃんは言います

梓「……私も少し感情的になって、酷いこと言っちゃいました。ごめんなさい」

唯「そ、そんなこと……」

そんなこと無いのに

あずにゃんは何も悪いことしてないのに

唯「な、仲直り……してくれる?」

梓「……いいですよ」

唯「あずにゃん!」

身体が勝手に動いて、あずにゃんを抱きしめようとします

梓「ただし」

あずにゃんが、抱きしめようとする私の両肩を手で止めました

唯「え?……あ、ご、ごめんね。調子が良すぎたね……」

梓「そうじゃありません」

唯「じゃ、じゃあなんで……」

息を吸って、あずにゃんは私をしっかりと見上げて

梓「私が泣いた理由がわかるまで、スキンシップ禁止です」



229 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:13:02.77 ID:1FD7vy2wo

唯「え……」

そのまま、私を避けてテーブルに向かうあずにゃん

梓「先輩方もすみませんでした。私が取り乱したせいでこんな大事に……」

澪「い、いや……別に」

紬「気にしないで?梓ちゃん」

律「……梓、お前本当にいいのか?」

いいんです、という声が後ろで聞こえてきました

動けない私に聞かせるような、そんな声で

梓「限界なんです。もうこれ以上は」



230 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:13:38.57 ID:1FD7vy2wo

翌日の放課後

澪「よし、今の演奏は良かったぞ。この感触を忘れないようにしような」

紬「う、うん」

律「い、今のは結構良かったよな。……特に唯とか頑張ってたかな-?」

唯「へへ……」

律「……」

梓「確かにさっきの唯先輩のギター良かったですよ」

唯「あ、ありがとね。あずにゃん……」

梓「でも唯先輩、Bメロのこの部分、ちょっと走り気味ですよね。ここはこうやって」

唯「うん……あ、ごめん。ちょっと指先当たっちゃったね……」

紬「……」

澪「もうダメ見てられないキツイ」

昨日のあずにゃんのスキンシップ禁止令を、私は守っていました

それと同時に、その辛さも身を持って知りました

あずにゃんに触れないのが

好きな人に触れないのがこんなに辛いことだったなんて思ってもみませんでした



232 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:14:05.66 ID:1FD7vy2wo

何だかあずにゃんが遠くに行ってしまったようで

あずにゃんとの指先の距離が近ければ近いほど、触れられない見えない壁も同時に感じて

律「休憩しよう!休憩!みんな頑張ったからな!」

澪「そ、そうだな!おい、唯と梓も早く来いよー」

紬「私、お茶入れるわね!」

みんなにも気を使わせちゃってて

梓「早く行きましょう、唯先輩」

唯「う、うん」

先に行ってしまうあずにゃんの背中

その揺れるツインテールの片方に、つい手を伸ばしてしまって

唯「……」

慌てて、引っ込めて

律「私ももうキツイ」

紬「耐えなくちゃダメだってわかってるんだけど……」

今までどんなに甘えてきたかわかりました

あずにゃんは優しいから、今までスキンシップと称した私のアプローチも受け入れてくれた

私は、本来好き同士の関係でしか得られない温かさや感触を、

あずにゃんの優しさで特別に貰っていたのです



233 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:14:42.69 ID:1FD7vy2wo

それが、その特別が無くなっただけで

これが、正しい私とあずにゃんの関係で

こんな一方的に私が好きな状況で、好き同士なんてあり得るわけもありません

あずにゃんは「泣いた理由がわかるまでスキンシップは禁止」と言いました

あずにゃんに触りたくて、抱きつきたくて

その一心で一晩中考えました

馬鹿な私でも、一つだけ思いついた『理由』

私が言った台詞に、最後らへんが聞き取れなかったけれどあずにゃんの台詞

恥知らずな仮定とご都合主義の妄想を重ね合わせて導かれたのは、

『あずにゃんは私のことが好き』ってこと

私が誰のパンツでも見ちゃうからって言ったから、あずにゃんが悲しくなっちゃったとか

……こんな状況で、まだ自分中心の考え方をしている自分が本当に情けなくなります

私はあずにゃんの好きな人の特徴を聞かされていて

それは私じゃないと理解していて

あずにゃんは『その人』と、もう相思相愛で

そこから導き出される結論なんて、決まってるじゃないですか

あずにゃんは、私のスキンシップが嫌なんです

その『あずにゃんの好きな人』に誤解されるのが嫌なのか、単純に私が鬱陶しいのか

それはわかりませんけど、それでも



235 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:15:12.62 ID:1FD7vy2wo

泣いた理由も、単純に私があずにゃんのパンツを凝視していたからでしょう

私だって、あずにゃん以外の人に見られるのは嫌なんですから、

あずにゃんだって好きな人以外には見られたくないはずです

……泣いた理由を答えたら、あずにゃんは今まで通り抱きしめさせてくれるでしょうか?

にっこり笑って「正解です」と言って

それで、終わりだと思います

私だって、そこまで気が回らないわけじゃない

遠慮してくださいと遠回しに言われているのくらい、気づくもん

律「……唯、席変わるか」

唯「え?」

律「いいから。ほら」

席を変わってくれるりっちゃん。隣にはあずにゃんが座っています

唯「……ありがとね、りっちゃん」

律「よせやい」

以前なら、あずにゃんとの距離が近くなって嬉しかったんですけれど

……私と席が近くなって迷惑じゃないかな、あずにゃん

とりあえず、テーブルの下で足が触れないように、そっと椅子の下に足を引いておきます



236 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:15:53.13 ID:1FD7vy2wo

澪「来週はもう桜高祭だな。ライブもあるし」

梓「はい!ライブ楽しみなんですよ、私」

律「そういや梓は初めてだな」

紬「去年のライブも最高だったわよね」

律「澪がやらかしちゃったけどなー」

澪「そのことは言わないでくれ……」

梓「でも、本当に去年の演奏は最高でした!みなさんとても息が合ってたし」

律「まあな!」

りっちゃんが得意げに胸を張ります

梓「唯先輩のギターも、すごく格好良かったですよ。新歓ライブの時もですけど」

唯「え?あ、うん。頑張るね、えへへ……」

いきなり話題を振られて、少し戸惑っちゃいました

とにかく、普段通りに振る舞わないといけません

もうすぐライブで、メンバーの雰囲気を微妙なものにするわけにはいきませんから

澪「胃が痛い……」

律「そ、そうだ!」

突然、りっちゃんが声を上げました



237 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:16:55.60 ID:1FD7vy2wo

紬「どうしたの?りっちゃん」

律「いやさー。これからライブに向けて、結構練習して行かなきゃならないじゃん?
  それで、みんなのクラスの出し物とかどうなったのかなって」

ああ、と思いました

そう言えば、クラスの出し物があるんだっけ

私達のクラスは、ほとんど手がかからない展示物ですが

律「前にも言った通り、私達のクラスは大丈夫だ。澪と梓は?」

澪「私のクラスは喫茶店やるみたいだけど。
  でも、ライブの事情もわかってくれたから、楽な係にしてくれたよ」

だから練習は問題ない、と澪ちゃんが言います

梓「あ、あの……」

そこで、あずにゃんがおずおずと手を上げました

梓「私は、ちょっと忙しくなるかなって。ごめんなさい……」

律「あ、そうなの?」

紬「まあ仕方ないわよ。クラスの出し物も大事だしね」

梓「いや、もちろんライブの方も頑張りますよ。
  ただ、もしかすると少し練習に遅刻しちゃうかもって」

澪「大丈夫だよ。気にしないで。
  梓なら、前日に何回か合わせただけで何とかなるだろ。だからあまり無理するなよ?」



238 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:17:29.95 ID:1FD7vy2wo

梓「はい。ありがとうございます」

そこでチラっとあずにゃんが私を見ました

慌てて、目線をそらします

無意識にずっと見ちゃってたみたい、私

律「ところでさ、梓のクラスは何やるの?」

梓「あ、はい。結婚式をやります」

律「……は?」

気のせいでしょうか、『結婚式』という単語を聞いた瞬間、りっちゃん達三人の肩がビクッと震えました

澪「結婚式、って……」

梓「えっとですね。やっぱり女の子って結婚とかに興味あるじゃないですか。
  だから、色々なことを調べて、展示してって形に決まりました」

紬「な、なんだ。展示物なのね?研究発表みたいな」

梓「それもやるんですけど。でも目玉として、結婚式のデモンストレーションみたいなのもやるんですよ」

律「……それって、もしかして他の生徒同士でも参加していいってタイプ?」

梓「はい。うちのクラスからも何組かデモカップルを出しますし、他の生徒同士でも全然大丈夫です」

この学校は結構女の子カップル多いらしくて、とあずにゃんが照れながら言いました



240 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:18:05.02 ID:1FD7vy2wo

紬「そのデモカップルって、まさか梓ちゃん……」

むぎちゃんの言葉に、あずにゃんは嬉しそうに「はい」と言いました

梓「何て言うか、主役みたいな扱いでして」

唯「あずにゃん可愛いからね」

私の呟きに、何故かあずにゃんは顔を赤くします

あ、そうだ、とあずにゃんが言いました

私の方を向いて、姿勢を正します

唯「どうしたの、あずにゃん」

梓「あのですね」

コホン、と咳払いをしてあずにゃんは


梓「私、憂と結婚しますね」



241 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:18:47.78 ID:1FD7vy2wo

唯「え?」

その台詞を理解するのに、何秒かを必要としました

律「ちょ!」

澪「……」

紬「う、憂ちゃん?」

憂と結婚式……

そっか……

唯「……うん。頑張ってねあずにゃん。相手は憂なんだ」

頑張って笑います

上手く笑えているか、自信はないですけれど

梓「はい。頑張ります。唯先輩も見に来てくださいね」

唯「うん。絶対に行くよ」

律「ちょ、ちょっと待て梓」

りっちゃんが勢い込んで席を立ちました

律「お前、その……知ってるの?この学校の結婚式の噂っつーか……」

梓「知ってますよ。ロマンティックですよね。えへへ」

澪「そ、そうか」



242 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:19:14.23 ID:1FD7vy2wo

紬「どうすれば……」

律「……唯」

胃がキリキリと痛み始めました



244 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:19:47.36 ID:1FD7vy2wo

帰り道

いつもの所であずにゃんと別れて、私は一人歩いていました

今日はあずにゃんと大して話せていなかったな、とか考えつつ

本当はもっと考えるべきこともあるのですが、それを考えても仕方ないとわかってて

だから、まあ

出来るだけ自分に優しくしてます

それも、お風呂にでも入っちゃえば絶対に考えちゃうことなんですけどね

そんなことをつらつらと考えながら歩いていると

唯「え」

前方、私の家のすぐ近くの電信柱の前にりっちゃんと澪ちゃんとむぎちゃんが居ました

先ほど、いつも通りに別れたはずなのですが

律「あ、唯」

唯「みんな、どうしたの?」

小走りで駆け寄ると、三人が気づいて、私に向き直りました

澪「いや、あの、さっきの件について話しておきたいなって思ってさ」

紬「その……梓ちゃんのクラスの結婚式についてなんだけど」

心配そうに言ってくれる澪ちゃんとむぎちゃん



246 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:20:29.09 ID:1FD7vy2wo

唯「あ、あずにゃんと憂の結婚式の話かな?」

律「……うん。そのこと」

私は大丈夫だよ、と笑ってみせます

唯「確かに、その……色々キツイけど、デモカップルって話だし。
  これは我慢しなきゃいけないのはわかってるから」

一応先輩だしねと言うと、りっちゃんが首を振りました

律「そういう問題じゃないんだ。その……落ち着いて聞いてくれ」

唯「う、うん……」

嫌な予感がしました

根拠も何もないけれど、何となく

そしてこういう予感は、大抵当たるのです

まるで未来があらかじめわかっていたかのように

澪「簡単に言うと、うちの学校の結婚式さ。その……本当に結ばれちゃうらしいんだ」

澪ちゃんが何を言ってるのか、始めは理解出来ませんでした



247 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:21:01.17 ID:1FD7vy2wo

唯「……まさか」

紬「本当なのよ。桜高祭の結婚式の伝説は有名なの。
  毎年、絶対にどこかのクラスが無意識に結婚式を開催して」

律「そこで式を挙げたら、本当に結ばれる。恋人同士であろうと、その……友人同士であろうと」

唯「……なにそれ。からかってるの?」

言ってみたけれど、そんなわけ無いっていうのもわかっていました

どんな場面でも、まず自分を守ろうとする自分が本当に情けなくて

澪「本当なんだよ……唯……」

知ってるよ

そんな顔してまで、うちの近くで待っててくれたんじゃん、三人とも

嘘とか冗談じゃないってわかってるよ



249 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:21:27.58 ID:1FD7vy2wo

唯「……終わり際にりっちゃんが言ってた『結婚式の噂』ってこのことだったんだ」

律「ああ。もし知らなかったら……止めるように勧めようと思ったんだけど」

唯「知ってたみたいだね、あずにゃん。えへへ」

そっか

そういうことだったんだ

澪「唯、その……」

唯「ううん。もういいよ。わかった」

身体の力が抜けていくのがわかりました

『かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人です』

そっか

唯「そっか。あずにゃん、憂のことが好きだったんだ」



250 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:22:00.34 ID:1FD7vy2wo

憂「お帰り、お姉ちゃん」

唯「ただいま、憂」

憂「……お姉ちゃん?何かあったの?」

唯「え?何もないよー」

憂「……梓ちゃんにスキンシップ禁止令出されちゃったから?」

唯「知ってたんだー。えへへ。ちょっとキツイかもね」

憂「お姉ちゃんなら大丈夫だよ。きっと」

唯「ありがとね。――ちょっと眠いから、もう今日は部屋行くね」

憂「え?」

唯「昨日夜更かししちゃってて。ちゃんと夜中にご飯食べるしお風呂も入るからさ」

憂「う、うん……本当に大丈夫?どこか身体の具合でも悪いの?」

唯「大丈夫だよ。……優しいね、憂は」

憂「……お姉ちゃん?」

唯「じゃあね、憂。おやすみなさい」



251 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:22:45.43 ID:1FD7vy2wo

あずにゃんは憂が好き

これだけ単純なことに何故今まで気づけなかったのか

気づこうとしなかっただけなのか

本当はわかっていたのではないか

自分の気持ちを掲げて誤魔化して、自分に都合のいい思い込みをしていなかったか

ただお腹が痛い

ズキズキする

唯「……ひっく……ひっ……」

真っ暗な部屋の中で、毛布にくるまっている

何かから身を守るように

けれど、内側から現実が鋭利な棘で突き刺してくる

ついこの間、このベッドであずにゃんが抱きついてきて

この毛布にあずにゃんがくるまっていて

でももう、あずにゃんの香りはしませんでした

私の涙だけが染み込んでいきます

あずにゃんの髪の匂いも、パジャマの裾から香る石鹸の香りも覚えているのに

覚えているのは私だけのようでした



252 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:23:20.62 ID:1FD7vy2wo

あの夜のことが夢だったかのように

私の記憶以外の全ての痕跡は消えていました

夏の名残のように

蝉も、いつの間にか鳴くのをやめていて

もうどこにも、あの夏の香りは残ってないのです

……私に抱きついて、髪を撫でて

胸元に顔を埋めてくれたあずにゃんは夢だったのでしょうか

今となっては、どちらでも変わりないと思います

きっとあの夜も、私じゃ無くて憂と一緒に眠りたかったんじゃないかな

それを知らずに無理矢理頼み込んで、あずにゃんの気も知らずに喜んで

しかもそれを二日も続けて

もう少し私が賢かったら、空気を読めていたなら

そう、きっと憂が私の立場ならそんなことしないでしょう



253 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:23:46.63 ID:1FD7vy2wo

静かに身を引いて、あずにゃんの幸せを祈れるはずです

そういう女の子です。私の妹は

そんな憂だからこそ、あずにゃんも惹かれたんだと思います

唯「憂になんか……敵わないよ……」

『かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人です』

どう転んだって、無理ですよ



254 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:24:29.13 ID:1FD7vy2wo

澪「……うん。こんなもんか」

放課後のライブに向けての練習

ここ数日は、こんな風に真面目に練習する時間が多くなっていました

お茶の時間もあるけれど、それは本当に練習の合間にという感じで

そんなライブ前のある種の緊張感というのは、ある意味私にとっては助かっています

みんなそれぞれ、演奏だけに集中すればいいですから

律「そういや、梓が入る前は四人でふわふわをやってたんだよな」

紬「そうね。これがオリジナルって言っちゃえば、そうなんだろうけど」

澪「まあ、何か物足りないな」

あずにゃんはまだ来ていませんでした

クラスの結婚式の準備で忙しいのでしょう

今頃は憂と楽しく準備してるのかな、あずにゃん

唯「自分のパートで合わせられるだけでいいよ。あずにゃんも忙しいだろうし」

確かに四人のふわふわ時間は、今では物足りなくなっていますが

仕方の無いことは、どうにもならないのです

澪「……唯。大丈夫か?」

それが体調を心配しているわけでは無い台詞だとは、声音でわかりました



255 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:25:06.78 ID:1FD7vy2wo

唯「うん。平気だよ。どうしようもないしね」

律「……今、梓が居ないから言えるんだけど」

スティックを指で弄びながら、りっちゃんが言いました

律「正直、私はさ。梓は唯のことが好きなんだとばかり思ってたよ」

唯「そんなわけないじゃん」

思わず笑ってしまいます

唯「私の方が引っ付きっぱなしだったからね。そう見えちゃっても仕方ないけど」

紬「私も、りっちゃんと同じこと考えてたわ。あとは告白するだけだって思ってたんだけど……」

唯「もー。今更無茶なこと言わないでよー」

そんなわけないけれど

でも、仲良さそうに見えたのなら嬉しいな

澪「唯、ちゃんとご飯食べてるのか?なんかこないだから顔色も悪いような……」

唯「食べてるよー。大丈夫だよ。ライブもしっかり頑張るからさ」

澪「いや、ライブとか関係なくだな」

その時です

梓「すみません、遅れました!」

慌ただしくドアを開けて、あずにゃんが入ってきました



256 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:25:46.75 ID:1FD7vy2wo

律「お、おお、梓。お疲れ」

紬「走ってきたの?そんな急がなくてもいいのに」

梓「い、いえ」

息も切れ切れに、あずにゃんは言います

梓「クラスの展示もライブも、頑張るって決めたんで」

澪「そうか。――なら、少し休憩するか」

梓「え?私は今からでも練習できますよ」

澪「そんな息切らして休まないわけにもいかないだろ。私達もちょうど二曲合わせたところだからさ」

無理するなって言ったろ、と澪ちゃんがあずにゃんの頭を撫でます

かっこいいなー、澪ちゃん

あずにゃんも満更じゃなさそうな顔しちゃって

ほら、りっちゃんもあんなうっとりした瞳で澪ちゃんを見てる

私にもあれくらいのことが自然に出来ていたらなぁ

紬「じゃあ、お茶にしましょうか」

むぎちゃんがそう言って、澪ちゃんとりっちゃんがテーブルに移動します

私も行こうと、肩のギターストラップに手をかけた時

梓「あ、唯先輩。遅れてすみませんでした」



257 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:26:15.11 ID:1FD7vy2wo

素敵な笑顔で、あずにゃんが声をかけてくれました

唯「ううん。気にしないで。お疲れ様ー」

私も笑いかけてみます

すると、何故かあずにゃんは私の顔をじっと見つめました

唯「……ど、どうしたの?」

あずにゃんはベンチに鞄とギターケースを置くと、私に近づいてきました

梓「唯先輩。少しベンチに座ってくれます?」

唯「へ?」

いいですから、と半ば無理矢理ベンチに座らされます

唯「えっと……?」

梓「大きい声出さないでくださいね」

私の背後、テーブルで談笑してる三人の様子を窺うと、あずにゃんは私の膝の上にまたがって

唯「!?」

私の前髪を手でかき上げると、おでことおでこをくっつけてきました



258 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:26:56.98 ID:1FD7vy2wo

唯「あ、あず」

梓「動かないでください」

そのまましばらく、おでこをくっつけているあずにゃん

あずにゃんとの顔が近くて、吐息も感じられて

梓「……熱は無いみたいですね」

私の顔が徐々に熱くなっていった時、あずにゃんはおでこを離しました

あずにゃんは私の膝上にまたがったまま、涼しげな顔です

唯「ど、どうしたの、いきなり」

情けないくらいに心臓がドキドキしてて、頭の中が混乱してて

梓「憂から聞いたんです。こないだから少し唯先輩がおかしいって」

……普通にしてたつもりなのにな

やっぱ憂にはどこか変だってわかっちゃうんだ

梓「風邪でも引いてたら大変だって思ったんで。まあ、熱は無いみたいですけど」

唯「……大丈夫だよ。ライブはちゃんと」

梓「ライブの心配じゃないです。唯先輩の身体の心配です」

あずにゃんが少し強い口調でそう言いました

梓「私も最近様子が変だなとは思ってたんですけどね」



259 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:27:28.26 ID:1FD7vy2wo

……それは、あずにゃんは憂が好きってわかったからじゃん

スキンシップだって禁止されて

って、そう言えば

唯「スキンシップ禁止なんじゃなかったの?こんなことしてくれてるけど」

梓「別に私は禁止されてないですもん。唯先輩から」

しれっと、あずにゃんはそう言いました

梓「第一、これはスキンシップじゃないです。健康調査です」

唯「……だよねー」

ところで、とあずにゃんはずいっと顔を寄せてきました

再びあずにゃんと顔の距離が近くなって、また心臓が跳ねる音がします

梓「スキンシップの話題を振ってくれたんで聞けますけど、わかりました?私が泣いた理由」

心臓の跳ねる音が、ズキズキした痛みに変わりました

あずにゃんの目は真剣で、私は目をそらすしかなくて

唯「……ま、まだ。もうちょっと、待って」

私は結論を先延ばしにします

本当はわかったんだけど

その理由を言ってしまうと、本当にあずにゃんと終わってしまう



260 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:28:02.79 ID:1FD7vy2wo

梓「そうですか」

ため息をついて、あずにゃんは私の膝上から退きました

唯「……ごめんね、わがままで」

梓「え?わがまま?」

意味がわかりませんが、と言ってあずにゃんはコホンと咳払いします

梓「まあとにかく。わからない以上はスキンシップ禁止は継続ですね」

唯「はい……」

梓「……私もずっと待ってますから」

お茶入ったみたいですよ、と言ってあずにゃんはテーブルの方へ行きました

緩慢な動作で、私も腰を上げます

久しぶりにあずにゃんとくっつけて嬉しいのと、終わりを迫られている悲しさと

それが一緒くたになって心の中で渦巻いてて、もう何が何だかわかりませんでした

ただ、とても贅沢で卑怯な情けないことを思ってしまいます

本当に格好悪くて、泣きそうになります

「好きじゃないなら、優しくしないでよ」



261 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:28:38.07 ID:1FD7vy2wo

唯「はぁ……」

すっかり陽が落ちるのも早くなった帰り道を、私は一人で歩いています

練習の後、あずにゃんは結婚式の準備があるからと一人で先に行っちゃいました

りっちゃんや澪ちゃん、むぎちゃんもそれぞれ用事があるらしくて、別の方向に行っちゃって

だから、今日は久しぶりに一人での帰宅です

唯「言わなきゃならないのかな、やっぱり」

言って欲しそうだったな、あずにゃん

やっぱりそういうことは、はっきりさせたいタイプなのかな

唯「『私のこと好きじゃないんでしょ』って、言わなきゃいけないのかなぁ」

……いけないんだろうなぁ

あずにゃんと憂の仲を邪魔しないからって言えば、言うの許してくれるかな

言葉にするのは、本当に辛いよ

そんなことを考えていると

唯「……和ちゃん?」

少し前の方を歩く和ちゃんを見つけました

なんだか背中が丸まっているような……

唯「和ちゃん」



262 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:29:20.07 ID:1FD7vy2wo

少し走って、和ちゃんの肩を叩きます

和「……あ、唯」

今帰りなの、と聞く和ちゃんの表情は、なんだかとても疲れていました

唯「……どうしたの。なんだか疲れてるみたいだけど」

和「色々あるのよ。……って、唯も人のこと言えないじゃない」

酷い顔よ、と笑う和ちゃん

その微笑みにも、いつもの精悍さは無くて

唯「……私も、色々あるから」

だから、それだけ答えて

和ちゃんの隣に並びました

和ちゃんは何も言わず、歩き続けます

ただ、そのゆっくりとした歩の進め方から、

和ちゃんが何かを言いたいんだろうなというのはわかりました

和「……何かあったの?」

唯「和ちゃんこそ」

和「私が聞いてるの」

唯「人に聞いちゃいけない種類の悩みってあるよね。私にも、和ちゃんにも」



263 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:29:59.19 ID:1FD7vy2wo

和ちゃんはしばらく黙り込んで

和「そうかもね」

と呟きました

その時、私は和ちゃんが私と同じ種類のあれこれに悩んでる気がしました

確証は無いけれど、そうだとしたらきっと、

私も和ちゃんみたいな顔をしているんだろうなと思いました

憂やあずにゃんが心配するわけです

和「でも」

小さく言って、和ちゃんが私を見ます

和「本音がわからないくらいにオブラートに包んで言ってみたら。
  もしかすると、方向性くらいはわかるかもしれないわ」

方向性、か

少なくとも、今の状況で私のやるべきこととやりたいこと、

言ってしまえばワガママなのですが、それがごっちゃになってて

それを少しでもまとめられるのならば

唯「……うん」

少し、考えて

唯「好きな人に好きな人が居て、その人達が両思いで。もちろん私は好きな人にとって邪魔者で」

唯「そういう時、私はどうすればいいんだろう?」



264 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:31:05.18 ID:1FD7vy2wo

和「一つ目。応援する」

唯「……」

ズキっと胸に痛みが走ります

和「邪魔をせず、笑顔で誤魔化して、口だけの応援をする。
  傷ついてる自分を吐き気と一緒に我慢して、現実を見る。幸せを祈る」

唯「……そんなこと出来るのかな」

やってやれないことはないわよ、と和ちゃんが言います

和「ただ、その後。誰も助けてはくれないけどね。
  一番支えになって欲しい人は、他の誰かの支えになってることを喜んでるし」

和「ぼろぼろになっちゃうわね。耐えられないくらいに」

唯「うん」

簡単に予想がつく

吐き気がする



266 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:31:49.98 ID:1FD7vy2wo

和「二つ目。それでも頑張ってみる。ロックンロールする」

唯「……はは」

和「嫌なものを見るような目を好きな人に向けられても、
  それでも頑張ってみる。アピールしてみる。空っぽのままで」

唯「かっこわるいね」

和「少しでも目を向けてもらえるように頑張る。面白いことをしてみる。気を引いてみる」

唯「それは、私にも出来そうだけどね」

和「だけど、これも誰も助けてはくれないわ。
  もしかしたら、好きな人の好きな人にも笑われるかもしれない。必死だねって」

唯「……そうだよねー」

和「漫画や小説なら、きっとその努力は実ってハッピーエンドなんでしょうけど。でも、現実はね」

上手く行く方向に、上手く行っちゃうのよ

まるで自分に言い聞かせているみたいに、和ちゃんは言いました

和「本当は私に出来ることは何もなくて。
  でも、悩んでる風を装って、それを認めたくないだけかもしれないわね」



267 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:32:27.55 ID:1FD7vy2wo

唯「わかってるんだけどね。本当は」

和「そうね。本当にわかってるんだけどね」

唯「ねえ、和ちゃん。一つ条件を足してもいい?」

和「なに?」

えっとね

唯「……私の好きな人の好きな人ね。私にとっても大切な人なんだ。……ねえ、どうしたらいいかな」

和「漫画や小説なら、いけ好かない悪者なのにね」

私にもわからないわよ、と

和ちゃんが呟きました



268 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:32:58.58 ID:1FD7vy2wo

唯「んー、と」

ヘアピンを外して、両サイドの髪を後ろでまとめて

耳を出して、前髪を調整して

唯「どうかな……」

恐る恐る覗いた鏡の中には、髪型を変えた私しか居なくて

唯「……もうちょっと、しっかりした雰囲気だよね」

前髪の位置をちょっといじってみるけれど

唯「んー。目元?口元?」

どこかが合わなくて

色々と試してみましたが、結局私は憂にはなれませんでした



269 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:33:28.45 ID:1FD7vy2wo

唯「似てるって、よく言われるんだけどなぁ」

鏡の中には相変わらず、憂の真似をした別の人が居て

唯「憂は私に似てるけど、私は憂には似てないや」

姿格好だけでも憂と同じにすれば、もしかしたらあずにゃんも少しは見てくれると思ったのですが

唯「やっぱり、ダメかぁ」

もうダメかな、これ

色々女々しくあがいてみてるけれど

唯「……引き金を引こうにも、武器も持ってないじゃん、私」



270 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:34:03.18 ID:1FD7vy2wo

放課後

桜高祭まであと三日

ライブまであと四日で、あずにゃんの結婚式まであと三日です

下駄箱を抜けて外に出ると、辺りはもう陽が暮れかかっていました

律「へえ、結構準備進んできたな」

校庭には、出店の準備なのでしょう、

お店の枠組みとか機材とかダンボールとか、そういうあれこれがそこら中に並んでいました

澪「もうすぐだしな。明日からは授業も午前中だけだし」

紬「お祭りの前、って感じね」

嬉しそうにむぎちゃんが言いました

そう言えばむぎちゃん、焼きそば食べたいって言ってたっけ

時間があれば、買ってきてあげようかな

律「授業が午前中だけってのが嬉しいよな」

あずにゃんはいつも通り、練習が終わったあとはクラスの準備に戻っていきました

最近はずっとそんな感じで、みんなと帰ることも少なくなって

少し寂しいかな

触れない分、少しは見ていたいんだけど



271 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:34:38.99 ID:1FD7vy2wo

桜高祭が終わったら、あずにゃんは私と一緒に帰ってくれないかもしれません

憂と結婚しちゃうんだし

結ばれちゃうんだよね、本当に

そんなことを考えていると

唯「あ。あずにゃん……」

少し離れたところでダンボールを抱えたあずにゃんが歩いていました

一人じゃない。隣に居るのは憂です

憂もまた、ダンボールを抱えてあずにゃんの隣を歩いていました

二人は体育館から校舎に向って歩いています

きっと何かを取ってきた帰りなんでしょう

二人とも、凄く楽しそうで

あずにゃんなんか、小さな体に似合わないくらい大きなダンボールを抱えているのに

それでも

唯「……幸せそうだね」



272 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:35:08.07 ID:1FD7vy2wo

あんなに笑っちゃって

すごく楽しそうで、肩をくっつけて歩いてて

私にあんな風にしてくれたことあったけ

……いっつも私からだったしなぁ

律「ゆーいっ!」

突然、後ろから肩を組まれました

律「……んな顔してんなって」

唯「……うん」

澪「……梓か」

澪ちゃんも、憂と仲良く歩くあずにゃんを見ていました

紬「頑張ってるわね、梓ちゃんも憂ちゃんも」

そのまま、私達はあずにゃんと憂が校舎に消えていくまで眺めていました

最近は下校時刻も特別に少しだけ遅い時間に設定されていて、憂が帰ってくる時間も少し遅くなりました

唯「あのね、みんな」



273 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:35:34.23 ID:1FD7vy2wo

律「ん?」

紬「どうしたの?」

みんなはあずにゃんと憂が仲良く歩く光景を見ても、何も言いませんでした

それはきっと、私に気遣っていてくれるからで

その気持ちが私にはとても嬉しかった

だから、みんなに

私は言わなきゃいけない

唯「私ね。――諦めるよ、あずにゃんのこと」



274 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:36:29.48 ID:1FD7vy2wo

澪「……え!?」

紬「え?」

律「な……」

みんなが驚いた表情で私を見ます

そりゃ、そうだよね

あれだけあずにゃんあずにゃん言ってたんだし

唯「……あれからずっと考えたんだけどさ。無理だよ。憂に勝つなんて」

律「唯……」

澪「で、でもまだわからないだろ!?」

唯「わかるよ」

思わず笑ってしまいます

唯「あずにゃんは憂のことが好きで、憂はどうだかわからないけど、
  あずにゃんの話を聞いた限りでは憂もあずにゃんが好きだよ」

唯「両想いなんだから、最初から私の入る隙間なんて無かったんだよ。それに」

一番大事なこと

あずにゃんも好きだけど、それでも

唯「それに、私は憂のことも大切なんだよ。姉として、憂の幸せを邪魔するなんて出来ないよ」



275 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:37:00.84 ID:1FD7vy2wo

私が我慢すれば、あずにゃんも憂も幸せになれる

憂はお姉ちゃんっ子だから、私が祝福しないと喜ばないでしょう

優しい子なんです、憂は

あずにゃんも良くわかってくれていると思います。憂のこと

紬「それは、そうだけど……」

律「そういう問題じゃないだろ。……お前は、どうなるんだよ」

唯「私は大丈夫だよ。我慢する。我慢出来る」

邪魔をせず、笑顔で誤魔化して、口先だけの応援をする

傷ついてる心を吐き気と一緒に飲み込んで、現実を見る

幸せを祈る



276 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:37:34.68 ID:1FD7vy2wo

唯「元々、あずにゃんへの気持ちは隠し通すつもりだったんだ。
  最近は色々ラッキーなことが続いてて、欲張っちゃったけど」

唯「でもまあ、こんなもんだよ。大丈夫。今まで通りだから」

だからみんな、今まで応援してくれてありがとう

ごめんね

律「……そうか」

紬「納得いかない……」

澪「……」

唯「帰ろっか、みんな」

私は先に歩き出します

あずにゃんは好きな人とずっと幸せになる

それは正しいことではないでしょうか

少なくとも私は、それが正しいことだと思うのです



278 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:38:14.80 ID:1FD7vy2wo

唯「おかえりー」

憂「あ、お姉ちゃん。ただいま。遅くなってごめんね。すぐにご飯を……」

唯「ゆっくりでいいよー。疲れてるんだし。あ、お風呂掃除しといたから」

憂「え!?ありがとうおねえちゃん!」

唯「ううん。私の方がいつも遅いから、たまに早く帰ってきた時にはやらないとね」

憂「ありがとうね。よし、私もすぐにご飯作るね!」

唯「ゆっくりでいいってばー。……憂」

憂「ん?どうしたの?」

唯「あずにゃんのこと、よろしくね」

憂「あ、結婚式のこと?えへへ、梓ちゃんから聞いたんだ」

唯「うん。あずにゃんも嬉しそうだったよ」



279 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:38:40.79 ID:1FD7vy2wo

憂「うん。頑張るよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんも絶対見に来てね!」

唯「うん。見に行くね」

憂「えへへ。梓ちゃんも楽しみにしてたよ。お姉ちゃんが見に来るからって張り切ってたし」

唯「そっか。……楽しみだね」

憂「楽しみにしててね!」

唯「じゃあ私、部屋行ってるから」

憂「うん。ご飯出来たら呼びに行くね」



280 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:39:13.75 ID:1FD7vy2wo

とりあえず、私の行動に間違いは無いと思います

心も頭もぐちゃぐちゃで、何が正しいのかわかりませんでした

だから、少なくとも

客観的に見て、多くの人が幸せになるような行動を取りました

意識的に、自分の思ってることをスルーして

機械のように判断して、みんなの前で宣言しました

宣言しちゃえば、後は引っ込みもつかなくなると思いましたし

だからこれは、無理矢理自分を奮い立たせるための強引な方法です

現実を見ようとせず、ただ自己保身に走る私への対策でした

あずにゃんは憂が好きで、憂もあずにゃんが好き

二人は相思相愛で、桜高祭の結婚式で永遠の愛を誓う

二人は伝説の名において祝福され、約束される

私の入る隙間は無い

邪魔をしてはいけない。祝福すべき。幸せを祈るのが私の役目

落ち込んでいる暇はありません

妹の、そして愛する後輩の幸せのために、私にもやるべきことがあるのですから



282 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2012/02/27(月) 04:40:18.44 ID:1FD7vy2wo

その方向だけに自分の目を向けさせるのに

叶わない幻想なんて、視界に無い方がいい

少なくとも私はその時、それが正しいと感じましたし、それだけを頑張ると決めていました

みんなに「諦める」と宣言した次の日も、桜高祭前日も

相変わらず忙しい中、わざわざ練習に顔を出すあずにゃんへの対応は普通だったと思います

もちろん触ってないし、スキンシップもしませんし、出来る限りじっと見ないようにもしました

ちょっとだけきつかったけれど、ちゃんと出来て

だから、あとはこのまま

ゆっくりとあずにゃんへの想いを忘れていけばいいと

忘れることは出来なくても、例えば友情とかなんとか、

そういう気持ちとすり替えて自分を納得させればいいと

そう思っていました




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[ 2012/04/05 19:01 ] 恋愛 | 唯梓 | CM(4)

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タイトル:
NO:6189 [ 2012/04/05 20:30 ] [ 編集 ]

ふんぬぉおおぉおぉおおおおぉお
つ、つ、続きがき、気になる=3

タイトル:
NO:6190 [ 2012/04/05 21:53 ] [ 編集 ]

あああもどかいし!心が痛い!!

タイトル:
NO:6192 [ 2012/04/06 00:17 ] [ 編集 ]

はやく、はやく続きをーーーーーーー!

最後はあずにゃんと唯が結ばれるんだよな?

タイトル:
NO:6194 [ 2012/04/06 00:24 ] [ 編集 ]

見たことあるけどこれはかなり良い唯梓
でも唯鈍すぎw

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